彼を、書かずにはいられなかった。
たまに言ってますけど、私、好みのタイプは割とクールな感じの人なのですが、実際惚れるのは彼みたいな馬鹿だけどまっすぐでどうしようもないくらいな人なんですよね。
好きなキャラは沢山いるけど、鎌先さんのことはちょっとだけ違う意味で好きです。
笹鎌書いてますけど、本当はツッキーみたいに伊達工全員から愛されてればいいよ、って思ってます(笑)
鎌先さんみたいな人が、実はものすごく内心苦悩してたりすると、ものすごく萌える。
<東峰×月島>+鎌先
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何度でも<another-side Kamasaki>~rise45~
気に入っている店がある。
会社から歩いて20分弱。地下鉄駅一つ分の距離にあるその店は、約187センチある俺より身長の高い男二人がやっている、落ち着いた雰囲気のカフェだ。
高校時代、俺は県内でも有数のバレー強豪校でMBをしていた。鉄壁、なんて名前を付けられた強固な壁の、その一翼を担っていた。
約10年前まで、毎日コートに立っていた。
毎日が充実し、あんなにも楽しい日々は、多分人生の中でそうそうあるものじゃない。
高校時代はインテリア科にいた。インテリアだけでなく、建築、デザイン、木工などの専門的な技術を軸に学んでいく。
部活と並行して授業についていくのは大変だった。工業高校の中では競争率も激しく、合格することが難しい科だったが、その狭き門を潜り抜けて入学したのだから、弱音は吐けない。何より、俺自身が将来はデザインに関する仕事に就きたいという夢があった。
授業はついていくのだけでも精一杯。朝練と、放課後の部活ではくたくたになるまでバレーに没頭していた。体力には自信があったが、午後の授業はとにかく眠い。
製図、基本設計、模型の制作。見た目にそぐわず手先が器用だった俺の得意分野。
在学中に取れるだけの資格を取った。CADやCGはもちろんだが、色彩検定やレタリング、トレース、身に着けられるものはみんな。
今思えば、高校3年間は、俺の青春の凝縮だった。
バレーと勉強に明け暮れて、一日が長いような、それでいて短いような、そんな日々。
今だって、悪くない人生だ。
高校卒業後、建築系の会社に就職した。たいして大きな会社じゃなかったが、気の合う先輩ができて、みっちりと基礎を叩き込まれた。
その先輩は、俺が入社して5年目にその会社を辞め、独立して小さなデザイン事務所を立ち上げた。
仙台を十字に走る地下鉄。南北と東西に分かれたその地下鉄の、南北線。始発駅から二つ目の駅の近くに、古びた雑居ビル。そこの二階が先輩の新しい城だった。
すぐ近くにはショッピングモール。動きやすく、便利な町だった。
会社では雑用ばかりを押し付けられていた俺を、先輩が拾ってくれた。
お前はうちのエースになる。
そんな風に言われて、心を鷲掴まれた。
伊達の鉄壁。
高校時代の俺たちを称する、その肩書。
俺はエースではなかったが、その鉄壁を築くには、俺の存在が不可欠だった、と自負している。
小さな事務所は、先輩と、先輩の友人と、俺と、アルバイトの事務員だけの少人数から始まった。
軌道に乗るまで約3年。それでも、先輩の人脈でぽつぽつと仕事は入っていた。
前の会社にいたときに、かろうじて2級建築士の資格だけは取っていた。その肩書がなければ、ただの雑用の域を抜けなかったかもしれない。けれど、この小さな事務所で、尊敬する先輩が、俺をエースになると認めてくれた。だから、死に物狂いで働いた。
仕事がないときは自ら営業。時には飛び込みで押し掛け、常識がないのかと説教されたこともある。
どんな小さな仕事も手を抜かなかった。
先輩は厳しかった。
単純なデザインひとつでも数えきれないくらいのリテイクを食らった。どこが悪いのか分からなくて頭を抱え込んでいると、時々ヒントをくれた。けして答えを教えてくれることはなかったけれど、そのおかげで自分で考えて、納得して、仕事に取り掛かれた。
高校を卒業して10年。ようやく、1級建築士の資格が取れた。
絶対に無理だと思った、とは先輩の弁。けれどその目は笑っていて、本当は信じていてくれたのだと分かった。
だから、先輩の期待は裏切らない。
俺はエースになる。
高校時代、誰も打ち破ることのできない鉄壁を築き上げたように、地道に努力して、また築く。
多分、この先も、そうやって生きていく。
「鎌先さん、今日のシャツは派手ですね」
「おー、新作だ。一目惚れ」
「何です、これ。……フラミンゴ……?」
月島が目を凝らすようにして俺を──俺の着ているシャツを見つめている。
