ダヴィド・ゲリンガス/チェコフィルのチェロ協奏曲集(ハイドン)
実に久しぶりのチェロ協奏曲。国内盤なんですが、既に廃盤のようです。今日ディスクユニオンで見つけたもの。
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ダヴィド・ゲリンガス(David Geringas)のチェロと指揮、チェコ・フィルハーモニー室内合奏団(Czech Philharmonic Chamber Orchestra)の演奏で、ハイドンのチェロ協奏曲1番、2番と、交響曲13番の2楽章の3曲を収めたアルバム。収録は1993年11月19日から21日にかけて、プラハのドモヴィナ・スタジオ(Domovina-studio)でのセッション録音。レーベルは日本のCANYON Classics。
このアルバム、帯にゲリンガスとキャニオン・クラシックスの専属デビューアルバムとあります。ディスクユニオンの店頭でこのアルバムを見かけた時に、ゲリンガスは良く知らない人ですがどこかで聞き覚えのある人だなぁと思って、iPhoneで所有盤リストを調べたところ、ありました! cpoからゲリンガス・バリトン・トリオとしてバリトントリオのアルバムが手元にあったんですね。バリトンを弾く人ということで、ちょっと興味が湧いて手に入れた次第。本当はそうでなくてもハイドンの未入手のアルバムは基本的に手に入れるんですが、気持ちが少々ちがいます(笑)
家に帰ってゲリンガス・バリトン・トリオのアルバムを手に取ってみると、なんとチェロはエミール・クラインではありませんか。このアルバムも聴き直さねばなりませんね。
本題にもどって、ダヴィド・ゲリンガスについてちょっと調べてみました。1946年、リトアニアのヴィリニュス生まれのチェロ奏者。1963年にモスクワ音楽院に入学し、ロストロポーヴィチのもとで8年間チェロを学びました。1970年にチャイコフスキー国際コンクールで優勝し、世界的に知られるようになりました。1975年には西ドイツに移住、北ドイツ交響楽団のソロ・チェリストを経て1980年からはリューベック音楽大学で教えるようになり、ソリストとしてN響を含む世界の有名オケと共演しています。日本では2006年から九州交響楽団の首席客演指揮者として活躍しているそうです。
早速聴いてみると、このアルバム、久々に心に染み入るチェロ協奏曲です。
Hob.VIIb:1 / Cello Concerto No.1 [C] (1765-7)
まろやかに溶け合うオケが速めのテンポで入ります。ゲリンガスのチェロは小気味好いほどのキレ。リズムに正確に乗って練ることなくクッキリサラサラいきます。実に鮮やかなボウイング。明るいハ長調のチェロ協奏曲が快活に弾み、非常に鮮度の高いフレッシュな仕上がり。楽器は1761年製のグァダニーニとハイドンの時代のもの。響きの深さと高音の伸びの見事さは素晴しいものがあります。カデンツァはゲリンガス自身のもの。短いです速めのテンポでチェロをフルに鳴らしたなかなかのカデンツァ。若草の香りが乗ったそよ風のような気持ちのよい1楽章でした。
2楽章のアダージョに入ると愉悦感すら感じるゆったりした感興が訪れます。比較的速いテンポなのに癒しに満ちたメロディーが次から次へと降り注ぎます。抑えた高音の美しい響きによってハイドンのメロディーが一層輝き、完全にゲリンガスの術中にハマります。
明るい曲調のこの曲を読み切った、柔らかい音色のオケの疾走。音階が飛び回るように自在に行き来してソロの入りを待ちます。ゲリンガスはオケよりも一段自在さを上げて入ってきます。両者ともに素晴しい躍動感と推進力。要所を踏まえて盛り上がるので、一本調子な印象は皆無。チェロの速いパッセージのキレは火花飛ぶような派手さはなく、実に自然なんですが、恐ろしいほどにキレキレ。硬軟織り交ぜて柔らかく疾走。この1番、予想を遥かに超える素晴しさ。
Hob.VIIb:2 / Cello Concerto No.2 [D] (1783)
