205。
やはり魅惑的ですね(*゚д゚*)
漫画は完結してから読む派だと前にも書いたんですが、だから、長いことこの205号室の意味が分からなくって。
で、ネットで色々調べてみたら……はああ、そういうことかー! て、なりました。
実状は全く分からないまま、この好きな子しかいない205に悶々としまして。
で、書いちゃった(笑)
だから、実際はどんな扱いになっているのかとか、全く分かりません。
なので完全に想像&捏造だと思います。
部屋の内容とかつくりも分かりませんし、合宿所(?)がどんなとこなのかも知りません。
しかし205全員大好き。そして海堂はが総受け以外考えられない。ああもう、想像が止まらない。書いちゃえ。書いちゃった。
そんな感じで。
まずは一人目。
赤也×海堂
here to stay ~from 205~
多分海堂は、俺を嫌いに違いない。
ずっとそう思っていた。
だから、同じ部屋だと知ったとき、俺は少し不安だった。部屋の空気が重くなるのは嫌だった。同室メンバーを見ても、俺たちをフォローしてくれるようなタイプではないことは明らかだった。
日吉も財前も、何を考えているかまったく分からない。よく言えばマイペース、悪く言えば自分勝手そうな二人に、何を求めればいいんだろう。
俺は部屋の前でうろうろと何度も行ったり来たりを繰り返していた。荷物を置くだけですぐに部屋を出て行った俺を、みんなはどう思っているのだろう。
柳さんに泣きついてみたけれど、あっさりと諦めろ、と言われた。この際だからじっくり話してみるのもいいかもしれないぞ、と笑っていた。
そんなの、絶対無理だ。
俺は頭をかきむしって、ドアの前にしゃがみ込んだ。
あー、もう、どうしたらいいんだろう。
頭を抱え込んでいた俺の目の前のドアが、何の前触れもなく、開いた。あっと思ったときにはもう遅かった。勢いよくこちらに向かったドアは、俺の額にがつんと音を立ててぶつかった。しゃがんでいた俺はころんとそのまま背中から倒れて転がった。
「切原?!」
大きな声が降ってきて、すぐに俺の身体が背中から支えられるようにして上半身を起こされた。頭を押さえていた俺は、恐る恐るその声の主を見た。海堂だった。
「悪い、大丈夫か? 怪我はないか?」
俺は両手で頭を押さえたまま、うにゃあ、と声を漏らす。
「かかか、海堂?」
「──平気か?」
俺はこくこくと何度もうなずいた。頭を押さえていた手を離し、慌てて自力で身体を支えた。海堂はほっとしたように俺から離れ、先に立ち上がる。そして俺に向かって手を差し出す。立たせてくれるつもりらしい。俺はその手を取って立ち上がる。
「悪かったな」
「いや、俺があんなとこでしゃがんでたのが悪いから」
「──何してたんだ?」
海堂は眉を寄せて首をひねった。
「ああ、えっと……うん、なんでもない」
俺は苦笑いしながら答える。まさか海堂にいる部屋に入りづらかったとは、本人を前にして言えるはずがなかった。
「海堂は、どっか行くとこだったのか?」
「いや、切原がなかなか戻ってこないから、どうしたのかと思って」
少し言いづらそうに言って、海堂は首の辺りに手をやった。目をそらしたのは、恥ずかしかったからみたいだ。俺は急に、嬉しくなった。そして、ほっとした。
海堂はどうやら、俺を嫌ってはいないみたいだ、と思った。
「ちょっと、柳先輩と話をしてたんだ」
「そうか」
「柳先輩が──」
「ああ」
海堂がうなずく。
「海堂と、話をしてみればって」
海堂が目を丸くして俺を見、それから少し考えるような仕草をした。ややあってからそうだな、とうなずいた。
なんだかとても嬉しかった。あんな試合をした俺を嫌っているとばかり思っていた海堂が、俺のことを心配してくれたり、話したいと思ってくれている。
「よろしくな」
俺が言うと、海堂は少しだけ表情を緩ませ、ドアを開けた。
「切原、いたぞ」
部屋の中にいた日吉と財前が、こちらを見た。
「何してたんだ、もうすぐ消灯だぞ」
日吉に注意され、俺はしゅんと肩を落とす。
「間に合ったんやから、ええやん」
そっけなく財前が言った。
二段ベッドが二つ、左右の壁に沿って配置されている。それに挟まれた共有スペースは4人で並んだらいっぱいになるくらいの広さしかない。ベッドに寄りかかるように座っている財前と、自分のベッドに座っている日吉、そして部屋の真ん中に海堂が座った。俺は海堂のあとから部屋に入り、ドアに背を向けるような格好で海堂の正面に座った。財前は俺の右側、俺と海堂の中心辺りに足を伸ばしてスマホをいじっている。
「こいつなー、さっきまで筋トレしてんねんで。信じられるか?」
画面から顔を上げずに、財前が海堂に顎をしゃくった。どうやら俺に話しかけているらしかった。
「あんだけ昼間にテニスしたのに、夕食後ランニング行って、部屋に戻ってきてからまた筋トレって、アホやな」
「うるせぇ」
海堂は短く言い返したけれど、その声に攻撃性はなかった。
「練習は大切だが、お前の場合はやりすぎだな」
日吉までそんな風に突っ込んだ。海堂もそれにもうるせぇ、と同じように返した。もちろん、こちらもその響きは柔らかだ。
俺がいない間に、どうやらこの3人は仲良くなっていたんだな、と気付いた。
ああ、俺、出遅れた?
