今まで沢山我慢させたから、少しはラブラブにしてやろう、と思ったんですが……やっぱり寸止め。
で、でも、気持ちだけはめちゃくちゃ甘ったるくしてみました!
くっつくまでが長すぎてさー……風化しそうだ(自分で書いておいて)
赤葦×月島
月島。
甘えるツッキー。赤葦やばい(笑)
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もう一度~ふたりぐらし27 ~
キッチンでおにぎりを握っていた。
週に1~2度、赤葦さんは知り合いのやっているバーでアルバイトをしている。といっても、今まで未成年だった赤葦さんだから、仕事は裏方。洗い物や品出しなどを始めとする雑用中心だったらしい。
経営者が親戚で、今まで身内権限でこき使われていたらしいが、めでたく20歳になってからは、雑用以外の仕事も任されるようになったらしく、バイトの日数を増やさないかと声をかけられているそうだ。
多くても週に2度、一緒に夕飯を食べられない日があることを、元々少し、寂しく思っていた。赤葦さんが帰ってくるのは真夜中過ぎで、僕は大抵眠っている。たまには勉強をしていて起きていることもあるが、赤葦さんは僕に気遣って音も立てずに帰ってきたりするから、結局その日は顔を見ることができないこともある。
4つのおにぎりを握って、お皿に並べ、ラップをかけた。夜中に帰ってきた赤葦さんの夜食用に、丁寧に握った。具は全部違うものにした。インスタントのお味噌汁とお椀も並べて、僕は部屋に戻った。
ぼふん、とベッドに倒れこんで、溜め息をつく。
今はもう、わざわざ夜中に起きだして、眠る赤葦さんの姿を見つめる必要はない。
秘めた想いを押さえつけ、意識のないその姿を見つめ、そっと触れ、名前を呼びかけるというひそかな行為をしなくても、いつでも傍にいてくれる。
多分、僕が望めば、いつだって。
──眠れない。
赤葦さんは、バイトを増やしてしまうのだろうか。
そうしたら、ますます一緒に夕食を食べる時間が減ってしまう。
赤葦さんが作るご飯が好きだ。手の込んだものを作っているわけではない。どちらかというと、割と簡単な、短時間でもできて、けれどボリュームはたっぷり、という「ザ・男飯」という感じのものが多い。それを豪快に作り上げる姿に、いつも見とれる。
見た目や、話しているときの印象は穏やかなのに、実は大雑把でやけに男らしいところも、すごく好きだ。
僕自身がそうなれないから、憧れる部分もあるのだろう。
目を閉じてみたけれど、とても睡魔は襲ってきそうになかった。
僕はそっと部屋を出て、小さな明かりがぽつんと灯るキッチンを抜け、和室のソファベッドに座った。そのままぽてんと横になって、目を閉じる。
赤葦さんの香りがする。
今までは、こんなにも寂しいなんて、思わなかったはずだ。
人間は欲深い生き物なんだな、と思った。
あれが欲しい、と思えば手に入れたくなる。手に入れたら、もっと多くを望みたくなる。今までは、一緒に暮らしているだけでも充分だと思っていた。けれど好きになって欲しいと願い、それが受け入れられたら、今度は離れたくないと思う。
目を閉じてその香りに包まれていたら、うとうとしてきた。このままここで眠ってはいけない、と思っているのに、身体が言うことを聞かない。部屋に戻って、自分のベッドで──
がちゃん、と音がして、玄関の扉が開いた。暗闇の中、鈍い小さな明かりに、人影が見えた。
「──月島?」
部屋に入ってきた赤葦さんが、驚いたように声を上げた。
「どうしたの?」
「赤葦さん、電気つけないんですね」
意識を取り戻した僕は身体を起こした。赤葦さんはマフラーをほどきかけたまま、暗くてよく見えないが、何か考えているようだった。
「──ええと、これは、据え膳?」
その意味を考えて、僕は赤くなる。夜中に赤葦さんのベッドで待っているなんて、そう思われても仕方がない。
