本当は、どっちかを料理得意設定にしたかったんですけど、そうなると、何だかスムーズに店の経営ができてしまうような気がして、やめました。
悩みつつ、挫折しつつ、頑張っていただきたくて。
私の作品のパターンだと、どうも攻が料理上手、ってことが多いので(単に好みだ)あえて外してみました。……あ、これで東峰さんが攻だとばれてしまいましたね。……ええ、ヘタレ攻は大好きですから(笑)
で、やっぱり、料理できる人を入れておきたくて、最初から鎌先さんは料理上手! って思ってました。ええ、ええ、これも単に好みですとも!(鎌ちは受だけどね)
東峰+月島+鎌先+国見+金田一
月島。
カフェ飯作る話が書きたかった……ワンプレート飯とか、おしゃれ丼とか、パスタとか……しかし、ここはあえての、トースト!
ツッキー大奮闘。
カフェ飯はそのうち別のお話で書きまくってやる!
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スクランブルエッグトースト・ランチ~rise07~
山型の薄切り食パンをトーストして、じわじわと焼いてカリカリにしたベーコンと、オムレツをサンドする。パンにはバターとうっすらマスタード。ケチャップ少々。
きれいに焼き目のついたトーストを、潰さないようにナイフを入れ半分に切る。ブラックオリーブを刺した楊枝でパンを固定するように突き刺して、紙ナプキンを敷いたプレートに斜めに重ねる。
いつものカウンター席、国見が眠そうな目をしてずっと、僕の手元を見ていた。だから無駄に緊張してしまった。気が散るでしょ、と文句を言ったら、俺に見られて緊張するくらいなら、ほかの客なら目も当てられない、と言われた。
……確かにそうだ。国見にならば見るな、と文句は言えても、ほかの客に見られているからと言って、こっちを見ないでくださいとは言えない。つまり、見られることは前提だ。
僕は唇を尖らせ、少し不機嫌に、そのプレートを国見の前に置いた。
「──何だか地味だね。華がない」
「まだ試作だからいいの」
「月島って、器用なのかと思ってた」
「悪かったね」
カウンターを挟んでそんな言い合いをしている僕と国見を、カウンターの内側の東峰さんと、配達の途中で休憩のためにコーヒーを飲みに来た金田一が国見の隣で、どこかはらはらしながら見ている。
今度は黄身を少し潰してカリカリに焼いた目玉焼きと、焦げ目をつけて焼いたハムを同じようにトーストした山型の食パンでサンドした。こちらも、マスタードとバターを塗る。目玉焼きにはしっかりと塩コショウ。半分に切って、同様に切って楊枝を刺し、それを金田一の前に置く。
「さあ、味見して」
「──毒味、の間違いじゃない?」
国見は相変わらず口が減らない。文句を言いながら、そのサンドイッチを手にして、かじった。金田一も、それに倣う。
「──うん、まあ、食べれないこともない」
「いや、うまいよ。うまいけど……」
「金田一、正直に言って」
「ええと──そこそこうまいけど、ちょっと、不格好、かな」
僕はがくんとうなだれた。国見はもそもそとサンドイッチをかじりながら、
「パンはおいしいよ」
「うん、青根さんのとこの」
「オムレツは、ちょっと火が通り過ぎ。カリカリベーコンはおいしいけど、オムレツと、パンとのバランスが悪い。これなら、カリカリにする必要性は感じない」
「……うん」
国見は、金田一の方の皿の、目玉焼きサンドを取り上げる。金田一も、国見の皿に残ったオムレツサンドを食べる。
「目玉焼き、しょっぱすぎ。香ばしくしたいのは分かるけど、焦げてる。ハムも、よく焼いて焦げ目つけたいんだろうけど、市販の薄切りは、水っぽいし、味が抜けてあんまりおいしくない」
「……うん」
「でも、オリーブはうまいよ」
