完結していない漫画を読むのは珍しいです。
いやー、おもしろいですね。と言っても、かなり遅いペースではありますが。今何巻まで出てるの?
てなわけで、HQ!!です。
黒尾さん、かなり好き。今まで読んだ少年漫画に限定すれば、五指に入るくらい好き。いや、三指? やばい。かっこよすぎる。
弟が、ゲーセンで取ってきた黒尾と月島のちっちゃいフィギュアくれました。分かっているなぁ、弟よ。(あと、なぜかリエーフももらったんですが……。なぜ?)
ていうか、そういうものとは無縁に生きてきたのに! 部屋にフィギュアって! あああ、もう駄目だ。
この年でそんなん持ってたら、やばすぎるよ……とほほ。小さいのがせめてもの救いです。
そんなわけで、
黒尾×月島
で、書いてみました。
ドキドキ。
遠く
あの人の話を真面目に聞くこと自体が間違っている。
戯れに始めたメールのやり取り。今日は天気がいいとか、授業がつまらなくて暇だとか、今から練習だとか、飯食ったらもう眠いだとか。
一方的な報告メールに、僕はいつもそっけない返事を返す。
そうですか、邪魔しないでください、こっちもです、さっさと寝てください。
それがいつの間にか当たり前の日常で。
一日に何本も届くメールを開くたび、僕はいつも小さな溜め息をひとつ、つく。
それは諦めという言葉に似ている、と思った。
僕の毎日はいつも驚くほど単調で、突発的なことすら見逃してしまうほどに、自分自身がその単調さを好んでいることを知っている。
だからと言って僕の世界がつまらないとか、そういうことではなくて。
多分、きっと、諦めとは違う、無気力にも似たその単調さを、退屈だと思わないというだけのことなのだ。
メールの着信音はその単調さを乱す一つで、初めの頃はその音にリズムを崩されてずっと音を切っていた。だからメールに気付くのはいつも時間が経ってからで、返信されないまま溜まっていくメールに舌打ちしたこともある。
それがどうだろう、今ではそのメールさえも日々に組み込まれ、僕の単調な毎日の一部として化してしまった。
それはいいことなのか悪いことなのか。
山口に言わせれば、僕が何かに執着することが珍しいらしい。
別に執着なんかしてないでしょ、と言うと、くだらないメールにきちんとリアルタイムで返信しているだけで、ツッキーにとっては執着に近いんだよ、と訳の分からないことを言われた。
執着って言葉の意味、分かってないんじゃない?
本当に山口はバカなんだから。
そんな風に言うと、山口はごめんねツッキー、と笑った。
でもツッキーは、そのメールに少し、執着してるよね?
だから、山口は執着の意味を分かってない。
僕はこんなメールに囚われてなどいない。
ただ、日常となってしまった当たり前の行動として認めているだけだ。
第一、あの人は、初めから胡散臭いと思っていた。
どことなく人とは違う場所で、周りを見渡して、すべて知っているかのように、笑う。
人当たりはいいのに、食えない人。
そんな風に思った。
──跳ぶ。
ネットの向こう側で、にやりと笑った。
ような気がした。
僕の心を見透かされたように感じたのは、気のせいか?
僕のことなど、何も知らないくせに。
受信したメールには、謎の一言が書かれていた。
『電話』
なにこれ、どういうこと?
