クルミ 55 古い写真
前回
怒りに任せてお順を叩くコノミ、朝太郎が憎いのは昔のお順であって今のお順ではないと訴える。
はじまり、はじまり
朝太郎はお順の後を何とはなしに付いて行く、そして見ていた。あまりに責められるお順が哀れになり、自分の悪事を言うことになっても、止めたいと思った。
朝太郎の告白を聞くと夫婦は驚き、呆れる。だが朝太郎の気持ちもわかる。コノミとて鬼ではない、到って優しい心の持ち主。
「いやね、コノミさん、富吉さん。何かあっしみてえなのが知り合いみたいに口を聞くから、気を悪くされるでしょうが、すっかりお順さんに聞いていたもんで、知っているみたいで、、、すいやせん」
「・・・」
「いいんですよ」
「だけど我慢して聞いてくだせいよ。謝るっていうのは、口で言う程、楽じゃねえんですよ。それを顏が腫れ上がる程叩かれても、泪流しているなんてのは、腹の底から詫びていなけりゃ無理なんですよ。わかりますか、あっしなんか口じゃ平気で悪かったよなんて言いますよ。
だけど腹から悪いなんて思った事なんて、これぽっちも無しで来ましたよ。しつこく、くどくど言われりゃ『こんなに謝ってんのにわからえのかって』逆に怒り返したりしてね」
「いや、そうですよ、あっしだってそうですよ、商売してますから、いろいろありますから、よくわかります。客に文句を言われりゃ、その場は頭を下げるが、その場限りですよ。こいつだって商売を一緒にしているんだから、分かっている筈ですよ。それがこの頃、店が大きくなったもんで、奥様面してこんなみっともない事するんですよ」
「あんただって『旦那様』って云われているじゃないか、何さ自分ばかり良いカッコしてさ!」
「・・・」
「あっしは心底、詫びるお順さんを許してやって欲しいだけです!本当に分かり合えるのは、血肉を分けた母子だけって言いますもんね」
「朝太郎さん、その通りですよ!さっ、あっしと中に入っておくなさい、朝餉はまだでしょう?こんなわからず屋放っておいて、お袋さんとご一緒にどうぞ!あッ・・あれれ、お袋さんは??」
お順は伸びていた、朝太郎に突き飛ばされた勢いと叩かれ続けていたので気を失っていた。
「あっ?!お袋さん!!」
「あっ、お順さん、こいつはいけねえや、あっしが突き飛ばしたから」
朝太郎が抱え上げようとしたその時、コノミが止めた、そっとそっとお順に近寄る。
「母ちゃん・・・母ちゃん・・・あんなに身なりに五月蝿かったのに・・・こんなに汚い・・・」
コノミは母に付いた泥を払いながら、泣いた。泪は頬を伝ってお順の顏に落ちる。温かい泪に気が付く、腫れて膨(ふく)れた瞼の先に、コノミの泣いている顔。
「コッ、コノミぃーーーっつ!すまなかったよぉおおーーーッッ!!」
「母ちゃんーーー
もういいよ、いいんだよ、来てくれただけでいいんだよ。
ゔわ゙ぁああああーーーん」
抱き合う母子に富吉も朝太郎も、店の者達も泣いた。
コノミはお順が来る筈がないと思っていた、いくら茂吉の手紙に書いてあっても、信じられなかった。手紙を貰ってからは、否定しながらも期待する。そんな自分にも腹が立つ、なのに用事を探しては外に出る。狐の姿がないと尚、腹が立った。
『ほらご覧な!来るわけないさ、幾らなんだって子供に謝るもんか、あれだって親のつもりだもの、あたいに無駄足させて、あの女狐ーッ、そうだ、来たとしてもきっと、お銭をねだりに来るんだよ、そうだよ、そうに決まっている。チキショウ!!』そんな苛々がつのっていたコノミだった。
しかし亭主の前で項垂れる薄汚い母、叩きながらも内心では驚きだった。朝太郎に言われるまでもなく、コノミの知る母と目の前の母との違いに戸惑う自分。
顔立ちも声も同じ、間違いなく母なのに、トゲトゲしかった雰囲気も毒ずく舌も今はまるでない。得心した時、優しいコノミに戻っていた。
そう、コノミはいつもきれいな母が好きだった。たまに優しくされると嬉しくて仕方なかった。クルミが産まれてから、三人で仲良く暮らしていた時があった。忘れていた遠い記憶を思い出す。
親子は今までのやり直しをするように一日、一日を過ごす。コノミは渡された櫛の話しを聞くと、不思議な巡り合わせに驚く。いつか【魂納めの宮】でクルミに会った時、この櫛を上げようと二人で話し合う。
その後のお順は茂吉の許しを得、卍宿病院に務めている。裏卍に務めたかったが、それは許されなかった。毎年、鈴蘭百合をコノミに、キナに、そしてガス病院に送っている。お順はたまに休みを貰うと、生き直しをしている源吉や朝太郎に会う。朝太郎は今では源吉と一緒に修業をしている。
さて、クルミとはどうなったのか。
茂吉が計らい、会える様にしたのだがクルミが聞かない。『会えば気持ちが変わり、元に戻るかも知れない』と言い張る。『このまま良い母でいてほしいから、あたしと会うことを目標にして頑張って欲しい』と言う。茂吉はいつか時間が気持ちを変えるだろうと、そっとしておく事にした。
♢
それから数十年後。
沢山の見舞いの者、医者も看護師もある病室の前に溢れている。この病人は余程、皆に好かれているのだろう。誰もがその病人の死期が近いことを知り、押し黙っている。その中を一人の狐が押し分ける様に進んで行く。その美しい姿を見ると、自然と暗い顏も和らいでしまう。
「すみません、通して頂けますか」
美しく成長したクルミだ。ようやく入れた病室の主は今にも息を引き取ろうとしている。
「母ちゃん、あたしです、クルミです。やっと会えました」