さっきまで嬉しかったはずの気持ちが、急激に萎んだ。
「まさか朝まで走るとか言わへんよな?」
「もちろん走るが」
「はぁ? ──お前、どんだけ練習好きやねん」
「俺も朝稽古がある」
「お前ら、揃って真面目か」
財前が溜め息をついた。海堂と日吉は、明日の朝の起床時間を確認していた。一時間は走りたいから、少なくとも起床時間の一時間半前くらいには起きる、と海堂が言う。日吉は30分ほどの基礎稽古なので、そこまでは早くないと答えている。
財前は呆れたように二人にスマホを向けてシャッターをきり、更新やな、と言いながらまた画面に指を滑らせ始めた。
海堂って、ちゃんと喋るんだな。
日吉と二人でまだ会話している海堂を見て、俺は思う。
考えてみれば俺は、あの試合での海堂の姿しか知らないのだ。俺と同じように、怒りのオーラを身にまとい、すべてを破壊していく。そんな風に思っていた。けれど海堂のテニスは堕ちなかった。まっすぐに、ストイックに。
孤立、ではなく、孤高。そんな風に見えた。けれど、違う。あのコートの上でだって。
コートを降りた今、鋭い目つきはそのままだけれど、そこから感じるのは穏やかさだった。
話、してくれるって言ってたのに。
いつもの俺なら、先輩たちの中に無理矢理にでも割り込んでいく。仕方ないなぁ、赤也は、なんて言われながらもそれを許してくれるから。
けれどなぜか、海堂と日吉の間に割って入り込む勇気がなかった。
俺は右手で額をさすった。
「痛むのか?」
海堂がそれに気付き、気遣うように訊ねてきた。正直に言えば痛かった。けれど俺は首を振る。
「大丈夫」
しかし海堂は身を乗り出して、俺の頭を自分の方に引き寄せた。
「──赤くなってる」
海堂の手が俺の髪をかき上げた。その瞬間、びくりと反応してしまう。海堂はどうした、と訊ねただけだったが、視線をそらした先にいた財前が、じっと俺を見ていた。目が合うと、にやりと笑う。海堂が俺の額を見て、
「冷やしておいた方がいいかもな」
「なんともない」
「けど」
「大丈夫だって」
俺は慌てて海堂の手を払い、身を引き、前髪をぐしゃぐしゃとかき回す。
「──そうか」
海堂は少し、表情をかげらせた。そして俺から離れた。
何か、間違えたかもしれない。そう思ったけれど、どう言い訳していいか分からなかった。
次の日の朝、多分めちゃくちゃ早く起きだした海堂はランニング、そのあとで起きた日吉は朝稽古をしていたのだと思う。けれど俺は起床時間までしっかりと眠っていた。財前と二人、海堂に起こされるまで、一度も目を覚まさなかった。だから、まだ完全に覚醒していない状態でうっすらと目を開けたら、目の前に海堂がいて、驚いた。
「起きろ、起床時間だ」
俺は珍しく飛び起きた。いつもならこのままうだうだと布団にしがみついている。
海堂は階段を何段か上がって、上の財前にも声をかけた。
「財前、朝だ。起きろ。──ヘッドフォンつけたまま寝るんじゃねぇ」
ベッドの上で目をこすっていると、身支度を済ませた日吉と目が合った。
「起きたか。──もっと手こずると思ったが、案外寝起きがいいんだな」
「あ、うん、たまたま」
「たまたま──」
日吉が怪訝そうな顔をする。
「明日からも俺は起こさないぞ。面倒なことは嫌いだ」
財前がヘッドフォンとつけたまま下りて来た。ずるずると足を引きずりながら洗面所に向かった。俺もあとを追う。共有の洗面所で並んで顔を洗っていると、ようやく財前がおはよーさん、と言った。俺もおはよう、と返す。
「あいつら朝から元気やな」
海堂と日吉のことを言っているのだろう。俺はうなずく。
「──なぁ、切原、お前さ」
歯ブラシをくわえていた俺に、顔をしかめた財前が訊ねる。
「海堂と、何かあんの?」
「──別に」
危なく口内の泡を飲み込むところだった。急いで吐き出して、口をゆすぐ。
「ふーん。意味深やったけどなぁ」
昨日のにやりとした財前の笑みを思い出し、俺はひやひやする。
