若松さんが桐皇メンバー全員に愛されている話を書いてみました。
私の願望です。
桃っちまでも入っております。
若松さんはかわいいなぁ、かわいいなぁ。
全員から矢印です。全員です。
でも若松さんがほとんど出てきません。おかしいな?
桐皇all→若松
です。
タイトルのsquare oneは「ふりだし」とか「出発点」の意味ですが、どうやらこの名前のゲームがあるらいいです。
どんなものかは知りませんけどね。
なぜか、良くん視点です。
square one
桃井さんはかわいい。そしてすごく賢い。
マネージャーとしても優秀で、バスケにおけるデータ分析なんてお手の物だし、桐皇バスケ部の戦略コーチと言っても過言ではない働きをしている。
青峰さんの幼馴染みだけあって、その性格は見た目とは違いなかなか図太く、結構強気だ。
「さて、みなさん」
そんな桃井さんが、部活終わりに部室に僕たちを居残らせた。メンバーは主将の今吉さん、副主将の諏佐さん、それと僕。
「これから緊急ミーティングを始めたいと思います」
「ええと、桃井、一体何のミーティングなんだ? 若松と青峰がいないようだが……」
諏佐さんが顔をしかめている。
レギュラーメンバーのミーティングだとしたら、あと二人ばかり足りない。
桃井さんは諏佐さんの質問をスルーした。にっこり笑って有無を言わせず。
「──議題は?」
納得しかねていないような顔をして諏佐さんが訊ねる。隣に座った今吉さんはにやにやと今日も腹の内が分からない。
「大ちゃんと若松さんの今後について考える、です」
桃井さんがばん、と机を叩いた。
「はぁ?」
間抜けな声を出したのは諏佐さんだけで、今吉さんはその表情を崩さずにいるし、僕は前もって知らされていたので、驚きはしなかった。
「桜井くん、今日の大ちゃんの行動は?」
僕はパイプ椅子から立ち上がり、メモを開いた。
「始業時間を大幅に遅れて登校した青峰さんは、一時間目の数学の教師に怒鳴られながらも他人事のような顔で着席、そのままやる気のない態度で一応授業には参加。二時間目、三時間目共同様。四時間目、机に突っ伏してうとうとしているところを英語教師に教科書で頭を叩かれ逆ギレ。椅子にふんぞり返ったまま大きな態度で残りの授業を受ける」
うんうん、と桃井さんがうなずく。いつもの大ちゃんだわね、などとつぶやいている。
「昼休み、僕の作ったお弁当を強奪してそのまま教室を出て行く。尾行開始。お弁当をぶらぶらと手に提げて、売店に移動。飲み物を買ってからぐるりと周りを見回し、そこでパンを買っていた若松さんを見つけ、物陰に隠れる。その後、その場所を移動する若松さんをつけていく」
メモ帳をぱらりとめくって、僕は続ける。
「教室に戻った若松さんが、クラスの友人と昼食をとろうとしているところに乱入。無理矢理クラスの人たちを追い払い、若松さんと向き合う席を奪取。わめく若松さんを軽くあしらいながら僕のお弁当を開いて食べ始める」
諏佐さんの顔がみるみるうちに苦いものに変わっていく。
「推定焼きそばパンを食べる若松さんをからかいながら、昼食終了。昼休みが終わるまでその場でしつこく若松さんにからむ。──ちなみに、僕はお昼ご飯抜きでした。すみません」
付け加えたら、諏佐さんだけが、気の毒そうな顔をしてくれた。優しい。
「午後の授業は屋上で昼寝のためエスケープ。放課後、僕らのクラスに駆け込んできた若松さんが、僕をつかまえて青峰どこだ、とものすごい剣幕で訊ねる。どうしたのかと問うと、若松さんが部活に行こうとしたところ、バッシュなどの入った鞄を奪われ、逃げて行ったとのこと。結局30分ほど追いかけっこをしてそれを奪い返した若松さんが、遅れて部活にやってきたのは皆さんも知っての通りです」
「ああ、そういえば若松が珍しく遅刻しとったな」
今吉さんがようくやく口を開いた。
「その頃、青峰さんは一応部活には来たものの、部室でクラスの誰かから拝借してきた週間漫画誌を熟読。僕や桃井さんが呼びに行っても反応なし。若松さんが呼びにいくと、しょーがねーなー、と言いながら部活に参加。いつもどおり、練習を引っ掻き回して若松さんを怒らせ、楽しそうに笑う」
諏佐さんが頭を抱えた。
「部活終了後、若松さんにしつこく絡みつきながら着替え、帰り支度を追え、先ほど二人でぎゃーぎゃー言いながら体育館を出て行きました。長くなってすみません、すみません」
僕はメモ帳を閉じる。桃井さんがどうもありがとう、と言って僕に椅子を勧めた。僕はぺこりと頭を下げてパイプ椅子に戻った。
「そういうわけで──」
桃井さんがぐるりと僕らを見回す。
「大ちゃんの気持ちは言わずもがな。問題は若松さんをどうやって大ちゃんに振り向かせるかですが──」