目を薄く開けたお順の目は、どこまでも優しく澄んでいる。顏の白髪も増え、灰色が白くなっていた。髭も大分抜けている。
「ぁーーあ・・・」
か細い手をクルミに差し出す。
「母ちゃん、頑張ったね、頑張ったね、あたしはどれほど嬉しかったかしれない、母ちゃん・・」
「ク・・ルミ、、、やっと会えた。これで思い残す事なく宮に・・逝ける」
「母ちゃん・・・」
枕元に古びて薄汚れた写真がある。気まぐれて撮ったのかはわからないが、そこには確かにクルミの誕生を喜ぶ母子の姿が写っている。
挿絵参照↓↓↓ 絵をクリックすると大きくなります

それからのお順はクルミの温かい看護を受けた。よほど嬉しかったのであろう、三日後、、、安らかに旅立つ。
振り返れば、いろいろあった母子だった。家族だけで暮らした日々は少なく、離れていた時がずっと長かった。
だがお互いが思いあう心に距離も隔たりもない。クルミが姉の無事を祈る、母の生き直しを願う、コノミもお順もしかり、会うことはなくとも紛れもなく家族だった。
別れた後の生き方が母子を本当の家族にしたのだろう。
おわり
クルミも一年に亘りましたが、ようやく終わりました。
振り返れば、この物語を書き始めたキッカケは、
三吉のその後を書きたいが始まりでした。
友達が欲しいな・・・
浮かんだのは赤い耳と尾っぽのおしゃまな狐の女の子、名前はクルミ。
決まった途端、彼女は目をくりくりさせながら、自分の物語を話し始めました。
そして最終話となり、今は唯、ホッとしています。
長い間、お付き合い下さいました皆様に、心より御礼を申し上げます。
また、充電期間をしばらく頂き、復活をしたいと思います。
次回は爺ちゃん、婆ちゃん達が主役の中編です。
お題は三猫文殊旅。
猫国はまだ続きます、いつになったら終わるのやら・・・
どうか宜しくお願い申し上げます。
ぴゆう拝
怒りに任せてお順を叩くコノミ、朝太郎が憎いのは昔のお順であって今のお順ではないと訴える。
はじまり、はじまり
朝太郎はお順の後を何とはなしに付いて行く、そして見ていた。あまりに責められるお順が哀れになり、自分の悪事を言うことになっても、止めたいと思った。
朝太郎の告白を聞くと夫婦は驚き、呆れる。だが朝太郎の気持ちもわかる。コノミとて鬼ではない、到って優しい心の持ち主。
「いやね、コノミさん、富吉さん。何かあっしみてえなのが知り合いみたいに口を聞くから、気を悪くされるでしょうが、すっかりお順さんに聞いていたもんで、知っているみたいで、、、すいやせん」
「・・・」
「いいんですよ」
「だけど我慢して聞いてくだせいよ。謝るっていうのは、口で言う程、楽じゃねえんですよ。それを顏が腫れ上がる程叩かれても、泪流しているなんてのは、腹の底から詫びていなけりゃ無理なんですよ。わかりますか、あっしなんか口じゃ平気で悪かったよなんて言いますよ。
だけど腹から悪いなんて思った事なんて、これぽっちも無しで来ましたよ。しつこく、くどくど言われりゃ『こんなに謝ってんのにわからえのかって』逆に怒り返したりしてね」
「いや、そうですよ、あっしだってそうですよ、商売してますから、いろいろありますから、よくわかります。客に文句を言われりゃ、その場は頭を下げるが、その場限りですよ。こいつだって商売を一緒にしているんだから、分かっている筈ですよ。それがこの頃、店が大きくなったもんで、奥様面してこんなみっともない事するんですよ」
「あんただって『旦那様』って云われているじゃないか、何さ自分ばかり良いカッコしてさ!」
「・・・」
「あっしは心底、詫びるお順さんを許してやって欲しいだけです!本当に分かり合えるのは、血肉を分けた母子だけって言いますもんね」
「朝太郎さん、その通りですよ!さっ、あっしと中に入っておくなさい、朝餉はまだでしょう?こんなわからず屋放っておいて、お袋さんとご一緒にどうぞ!あッ・・あれれ、お袋さんは??」
お順は伸びていた、朝太郎に突き飛ばされた勢いと叩かれ続けていたので気を失っていた。
「あっ?!お袋さん!!」
「あっ、お順さん、こいつはいけねえや、あっしが突き飛ばしたから」
朝太郎が抱え上げようとしたその時、コノミが止めた、そっとそっとお順に近寄る。
「母ちゃん・・・母ちゃん・・・あんなに身なりに五月蝿かったのに・・・こんなに汚い・・・」
コノミは母に付いた泥を払いながら、泣いた。泪は頬を伝ってお順の顏に落ちる。温かい泪に気が付く、腫れて膨(ふく)れた瞼の先に、コノミの泣いている顔。
「コッ、コノミぃーーーっつ!すまなかったよぉおおーーーッッ!!」
「母ちゃんーーー
もういいよ、いいんだよ、来てくれただけでいいんだよ。
ゔわ゙ぁああああーーーん」
抱き合う母子に富吉も朝太郎も、店の者達も泣いた。
コノミはお順が来る筈がないと思っていた、いくら茂吉の手紙に書いてあっても、信じられなかった。手紙を貰ってからは、否定しながらも期待する。そんな自分にも腹が立つ、なのに用事を探しては外に出る。狐の姿がないと尚、腹が立った。
『ほらご覧な!来るわけないさ、幾らなんだって子供に謝るもんか、あれだって親のつもりだもの、あたいに無駄足させて、あの女狐ーッ、そうだ、来たとしてもきっと、お銭をねだりに来るんだよ、そうだよ、そうに決まっている。チキショウ!!』そんな苛々がつのっていたコノミだった。
しかし亭主の前で項垂れる薄汚い母、叩きながらも内心では驚きだった。朝太郎に言われるまでもなく、コノミの知る母と目の前の母との違いに戸惑う自分。