金田一がフォローするように言ったけれど、
「うん、それ、缶詰」
フォロー失敗。僕ははあ、と溜め息をつく。
「料理もしたことのない人間が、客に出すようなものをすぐに作れると思っていることが、まず問題だね」
「で、でも、サンドイッチってのはいいと思う。普通の、パンの耳を切り落とした小さいのじゃなくて、トーストでがしっと挟んでる感じとか、俺は好きだ」
「ありがとう、金田一」
「甘いね、金田一」
僕と国見に同時に言われて、金田一はどちらを見ていいのか分からず、くるくると視線を回している。
「目玉焼きとオムレツは、今日から猛特訓かな……」
僕はフライパンを片手にうなだれる。
僕だって分かっている。まともに料理をしたことのない人間が、一日二日試しにやってみたところで、他人様にお金を払ってもらって食べさせられるようなものができるはずがないことは。
東峰さんの入れるコーヒーは、おいしい。
青根さんの作るケーキも、おいしい。
この二つの組み合わせは、無敵だろうと思う。
けれど、前に国見に言われた通り、フードメニューのひとつやふたつ、あってもいいと思っていた。9時開店のこの店は、今では開店から閉店までまんべんなく客が来るようになり、収支も安定してきている。けれど、基本はドリンクのみの注文になるので、昼の時間帯になると、どうしても食事のとれないこの店の来客は減ってしまう。
「もっと、調理の必要のないものにしたら? レンジでチーンってするやつとか」
もちろん、僕をからかっているのだろう。国見はしょっぱいしょっぱいと文句を言いながらも、サンドイッチを食べ切った。
「しかし、本当に、パンはおいしいよね」
パン「は」。国見って、本当に言葉にとげがあると思う。
「青根さんは、おいしいものを作り出す才能の塊なんだよ……」
すねてカウンターの内側にしゃがみこんでうなだれていたら、国見が身を乗り出して覗き込む。
「190センチの男が膝を抱えて落ち込んでも、かわいくないね」
「国見!」
金田一が国見の口をふさぐ。
「悪い、月島」
「いいよ、どうせでかいから」
「し、心配しなくても、ここにいる人間はみんなでかいって!」
僕と金田一が約190センチ。東峰さんが185センチ強。一番小さい国見だって、180センチを超えている。確かに、みんな、残らずでかい。
ここに僕より背の高い青根さんと、東峰さんと同じくらいの鎌先さんがやってきたら、巨人の集会に見えるだろう。やってきたお客さんが、その威圧感に逃げ出してしまいかねない。
そんなことを考えていたら、いつもはちりん、と鳴るドアベルが、ちりりりん、と勢いよく鳴って、重たい扉がばーんと開いた。
「おーっす」
空気を読まない大声で店に入ってきたのは、その、鎌先さんだった。白いシャツは、襟と袖に濃紺のラインが入っていてかっこいいデザイン。ボタンホールも同じ色の糸でかがられている。何気にこの人は、いつもおしゃれなワイシャツを着ている。
「カフェモカ」
カウンターの席に座って、東峰さんに告げる。
「──あれ、食いもん始めたのか?」
国見たちの前に置かれた、パンくずが乗ったプレートを見て、鎌先さんが訊ねる。僕はお冷のグラスを置きながら、
「まだ、試作です」
「へー。俺にも食わせてくれよ」
「嫌です。今、散々駄目出しされて落ち込んでるところです」
「──落ち込んでも顔にでないんだな、月島は」
鎌先さんの言葉に、国見がぶっと拭きだした。金田一があわわと慌てる。僕は横目でにらんでやる。
「そういえば、鎌先さん、お店で会うの初めてですよね。──国見と、金田一。青城の、僕と同学だったんです」
「──おお、青城! 覚えてる覚えてる。一年でレギュラーだった」
二人がぺこりと頭を下げる。
「この見るからに脳筋の人は、伊達工の鎌先さん。東峰さんと同じ学年ね」
