門倉の本気を見て見たくて返り討ちに合う尾形。
不用意に大人をからかってはいけません。
門倉×尾形
R18にしていますが、いやらしくはないので期待はしないでください。
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痛み
どうしてこうなったのかが分からない。混乱する頭で考えてみても答えが出ない。
無害なオヤジだと高をくくっていた。
よしんば引っかかってきたとしても、男相手に欲情するような人間じゃないと思い込んでいたからかもしれない。
短く息を継いだら、
「大丈夫か」
と耳元で囁くような声がした。
畳に押し付けられ、門倉の片手で後ろ手につかまれた俺の両腕は、びくともしない。骨ばったでかい手は、容易く俺を押さえ込む。
「大丈夫……なわけ、あるか」
「おいおい、お前が煽ったんだぞ?」
考えてみれば、こいつは刑務所で囚人相手に毎日を過ごしていたのだ。百戦錬磨とは言わないが、歯向かう者を鎮圧する技術くらいは持っているのかもしれない。
「まだ1本しか入ってねえぞ」
これで指1本? 信じられない気持ちで、は、と大きく吸い込んだ息は、すぐに絶え絶えに漏れていく。
──苦しい。けれど──
内側でまるで探るように動くその指に耐えかねて再び声を漏らしたら、門倉が俺の腕をつかんでいた手を離し、俺の頭を引き寄せるようにしてゆるりと一度、撫でた。
力が抜けて、幾分呼吸がしやすくなった。
「まいったな……」
門倉が小さくつぶやいたのを聞き逃さなかった。
「みんな出払ってる」
獲物を手に帰宅したら、屋敷は空っぽ。ジジイどもを始め、全員が外出しているらしい。残っていたのは門倉一人で、お前は行かなかったのかと問うたら、めんどくせえからやめた、と返ってきた。
縁側に座り込み、背中を丸めて庭を眺めているその姿は、まるでやる気がない。横に置かれた湯呑は空っぽで、長い間そうしていたのは明白だ。
暇な野郎だ。
「牛山は遊郭か」
「ああ」
「お前は?」
「言ったろ、面倒だ」
「──枯れてんな」
俺の言葉に怒るでもなくそうかもなあとつぶやき、門倉は笑った。
縁側に、猫背の男が一人。
隣に空の湯飲みを置いて。
「何か見えんのか?」
「何も。枯れた草木が見える」
「……面白いのか?」
「別に」
本当につかみどころのない男だ。
「茶でも飲むか?」
「あんたが入れてくれんのか?」
「茶くらい入れてやるさ」
どっこいしょ、とじじむさい声とともに立ち上がった門倉は、横の湯飲みを持ち上げ畳の上の火鉢に向かう。鉄瓶が一つ乗っかっていて、ちんちんと湯が沸いていた。
急須にその湯を注ぎ、新しい湯のみと自分の湯飲みに等分に茶を注ぐ。俺は火鉢の前に座る。門倉がほらよ、と湯のみを差し出してきたけれど、首を振った。いらない、という意味ではなく、熱くて持てない、という意味で。
そしてもちろん、沸したての湯で入れた茶なんぞ、猫舌の俺には飲めない。
盆の上に乗せられた湯呑を見つめながら、冷めるのを待つ。
門倉はずずっと音を立てて熱いお茶をすする。やっぱり背中は丸まっていて、まるで年寄りみたいだ。
──こいつの本気を俺は知らない。
普段はうだつの上がらないこの男が、本気で怒ることはあるのだろうか。
感情をあらわに、猛り狂うことはあるのだろうか。
やっと持ち上げられるくらいになった湯呑をそっと手にしてゆっくりとすすってみる。やぱりまだ熱くて舌を火傷し、ひりひりと痛んだ。
「猫かよ」
門倉は愉快そうに笑っている。
のらくらと生きているこの男を、からかってやろうと思ったわけではないが、いたずら心が湧いてきた。
「──たたねえのか」
お茶を諦めてそんな言葉を投げてみる。
一瞬、何を言われたのか分からなかったようで、俺の顔を見てはあ? と間抜けな返事をした。
「勃たねえのか? だから遊郭は用無しか?」
「んなことお前には関係ないだろう」
「勃たねえんだな。年か?」
にやにやと笑いながら問うたら、門倉は呆れたように俺を見た。
「それとも、女が駄目なのか?」
いつもは何を言ってものらくらとかわされて終わるから、少し煽ってみる。
「軍にいたから分かる。男ばかりの中にいればそういう部類のやつらは一定数いる。──刑務所も同じだろう?」
門倉は答えない。表情の読めない顔で俺を見ている。
「そういや、キラウシが言ってたな。肛門ほじりジジイって」
「尾形──」
「掘るのが好みか? それとも掘られる方か?」
これで怒らせることができれば俺の勝ちだ。いつもは暖簾に腕押し、感情をあらわにする姿を見たことがないから、それを崩してやりたい。
いつもと違うこいつの顔を見られたら、それで満足だ。そう思った。
──情けない姿は、山程見ているけれど。
「なんなら相手してやってもいいぜ。できるもんなら、だけどな」
ははっと笑って髪を撫でつけたら、門倉は深い溜め息をつき──次の瞬間、俺は腕をつかまれひねりあげられていた。そのまま俺を畳に押し付ける。額がぶつかり、目の前に星が散った。
「──じゃあ、相手してもらおうか」
背後からのしかかるような格好になった門倉にそう言われて、やっと、身動きできないことに気付いた。
上背は門倉の方があるが、体格差はさしてないはずだ。牛山のように力があるわけじゃない。それなのに、なぜ、逃げられない?
