何か、及岩が好きすぎる。
てか、岩ちゃん。
及川は相変わらずちょっと扱いひどいですけど。
今回は狂犬ちゃんも加えてみました。そしたら、何か間延びしちゃいましたけど……。
何が言いたかったかと言いますとね、岩ちゃんが振り回されてもういやだ! ってなってるところに、2人からの愛をね(笑)
好かれてるなあ、っていうね。
及川×岩泉+京谷
be there
俺の一日は岩ちゃんで始まり岩ちゃんで終わる。
まあね、別に年中ひっついているわけじゃないんだけど、周りからは2人でひとセットみたいな扱いだし、実際俺も、そうでないと落ち着かないとこともある。これは付き合いが長いせいなのか、それとも岩ちゃんだから特別なのか、その辺の判断は難しいんだけどね。
俺はぽん、と打ち上げていたボールをキャッチして、体育館をぐるりと見回した。
いつもは、あちこちに寄り道してる俺が遅れて部活にやってくるのを、誰よりも先にやってきて練習を開始したくてうずうずしている岩ちゃんに怒られるのが常だ。なのに、今日は、まだ、岩ちゃんがやってこない。
部活前、隣のクラスの岩ちゃんを迎えに行ってみた。クラスの子に「岩泉くんは職員室」と言われてしまった。先生に呼び出されるようなへましたのかな、なんてのんきにぷぷっと笑いながら結局1人で体育館へやってきた。
部室で着替えていたら、まっつんがやってきて、珍しいな、と言われた。
定時前に部室で着替えているからか、それとも俺が1人でいるからか、どちらなのかは聞かなかった。多分、両方なのだろう。
俺は再びぽーんと、ボールを空中に投げ、ぱすんとキャッチした。
部活前ののんびりした空気は、なんだか新鮮だ。
いつもなら、岩ちゃんの怒鳴り声のひとつも聞こえるはずなのに。
今日は俺が、遅れてきた岩ちゃんを注意してやろう、と思った。たまには主将らしい姿を見せておかないとね。後輩の中には、主将の俺より、副主将の岩ちゃんの方が頼りがいがあってかっこいい、なんて思われているみたいだから。
1年生がコートを整え、ポールにネットが張られた。部活の開始時間がやってきて、俺は部員に集合をかけた。
岩ちゃんは、練習開始からしばらくして、体育館にやって来た。
「悪ぃ、遅れた」
そのよく通る声に気付いて、俺はぱたぱたと岩ちゃん元へ向かった。
「なにしてんの、岩ちゃん。部活はもう始まってますよー」
岩ちゃんはどこか不機嫌そうだった。むっとしたまま、
「だから、悪ぃって」
「職員室呼び出されてたんだって? 何かやらかしたの?」
「んなんじゃねーよ」
少しうるさそうに、岩ちゃんが言った。体育館に入ってきた岩ちゃんの後ろからひょっこりと顔を出したのは狂犬ちゃん──京谷だった。
「お前も、早く着替えるぞ」
岩ちゃんは当然のように京谷に声をかけて、無言でうなずく彼をうながして部室に向かった。
「え? 何、一緒だったの?」
「あー、なりゆき」
部室に向かう2人の後を追いかけるようにして、俺が訊ねると、岩ちゃんがくるりと振り返る。
「お前は、練習戻れ」
びっとコートを指差して、岩ちゃんが部室に入った。その閉まった扉の前で、俺はなんだか取り残されたような気分になっていた。
部活終わり、居残り練習するという岩ちゃんに付き合って、俺はみんなを見送った。
なぜか京谷が一緒に体育館に残った。
岩ちゃんは最初に、トス、とだけ言って、俺が上げるトスをさっきからひたすらに撃ち続けている。それはまるで発散するように、どこか怒りをはらんでいる。八つ当たり、とも言えなくもない、岩ちゃんらしくないスパイクだった。
京谷は所在無さ気に、そんな様子を見ている。
岩ちゃんは黙々と練習を続け、俺は言われるままにトスを上げ続けた。スパイカーとしては小柄な岩ちゃんが放つスパイクが、コートにびしばしとものすごい音を立てて決まっていく。