「はい、覚えてます。鉄壁」
金田一がしゃきんと背筋を伸ばす。
「マジか! 嬉しいもんだな。──ところで、月島、お前今、どさくさに紛れて俺をバカにしなかったか?」
「してませんけど」
しれっと答えてやると、鎌先さんは不審そうな目を向けた。けれど結局深く追及はしてこない。この人の、こういうところは、結構好きだ。
「なー、試作、本当に食わせてくれねーの?」
「食べさせてあげません」
「ケチくせーな」
「どうせ人に食べさせられるようなものは作れませんよ」
「不味いのか」
「不味いって言うより、普通──か、ちょっと普通以下。お金は取れないかな」
国見がいつものようにキャラメルラテを飲みながら代わりに答える。
「オムレツも、目玉焼きも、まともに作れないんじゃ、話にならないし」
「へー、月島は、料理できないのか」
「どうせできませんよ」
「何作ったの?」
「オムレツサンドと、目玉焼きサンドです」
「パンだけはおいしいですよ」
国見が素早くツッコむ。
「あ、もしかして、青根の?」
カウンターの作業台に乗った山型パンを見て、鎌先さんが訊ねる。僕はうなずく。
「……ふーん」
鎌先さんはカフェモカを飲みながら、しばらくそのパンを眺めていた。半分ほど飲んだところで、
「なあ、腹減ったんだけど、それ、使っていい?」
「自由な人ですね……」
僕は呆れてそうつぶやいてから、東峰さんがうなずくのを確認して、
「いいですよ。お好きなように」
鎌先さんはシャツの袖をまくりながらカウンターに入ってくる。国見たちのほかに客はいないから、特別だ。
きれいに手を洗って、鎌先さんはパンを切る。4~5センチくらいに分厚く。
僕はカウンターのスツールに腰かけて、その様子を見ていた。国見と金田一、鎌先さんの隣で東峰さんも、興味深そうに見ている。
「卵、もらい。お、ベーコンもあるな」
鎌先さんはパンをトースターに放り込む。フライパンでベーコンを焼き、一旦取り出す。フライパンをきれいに拭いて、溶いた卵に塩コショウ、牛乳少々を入れてよく混ぜ、バターを落としたフライパンに一気に流し込む。じゅわっと音がして、リズミカルに卵を大きくかき混ぜていく。完全に火が通る前にコンロから下し、ベーコンと同じようにフライパンから取り出す。ふわりと、きれいな黄色いスクランブルエッグが出来上がる。
トースターがちん、と音を立てた。取り出したパンはこんがりと色よく焼けていた。そこにバターをたっぷりと塗り、ベーコンを敷いて、スクランブルエッグを乗せる。上からがりがりとブラックペッパーを振って、完成。
…………。
僕らは、同時に、ごくりと喉を鳴らした。
外はカリカリ、中はもちもちの分厚いパンの上、表面を焼いたジューシーなベーコンに、ふわふわのスクランブルエッグ。たっぷり挽かれたブラックペッパー。
何これ。
鎌先さんがにこにこ笑いながらカウンターに出来立てのエッグトーストを乗せ、座っていた席に戻ろうとした。けれど、その前に、僕がそれを引き寄せる。
ぱくりとかじりついたら、スツールに腰かけようとしていた鎌先さんが、あ、とつぶやく。
「何、食ってんだ、月島。それは俺の昼飯で──」
「鎌先さん」
「な、何だよ」
「何ですか、これ」
「何って……スクランブルエッグトースト?」
「おいしすぎます」
僕の言葉に、ひょいと横から手が伸びてきて、国見にトーストを奪われた。同じようにかじって、驚いたような顔をする。金田一に渡り、最後に東峰さんにも渡った。
「ただのベーコンとスクランブルエッグなのに、おいしい……」
国見がつぶやく。
「パンとの相性、抜群ですね!」
金田一もうなずく。
「なるほど……厚切りにすると、こんな感じなんだ。外の焼けた部分の香ばしさと、内側のふかふかしつつ、もっちりした食感が、たまらないね」