混乱していると、俺の両腕を片手でつかんだ門倉のもう片方の手が俺の袴を中途半端に引きおろし、思わず息を飲む。
「──してくれんだろ?」
いつもの昼行燈はどこへやら。その声は低く、鋭く、返事ができなかった。
額が痛い。それ以上に、ねじ上げられて一つにまとめられつかまれた手首が痛い。
門倉の手が褌の隙間から入り込み、思わずやめろ、と声が出た。
「今更泣き言か?」
「──本気にするとは思わなかったんだ」
「あいにく、こっちは本気だ」
いつもの声ではなかった。穏やかさが消え、攻撃的にも思えるそれが、俺の背筋をぞくぞくと震わせる。
耳元で発するその声が、身体中を駆け巡るしびれのように感覚を麻痺させる。
おかしい。
こんなのは──
その指先が尻の穴をかすめ、こじ開けるように突っ込まれた。たかが指一本、そんなものすらとてつもない異物感。
思わずうめいた。
「きついな」
そうつぶやいた声に、さらに震えた。
奥に進めないまま、指先だけがうごめくのを感じ、その不快感で吐きそうになる。
それでも少しずつそれが侵入してくる感覚が分かる。痛みとに襲われながら、腹の奥で何かが熱くなっていくのを感じる。
乱暴ではない。けして。
俺を傷つけるつもりなどないのかもしれない。
ゆっくりと、内側を広げるように動くその指は、俺にとっては未知のものだった。
抵抗したいのに身体が言うことを聞かない。
苦しいと口にしたところで、門倉はやめてくれるのか判断できなかった。
──息が、
俺の呼吸は徐々に乱れ始める。
痛みは続いているのに、身体がそれを受け入れ始めていることに、恐怖した。
必死で息を殺す。気付かれないように。
そして、冒頭に戻るというわけだ。
まいった、とつぶやいたあと、門倉は指の動きを止めた。
俺の両手は戒めを解かれ自由になっていたが、抵抗する力はもうなかった。
「おい、尾形よ」
耳元で囁かれ、また、震える。
身体がおかしい。
「お前、結果を考えずに大人を煽るんじゃねえよ」
門倉の指がゆっくりと引き抜かれ、それと共に俺の口から吐息が漏れる。
「相手してやるなんて言うから、経験くらいあると思うだろう」
「──なくて、悪いか」
「悪いなんて言ってねえだろ」
立ち上がれないままの俺を引っ張り上げ、そのまま背後から抱き込まれる格好になった。
その状況に、突然羞恥が湧いてきて、自分が赤面していくのが分かる。
「な、にしてんだ、放せ」
「いや、なんか、かわいくなってきたなと思ってな」
門倉の手が再び俺の頭に伸び、緩やかに撫でる。
「──好きなんだろ、撫でられんの」
たった今まで冷たいくらいの声で囁いていたのに、今俺を撫でている門倉はいつもののんきなオヤジに戻っていた。
「──あんた、どっちが本物だ」
「何がだ?」
多分とぼけた顔をしているに違いない。
本気を見たいと思っていた。
こいつの本気を俺は知らないから。
俺の警戒が溶けてきたことに気付いてか、門倉の手はまだゆるゆると俺を撫で続けている。
さっきまで乱暴に俺を押さえつけていた手とはまるで別物だ。
「──まいった」
門倉が再びそんな言葉を吐いた。
「そんなつもりじゃなかったんだがな──」
何が、と問おうとした俺の頭を振り向かせるように引き寄せた門倉が、至近距離で俺を見つめた。
「本気になっちまいそうだ」
想像していたよりも真剣なその表情を確認できたのは一瞬だった。奪うように口づけされ、目を閉じてしまったからだ。
──あんたの本気なら、見てみたい。
絡んだ舌がぴりりと痛んだのは、火傷のせいには違いなかったが、それは嫌な痛みではなかった。
了 2023/10
Twitterでお題ガチャ的なものを引いたら「着衣セックス」というお題が出て、いやいやいや、って思っていたんですが、別CPで一個思い浮かんで、でも結局そちらは書いてません。
エロくないR18になるならいいなと思って、どうだろうと思っていたらこんなお話。
門尾好きなんだけど、いかんせん圧倒的に人口が少ない。もういっそ私だけで作品埋めたろかな、と思い始めております(笑)