年中こんなのはどうだろう、あんなのは、っておいしそうなケーキ妄想しているので(自分では作れない)青根くんのお店に並べたいんですが、なかなか出番がないな……
二口はもう、毎日のように通ってご飯食べて飲んでます。そのうち近くに引っ越してきそうだな(笑)
月島+二口+青根
酸っぱいシュークリームで頭もすっきり。
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お願いシトロン~rise52~
玄関の扉を開けた二口さんが目を据わらせて「うわ」とつぶやいた。
耳元にはスマホ。僕も同じようにスマホで通話中。もちろん、相手は二口さん。
「本当に来やがった」
「月島、入れ」
二口さんの後ろで青根さんがそう言ってくれて、僕は二口さんを押しのけて玄関に上がった。
「お邪魔します」
そう言った僕の後ろを、電話を切った二口さんが鍵をかけてからついてくる。
「何しに来んだよ。俺と青根の蜜月を邪魔すんなよ」
「何が蜜月ですか。どうせ青根さんちのお酒とスイーツが目的なくせに」
「飯もだよ」
「それはそれは」
リビングのテーブルの上には半分ほど空になったワインの瓶とシュークリーム。
「独り占めですか」
「やらねーぞ。新作のレモンクリームシューだからな」
それはとてもおいしそう。思わず喉が鳴って、二口さんに呆れた顔をされた。
「甘いもん食いに来たわけじゃねーだろ」
「どうでしょう」
今どこですか、と電話で問うたら、青根のところ、という返事が返ってきた。
想定内だ。僕はもはや青根さんのマンションの前にいて、今からまさにエレベーターに乗ろうとしていたところだった。
──今日はお暇ですか?
電話の向こう、見えるはずもないのに、二口さんが顔をしかめたのが分かった。というより、容易に想像できてしまった。
──借りは返したはずだぞ。
──貸し借りの問題じゃないので。
──だったら何だ。
──今から行きますね。
──は? 行くって──
そう言った直後、玄関のチャイムを押したら、数秒後、二口さんが顔をだした、というわけ。
僕の読みは大当たりで、今日も二口さんは青根さんのところに入り浸っていた。
「言っておくけど、俺も青根も男同士のあれやこれやは専門外なんだからな」
「蜜月なんて言ったくせに」
もちろん、そんなものは冗談だと分かっている、──いや、あながち冗談と言うわけでもないのかもしれない。この二人は、あることが原因で仲違いし、最近その縁を復活させたばかりだ。
高校時代はあんなに仲が良かった二人だから、離れていた時間はさぞかし辛かったことだろう。
青根さんは二口さんを信じて待っていたようだけれど、実のところ打たれ弱い──と言ったら怒られそうだけど──二口さんは、離れていた時間を取り戻すかのように青根さんにべったりだ。
そこに恋愛感情がないことくらい僕にも分かっている。
友情と言うものは不思議だ。こんなにも正反対の2人なのに、お互いがお互いを必要とし合っている。
「まあ、青根とならいいけどな」
もちろん、これも冗談。二口さんの軽口にも慣れた。
「その場合、どっちがどっちです?」
「──そりゃ、なあ」
二口さんと青根さんが顔を見合わせる。
「かわいい青根だし」
「二口」
「はいはい。冗談はやめます」
「月島は、何を飲む」
「できたら紅茶で」
「分かった」
青根さんがキッチンへと消え、僕は二口さんの正面に座った。ワイングラスを傾けて、まるでジュースでも飲むかのように空にする。
「今度は何だよ」
「嫌そうな顔しないでください」
「嫌っていうか、借りは返したっつったろ」
「だから、貸し借りではないんです。二口さんに会いたかっただけですよ」
「……胡散くせえ」
僕の言葉をそのまま聞き入れないところは相変わらずだ。
もちろん、僕は素直でかわいい後輩というわけじゃないからもっともなのだが。
「この前、相談に乗ってもらったとき、とても頼りになるなって思ったので」