東峰さんがそう言って、残ったトーストを僕に渡してくれた。僕はまた、かじりつく。
「わざわざきれいなオムレツを作らなくても、スクランブルでいいんですね」
「つーか、それ、俺の昼飯……」
「鎌先さん!」
「だから、何だよ」
「スクランブルエッグの作り方、教えてください」
「──いや、フライパンに卵入れて焼くだけだろ」
「コツです! コツを!」
「だから、フライパンに──」
らちが明かない。僕は鎌先さんの腕を引っ張ってスツールから立たせ、無理矢理カウンターに押し込む。東峰さんが入れ替わるように外に出て、今まで僕が腰かけていた席に座った。
「だから、卵をほぐして、塩こしょうして、牛乳か生クリームちょっと入れて」
「はい」
「フライパン熱して、バター溶かして──あ、バター、焦がさないようにな。卵に直接バター入れるっていうのもアリなんだけどな」
「はい」
「一気に入れたら、なるべく大きくまんべんなくかき混ぜて、全体にムラなく火を入れて──」
「はい」
「あんまり焼きすぎると固くなるから、ほどほどでな」
「はい」
「半生くらいで火を止める。だからって火が通ってないのは論外な」
「はい」
「それから、パンはなるべくしっかり焼く。焦がさないように注意して、けど、全体に焼き色がつくくらい。厚切りだと、中のもちもち感がうまいから、好きなんだよ」
焼けたトーストの上に、鎌先さんと同じように、スクランブルエッグを乗せてブラックペッパーを挽く。
「コショウ多めが好きだな、俺は。アクセントになる」
完成。
厚切りパンの上、ふわふわとろりのスクランブルエッグ。さっき鎌先さんが作ったものと、同じくらいおいしそうにできた。
「こんなの、普段から作ってるぞ。朝とか、色んなの乗っけて、適当に」
「例えば?」
出来上がったトーストを国見に渡すと、金田一と二人で順番にかじりつく。今度は、文句を言われなかった。
「ツナとか、チーズとか、ピザ風とか、はちみつとか──」
「鎌先さん」
「ん?」
「詳しく、教えてください、作り方も、全部」
「いや、だから……適当で──」
面倒そうな顔をした鎌先さんだったけど、僕は、逃がすつもりはなかった。
東峰さんも、月島の好きなように、という顔をしている。
だから、絶対に、逃がさない。
僕に腕をつかまれた鎌先さんは、顔をしかめて、
「とりあえず、カフェモカ、もう一杯入れてくれ。──月島のおごりな」
僕は東峰さんとバトンタッチするようにカウンターを出た。
「何杯でもどうぞ」
にっこり笑ってそう言うと、鎌先さんは諦めたように溜め息をついた。
了
昔、某喫茶店の種類豊富なトーストメニューがとても素敵だったので、riseに採用。
簡単なのに、とってもおいしい。満足できるものを、と思って。
青根さんのお店は、パンも置いてます。数量限定です。優秀なケーキ職人は、優秀なパン職人でもある、と。青根妄想の止まらない私です。
スクランブルエッグは、黒コショウがりがり挽いて食べるのが大好きです。トーストに乗せると、無限に食べたくなっちゃうんだよねー……。
チーズトーストは、イギリスのパブのメニューにあったやつ。本で読んだんですが、分厚いパンに、とろーりチェダーチーズたっぷりで、ぐつぐつ言いながら滴り落ちていて、それを、熱い熱いって言いながら食べてるというものが、とにかくおいしそうで。
つまりは「ウェルシュラビット」ね。ウスターソースとか、ビールとか、プラスするらしく、色々作り方はあるみたいですが、シンプルに、チェダーチーズのみ、のやつ。最高ですよ!
それをイメージしてみましたが、多分、riseのチーズは普通のシュレッドチーズだな……(笑)
これのおかげでチェダーチーズにドはまりしたんだよなー……。