「え、いえ、あの」
「冗談だよ。──まあ、例えそうだとしても、暴走はなるべくしないつもりだけど」
赤葦さんは和室の電気をつけ、コートを脱いで、マフラーを外すと、僕の隣に座った。
「ただいま」
「おかえりなさい」
「どうしたの、寂しくなっちゃった?」
「はい」
「素直だね」
「──はい」
僕はこつんと隣の赤葦さんに寄りかかる。赤葦さんからは、少しだけ、煙草とお酒の香りがした。バーでのにおいが移ったのだろう。それが、さらに、寂しさを増した。
「一緒にご飯食べられなくて、寂しいです。寝るまでお喋りできなくて、寂しいです。──傍にいてもらえなくて、寂しいです」
「──やっぱり、据え膳かな」
赤葦さんが苦笑した。
「赤葦さんが、そう思うなら」
僕の答えに、赤葦さんは一瞬、息をのんだ。しばしの沈黙のあと、僕の肩にそっと手を回して、抱き寄せる。
「あのね、月島」
「──はい」
「沢山調べたよ、本当に、沢山。──男同士っていうのは大変だね。準備も、手間も、ものすごくかかる」
何を言われているのか分かって、少し身体が固まる。それが赤葦さんに気付かれたのは明白だ。けれど、赤葦さんは続ける。
「さあやりましょう、って言って、そう簡単にできることじゃないんだよ」
「……はい」
「俺は月島を抱きたい。──それだけは譲るつもりはない」
そう言われて、僕も赤葦さんにそうされたいのだと、気付いてしまった。そんな自分に少し驚いた。
そういえば、僕は、ずっと思っていた。
赤葦さんに、抱きしめてもらいたい、と。
抱きしめたい、ではなく、抱きしめてほしい、と。
「だから月島、ちゃんと、しようね」
「──ちゃんと?」
「うん。初めっから、最後まで、ちゃんと。全部、一緒に」
「──よく、分かりませんけど……赤葦さんを、信じてます」
「うん、ありがとう」
赤葦さんは僕の額にキスして、それから笑顔になった。
「夜食、食べようかな」
「おにぎり、作りました。おかかと、しそわかめと、鮭フレークと、昆布マヨ」
赤葦さんは立ち上がり、ダイニングテーブルのおにぎりと、インスタント味噌汁を作って和室のテーブルに運んできた。
「おいしい。月島、おにぎり屋さん開けそうだね」
「僕が作るおにぎりは、赤葦さん専用なので、無理です」
「それは光栄」
赤葦さんはおいしそうに4つのおにぎりと味噌汁を平らげた。シンクに食器を運んで、手早く洗い物をする姿を見つめていたら、
「ところで、月島はまだ眠らないの?」
「眠れなくて」
「俺がいないから?」
「はい」
冗談のつもりだったらしい赤葦さんが、僕の返事に驚いたような顔をした。
「──月島、付き合い始めてから、やけに素直すぎるよ」
「そうでしょうか?」
「……一緒に寝る?」
僕はこくんとうなずく。
赤葦さんの誕生日以来、僕らはまたいつも通り個々のベッドで眠っている。シングルサイズの僕のベッドや、赤葦さんのソファベッドで、長身の男二人が一緒に眠るというのは、結構辛い。別に他意があるわけではない。
「シャワー浴びてくる」
洗い物を終えた赤葦さんが、着替えを用意しながら言った。
「煙草のにおい、月島は嫌いでしょ?」
僕がさっき思ったことに、気付いていたのかもしれない。確かに、赤葦さんの髪からかすかに漂う煙草とアルコールの香りは、僕と赤葦さんの距離を引き離すような気がして、好きではないと思った。
僕は部屋に戻って自分の枕と毛布を持ってきた。枕を並べて、ベッドの上で膝を抱えるようにして座って待った。
赤葦さんが言ったことを、思い出していた。
──ちゃんとしよう。初めっから、最後まで、ちゃんと。全部、一緒に。
具体的に、どんなことをするのか、僕には全く見当がつかない。
男女ならば問題なく行われるその行為も、男同士だととてもややこしいのだろう、ということだけは分かった。