「話は聞いてるで。全国大会での一連」
「────」
「あんなことあったら、顔合わせづらいわな、部屋から逃げてたんも、そのせいか?」
「逃げてたわけじゃないけど」
「一緒やろ。でもな、部屋に戻ってこないお前を一番心配してたんは、海堂やで」
俺はえっと声を上げる。
「俺と同室が嫌なのかって、不安そうにしとったわ」
まさかそんな風に思われていたとは考えもしなかった。だって、それを心配しなきゃいけないのはこっちだ。海堂は何も悪くない。
「まー、俺には関係あらへんけど」
濡れた前髪をかき上げた財前の耳に色とりどりのピアス。ふっと笑って俺を見て、財前は続けた。
「昨日の態度はちょおいかんな。ちゃんと言わな、分からへんで」
心配してくれた海堂の手を、俺が避けるような態度をとったことだろう。
「海堂、鈍そうやしなー」
首にヘッドフォンを引っ掛けた財前が、俺の肩をぽんと叩いて、
「ほな、お先に」
残された俺は、鏡に向かってそっと前髪を持ち上げてみる。額はまだ赤みが残っていた。こぶになっているわけではないが、どことなく腫れぼったい。鏡の中の俺が、なんだか泣きそうな顔をしていた。どうしてそんな顔をしていたのか、分からなかった。
先輩たちとの夕食後、部屋に戻ってきた俺は、海堂の姿がないことに気付いた。日吉に聞くと、今日も走りに行ってるんだろう、と返事が返ってきた。そういえば、海堂は一日に何キロも走る。合宿中もそれは怠らない。戻ってきてもすぐに別のトレーニングをするに違いなかった。
俺は部屋を出て、外で海堂を待つことにした。
朝は一時間ほど走ると言っていたから、同じくらいだろうと目測し、玄関の前の階段に腰掛ける。膝の上で頬杖をついてしばらくそのままで待っていた。
海堂に謝る。ごめんって言う。それで、きちんと話をする。
そう考えているうちに、なぜかドキドキしてきた。俺は額を撫でてからまた頬杖をつく、。
──どのくらいそうしていたんだろう。急に身体を揺すられて、俺ははっとした。顔を上げると、目の前に海堂がいて、俺の肩をつかんでいた。
「あれ……?」
俺はぼんやりと首をかしげた。
「何してるんだ。身体冷やすぞ」
「海堂──?」
「寝るなら部屋で寝ろ」
海堂を待っている間に眠ってしまったのだと気付いた。俺は急に恥ずかしくなる。赤くなった顔を海堂に見られたくなくて、思わずその手を払ってうつむいた。
「──そんなんじゃ──」
海堂がつぶやく。
「話なんて、全然できねぇじゃねーか」
階段を上がって、俺の横を通り過ぎようとした。俺は慌てて顔を上げ、海堂の腕をつかむ。
「──切原?」
「ごめん。違うんだ。──俺、海堂待ってたんだ」
「俺を?」
首にひっかけたタオル。上気した顔。額に浮かぶ汗。俺がつかんだ腕は熱い。たった今まで走っていた海堂の発した熱だ。
「昨日、ちっとも話せなかったから」
海堂は俺の座る段の二段上に立っていて、俺を振り返った格好のままでいる。
「怪我のこととか、心配してくれたのに」
「迷惑だったら、そう言えばいい」
「迷惑じゃなかったよ」
「でも、迷惑そうだった」
「それは──ただ、ちょっと、びっくりして」
急に海堂が触れたから。すぐ近くで俺を見たから。
そう思った瞬間、俺はすうっと自分の身体が冷えていくのを感じた。大変なことに気付いてしまったような気がした。
「──切原?」
追い詰められたような顔をしていた俺に、海堂が昨日のように心配そうな目をした。海堂は階段を下り、俺の隣にしゃがみ込んだ。
「具合、悪ぃのか?」
俺のそんな表情を、体調不良のせいと思ったらしい。顔を覗きこまれて、俺の心臓は跳ね上がる。
「うわ、やばい。どうしよー、海堂」
海堂が首を傾げる。
一気に体温を落としたはずの身体が、徐々に熱くなっていく。足の先から、ゆっくりと。
もう、確実に。理由なんて一つしかなかった。だから俺は、心配そうな顔をしている海堂を見て、