顔立ちも声も同じ、間違いなく母なのに、トゲトゲしかった雰囲気も毒ずく舌も今はまるでない。得心した時、優しいコノミに戻っていた。
そう、コノミはいつもきれいな母が好きだった。たまに優しくされると嬉しくて仕方なかった。クルミが産まれてから、三人で仲良く暮らしていた時があった。忘れていた遠い記憶を思い出す。
親子は今までのやり直しをするように一日、一日を過ごす。コノミは渡された櫛の話しを聞くと、不思議な巡り合わせに驚く。いつか【魂納めの宮】でクルミに会った時、この櫛を上げようと二人で話し合う。
その後のお順は茂吉の許しを得、卍宿病院に務めている。裏卍に務めたかったが、それは許されなかった。毎年、鈴蘭百合をコノミに、キナに、そしてガス病院に送っている。お順はたまに休みを貰うと、生き直しをしている源吉や朝太郎に会う。朝太郎は今では源吉と一緒に修業をしている。
さて、クルミとはどうなったのか。
茂吉が計らい、会える様にしたのだがクルミが聞かない。『会えば気持ちが変わり、元に戻るかも知れない』と言い張る。『このまま良い母でいてほしいから、あたしと会うことを目標にして頑張って欲しい』と言う。茂吉はいつか時間が気持ちを変えるだろうと、そっとしておく事にした。
♢
それから数十年後。
沢山の見舞いの者、医者も看護師もある病室の前に溢れている。この病人は余程、皆に好かれているのだろう。誰もがその病人の死期が近いことを知り、押し黙っている。その中を一人の狐が押し分ける様に進んで行く。その美しい姿を見ると、自然と暗い顏も和らいでしまう。
「すみません、通して頂けますか」
美しく成長したクルミだ。ようやく入れた病室の主は今にも息を引き取ろうとしている。
「母ちゃん、あたしです、クルミです。やっと会えました」
目を薄く開けたお順の目は、どこまでも優しく澄んでいる。顏の白髪も増え、灰色が白くなっていた。髭も大分抜けている。
「ぁーーあ・・・」
か細い手をクルミに差し出す。
「母ちゃん、頑張ったね、頑張ったね、あたしはどれほど嬉しかったかしれない、母ちゃん・・」
「ク・・ルミ、、、やっと会えた。これで思い残す事なく宮に・・逝ける」
「母ちゃん・・・」
枕元に古びて薄汚れた写真がある。気まぐれて撮ったのかはわからないが、そこには確かにクルミの誕生を喜ぶ母子の姿が写っている。
挿絵参照↓↓↓ 絵をクリックすると大きくなります
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それからのお順はクルミの温かい看護を受けた。よほど嬉しかったのであろう、三日後、、、安らかに旅立つ。
振り返れば、いろいろあった母子だった。家族だけで暮らした日々は少なく、離れていた時がずっと長かった。
だがお互いが思いあう心に距離も隔たりもない。クルミが姉の無事を祈る、母の生き直しを願う、コノミもお順もしかり、会うことはなくとも紛れもなく家族だった。
別れた後の生き方が母子を本当の家族にしたのだろう。
おわり
クルミも一年に亘りましたが、ようやく終わりました。
振り返れば、この物語を書き始めたキッカケは、
三吉のその後を書きたいが始まりでした。
友達が欲しいな・・・
浮かんだのは赤い耳と尾っぽのおしゃまな狐の女の子、名前はクルミ。
決まった途端、彼女は目をくりくりさせながら、自分の物語を話し始めました。
そして最終話となり、今は唯、ホッとしています。
長い間、お付き合い下さいました皆様に、心より御礼を申し上げます。
また、充電期間をしばらく頂き、復活をしたいと思います。
次回は爺ちゃん、婆ちゃん達が主役の中編です。
お題は三猫文殊旅。
猫国はまだ続きます、いつになったら終わるのやら・・・
どうか宜しくお願い申し上げます。
ぴゆう拝
クルミ 54 謝る
前回
これも何かの縁、朝太郎に全てを話し、心を決めたお順。
はじまり、はじまり
「ああ、足が進まなくて店の前やら裏に周ってみたり何度も行ったり来たり、気がつきゃ、村はずれまで歩いていた、、、どうにも向かない足に困り果て、へたり込んでいたとろこをあんたが声を掛けてくれた。
理由はどうあれ、あんたの御陰であたいはあの店に行けたし、次いでにあんたは裏木戸まで開けてくれた。『行くしかないやね!行って来い!』って言われてるみたいだったよ」
すっかり明るくなった陽に向かい、深呼吸をすると歩き出す。
「あっしの事を言いなさるんで?」
「ふん!子供を売り飛ばした親と盗人と、どれだけ罪に違いがあるのさ?あたいは償い一つしてない、、、心配しないでおくれ、言いやしないよ。それよか、あたいの話しに少しでも考える事が出来たら、もう盗みは止めなよ」
振り返りもせずに歩き出す、目指す先は一つだ。板塀がひどく高く感じる、、、開いている裏木戸も重たく、朝太郎にかっこの良い事を言ったが中々一押しが出来ずにいた。
「旦那様ーっ!」
「もう、そんな大声を出すんじゃないよ、まだ皆様はお休みの時間なんだから。それに幾ら言っても、ほら、また戸締まりを忘れてる、仕方ないねえ」
お順が手を掛けた時と富吉が板戸を触れたのが同時だった。
「あれ?」
「あっ!」
お順は勢いよく中に入ってしまう。
「あ゙っ?すみませんッ!」
「いえ、こちらこそ気なしに戸を開けたものですからすみません!あの、何か御用ですか?」
「…あのぉ...こちらにコノミさんは・・・?ぉ、ぉ順と言ぃまス、、、」
「もしやして、コノミのお袋様では?」
「えっ!?あの、あの、あなたは富吉さんですかッ!?」
そのまま突っ伏してしまう、顏を上げる事が出来ない...