全体的には薄いピンク。グラデーションで下に落ちていくにつれ深い色合いになるそれに、濃いピンクの線で細かな柄が入っている。ぱっと見は何かの記号か幾何学模様のように見えるが、よくよく見ると、小さなフラミンゴ。
見つけた瞬間、間が抜けてていいな、と思った。
「どこで買うんです、そんなシャツ」
「その辺で」
特に行きつけの店があるわけじゃないから、目についた店で、気に入ったものがあったら買うことにしている。うちの会社は服装規定が緩く、よほどの場合でなければノーネクタイも可。
一日事務所に詰めっぱなしのときは、先輩なんてスウェットで図面を引いていたりする。さすがに下っ端社員の俺は、だらしない格好で出社することはないけれど。
そんなゆるゆるの、代表である先輩も、TPOはきちんとわきまえている。公の場でフォーマルを着こなして堂々と周りと語らう姿を見ていると、いつものスウェットや無精ひげは多少見逃してもいいか、と思うくらいにかっこいい。
「かわいいですね、フラミンゴ」
月島は俺のシャツがお気に入りだ。店に来るたびに今日はどんな素材か、どんなカットか、どんな色か、と興味津々。おしゃれな月島のことだから、服にもこだわりがあるのだろう。俺は普段、たいしてしゃれっ気があるわけじゃないが、仕事柄、平凡すぎて埋没してしまうようなものは避けている。
というか、地味な服が似合わないのだ、正直に言えば。
就職活動を機に、金髪だった髪を黒く染めた。就職が決まってからも大人しく黒髪のままだった。が、高校時代のアルバムを見た先輩が、金髪の方がいい、と言って俺に金を握らせ、そのまま近くのヘアサロンに放り込まれた。
結局、それからはずっと、高校時代と同じように金髪。そのせいで、地味な服も、お仕着せのスーツも似合わなくなった。
先輩は、未だに時々、俺を高校卒業したてのガキみたいに扱う。金髪を撫でて、俺のおかしなシャツを似合うと笑って、仕上がった作品に駄目だしして、よくできたら手放しで褒める。
──俺は分厚いマグカップを持ち上げてカフェモカを飲む。
気に入っている店がある。
つまり、ここ。
高校時代、ライバル校のチームのメンバーだった二人が始めたカフェ。
俺とは特に接点がなかったが、東峰が同学年で、月島は同じMB。接点などつけようと思えばいくらでもつけられる。
オープンしたての頃、営業で近くをうろついていた俺が、何気なく入ったこの店で顔を合わせたとき、驚くことに3人ともお互いを覚えていた。
まともに話したことなどほとんどなかったのに、なぜか旧知の仲みたいな気分になって、今じゃめっきり常連だ。
──東峰の入れるコーヒーはおいしい。
甘党の俺が注文するのはいつもカフェモカ。たまに、あの、ネルドリップで丁寧に入れられるコーヒーを飲みたいと思うこともあるが、大抵の場合、店に来て「いつもの」と口にして、目の前に出てくるのはこのカフェモカだ。
エスプレッソにスチームミルク、それにチョコレートシロップ。
どの店で飲むそれよりも、ここのが一番おいしい。
「鎌先さん、最近はお仕事暇なんですか?」
「暇じゃねーよ」
「でも、この頃よく顔出しますね」
「おもしれーから」
「はい?」
月島はきょとんとして聞き返す。俺はちらりとカウンターの内側の東峰を見た。東峰は俺と目が合うと、少しばつが悪そうな顔をした。
東峰は、月島を好きだ。
それをからかってやると、困ったような顔をして、情けない声を出していた。
けれど、最近は。
「もうからかえないのか。つまらないな」
月島がテーブル席を片付けている。俺の指定席はカウンターの真ん中のスツール。東峰とはいつも正面で向き合う場所だ。
「あんまりいじめないでよね、鎌先」
「いじめてねーよ。いじってんの」
「同じだって」
東峰は一時期、分かりやすく俺に嫉妬していた。
多分月島は、末っ子なんだろう、と親しくなってから思った。普段は無表情に、無気力に、しれっとした顔をしている。ちょっかいを出すと迷惑そうな顔をする。でも、けして本気で拒絶することはない。
構い方にも種類がある。相手のことを考えずに一方的に構えば迷惑なだけだが、相手の反応を見つつかわいがるように構えば、その表情に変化が出る。
月島は、初めのうち、俺が絡むと不機嫌そうな顔をしていたが、いつの頃からか、迷惑ですと口にしつつもその表情には少し嬉しそうな気配を感じるようになった。
きっと、大げさなくらいのスキンシップには慣れていなくて、戸惑っていたのだろう。けれど、少し乱暴なくらいに扱っても、拒絶する空気がでてくることはなくなった。
高校時代、チームメイトと、同じようにはしゃいでいた。
茂庭はしょうがないなあと言う顔で、笹谷は一緒に悪ノリして、二口は生意気なことを言いながら、青根はあの強面をほこほこと嬉しそうにしながら、俺の悪ふざけに付き合ってくれた。