1番のあまりの素晴らしさに愕然として、いざ2番。既に脳内にアドレナリンが満ちてトランス状態なので、出だしから癒されまくりです。ゲリンガスのグァダニーニの美音が沁みます。ハイドンの音楽は深みを増して、フレーズのひとつひとつに魂が宿っているよう。ゲリンガスのチェロは、そよ風に揺らぐ枝のようにしなやかに揺れています。これぞ至芸。自然な演奏なのに実に深い音楽が流れます。無我の境地で演奏しているよう。このハイドンの名曲のもつ音楽のもっとも深いところにたどり着いた希有な演奏でしょう。カデンツァに至ってはハイドンの音楽へのリスペクトに満ちた完璧な服従を聴かせます。もはや完全に呑まれました。
アダージョはゲリンガスの独壇場。呼吸するような自然な演奏が続き、時折高音が鳴き、時折静寂が訪れ、自然に終わります。そしてフィナーレは高原から赤く染まる夕焼けをのんびり眺めるような風情から入ります。長い1楽章と短い2、3楽章が特徴のこの曲の特徴を上手くつかんで、最後はしっかり締まるように心情をコントロールしていきます。2番も盤石の出来。
Hob.I:13 / Symphony No.13 [D] (1763)
チェロのソロがあるので、チェロ協奏曲と組み合わされることが多いのがこの交響曲13番の2楽章。作曲年代はチェロ協奏曲の少し前。この楽章だけ聴くとまるでチェロ協奏曲のアダージョです。ゲリンガスのチェロは変わらず非常にしなやか。オーケストラパートは作曲年代どおり、まだ未成熟で伴奏に徹する感じ。それでもじつに深い音楽が流れるあたり、ゲリンガスのチェロの魅力は変わりません。曲がシンプルなだけチェロのソロの魅力がクッキリと浮かび上がるということでしょう。
偶然邸に入れた、ダヴィド・ゲリンガスのチェロ協奏曲集。これは名盤です。残念ながらHMV ONLINEやamazonなどでは新品は流通していません。これほどの名演奏が廃盤とは。アルバムの流通が難しい事はわかっていますが、これほど素晴しい演奏が埋もれているのは、やはりレーベルや出版、ネット等の伝える力がまだまだ弱いからでしょうか。契約の問題等あるのかもしれませんが、キャニオンさん、是非リリースしなおしていただきたいものです。このアルバム、ハイドンのチェロ協奏曲の決定的名盤です。評価はもちろん全曲[+++++]です。見かけたら是非手に入れるべき至宝です。
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ダヴィド・ゲリンガス(David Geringas)のチェロと指揮、チェコ・フィルハーモニー室内合奏団(Czech Philharmonic Chamber Orchestra)の演奏で、ハイドンのチェロ協奏曲1番、2番と、交響曲13番の2楽章の3曲を収めたアルバム。収録は1993年11月19日から21日にかけて、プラハのドモヴィナ・スタジオ(Domovina-studio)でのセッション録音。レーベルは日本のCANYON Classics。
このアルバム、帯にゲリンガスとキャニオン・クラシックスの専属デビューアルバムとあります。ディスクユニオンの店頭でこのアルバムを見かけた時に、ゲリンガスは良く知らない人ですがどこかで聞き覚えのある人だなぁと思って、iPhoneで所有盤リストを調べたところ、ありました! cpoからゲリンガス・バリトン・トリオとしてバリトントリオのアルバムが手元にあったんですね。バリトンを弾く人ということで、ちょっと興味が湧いて手に入れた次第。本当はそうでなくてもハイドンの未入手のアルバムは基本的に手に入れるんですが、気持ちが少々ちがいます(笑)
家に帰ってゲリンガス・バリトン・トリオのアルバムを手に取ってみると、なんとチェロはエミール・クラインではありませんか。このアルバムも聴き直さねばなりませんね。
本題にもどって、ダヴィド・ゲリンガスについてちょっと調べてみました。1946年、リトアニアのヴィリニュス生まれのチェロ奏者。1963年にモスクワ音楽院に入学し、ロストロポーヴィチのもとで8年間チェロを学びました。1970年にチャイコフスキー国際コンクールで優勝し、世界的に知られるようになりました。1975年には西ドイツに移住、北ドイツ交響楽団のソロ・チェリストを経て1980年からはリューベック音楽大学で教えるようになり、ソリストとしてN響を含む世界の有名オケと共演しています。日本では2006年から九州交響楽団の首席客演指揮者として活躍しているそうです。