バスルームから出てきた赤葦さんが、片手にドライヤーを持って、タオルで髪を拭きながらベッドに腰かけた。
「乾かしてこなかったんですか?」
「月島にやってもらおうと思って」
「──甘えてます?」
「うん、甘えてる」
僕は苦笑し、ドライヤーを受け取った。
赤葦さんの、わずかにクセのある黒髪から、しずくが垂れて肩のタオルに落ちる。僕はそのしずくを拭い、ドライヤーのスイッチを入れた。
思ったよりも柔らかい髪が、指先に絡む。赤葦さんは気持ちよさそうに目を閉じていた。
ごおうごうと、うるさく温風を吐き出すドライヤー。赤葦さんの後ろ姿を見つめながら、僕は小さくつぶやいてみた。
「赤葦さん、大好きです」
ドライヤーの音にかき消されて、多分、その声は赤葦さんにまで届かない。
赤葦さんは黙ってされるがままになっていた。
──きっと、一緒に眠るのは、赤葦さんにとっては苦痛を生むのだろうな、と思った。
何もしないで、ただ、くっついて、眠るだけ──
「赤葦さん」
髪が乾いて、僕はドライヤーを止めた。
「ん?」
「バイト、増やすんですか?」
ブラシで髪をとかし、整えた。緩いクセのある髪が、ぴょんと跳ねていた。
振り返った赤葦さんが、僕を見た。
「──どうして?」
「……夜ご飯、一緒に食べられなくなっちゃいます。そうじゃなくても、今日だって、一人で食べるのは寂しかったのに」
僕が望めば、きっと。
赤葦さんは僕を甘やかし、いうことを聞いてくれる。
──僕はずるい。寂しいという言葉を盾に、赤葦さんにわがままを押し付けようとしている。
「増えないよ」
「え?」
「一応、俺も学生だしね。真夜中までバイトして、学業をおろそかにできないし──それに」
「それ、に?」
「俺が、寂しい」
赤葦さんが笑う。
「月島と一緒にいる時間が減って、俺が寂しいから、断ってきた。だから、今まで通りだよ」
赤葦さんは、僕が手にしていたブラシをつかんで、床に放った。
僕は少しだけ身を固くして、次のアクションを待った。予測していた。赤葦さんの腕が僕を引き寄せ、唇が重なる。二度、三度。
「月島」
「──はい」
「好きだよ」
きゅうん、と胸が痛くなる。けれど、それは、嫌な痛みではなかった。
苦しいのに、嫌じゃない。不思議なその痛みを抱えて、僕は赤葦さんを見つめた。
「さっきは、ちゃんと聞こえなかったから、もう一度言って」
ドライヤーの音でかき消せると思っていた僕の声は、赤葦さんにきちんと届いていたらしい。恥ずかしくなって思わず目をそらし、それからそっと視線を戻し、赤葦さんを見て、言った。
「──僕も、好きです」
赤葦さんの手が、僕の首の後ろに回り、その指先がゆっくりと後頭部のあたりを動いていた。再び重なった唇を割るように舌が入り込む。うまく息継ぎできなくて、その息苦しさに喘いだら、赤葦さんが少しだけ、唇を離した。
「……赤葦、さん?」
「──あのね、月島」
「……はい……」
「最後まで、しなくても、他にも色々方法はあってね──」
「──は、い」
「…………」
赤葦さんは、そのまま僕の身体をベッドに押し倒す。
「つまりね──」
赤葦さんは、僕を見下ろして、困ったような顔をしている。
「──まいった。かなりやばいな、これ。──ねえ、月島」
「……はい……」
「やっぱり、あんまり、待てそうもないかも」
僕の胸がさらに痛みを増し、赤葦さんのその困った顔にすら、ときめいた。
赤葦さんの台詞の意味も、深く考えられない。
「──あかあしさん」
僕は呼びかけ、僕を見下ろすその頬に触れた。
もう、何も。
思考は、緩く、狂っていた。
けれど、とりあず、もう一度、キスしてほしい、と思った。
了
ここまでですよ?
赤葦はやっぱり我慢強いので、ぐぐぐぐぐ!! っと我慢ですよ?
ツッキー……ひどいよ。小悪魔さん(//∇//)
まあ、たまには甘えるがいいさ。
赤葦、頑張れ、耐えるんだ!(笑)