まるであの頃に戻ったような気分になって、月島とふざけていると、東峰の視線を感じた。いつも通りおっとり笑っているのに、どこか怒りを孕んだその視線は、とにかく分かりやすい。
だから、わざと、月島を構った。
東峰が本気で月島を好きなのだと知って、初めは少し複雑だった。
人の恋愛に口出しをするつもりはない。そして、その性癖に難癖をつけるつもりもない。
けれど、俺にとっての恋愛対象はいつも異性で、好き好んで同性を好きになる気持ちなどひとつも理解ができなかった。
──それに近い感情はあったとしても。
「うまくいってんの?」
「まあ、そうだね」
「いつもと変わらないな」
「店でそんな雰囲気は出さないでしょ」
「そんなもんか」
東峰は汚れたカップを洗っている。月島がテーブル席から食器を下げてきて、俺の横から東峰にそれを押しやった。
「何が、そんなもんなんですか?」
「いや──付き合ってるって割には、色気がねーな、と思って」
俺は隣に立っている月島を目だけで見上げた。
「い、色──」
月島は絶句して、それから困ったようにぷいとそっぽを向いた。
「仕事中にそんなもの出しません」
「つまり、仕事以外では出している、と?」
「教えません」
すねたような顔をして頬を赤らめる月島は、なんというか、かわいかった。
俺は、ははっと笑って、カフェモカを飲む。
「あー、俺も彼女ほしいなー」
「鎌先だったら、すぐにできるでしょ」
「そうですよ。鎌先さん、超絶に鈍いだけで、結構モテてると思います」
「うるせ、月島」
就職して3年目に付き合った彼女と、結婚まで考えた。けれど、うまくいかなかった。それからも何人かと付き合ってみたが、長くは続かなかった。
いつの間にか俺は、恋人よりも仕事を選んでしまう人間になっていた。
だって、エースだ。
たった4人で始まった、あんな小さな事務所でも、今はコンスタントに仕事が入り、業界では名を知らしめ始めている。
エースになる。
先輩はそう言って、俺を引き抜いた。
今は、まだ、自信をもって認めてもらうまでには至っていない。
東峰と月島が言葉を交わし、短く笑い合う。たったそれだけのことなのに、何だか妙にしっくりとした。
──目の前の二人が、恋人同士だなんて、未だに驚いている。
同性を好きになるなんて、考えられない。
そう思っている。
けれど、高校時代も、今も、それに似た感情は確かに存在しているのだ。
茂庭は、チームの精神的支柱。部のお母さん、なんて言われて、手のかかる俺たちをきっちりとまとめて、包み込んでいた。俺は茂庭を信じていた。茂庭も俺を信じていてくれたのだろう。だからこそ、俺はその期待に応えようと思っていた。
笹谷はいつだって、チームを縁の下から支えていた。けして口数は多くないが、黙ってチームをけん引し、背中で語る。普段は俺の悪ノリにも付き合ってくれるが、度を超すと俺よりも質が悪くて困りものだった。一緒にいて気が楽だったし、向こうもそうだったのだろうと思う。
口では文句を言っていた二口も、黙って静観していた青根も、俺たちを慕ってくれていた。
そして、今の事務所を立ち上げるときに俺を必要だと言ってくれた先輩も。
お前はうちのエースになる。
そう言った先輩の顔は、なぜか、言われた俺よりも自信満々で、少しおかしかった。
友情や、尊敬は、いつまでも同じライン上で進むのだろうか。
その感情の行きつく先を、俺はまだ知らない。
鉄壁。
俺たちの友情も、そして、俺の尊敬も。
ひびが入ることがあっても、がらがらと崩れ落ちることがあっても、それは──
「東峰」
カウンターの向こう側、東峰が俺を見る。
「おかわり」
カップを持ち上げたら、笑顔でうなずいた。
とりあえず、二人のことは、祝福している。
それだけは間違いない。
俺はこの店が気に入っている。
居心地がよくて、コーヒーがおいしくて。東峰との喋りも、月島とのじゃれ合いも。
信頼していたチームメイト、尊敬する先輩。
俺の感情は、先に進む。その行きつく先が、少し楽しみになった。
友情も、尊敬も、愛情も。
ひびが入って、崩れて、それでも。
──鉄壁は何度でも築かれる。
そんな言葉を思い出して、思わず笑った。
了
エースじゃなかった、と書いてますが、実はエースですよね。
まっすぐなゆえに、好意の基準が曖昧で、憧れと恋愛は混同しないけど、それに近い思いにはなってしまう、というような感じですかね。
この人なら、「好きなら関係ない」って言っちゃいそうなんだけど、実は自分がそうなったら死ぬほど悩んだりしちゃいそうな気もする。
どっちもいいなって思ってます。
月島のことは弟みたいに思ってて、かわいくて仕方ない。
本編には詳しく出てませんが、旭さんとは飲み仲間です。たまに二口や澤村さんも混ざって飲んでます。ツッキーはお留守番(笑)
豪快に飲みますが、一定限度超えると、寝ます。ぐおーって。そんな感じ。