「何をなさっているんです!さあさあ、遠いい所をよくぞ来ておくんなさった!さあ、とにかく頭をお上げなさって下さいっ」
「で、でもッ・・・なぜあたしがおわかりで?」
「茂吉様からお手紙を頂いておりやした。『姿は灰色の狐になっているが、きっと訪ねて来ようから』と、それはそれは丁寧なお手紙を下さいましたんで」
「茂吉様が・・・」
「はい、それからはもしや朝早くお着きか?それとも晩か?と毎日毎日、こうして見に行くのがあっしの日課でした」
「なんと!それではこんなあたいの為に?・・・」
「何をおっしゃいます!あなたは紛れもなくコノミのお袋様。婿のあっしがお迎えするのが当たり前ですよ」
「ぁ゙あ゙あーーッ!ゔわ゙ぁああああーーーん」
お順は泣いた、泣くしかない。騒ぎを聞きつけ、コノミが駈けって来る。
「何しに来やがった!?クソ婆っ、
てめえなんかに今更謝られても戻りゃしないよっ!
帰れッ!、帰れぇええーーーっつ!!」
バッチーーン!
富吉がコノミを思いっ切り叩く。
「何しやがるっ!お前にあたいの気持ちの何が分かるって言うんだッ!」
「いい加減にしろ!お前は今じゃ子の母、も少し大人になんなっ!!」
「五月蝿いやっ、あたいはこの婆に宿年の怨みを晴らすんだよ!」
「いいんです、いいんです、富吉さん、コノミの好きにさせてやっておくんなさいっ」
お順は止めに入る富吉を押さえ、コノミの前に膝を付く。コノミは叩かれた所為もあり尚更、檄こうしている。
「この婆!こんな無様なナリしてっ、こうしてやる!こうしてやるっ!あたいが、あたいがどんなに苦しい思いをしてきたか教えてやるーーッッ!!」
叩いて、叩いて叩きまくった!お順はどんなに叩かれても泣いているだけで何も言わなかった...
挿絵参照↓↓↓ 絵をクリックすると大きくなります

「こうしてやる、こうしてやるッーッ!、、、」
「もういいだろ!お袋さんの顏があんなに腫れちまったよ」
「五月蝿いっ、放っといておくれ!叩き殺してやるんだっ!」
その時だった、大きな熊がお順を突き飛ばすとコノミの前に土下座した。
「コノミさん!どうか許してやっておくんなせッ、
あっしが出て来る幕じゃねえのは良く分かっているが、このまま叩き殺されたらお順さんがあんまりだ!どうかあっしの話しをっ」
「あっ、あなたは、どちらさんで?」
「誰だいッ、何すんだッ!これは他人が口出す問題じゃないよッ!」
「へい、わかっておりやす!ですが、これだけは聞いておくなさいッ、あんたが憎むお順さんは今のお順さんじゃねえですよッ!」
「なんだって!?」
つづく
これも何かの縁、朝太郎に全てを話し、心を決めたお順。
はじまり、はじまり
「ああ、足が進まなくて店の前やら裏に周ってみたり何度も行ったり来たり、気がつきゃ、村はずれまで歩いていた、、、どうにも向かない足に困り果て、へたり込んでいたとろこをあんたが声を掛けてくれた。
理由はどうあれ、あんたの御陰であたいはあの店に行けたし、次いでにあんたは裏木戸まで開けてくれた。『行くしかないやね!行って来い!』って言われてるみたいだったよ」
すっかり明るくなった陽に向かい、深呼吸をすると歩き出す。
「あっしの事を言いなさるんで?」
「ふん!子供を売り飛ばした親と盗人と、どれだけ罪に違いがあるのさ?あたいは償い一つしてない、、、心配しないでおくれ、言いやしないよ。それよか、あたいの話しに少しでも考える事が出来たら、もう盗みは止めなよ」
振り返りもせずに歩き出す、目指す先は一つだ。板塀がひどく高く感じる、、、開いている裏木戸も重たく、朝太郎にかっこの良い事を言ったが中々一押しが出来ずにいた。
「旦那様ーっ!」
「もう、そんな大声を出すんじゃないよ、まだ皆様はお休みの時間なんだから。それに幾ら言っても、ほら、また戸締まりを忘れてる、仕方ないねえ」
お順が手を掛けた時と富吉が板戸を触れたのが同時だった。
「あれ?」
「あっ!」
お順は勢いよく中に入ってしまう。
「あ゙っ?すみませんッ!」
「いえ、こちらこそ気なしに戸を開けたものですからすみません!あの、何か御用ですか?」
「…あのぉ...こちらにコノミさんは・・・?ぉ、ぉ順と言ぃまス、、、」
「もしやして、コノミのお袋様では?」
「えっ!?あの、あの、あなたは富吉さんですかッ!?」
そのまま突っ伏してしまう、顏を上げる事が出来ない...