「俺、海堂のこと、好きかも」
そう言って海堂の手をつかんだ。つま先から身体へ、そして手のひらへ、頭のてっぺんまで、熱い、と思った。
「はぁ?!」
海堂はぎくりと身を引いて、その勢いで危なくその場にひっくり返りそうになった。俺が手をつかんでいたので、それは寸でのところで止まった。
「どどど、どうしよう、海堂」
「どうしようって──知るかよ」
俺は海堂の手をぎゅうと握って、自分の方に引き寄せた。しゃがんだまま顔を赤くした海堂が、ひるんだように俺を見ていた。
「話っ、しよう。俺、海堂と話したい」
俺の必死さに呆れてか、それとも突然のことに驚きすぎてか、海堂が何秒かフリーズしたままぽかんとしていた。
「海堂……?」
恐る恐る呼びかけると、海堂はようやくその表情を困ったように変えて、深々と溜め息をついてうなだれる。そして、その格好のまま目だけで俺を見た。
「──とりあえず」
「うん」
「部屋に戻って、シャワーを浴びる」
そういえば、ランニングを終えた海堂は汗をかいていた。いつまでも外にいたら、身体が冷えてしまう。
「それから、話をしよう」
海堂が立ち上がる。そして、俺に向かって手を差し出す。昨日と同じように、俺を立ち上がらせてくれようとしていた。
「分かった」
俺はうなずいて、立ち上がる。並んで玄関ホールに入り、靴を履き替える。部屋に戻るまで、俺の心臓はばくばくとものすごく大きく鳴っていた。
「そういえば──」
部屋の前で、海堂が足を止めた。そして、俺の額に手を伸ばす。
「やっぱり腫れてるな」
かき上げられた前髪を、俺は今度は振り払ったりはしなかった。
「うん、でも──大丈夫だよ」
「──悪かったな」
そう言ってその手が離れて行ったとき、俺はなぜか寂しさを感じた。
「海堂」
ドアノブに手をかけようとしていた海堂が振り向く。
「俺、やっぱり海堂のこと好きだ。好きかも、じゃ、なくて」
海堂が、右手で自分の顔を覆った。
「──そんなまっすぐ言われると──」
海堂の顔は赤くなっていた。ややあってから、恥ずかしそうにそらしていた目が、こちらに向いた。
「切原──」
海堂が口を開いたのと、背後のドアが勢いよく開いたのは、同時だった。
あ。
俺が声を上げるより早く、がっ、ごん、と続けて音がして、海堂がうっとうめいてその場にしゃがみ込んだ。ドアを開けたのは財前だった。
「あ、おったんか」
海堂の身体が邪魔で、完全に開ききることができないドアから顔を覗かせて、財前は言った。
「海堂? 海堂ー」
俺は慌てて海堂に駆け寄った。ドアノブがまず背中をえぐり、痛みに身体を反ったら、その頭にドアがぶつかったのを、俺は見ていた。
「海堂ー」
海堂は返事をしない。しゃがみ込んだまま痛みに耐えるように眉を寄せていた。
「何してるんだ、お前ら」
財前の下から、日吉も顔を覗かせた。
「ちょおどいてや。出たいねんけど」
財前の言葉に、海堂はゆらりと立ち上がり、珍しくにっこりと笑みを作った。けれどその笑顔はどこか邪悪なオーラを漂わせている。
「まずはごめんなさいだろう、財前」
その剣幕に、財前がこれもまた珍しく頬を引きつらて、すまん、とつぶやく。日吉がやれやれ、というように肩をすくめた。
結局、海堂が何を言いかけたのか聞くことはできなかった。
けれど俺はそんな3人を見て、笑った。
今度はその輪の中に入り込めるような気がして、俺は笑顔で3人の元へ駆け寄った。
了
赤海ですよ。なんだか海赤っぽい雰囲気ですが。
ちょっと赤也がかわいくなっちゃったかな。かわいい赤也は好きなんですけど。
コートの外の赤也がもうとにかく好きなので。柳さんにべったり希望です。言うこと何でも聞いちゃいますよ、みたいな。
ああしろこうしろって言われたら、みんな素直にやっちゃう感じで。
本当はガンガン押していく赤也にしようかなーと思ったんだけど、ぐるぐるしてる赤也になっちゃいました。
これはこれで。
205号室一人目終了ー。