「ちょっと待て」
諏佐さんが手を上げる。
「はい、諏佐先輩」
「──そういうわけって、どういうわけだ。というか、何なんだ、このミーティング」
「ですから、大ちゃんと若松さんがどうやったら幸せになれるかという──」
「…………」
完全に、諏佐さんの目が据わっている。桃井さんはこほんと、小さく咳払いをし、
「わが桐皇が勝つには大ちゃんの力は絶対に必要不可欠です。つまり、大ちゃんにはきちんと仕事をしてもらわなければいけません」
「ああ」
「ですが、今のままでは大ちゃんが本気になることはありえません」
桃井さんが言い切った。諏佐さんもそれにはうなずくしかない。
「けれど、それを可能にする方法があるのです! それが、若松さんです!」
ばんばん、と桃井さんが机を叩く。
「誰にでも分かるように、大ちゃんは若松さんに片思いです。それはもう、胸きゅんです」
「──胸、きゅん?」
諏佐さんが眉をひそめた。
「16年幼馴染みをやってる私が断言します。大ちゃんは毎日若松さんにきゅんきゅんです!」
ばばばばん、と机を叩く。
「ですから、桐皇バスケ部のため、私も涙を飲んで、協力してあげようと思ってるんです」
「涙を飲んでって……桃井、お前まさか青峰のこと──」
諏佐さんが少し気遣うような顔をしたけれど、桃井さんは完全に気付いていなかった。そのまま勢いよく続ける。
「あんなに、あんなにもかわいい若松さんを大ちゃんにあげるのはとっても惜しいのですが! でもここは桐皇の未来を考えて、仕方なく譲ることにします!」
「…………」
諏佐さんが、それはそれは深い溜め息をついた。今吉さんはまだにやにやと笑っている。
「若松さんと晴れてラブラブになった大ちゃんなら、きっと若松さんのために真面目に部活をやってくれるはずです! だから皆さん、協力して下さい」
にっこりと、そのきれいでかわいい顔が笑顔になる。小首をかしげて、ピンク色のロングヘアーが揺れた。大抵の男の人なら、桃井さんのこの笑顔に簡単に陥落だ。けれどここにいるのは桃井さんの本性を知っていて、尚且つ只者ではない先輩二人。ことのほか若松さんをかわいがっている二人。
諏佐さんの目は完全に怪訝そうだし、今吉さんは未だに何を考えているのか分からない。
「桜井くんは協力してくれるわよね」
先輩二人がなかなか同意してくれないので、矛先がこちたに向けられた。僕は急に慌てる。
「ええええ、えっと、すみません、協力したいのは山々ですが──」
「山々ですが?」
桃井さんが首を傾げる。
「若松さんが青峰さんのものになってしまうのは、ちょっと納得できません。すみません」
「そうだぞ、桃井。若松は物じゃないんだから、あいつの気持ちも考えてやれ」
諏佐さんがすかさず付け加える。
「ですから、どうやったら若松さんが大ちゃんを好きになるのかを考えるために集まってるんですよ」
桃井さんは食い下がる。
「それが間違ってるんだ。青峰にはあいつ自身の意思でバスケをしたいと思わせなきゃ意味がないだろう」
「そんな簡単にできるなら、こんなに悩みません」
僕はわたわたと、諏佐さんと桃井さんを交互に見る。
「け、けんかはやめてくださいー」
「けんかじゃない」
「けんかなんかしてないわよ」
二人に同時に言われて、僕はひゃっと肩をすくめる。
「すす、すみません、すみません」
「第一、桜井くんが反対するなんて思わなかったわ。絶対協力してくれると思ってたのに」
桃井さんが僕をにらむ。僕はすみません、と謝ってから、
「でも、やっぱり納得できません」
諏佐さんもうんうんとうなずいている。
「若松さんのかわいさは僕だって充分分かってるんです。──僕の方がいい後輩なのに、あんなに勝手な青峰さんに渡せないです」
後半は、ぼそりと吐き捨てるように言った。諏佐さんがぎょっとした顔をしたのは気のせいだと思うことにした。
「そうよね、それは私もよく分かるわ。ああ、なんで若松さんってあんなにかわいいのかしら」
桃井さんもはぁ、と物憂げな溜め息をついた。
「せやなぁ」
今まで黙って様子を窺っているだけだった今吉さんが、ようやく口を開いた。
「諏佐も若松を構いっぱなしやしなぁ」
「お、俺のことは別にいいだろう」
「そうですよ、実は諏佐先輩が一番若松さんを気にしています!」
ぴしりと桃井さんに言われて、諏佐さんがうっと言葉を詰まらせた。
「若松さんが一番なついてるからって、ずるいです」
僕も乗っかった。諏佐さんはますます立場がないように目を泳がせる。
「やっぱりそう思ってた、桜井くん?」
「ええ、常々思っていました」
僕と桃井さんはうなずき合った。
桃井さんはかわいい。そしてとても賢い。
おまけに、僕とも気が合う、ということを、今日知った。