「何をなさっているんです!さあさあ、遠いい所をよくぞ来ておくんなさった!さあ、とにかく頭をお上げなさって下さいっ」
「で、でもッ・・・なぜあたしがおわかりで?」
「茂吉様からお手紙を頂いておりやした。『姿は灰色の狐になっているが、きっと訪ねて来ようから』と、それはそれは丁寧なお手紙を下さいましたんで」
「茂吉様が・・・」
「はい、それからはもしや朝早くお着きか?それとも晩か?と毎日毎日、こうして見に行くのがあっしの日課でした」
「なんと!それではこんなあたいの為に?・・・」
「何をおっしゃいます!あなたは紛れもなくコノミのお袋様。婿のあっしがお迎えするのが当たり前ですよ」
「ぁ゙あ゙あーーッ!ゔわ゙ぁああああーーーん」
お順は泣いた、泣くしかない。騒ぎを聞きつけ、コノミが駈けって来る。
「何しに来やがった!?クソ婆っ、
てめえなんかに今更謝られても戻りゃしないよっ!
帰れッ!、帰れぇええーーーっつ!!」
バッチーーン!
富吉がコノミを思いっ切り叩く。
「何しやがるっ!お前にあたいの気持ちの何が分かるって言うんだッ!」
「いい加減にしろ!お前は今じゃ子の母、も少し大人になんなっ!!」
「五月蝿いやっ、あたいはこの婆に宿年の怨みを晴らすんだよ!」
「いいんです、いいんです、富吉さん、コノミの好きにさせてやっておくんなさいっ」
お順は止めに入る富吉を押さえ、コノミの前に膝を付く。コノミは叩かれた所為もあり尚更、檄こうしている。
「この婆!こんな無様なナリしてっ、こうしてやる!こうしてやるっ!あたいが、あたいがどんなに苦しい思いをしてきたか教えてやるーーッッ!!」
叩いて、叩いて叩きまくった!お順はどんなに叩かれても泣いているだけで何も言わなかった...
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「こうしてやる、こうしてやるッーッ!、、、」
「もういいだろ!お袋さんの顏があんなに腫れちまったよ」
「五月蝿いっ、放っといておくれ!叩き殺してやるんだっ!」
その時だった、大きな熊がお順を突き飛ばすとコノミの前に土下座した。
「コノミさん!どうか許してやっておくんなせッ、
あっしが出て来る幕じゃねえのは良く分かっているが、このまま叩き殺されたらお順さんがあんまりだ!どうかあっしの話しをっ」
「あっ、あなたは、どちらさんで?」
「誰だいッ、何すんだッ!これは他人が口出す問題じゃないよッ!」
「へい、わかっておりやす!ですが、これだけは聞いておくなさいッ、あんたが憎むお順さんは今のお順さんじゃねえですよッ!」
「なんだって!?」
つづく
クルミ 53 朝太郎
前回
キナの好意を得、テレとトチの籠に乗り込んだお順だったが、申し訳無さに腹痛を偽り、姿を隠す。
はじまり、はじまり
それから一月程、お順はようやく粒傘村の入り口に立っていた。
一旦は行く気になったが立ち止まったり、進んだりと逡巡(しゅんじゅん)する気持ちが歩を鈍らせる。それでも最後にはここに来るしかない。鈍かった足取りも近づくにつれ覚悟が決まる。
体毛は益々薄汚く汚れ、長旅がけっして楽でなかった事を足に巻いてある汚い包帯が物語っている。足の豆でも潰したのだろう、少し右足を引き摺っていた。姿はそんな有様だがお順の目は輝いている。
「やっと、やっと来たよ、、、」
感慨深げに村の名前が書いてある棒杭を見て、そのままぼーっと立ち竦んでいた。今にも降り出そうな曇空が、これからの出来事を予感させる...一歩踏み出すごとに足が重くなっていく。
『やっと来たのに・・・』引き返したくなる気持ちに『帰れ!帰れ!』と言う弱気な自分...それを叱りつける自分がいた。それでも『前に踏み出すしか己にはない!』と鼓舞(こぶ)して歩くが、いつしか逡巡している間に、道端に座り込んでしまった。
「どうしなすった?」
振り向くと熊がいた。
「え?あ、あの足が痛くて・・」
「そりゃ、難儀だな!あんた旅の人かい?」
「はい」
「そしたら旅籠があるから其処に連れて行ってやるよ!安いけど良い旅籠だよ」
「でも、ご迷惑じゃ?」
「な~あに気にするなよ、俺も其処で厄介になるのさ」
親切な熊の名前は【朝太郎】と云い、熊族の本業というべき渡大工をしていると云う。朝太郎は気持ちのいい熊で何くれとなく親切にしてくれる。礼を言い、部屋に下がるとホっとした。宿代を節約してきたので布団に寝るのは久しぶり、それだけで嬉しい。