早速聴いてみると、このアルバム、久々に心に染み入るチェロ協奏曲です。
Hob.VIIb:1 / Cello Concerto No.1 [C] (1765-7)
まろやかに溶け合うオケが速めのテンポで入ります。ゲリンガスのチェロは小気味好いほどのキレ。リズムに正確に乗って練ることなくクッキリサラサラいきます。実に鮮やかなボウイング。明るいハ長調のチェロ協奏曲が快活に弾み、非常に鮮度の高いフレッシュな仕上がり。楽器は1761年製のグァダニーニとハイドンの時代のもの。響きの深さと高音の伸びの見事さは素晴しいものがあります。カデンツァはゲリンガス自身のもの。短いです速めのテンポでチェロをフルに鳴らしたなかなかのカデンツァ。若草の香りが乗ったそよ風のような気持ちのよい1楽章でした。
2楽章のアダージョに入ると愉悦感すら感じるゆったりした感興が訪れます。比較的速いテンポなのに癒しに満ちたメロディーが次から次へと降り注ぎます。抑えた高音の美しい響きによってハイドンのメロディーが一層輝き、完全にゲリンガスの術中にハマります。
明るい曲調のこの曲を読み切った、柔らかい音色のオケの疾走。音階が飛び回るように自在に行き来してソロの入りを待ちます。ゲリンガスはオケよりも一段自在さを上げて入ってきます。両者ともに素晴しい躍動感と推進力。要所を踏まえて盛り上がるので、一本調子な印象は皆無。チェロの速いパッセージのキレは火花飛ぶような派手さはなく、実に自然なんですが、恐ろしいほどにキレキレ。硬軟織り交ぜて柔らかく疾走。この1番、予想を遥かに超える素晴しさ。
Hob.VIIb:2 / Cello Concerto No.2 [D] (1783)
1番のあまりの素晴らしさに愕然として、いざ2番。既に脳内にアドレナリンが満ちてトランス状態なので、出だしから癒されまくりです。ゲリンガスのグァダニーニの美音が沁みます。ハイドンの音楽は深みを増して、フレーズのひとつひとつに魂が宿っているよう。ゲリンガスのチェロは、そよ風に揺らぐ枝のようにしなやかに揺れています。これぞ至芸。自然な演奏なのに実に深い音楽が流れます。無我の境地で演奏しているよう。このハイドンの名曲のもつ音楽のもっとも深いところにたどり着いた希有な演奏でしょう。カデンツァに至ってはハイドンの音楽へのリスペクトに満ちた完璧な服従を聴かせます。もはや完全に呑まれました。
アダージョはゲリンガスの独壇場。呼吸するような自然な演奏が続き、時折高音が鳴き、時折静寂が訪れ、自然に終わります。そしてフィナーレは高原から赤く染まる夕焼けをのんびり眺めるような風情から入ります。長い1楽章と短い2、3楽章が特徴のこの曲の特徴を上手くつかんで、最後はしっかり締まるように心情をコントロールしていきます。2番も盤石の出来。
Hob.I:13 / Symphony No.13 [D] (1763)
チェロのソロがあるので、チェロ協奏曲と組み合わされることが多いのがこの交響曲13番の2楽章。作曲年代はチェロ協奏曲の少し前。この楽章だけ聴くとまるでチェロ協奏曲のアダージョです。ゲリンガスのチェロは変わらず非常にしなやか。オーケストラパートは作曲年代どおり、まだ未成熟で伴奏に徹する感じ。それでもじつに深い音楽が流れるあたり、ゲリンガスのチェロの魅力は変わりません。曲がシンプルなだけチェロのソロの魅力がクッキリと浮かび上がるということでしょう。
偶然邸に入れた、ダヴィド・ゲリンガスのチェロ協奏曲集。これは名盤です。残念ながらHMV ONLINEやamazonなどでは新品は流通していません。これほどの名演奏が廃盤とは。アルバムの流通が難しい事はわかっていますが、これほど素晴しい演奏が埋もれているのは、やはりレーベルや出版、ネット等の伝える力がまだまだ弱いからでしょうか。契約の問題等あるのかもしれませんが、キャニオンさん、是非リリースしなおしていただきたいものです。このアルバム、ハイドンのチェロ協奏曲の決定的名盤です。評価はもちろん全曲[+++++]です。見かけたら是非手に入れるべき至宝です。
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