「──お前、質悪いぞ。俺が実は困ってる人間を見捨てられないいい人だって分かってるだろ」
「冗談はさておき」
「本性だしやがった」
溜め息をつきながら自分のグラスにワインを注ぐ。青根さんが僕の前にカップを置いてくれた。とてもいい香り。一口飲んだらすごくおいしい。
「店のケーキにも使ってる茶葉だ。少し古くなったから入れ替えた。月島、少し持って帰るといい」
「ありがとうございます」
確かに、青根さんのお店の紅茶シフォンやミルクティームースのタルトと同じ香りがする。きっといい茶葉なのだろう。
もちろん、青根さんは僕にもシュークリームを持ってきてくれた。お皿に三つ。全部食べていいということだろうか。
店に出す前の試作段階で、二口さん用に少し酸味の効いたレモンクリームがたっぷり。レモンの香りがして、思わず一口。
すっぱいけれど、とてもおいしい。
店に出すときはもう少し甘みを加えるという。これはとても楽しみ。
「で?」
ワインを飲みながら、二口さんが訊ねる。
「今日は何だ? 悪いが奇をてらった体位を教えろったって、俺は知らないぞ」
「そういうのは結構です」
唇を尖らせ言い返す。
「──本当に、ただ、会いたかっただけですよ」
「東峰さんから俺に乗り換えるつもりか? お前顔はきれいだけど、男だしな。遠慮しておく」
「乗り換えるつもりもないですし、二口さんなんてこちらから願い下げです」
「なんてとは何だ。なんて、とは。マジで何しに来たんだよ」
「──この前、居心地がよかったので」
サクサクのシューに酸味の効いたクリーム。確かにこれは二口さん仕様。青根さんが彼のために作ったものだとよく分かる。
「逃げてんじゃねーだろうな」
眉間にわずかにしわを寄せ、穿るような目つきで僕を見る二口さんに、すぐには返事ができなかった。
「ここは、おまえの駆け込み寺じゃねーぞ」
「分かってます」
「居心地いいってんなら、もっと他にあるだろ。お前の先輩とか、同級生とか」
「そういうのとはまた、違うんです」
「俺はあいつらみたいにお前を全面的に甘やかしたりはできないからな。──第一、そんな余裕がねえよ」
「だから、です」
「は?」
僕を甘やかさないのは、国見と二口さんだけだ。
ひねくれてはいるけれど優しいし、受け入れてはくれる。けれど、すべてを肯定したりはしない。
僕は周りに恵まれすぎていて、東峰さんを始め、鎌先さんや研磨さんや澤村さん、兄ちゃんや山口、黒尾さんだって僕をべたべたに甘やかして駄目な人間にしようとする。
もちろん、善意。
けれどその甘さに慣れてしまったら、ひたすらわがままで駄目になってしまう。
だからこそ、軌道修正してくれる人が必要で、今までは無意識に国見一人にそれを担ってもらっていた。
最近の国見は少しおかしい。
いや、元々どこかおかしかった。そのおかしさが当たり前になって、どんどん深く沈んでいく国見を、僕はもうすくい上げられない。
東峰さんとは時々意思疎通ができているから、僕よりもずっと彼の方がその役にふさわしい。
結局、僕は国見に何もしてあげられない。
僕を駄目な人間になるのを諫めてくれる──本人にその意識はないのだろうけど──国見は、僕にとってはある意味頼りになる存在だ。だから僕も国見の力にはなりたいと思っている。
けれど国見本人がそれを拒絶する。
──ああ、僕、国見のこと好きなんだな。
いてくれなきゃ困る。国見に拒絶されるのは辛い。
そう思ったら、ようやく気付けた。
「僕、周りが全く見えてないんですね」
「今更か?」
こういう物言いをする人だと分かってからは、二口さんの言葉に傷ついたりすることはなくなった。でもやっぱり、堪えることは堪えるのだ。
「そんなこと、ない。月島は色々考えている」
青根さんが首を振る。
「相手が隠していたら、気付けないこともある。──人の心は、全部、見えるわけじゃない」
「そう、ですね……」
「青根は甘い」
「甘くない」