風呂に入ると夕飯も摂らずに眠る。夜半にお腹が空き、台所に何か食べ物があるかと思い、部屋を出る。嬉しい事に握り飯があった。もそもそ食べていると足音が聞こえる。
お順は行灯の火を吹き消すと咄嗟(とっさ)に隠れた!盗み喰いしてるのを咎(とが)められでもしたら恥ずかしかったからだ。来たのは朝太郎だ、何故か頬っ被り(ほっかむり)をしていてる。
会った時とは全く様子が違い、キョロキョロして怪しい。見られているのも知らず、戸をこそこそ開け外に出て行く。お順に好奇心が沸いた!むくむく頭をもたげた好奇心には勝てない。たまらずに後を付ける。
体に似合わず俊敏(しゅんびん)で素早い!見失わない様にするのが精一杯だ。商店街の通りから横道に入る。急いで追付くのと朝太郎が板塀を乗り越えたのが同時だった。
「あっ!」
お順は口に手をやり、板塀のそばに行く。すると裏木戸が中から開く。顏を出したのが朝太郎だった!その場に居たお順と目が合う。
「あ゙っ!」
お順はどこにあったというのか?凄い馬鹿力で朝太郎の鼻を掴むと引きずり出す。
挿絵参照↓↓↓ 絵をクリックすると大きくなります

「ぶひひひぃいーーーっ!」
「お黙りっ!いいからこっちにお出でな!」
容赦なく鼻を引っ張るものだから、朝太郎は手も足も出ない。少しでも離そうとすると余計に引っ張られる。
「ぶひひぃーっひひーっ!」
「いいのかい?そんなに大声出して!あたいはいいけど、お前は怪しいよッ」
「ぶひッ」
お順は手頃な空き地を見つけるとそこまで連れて行く。
「いいかい?あたいが離したからって逃げたら承知しないよ!あたいが大声上げてやるよ。わかったら返事しな!」
「ぶひ」
「よし、大人しくしてなよ!」
観念したのか、大人しい。見事に赤く腫れた鼻を擦っている。
「あんた、もしやして墨吐きの源吉さんを知ってないかい?」
「えっ!?兄貴をご存知で?」
「そうか、あんたあの朝太郎さんなんだね」
「あの、、、兄貴はどうされてるんですか?捕まったきりで・・・もう魂沈めされちまいましたか?」
お順は源吉の話しをした。
「そうだったんですかい?あっしの家に寄る前にそんな事がね、、、そんじゃ、兄貴は盗人から足をお洗いなすったんで?」
「源吉さんはとてもいい目をされてたよ。どんなに辛くてもきっと桑師(くわし)になるって」
「兄貴は一本気だから羨ましいですよ。でも何で、あんたが兄貴を知っているんで?」
お順は一番言いたくない事を訊かれる。
「・・・あたしも裏卍(うらまんじ)にいたのよ」
「ぇえーーッ!あんたが!?」
お順は長い話しをする。己を振り返りながら、、、それはお順にとっては辛くもあったが結果的には良かったのかも知れない。生き様を語る事で、罪深さを改めて知ることになり、これからの償いが如何に過酷であろうとも受け止める覚悟が出来た。
泣きながら話すお順、飾る事も嘘をつく事もない、今までの全てをぶちまける。朝太郎は最初『へー』とか『うー』とか言っていたがその内に黙り込んでしまう。
「ふふ、あんまりなもので声も出ないだろう?あたいも自分で話していてイヤになったよ。だけど、本当に本当なのさ、、、あたいが止めたのは只、盗みをするのを止めた分けじゃない。あの店はコノミと富吉さんの店なんだよ。あたいが死んでも守らなけりゃいけない店なのさ」
「あんたの娘さんの?・・・」
つづく
キナの好意を得、テレとトチの籠に乗り込んだお順だったが、申し訳無さに腹痛を偽り、姿を隠す。
はじまり、はじまり
それから一月程、お順はようやく粒傘村の入り口に立っていた。
一旦は行く気になったが立ち止まったり、進んだりと逡巡(しゅんじゅん)する気持ちが歩を鈍らせる。それでも最後にはここに来るしかない。鈍かった足取りも近づくにつれ覚悟が決まる。
体毛は益々薄汚く汚れ、長旅がけっして楽でなかった事を足に巻いてある汚い包帯が物語っている。足の豆でも潰したのだろう、少し右足を引き摺っていた。姿はそんな有様だがお順の目は輝いている。
「やっと、やっと来たよ、、、」
感慨深げに村の名前が書いてある棒杭を見て、そのままぼーっと立ち竦んでいた。今にも降り出そうな曇空が、これからの出来事を予感させる...一歩踏み出すごとに足が重くなっていく。
『やっと来たのに・・・』引き返したくなる気持ちに『帰れ!帰れ!』と言う弱気な自分...それを叱りつける自分がいた。それでも『前に踏み出すしか己にはない!』と鼓舞(こぶ)して歩くが、いつしか逡巡している間に、道端に座り込んでしまった。