どことなく、凄みさえ感じるその勢いに、俺も声をかける隙がない。
ラスト、と岩ちゃんが言った。
俺は岩ちゃんが一番好きなコース、タイミングもどんぴしゃに、トスを上げた。多分、今日一のスパイクが、コートに突き刺さった。
コートに着地した岩ちゃんが、息を切らせて汗を拭った。
「俺は」
岩ちゃんの声が、低く響いた。
「お前らの保護者じゃねぇ」
漫画だったらここで、ごごごごご、と効果音でもつきそうなほど、岩ちゃんの背中が怒りを滲ませていた。
びくん、と京谷が身体を震わせる。
「い、岩ちゃん?」
恐る恐る声をかけると、岩ちゃんは俺を、そして京谷の方を振り返った。
「俺は、お前らの保護者じゃねぇんだよ」
全身から汗を流しながらこちらをにらむ岩ちゃんは、完全に怒っていた。
「京谷!」
がっと自分に向けられた鋭い視線に、京谷が珍しくひるんだ。
「少しは協調性を持て! 教師に迷惑をかけるな! それから、俺の周りをうろちょろするな!」
「えー、狂犬ちゃん、岩ちゃんにまとわりついてるの?」
俺の質問に、京谷はちらりと視線だけを向け、すぐぷいとそれをそらすだけだった。
「いちいち誰にでも食ってかかるんじゃねぇ!」
「食ってかかってる、わけじゃ」
「言い訳すんな!」
「…………」
おお、京谷がうなだれた。珍しいものを見てしまった。部室からスマホ持ってきて、写真に収めたい。
「誰にでも楯突いてんじゃねぇよ。ついでに、すぐに俺んとこやってきて何でもかんでも挑んでくんのはやめろ」
「それ、は」
京谷がふてくされたようにつぶやく。
「挑んでるっつーか」
「挑んでる以外の何だってんだ」
現状が理解できなかったので、どういうことか訊ねてみた。岩ちゃんは不機嫌そうな顔のまま俺を一瞥し、仕方なく、というように説明してくれた。
京谷がここのところずっと、ことあるごとに岩ちゃんの元へやってくるらしい。そのたびに何かしらの勝負を吹っかけられ、辟易しているのだという。
「え、でも、俺と一緒にいるときは会わないよ? 今日のお昼だって、一緒にご飯食べてたじゃん」
「どういうわけか、お前と一緒のときは現れねーんだよな」
「どういうこと?」
京谷はむすりとしたままだ。
「狂犬ちゃん?」
「──邪魔だし」
「はい?」
「あんた、いると、邪魔だし」
「何それ、ひどいんじゃない、狂犬ちゃん!」
「じゃあ何か、お前は俺が1人のときを狙って吹っかけてきてんのか。どういう了見だ、てめえ」
「…………、の、で」
ぼそりとつぶやいた声は、俺たちの耳には届かなかった。岩ちゃんはさらに不機嫌さを増し、座っている京谷を見下ろした。
「ああ?」
「岩泉さんが、かっこいいので」
「…………」
岩ちゃんが、その不機嫌そうな怒りの表情のまま固まっていた。
「えー、っと、狂犬ちゃん?」
俺は、どことなく恥ずかしそうな京谷に、訊ねた。
「岩ちゃんが、かっこいい?」
「ッス」
「それで、何で勝負挑んでんの?」
「そういうんじゃなくて、ただ、岩泉さんとだと、燃えるっつーか。すげー楽しい、っつーか」
「──岩ちゃん」
俺は、まだ固まったままの岩ちゃんの肩にぽん、と手を置いた。はっとした岩ちゃんが、急にはぁぁ? と、混乱したように眉をひそめた。
「だから、及川さんは、いらないッス」
「だから、ひどくない? それ」
「──つまり、お前、俺にけんかを吹っかけてるんじゃなくて、遊びに来てたってことか?」
岩ちゃんは突然脱力し、その場にしゃがみ込む。
「なんだよ、もっと早く言えよ」
「……ッス」
まあ、見た目からして攻撃的な京谷ならば仕方がないのかもしれない。偏見なく、一後輩としてかわいがっていた岩ちゃんとしては、突然、なぜわけも分からない勝負を挑んでくるようになったのかと、イラついていたのだろう。