「──ミーティングの内容を、変更したいと思います」
桃井さんが冷ややかに言った。僕はパイプ椅子の位置を、桃井さん寄りに移動した。もう一度二人でうなずき合う。
「どうしたら若松さんを諏佐先輩から奪えるか考える、としたいと思います」
「賛成」
僕は右手を上げる。
諏佐さんが頬を引きつらせる。
「あーあ、大変やなぁ、諏佐」
一人、関係ないような顔で今吉さんが楽しそうに言った。
「今吉……お前が余計なことを言うから」
「人のせいにしたらあかんな」
「さあ、諏佐先輩、私たちの言い分、聞いて下さいね」
桃井さんがにっこりと微笑む。いつものかわいい笑顔だが、どこか黒いものが渦巻いているようにも見えた。だから僕もそれに倣った。
「いや、別に俺に言わないで、若松本人に言えばいいんじゃないか……?」
諏佐さんがパイプ椅子ごと後ずさる。
ふふふ、と桃井さんが笑う。
「頑張り、諏佐」
今吉さんの言葉に、諏佐さんがにらむ。
じりじりと僕らが諏佐さんを追い詰めていたそのとき、部室の扉が突然開いた。僕らは驚いてそちらを見た。
「あれ、何してんすか、みんなで」
そこには、今まさに議題に上がっていた若松さんがいた。
「若松さんこそ、どうして? もう帰ったんじゃなかったんですか?」
「ああ、一旦帰ったんだけど、洗濯しようとしたらTシャツ足りないのに気付いて──ああ、あった」
自分のロッカーから、それを見つけたらしく、若松さんがTシャツを手にした。
「桜井、桃井、何諏佐先輩に迫ってるんだ?」
僕らの状態を見て、若松さんが首をひねる。
「なんでもないです。ただちょっと、諏佐先輩に聞きたいことがあっただけで」
桃井さんが慌てて両手を振る。
「そうか。じゃ、俺は帰るな」
諏佐さんがその背中に助けを求めようとしたのを、僕と桃井さんで押しとどめる。逃がすわけがない。
「若松」
すると、部室から唯一他人事のような顔をしていた今吉さんが声をかけた。
「はい」
「ワシも帰るわ。一緒に帰らんか」
「あ、はい」
「コンビニ寄ってこ。焼きそばパンと牛乳おごったるわ」
「マジっすか? ありがとうございます!」
若松さんがきらきらの笑顔を見せる。
あ、これって。
そう気付いたときには遅かった。若松さんの肩にさりげなく手を回した今吉さんが、並んで部室を出て行こうとしていた。ドアをくぐる瞬間、今吉さんはこちらを振り向いて──
「やられた」
諏佐さんがつぶやく。
桃井さんも、呆気に取られたような顔をしていた。僕も思わず地団駄を踏みたくなった。
部室を出て行く瞬間、今吉さんが僕たちをぐるりと見回して、それはもう楽しそうに、満足そうに、にやりと笑ったのだ。
「今吉……」
諏佐さんが握り締めた拳を震わせる。
「今吉主将……」
桃井さんが長い髪を逆立てている。
「今吉さん……」
僕も閉じたドアを見つめながらわなわなと震える。
僕らは顔を見合わせ、次の瞬間、盛大な溜め息をついた。
「結局、あいつが一番の策士じゃないか」
「だまされました、だまされましたー」
考えてみれば、諏佐さんが若松さんをかわいがっているのと同じくらいに、今吉さんも若松さんをかわいがっていたわけで──。
一人、興味のないような顔をして僕らの話を遠巻きに見ていたのも、きっと考えあってのことだったのだろう。
僕たちが顔を突き合わせて憤慨していると、再び部室のドアが開いた。
振り向くと、青峰さんが立っていた。
「あ、何してんだ、お前ら。──なあ、若松さん知らねー? 何か部屋にいねーんだよ」
のんきにそんなことを言い出した青峰さんに、僕らは揃って怒りをぶつけた。
「お前の」
「大ちゃんの」
「青峰さんの」
そのあとは、ぴたりと息が合った。
「せいだー!」
僕ら三人に怒鳴られて、青峰さんが目を丸くして──それから、はぁ?! と叫んだ。
僕たちは訳が分からずクエスチョンマークを飛ばしている青峰さんを押しのけて、揃って部室を出た。
「何なんだ?」
残った青峰さんが、珍しくひるんだような声でつぶやいたけど、誰も返事をしなかった。
了
青峰、八つ当たりされてます。かわいそうに。
「桐皇all→若松」からの「今吉×若松」でまとまりました。
たまには今吉さん。好きだから。
やっぱり若松さんはアホな子ですね(笑)超絶鈍くて、単純です。愛しいなぁ(≧∇≦)
どうも、諏佐さんに甘くなってしまう私ですが、今回はぐぐっと我慢しました。
次はきっと諏佐さんヒイキ。
桐皇って、いいな……。
みんな好きだよ。
黒い良とか、ぶっとんだ桃っちも書いてみたいけど、どんな話に??
どうも若松さんは、待てとか伏せができないおばかな犬みたいな扱いです。
お手はできます。お手しかできません。
あああ、かわいい。かわいい。抱き締めたい!!