「どうしなすった?」
振り向くと熊がいた。
「え?あ、あの足が痛くて・・」
「そりゃ、難儀だな!あんた旅の人かい?」
「はい」
「そしたら旅籠があるから其処に連れて行ってやるよ!安いけど良い旅籠だよ」
「でも、ご迷惑じゃ?」
「な~あに気にするなよ、俺も其処で厄介になるのさ」
親切な熊の名前は【朝太郎】と云い、熊族の本業というべき渡大工をしていると云う。朝太郎は気持ちのいい熊で何くれとなく親切にしてくれる。礼を言い、部屋に下がるとホっとした。宿代を節約してきたので布団に寝るのは久しぶり、それだけで嬉しい。
風呂に入ると夕飯も摂らずに眠る。夜半にお腹が空き、台所に何か食べ物があるかと思い、部屋を出る。嬉しい事に握り飯があった。もそもそ食べていると足音が聞こえる。
お順は行灯の火を吹き消すと咄嗟(とっさ)に隠れた!盗み喰いしてるのを咎(とが)められでもしたら恥ずかしかったからだ。来たのは朝太郎だ、何故か頬っ被り(ほっかむり)をしていてる。
会った時とは全く様子が違い、キョロキョロして怪しい。見られているのも知らず、戸をこそこそ開け外に出て行く。お順に好奇心が沸いた!むくむく頭をもたげた好奇心には勝てない。たまらずに後を付ける。
体に似合わず俊敏(しゅんびん)で素早い!見失わない様にするのが精一杯だ。商店街の通りから横道に入る。急いで追付くのと朝太郎が板塀を乗り越えたのが同時だった。
「あっ!」
お順は口に手をやり、板塀のそばに行く。すると裏木戸が中から開く。顏を出したのが朝太郎だった!その場に居たお順と目が合う。
「あ゙っ!」
お順はどこにあったというのか?凄い馬鹿力で朝太郎の鼻を掴むと引きずり出す。
挿絵参照↓↓↓ 絵をクリックすると大きくなります
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「ぶひひひぃいーーーっ!」
「お黙りっ!いいからこっちにお出でな!」
容赦なく鼻を引っ張るものだから、朝太郎は手も足も出ない。少しでも離そうとすると余計に引っ張られる。
「ぶひひぃーっひひーっ!」
「いいのかい?そんなに大声出して!あたいはいいけど、お前は怪しいよッ」
「ぶひッ」
お順は手頃な空き地を見つけるとそこまで連れて行く。
「いいかい?あたいが離したからって逃げたら承知しないよ!あたいが大声上げてやるよ。わかったら返事しな!」
「ぶひ」
「よし、大人しくしてなよ!」
観念したのか、大人しい。見事に赤く腫れた鼻を擦っている。
「あんた、もしやして墨吐きの源吉さんを知ってないかい?」
「えっ!?兄貴をご存知で?」
「そうか、あんたあの朝太郎さんなんだね」
「あの、、、兄貴はどうされてるんですか?捕まったきりで・・・もう魂沈めされちまいましたか?」
お順は源吉の話しをした。
「そうだったんですかい?あっしの家に寄る前にそんな事がね、、、そんじゃ、兄貴は盗人から足をお洗いなすったんで?」
「源吉さんはとてもいい目をされてたよ。どんなに辛くてもきっと桑師(くわし)になるって」
「兄貴は一本気だから羨ましいですよ。でも何で、あんたが兄貴を知っているんで?」
お順は一番言いたくない事を訊かれる。
「・・・あたしも裏卍(うらまんじ)にいたのよ」
「ぇえーーッ!あんたが!?」
お順は長い話しをする。己を振り返りながら、、、それはお順にとっては辛くもあったが結果的には良かったのかも知れない。生き様を語る事で、罪深さを改めて知ることになり、これからの償いが如何に過酷であろうとも受け止める覚悟が出来た。
泣きながら話すお順、飾る事も嘘をつく事もない、今までの全てをぶちまける。朝太郎は最初『へー』とか『うー』とか言っていたがその内に黙り込んでしまう。
「ふふ、あんまりなもので声も出ないだろう?あたいも自分で話していてイヤになったよ。だけど、本当に本当なのさ、、、あたいが止めたのは只、盗みをするのを止めた分けじゃない。あの店はコノミと富吉さんの店なんだよ。あたいが死んでも守らなけりゃいけない店なのさ」
「あんたの娘さんの?・・・」
つづく
クルミ 52 キナとお順
前回
テレとトチに罵倒され、憎悪を向けられるお順。浮かれた気分は吹き飛び、謝罪の旅の苛酷さが身に沁みる。
はじまり、はじまり
「こいつなんか追い出そうよっ!」
トチが言う。
「うるさい!黙ってろっ、二階に行ってな!」
ぶーーッ!