「俺、お前に何かして、嫌われてんのかと思ってたぜ」
京谷はぶんぶんと首を振った。
「やたら好戦的なやつだと思ってた。──そっか」
岩ちゃんの中で何かが納得されたらしく、さっきまでの不機嫌な表情が消え、笑顔になった。ぽんぽん、と京谷の頭を叩き、そっか、ともう一度言って笑う。
──岩ちゃんて、時々すごく無防備だよね。
「あ、でも、先生方に迷惑はかけるな。苦情が俺のとこにまで来た」
こくりと京谷がうなずく。
「すぐに人をにらむな。舌打ちするな。目つき──は、どうしようもねーけど、ちゃんと返事しろ」
「ッス」
「はい、だ」
「はい」
素直にうなずく京谷は、こうしているときちんと後輩に見える。
「そーだぞー、狂犬ちゃん。君が暴れると、バレー部にも迷惑かかるんだからね」
「…………」
京谷は俺をにらむように見上げただけだった。
「京谷、返事」
素早く、岩ちゃんが突っ込む。
「──はい」
その嫌々そうな「はい」は何なのさ。俺はむーっと唇を尖らせた。
「ん、その調子だ」
岩ちゃんがよく出来た、といわんばかりにまた京谷の頭を撫でた。狂犬と呼ばれるこの後輩が、どこか嬉しそうにされるがままになっている。
岩ちゃん、すげえ。
「あれ、ところで、何で狂犬ちゃんのことで、岩ちゃんが苦情を言われるの?」
俺が2人の様子を除きこむようにして問うと、直前まで穏やかに飼い主と飼い犬の風情でほのぼのとした空気をかもし出していた岩ちゃんが、突然またゆらりと怒りのオーラをまとった。
俺を見た岩ちゃんの、まるで貼り付けたような笑顔が恐かった。
「及川」
「は、はい?」
「俺、さっき、何て言ったか覚えてるか?」
「さ、さっきって、いつ?」
「俺は、お前らの、保護者じゃない──って、言ったんだけど。お前らの、って」
ああ、スパイクのあとの、あの言葉ですね?
「う、うん、覚えてるよー」
京谷の頭から引かれた手が、俺の胸倉に移った。それをつかまれて、引きつった笑みの岩ちゃんが俺の目の前で、言った。
「バレー部主将の岩泉くんには、ちゃんと部員の面倒はみてもらいたいものです、ってさ」
「え? 何、それ?」
「2年の京谷や、3年の及川のことは、きちんとしつけてやってほしいいんだとよ」
「し、しつけ? ひどいな、どの先生、そんなこと言うの?」
「てめえ、それより先に否定することあんだろうが」
はい、気付いてます。
俺は諦めたように、溜め息をついた。
「主将は、俺です」
「だよな」
じりじりと近付いてくる岩ちゃんの顔が、どんどん恐くなってくる。
「ついでになー、どういうわけかお前のクラス担任に呼ばれて、二者面談の予定聞かれたわ。──お前、ふらふら逃げ回ってんだって?」
「う、あの担任、そこまで喋っちゃった? やだなー、岩ちゃん、別に逃げてるわけじゃないよ」
「へーえ。だったら何で、部活の予定だけじゃなく、お前の私生活の予定まで俺が根掘り葉掘り聞かれなきゃいけねぇんだよ」
「え、えへ」
「えへ、じゃねぇ」
がっ、とものすごい音とともに、俺の頭に激痛が走った。岩ちゃんの頭突きが俺の頭にクリーンヒットしたようだった。
ぱっと胸倉をつかんでいた手が離れて、俺はその場に転がり、頭を抱えた。
「挙句の果てにはお前の成績のことでぐだぐだ文句まで言われたんだぞ、俺は。おかげで部活にも遅れるし──」
岩ちゃんの頭突きは痛い。
岩ちゃんて、どこもかしこも硬い。そして丈夫だ。怪我に強いというのはスポーツ選手にとっては最大の武器だ。小さい頃から風邪もひかない岩ちゃんは、それはもう丈夫で元気な人間である。
「いつから俺はお前の保護者になったんだよ」