僕は溜め息をつく。
せっかく慣れてきた単調さを、突然崩すようなことをしないでほしい。
ようやく慣れてきたというのに。
──慣れて。
別に慣れたくなんかなかったけれど。
言い訳じみたことをひとりごち、返信はしないことにした。ヘッドフォンを装着し、ボリュームを上げた。
毎日は単調だけど、退屈ではない。
なぜならそれが僕の望んだ世界だから。
目を閉じればもう、誰も邪魔しない。僕だけの世界だ。
いつもと同じ一日を。
起床、登校、授業、部活、帰宅。
そして数本のメール。返信。
僕の毎日に、いつの間にか入り込んだ、あの人の一部。
そしてそれを認めたのは僕。
──夢を見た。
あの人が何か話していた。回りには誰も居なかったから、多分、相手は僕なのだろう。
けれど僕はそれをどこか遠くから眺めているような気がしていた。
話をしている。
けれど声は聞こえない。
まるで仲の良い友達みたいに、時々身振り手振りを交えて、一体何の話をしているのか、きっとくだらないことを、さも大げさに話しているに違いない。
夢の中でまで妙な人だと思った。
放っておいて、音楽でも聴こうと、首にかけているはずのヘッドフォンを手にしようとして、ふと目が合った。
やかましいくらいにまくし立てていたはずの話をやめて、あの人が僕を見つめ、ふっと笑った。
その笑顔がやけに優しげで、僕はヘッドフォンにかけた手を持ち上げられないままだった。
寂しい、と、唐突に思った。
そして、僕はあの人の声を無性に聞きたいのだ、と気付いてしまった。
目を覚まして、メールを受信していたことに気付いた。あの変なメールのすぐあとに受信していたらしい。開くと、またおかしな文だった。
『は、きらい?』
しばらく考えて、直前に送られたものの続きなのだと結論付けることにした。
つまり、
『電話は、嫌い?』
手早く打った文面は、この妙なメールに対する返信だと気付くだろうか。何時間も前に届いていたはずの、少し意地が悪くも感じられるこのメールへの。
『そうじゃなきゃ駄目なら』
電話じゃなきゃ駄目なら。
それなら仕方ない。
けれど大抵の用事はメールで済むはずで、わざわざ電話をかける必要性を感じない。
それに、と思う。
あなただって、そんなに暇じゃないでしょう?
短い文面を打つだけでこと足りるなら、時間を割いてまで僕と話す理由などあるはずがない。
多分あの人はそれを知っている。知っていて僕にこんなメールを送ってくる。
別に嫌いじゃない。そう言えたら楽になれるような気もした。
けれどそれは、僕があの人からの電話を期待していると思わせてしまうような気がした。
嫌いじゃない、電話をください。
もしかしたらあの人は、それを言わせたかったのかもしれない、と思った。
寂しさなんて曖昧な感情をいつまでも引きずるのは非生産的だ。だから僕はその感情に蓋をして日々を過ごす。
見たくなければ目を閉じる。聞きたくなければヘッドフォンで耳をふさいでしまう。
それだけで充分だった。
僕の日常は単調で、僕はそれが嫌いじゃない。だから余計な感情でその単調さを乱したくなかった。
山口は分かっていない。僕が執着しているのは、単調な日々。何も変わらず、何も始まらない日々。それ僕は望む。そして執着する。
寂しいと思う気持ちは、どこかへ投げ捨てるべきだ。
僕は僕の毎日を、そしてあの人はあの人の毎日を。そこに組み込まれてしまったメールのやり取りはいつの間にか定着してしまったけれど。
夢の中のあの人が、僕を見つめた。
あの人の言葉が、あの人の声が、あの人の笑顔が。
目を閉じた僕のまぶたに、ヘッドフォンでふさいだ耳に、空っぽにしたはずの頭の中に、なぜこんなにも入り込んでくるのか。
僕は閉じていた目を開き、耳を澄ませる。
空っぽにしようと思っていた頭の中は、もうあの人のことでいっぱいになっていた。
着信音が鳴った。
僕はベッドに置かれたスマートフォンを持ち上げる。ディスプレイにはあの人の名前が表示されていた。僕が返信したメールは、あの人の元へ届き、そして今、この電話につながっているのかもしれないと思った。
僕はそっとそれを耳に当てた。
『おはよう、ツッキー』