「甘めーよ。青根は優しすぎんだよ。俺にだってさあ」
「二口にも優しくない」
「え、青根、俺のこと嫌い?」
青根さんはぎょっとして、慌ててぷるぷると首を振る。
「そうじゃ、ない。二口のことは大好きだ。──優しいのは二口だ。俺は、普通」
「いやいや、お前が普通なら、世の中の人間は全員悪人だわ」
ぷるぷるぷる、と青根さんが首を振っている。
「……仲良しですね」
ぽつんとつぶやいたら、二人が同時にこちらを見る。
「仲良し、だ」
「だろー。だからお前、俺たちの邪魔にし来るなよ。俺らの仲引き裂こうったってそうはいかねーぞ」
「二口さんは僕に冷たいと思います」
「お前は昔からかわいくねーからな」
「その台詞、そっくりそのままお返しします」
僕らのやり取りをどこか楽しそうに青根さんが見ている。
「二人も、仲良しだ」
何だか嬉しそうにうんうんとうなずいてそう言った。
「違うって」
「仲良くないです」
同時に青根さんを振り返った僕らを見て、さらに嬉しそうにしている。
この人を見ていると、毒気を抜かれてしまうから困る。
二口さんもそうだったようで、やれやれ、と息をつきワイングラスを傾ける。グラスを空にしてふと僕の方を見ると、
「で、マジでお前、何しに来たんだよ」
「──青根さんと二口さんの邪魔をしに?」
少し考えてからそう答えたら、
「だからー、俺たちを引き裂こうなんて100万年早いんだよ!」
グラスに満たされるワインは次々に飲み干され、二口さんは顔色一つ変えずに瓶を空けていく。
シュークリームをつまみながら。
レモンの効いたクリームは、思わずぐっと奥歯を噛みしめるくらいに酸っぱくて、
僕には甘さが足りない。
店頭に並ぶときにはきっと甘みが増し、酸味が減るのだろう。
このさわやかなシュークリームは、期間限定らしいが、その時には僕もできるだけ買おうと思う。
「まー、居心地いいってんなら、たまには来れば?」
自分の家でもないのに、二口さんがぽつりと言った。僕が奥歯を噛みしめ、何かを耐えるような顔をしていたことに気付いたからだろう。
「話くらいなら聞いてやってもいいけど」
「優しいですね」
「青根に言わせれば、俺は優しいんだって」
青根さんが普通なんて、ありえない。
二口さんだって、優しい。
僕はおかしくなって小さく笑った。シュークリームは酸っぱくて、また、少し顔をしかめてしまった。
「だからそんな顔しなくていい」
二口さんの言葉に、僕は一瞬ぽかんとして──それからあはは、と声を出して笑ってしまった。
「やっぱり二口さん、実はとってもいい人ですね」
「嫌味か」
「僕、辛くてそんな顔してたわけじゃなくて……シュークリームが酸っぱくて、思わず顔をしかめちゃっただけですよ」
「な──」
二口さんが言葉を失い、怒っていいのか、呆れていいのか、それとも照れていいのか──というのは僕の勝手な想像だけど──分からなような顔をして、ふてくされたようにワインを飲んだ。
「月島、無理して食べなくてもいい」
青根さんが心配そうに言ってくれたけど、
「いいえ、とてもおいしいです。それに──今はこの酸っぱさが、丁度いいんです。僕には」
東峰さんが優しすぎて、時々不安になる。
僕は、彼のために何ができているのだろう。
その答えをもらうためにここに来たわけじゃない。
少なくとも、べたべたに甘やかすだけじゃないこの人たちといることで、少し冷静になって考えることができる。
もし間違った方向に進みそうになっても、きっと無理矢理軌道修正してくれそうな気がするから。
酸っぱいシュークリームは、おいしい。
お願いシトロン。
その酸っぱさで、僕を叱って。
「だから、俺の分まで食うなよ」
2つ目のシュークリームに手を伸ばしたら、二口さんにぺちんとその手を叩かれた。
了
この二人とお話して、一旦落ち着かせたかっただけなんだけど、思いの外二口と月島が楽しそう(?)
青根くんは、そんな二人を見てにこにこしてるといいよ。
次は金田一。