頭を押さえた手の隙間から見上げると、岩ちゃんが顔をしかめて俺を見下ろしていた。京谷は怯えるように固まったままその様子を見ている。
「それは、昔から、かな」
懲りずにえへへと笑うと、もう一発、頭突きがきた。
「痛っ! 岩ちゃんの石頭!」
「うるせぇ」
じんじんと痛む頭から手を離せないでいると、
「来週の月曜、放課後、進路指導室。余計な予定入れんじゃねーぞ」
「うう……」
「返事ははい、だろうが」
岩ちゃんの凄みのある声に、京谷もこくこくとうなずいているのが目に入った。
「……はい」
俺はその場に正座して素直にうなずく。
「第一な、俺がお前のプライベートまでしっかり把握してると思われるのが腹立つんだよ」
「でも、実際してるよね」
俺が言うと、岩ちゃんは迷惑そうに俺を見た。
「したくてしてるわけじゃねぇ」
俺の1日は岩ちゃんで始まって、岩ちゃんで終わるように、岩ちゃんだって同じように俺で始まり俺で終わるのだ。
それは、意図したわけではないけれど。
「仕方ないじゃーん、俺と岩ちゃん、だもん」
「何だ、それ」
「俺と岩ちゃんは、2人でひとセットってこと。一緒にいることが当たり前で、そう周知されてるんだよ」
「冗談だろ」
岩ちゃんのそのさらに迷惑そうな顔は、俺の心を少し傷つけたよ。
まあ、こんなことでめげる及川さんじゃないけどね。
「だって、よく考えてみてよ、岩ちゃん。岩ちゃんが一人でいると、周りの人たちから、及川はどうしたって聞かれない?」
俺の問いに、岩ちゃんがしばし考えるように首をひねった。そして、色々と思い出していくうちに、どんどんその肩が落ちていく。そしてついにその場にうなだれた。
「確かにそうだ……」
割と自由奔放に行動している俺があれだけ聞かれるのだから、岩ちゃんにいたっては俺よりもずっとそう訊ねられる機会が多いはずだ。
「だからって、ひとセットはねぇだろ、ひとセットは」
「……ひとセットっていうか、大抵一緒にいるんで、岩泉さんが1人のときがなかなかないッス」
京谷からもそんなことを言われて、岩ちゃんはますます愕然としている。俺のいないときを狙って岩ちゃんにアタックをかけていた京谷が言うのだから、よほどだろう、と判断したらしい。
「だから俺は及川の保護者ってことになってんのか?」
「うーん、まあ、似たようなものかもねぇ」
「のんきに言ってんじゃねぇ」
「岩ちゃんは、嫌なの?」
「──嫌っつーか……そういうお前はどうなんだよ」
俺はにっこり笑った。
「全然平気だよ。俺は岩ちゃんのこと愛してるしね」
それ以外に、言う言葉はなかった。
だって、他に何を言えばいい?
「────」
そのときの、岩ちゃんの顔をみんなにも見せてあげたかった。
岩ちゃんが、驚いたように目を見開いて、俺を見て──
「岩ちゃん、顔、真っ赤だよ」
近付いた俺がささやくように耳元で言ってやると、岩ちゃんは俺の顔面をばしっと手のひらで叩いた。
「いったー、岩ちゃん、痛い」
「近付くな、ボゲェ!」
俺たちに背中を向けてしゃがみ込み、頭を抱え込む岩ちゃんは、それはもうかわいかった。
俺の1日は岩ちゃんで始まる。
朝、俺は岩ちゃんからの電話で目を覚ます。耳元でさっさと起きろ、と怒鳴られて渋々起き上がる。登校も一緒。近所に住む幼馴染みだから、通学路は同じなのだ。
クラスは違うけど、休み時間はなんとなく、バレー部のメンバーとともに岩ちゃんの教室に集まることが多い。昼休みはもちろん、一緒にご飯を食べる。
そして、放課後は体育館で部活。みっちり、しっかり、練習したあとは一緒に帰る。
家に帰ってからも、どちらかの部屋でぐだぐだと喋ったり、バレーの試合を見たり、今後の練習メニューなんてものを作ったりして過ごす。
俺の部屋にやって来た岩ちゃんが、そろそろ帰るわ、なんて言いながら俺の部屋を出て行く。別れ際、岩ちゃんが、おやすみ、と言ってくれる。