耳元に響く声に、胸の奥がちくりと痛んだ。
「おはようございます。──朝から暇な人ですね」
まだ早朝と言ってもいい時間。徒歩通学である僕が起きるには、まだ早い。
『ツッキーだってそうでしょ? 朝っぱらからあんなメール。おかげで目覚ましより早く起きることになった』
くくっと笑いがもれた。僕の返信の内容が、この人には理解できたのだろうか。
『電話、嫌いじゃない?』
「好きではないです」
『素直じゃないねー』
「それで、何の用ですか、黒尾さん」
僕は壁に背中を預け、ベッドの上で膝を抱えた。
『そうじゃなきゃ駄目だったから』
「は?」
『電話じゃなきゃ駄目だったからだよ、ツッキー』
夢を見た。
僕を侵食していく、この人の夢を。
僕はこの人の声を聞きたいと思った。
寂しい。だから声を聞かせて。
そう言ってしまえれば楽だった。けれど僕自身がそれを許容できない。自ら僕の毎日を狂わせてどうするのだ、と思った。
『夢を見たんだ、ツッキー』
夢を。
あなたが僕を見つめて、笑った。どうしてそれだけであんなにも胸が痛むのか。あんなにも寂しいと思えるのか。
『俺がどんなに話しかけても、ツッキーはちっとも笑ってくれないんだ。それどころか、俺の声なんか届いていないみたいだったよ』
目を閉じると、この人がすぐ近くで話しているように錯覚する。僕は自分の膝に額をつけ、目を閉じたままその声に身を委ねる。
『俺があんまりうるさかったからかな、ツッキーは首にかけてたヘッドフォンで耳をふさごうとした。すごく寂しく感じた』
同じ夢を見ていた。
ゆらゆらと僕のすべてが揺らいでいる。
『俺がごめんねって言ったら、ツッキーは急に悲しそうな顔をした』
僕はゆっくりと目を開く。まるで水中に漂うように揺らめいていた世界が、急に現実の僕の部屋に戻っていた。
「でもそれ、夢でしょ」
『うん、そうだな。夢だった』
「僕はそんなことで悲しくなったりしませんから」
電話の向こうで、あなたが急に黙ってしまった。
しばらくその沈黙に付き合った。
本当は、寂しいと思ったんです。なんて告げたら、この人はなんて答えるだろうか。
あなたの声が聞きたかったんです。
そう思ったことを忘れて、僕はいつもの単調な日々に戻るつもりだった。けれど、心のどこかでそれを忘れてしまえる自信がないことも分かっていた。
僕はあなたの声が聞きたかったんです、黒尾さん。
そうでないと、その寂しさに押しつぶされてしまうような気がして。
『ねぇ、ツッキー』
まるでささやくような。
さっきまでとはトーンの違う、柔らかな落ち着いた声に、僕は一瞬心を奪われた。言葉を失いそうになった。
「──なんですか?」
気付かないでほしい。いや、気付かれてはいないはずだ。
ほんの少しだけ返事が遅れてしまったその意味に。
短く、けれども確実に、電話の向こうのあなたが笑った。ふ、と。
そして同じトーンでまたささやく。嬉しそうに。
『俺の声は、役に立った?』
ああ、もう降参だ。
あなたの声は、僕を惑わす。
こんな小さな機械を通してでも、その声は僕に浸食する。
脳を駆け回り、神経を侵し、身体中をめぐる。
くだらない話だっていい。
ただその声を聞いていたかった、と告げたら、あなたは何と答えるだろうか。
遠く離れた場所にいるあなたの、その声だけを、僕は頼りにしていました、と。
悔しいから絶対に口にしてはやらないけれど。
諦めという言葉に似た溜め息を、僕はつく。そしてあなたの名前を呼ぶ。
その自分の声に、まるで甘えるような響きが含まれていたことに、僕は気付いた。きっとあなたも気付いているだろう。
ありがとうというのはやめた。
僕は目を閉じる。何百キロも離れたあなたの声が、すぐそばに感じられるように。耳元でささやかれるのを想像するように。
僕の名前を呼ぶあなたの声にも、その甘やかな響きを感じた。
僕は静かに目を開く。そして、告げる。
「もう切ります」
電話の向こう、遠く離れたあなたが、さっきよりも優しく笑った。
了
クロが好きすぎて、とにかくかっこいいクロを書きたいと思っているのですが。
月島も好き。すきすきカプ。
それにしてもクロはかっこいい(まだ言うか)