だから、俺の1日は岩ちゃんで終わる。
布団に横になって、目を閉じる。
今日も岩ちゃんと1日一緒だったな、なんて思いながら眠りに就く。そして、また、朝。
俺は、それが当たり前だとすら思っている。
「ねえ、岩ちゃん」
背中越しに声をかけてみた。返事はない。
目を覚まして、一番初めに俺を起こすために電話をかけてくれる岩ちゃんの1日の始まり。
そして、別れ際には必ず、おやすみと言ってくれる岩ちゃんの一日の終わり。
やっぱり、同じなんじゃないのかな。
「よくわかんねーけど」
京谷の声がした。岩ちゃんは背中を向けたままだが、俺は振り返ってみる、京谷はいつものにらむような目をしていなかった。相変わらず凶悪な顔をしてはいるが、岩ちゃんの背中を見つめるその目は、言うことを聞かない狂犬には見えない。
「岩泉さんがいいんなら、いいと思う」
「俺はいいんだけどねー」
「あんたには言ってねぇ」
「……狂犬ちゃん、俺と岩ちゃんとじゃ、ずいぶん態度違うよね」
京谷はさらっと俺を無視して続けた。
「岩泉さんは、かっこいいんで。保護者、とかじゃなくて、相棒っつーか、片腕っつーか、本当、かっこいいんで」
ゆっくりと、岩ちゃんがこちらを振り返る。
「だから、俺が及川さんと代わりたいくらいッス」
「──そうか」
岩ちゃんが照れたように笑った。
──ちょっと岩ちゃん、どうして俺には笑わないのに、京谷には笑いかけるわけ?
「でも、岩ちゃんを愛してるのは俺だからね」
俺はまだ膝を抱えるように丸まっている岩ちゃんの背中にぎゅうと抱きついた。
「うおっ、何すんだ、及川」
「片腕でも相棒でも何でもいいけど、岩ちゃんとセットなのは俺だからね」
「くそ、離れろ、及川。うぜぇ」
「だから、ひどいよ、岩ちゃんっ」
俺はぎゅうぎゅうと体重をかけて抱きつく。丸まったままの岩ちゃんが身動きを取れないように。
「俺の1日は、岩ちゃんとともにあるんだからねー」
ぎゅう、と力を入れたら、そのまま雪崩れた。俺は岩ちゃん共々、体育館の床に、べちゃりとつぶれるように倒れこんだ。
「……大丈夫ッスか、岩泉さん」
駆け寄ってきた京谷が、俺たちを見下ろしながら訊ねた。
「だからー、狂犬ちゃんは、俺の心配もしてよっ」
「うるせー、及川、早くどけ、重い!」
俺につぶされるような格好になった岩ちゃんが、喚いた。
このあとは、一緒に帰って。
夕食後、多分、俺は岩ちゃんの部屋に行く。
他愛もない話をして、時々真面目にバレーの話をして。
そして、また明日ねって別れる。
帰り際、きっと岩ちゃんはまた、おやすみって言うんだろう。
だから今日も、俺の1日は岩ちゃんで終わる。
2人ひとセットでも、保護者でも、相棒でも、片腕でも、なんでもいいけどさ。
岩ちゃんが、京谷に腕を引かれて立ち上がる。俺も手を伸ばしてみたけれど、2人ともに無視された。仕方なく俺は自分で立ち上がる。
つまり、岩ちゃんの隣には、必ず俺がいるってことだよね。
「狂犬ちゃんには譲ってあげないよ」
俺はにこりと笑った。
京谷はけんかを売られたように目つきを鋭くし、当の岩ちゃんはと言えば──
「はあ? 何言ってんだ、お前」
きょとんとして俺を見ただけだった。
まあ、その察しの悪いところも、岩ちゃんらしいんだけど。
まるで何事もなかったかのようにコートの後片付けを始めた岩ちゃんに、俺は苦笑するしかなかった。
了
無自覚にいつでも一緒、ってのがいいかなー、と思って。
狂犬ちゃんを加えてみました。多分、彼は岩ちゃん大好きなはず。
そして、うちの及川は、ちょっとアホです。
岩ちゃんは単純なので、一度怒ったら、あとはけろりと忘れるタイプです。
2人には一生一緒にいてもらいたいものですな(/ω\)