二人は不貞腐(ふてくさ)れて二階に行く。不貞腐れてもキナの言う事は素直に利く。
「あんた・・・変わったね、、、」
泣きながら項垂れているお順にキナは一言。そして、優しく肩を抱き、椅子に座らせてくれた。酷く罵(ののし)られてると思っていたので、驚きもしたが優しさが嬉しく尚一層、泣いてしまう。様子を見ながらキナは、落ち着く様にコーヒーを煎れる。
「これでも飲みなよ。あたいもあんたも色々あったものね。今日はゆっくり話そうよ」
挿絵参照↓↓↓ 絵をクリックすると大きくなります
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「キナ...あたいッ、、、うわぁああーーーんッ!」
「しょうがないねえ~、とてもじゃないが今の泣きべそがお順だなんて信じられないよ!呆れた泣きべそぶりだよ」
「だってぇえーーッ、あんた優しいんだもの!あたいは罵られて蹴(け)られて叩かれると思っていたものー!」
「!?・・・そこまで覚悟して来たの?」
「うん、、、だってあたいそれだけの事をしてきたもの!キナにそうされても文句が云える立場じゃないの、、、」
「ふっ、女だねえ〜。そうしていると健気(けなげ)に見えるからいいやね!おかまじゃそうは見えないもの」
「だってあたいは女だもの」
「ふん!だけど今は不細工な狐だわさ」
「い、言えてるわ...」
しょぼくれるお順にキナは今までとの違いを感じる。前ならすぐに突っかかってくるのに、今はそんな元気もないようだ。二人は其れぞれに起きた出来事を夜遅くまで話し合う。
「クルミは又、あんたにお世話になったのね、、、本当にありがとうございました」
「いいってことさ!あの子の御陰で半端な弟達がまともになれたんだもの、こっちこそ感謝しているよ!それに茂吉様や紫狼様とお近づきになれたのだもの」
「あたいにはおっかないよ」
「当たり前だよ!あんたが間違っているのだもの」
「本当だね、今になってよくわかったよ」
「あんた本当にコノミちゃんに会いに行くのかえ?」
「だってこの櫛(くし)を届けたいし、何よりも謝らなければならないもの」
「そしたら、相当、覚悟をして行かないとね。あいつらの比じゃないよ」
「うん、あたいの所為でしなくていい苦労をさせたのだもの、わかってるよ」
「なら帰りには寄りなよ」
「えっ!いいの!?」
「あたいだって、あんたの気持ちが変わってくれれば嬉しいのさ!クルミだって、コノミだって同じだと思うよ。最初は許してもらえないかもしれないけど頑張るしかないよ」
「キナ・・・あたい...」
「今日はここに泊まって、明日、発つと良いさ」
「ありがとう!本当にありがとう!」
キナがお順にした行為は徳を持って怨みに報いるといった処か...生半の者に出来る事ではない。それも紫狼と出会い、やり取りする手紙の中でキナは少しづつ教えられてきたのであろう。
翌朝、キナはお順を粒傘村まで送る様にテレとトチに言付けた。二人は文句を言っていたが『クルミへの恩返しだと思え!』と云われ、不満ながらも承諾する。お順は固辞したが、キナが利かない。無理矢理に駕篭に乗せられ猫宿を旅立つ。しばらくして狐街道に入るとお順がテレに声を掛ける。
「テレさん」
「へっ?何だい?」
「あの止めて頂けませんか?」
「どうしてよ?」
「ちょいとお腹が痛くて」
「そりゃまずいよ、あの草むらにでも行って用を足したらいいよ」
「はい、すみません」
テレはトチに声を掛け止まるとお順は急いで薮の中に入って行く。
「なあ兄貴、あの狐、遅いんじゃねえの?」
「余程、加減が悪いんじゃねえか?大丈夫かね、、、腹が痛えのは辛いからなあー」
「もしかして兄貴みたいだったら大変だぜ!」
「脅かすなよ、そしたら声かけてみようぜ!倒れていたら事だぜっ」
お順の姿が消えた薮の方に向かって声を掛ける。
「お順さーん!大丈夫かよー!おーい、返事してくんなあ~」
「おーい、大丈夫かあー?」
二人が声を枯らして呼んでも全く返事がない。いよいよ二人は慌てて遮二無二、駈けて行く。お順が居たと思われる場所に行くと白い紙の上に石が置いてある。急いでその紙を拾う、お世辞にも達筆とも云えない字で何か書いてある。
『たいへんおせわになりました、あたいがらくしていくことはいけないことです。どうかおみのがしください。おじゆん』
「兄貴ぃ」
「流石はクルミちゃんの親と云ってやろうよ!ちったあ見直したぜ!」
「どういう事だよ?おいらさっぱりわからねえよ!探さなくていいのかよ?」
「いいのさ。さっ、客でも拾いに行こうぜ!」
「いいのかな・・・」
テレがさっさと戻ってしまうのでトチも仕方なく後を追った。二人の影が見えなくなると隠れていたお順が姿を見せる。
「これでいいんだわ。キナにそこまでしてもらっちゃ罰が当たるわ!今でも当たってるか?」
お順は薮から出て狐街道に戻ると歩き出す。その日からお順の消息は途絶える...
つづく
テレとトチに罵倒され、憎悪を向けられるお順。浮かれた気分は吹き飛び、謝罪の旅の苛酷さが身に沁みる。
はじまり、はじまり
「こいつなんか追い出そうよっ!」
トチが言う。
「うるさい!黙ってろっ、二階に行ってな!」
ぶーーッ!
二人は不貞腐(ふてくさ)れて二階に行く。不貞腐れてもキナの言う事は素直に利く。
「あんた・・・変わったね、、、」
泣きながら項垂れているお順にキナは一言。そして、優しく肩を抱き、椅子に座らせてくれた。酷く罵(ののし)られてると思っていたので、驚きもしたが優しさが嬉しく尚一層、泣いてしまう。様子を見ながらキナは、落ち着く様にコーヒーを煎れる。
「これでも飲みなよ。あたいもあんたも色々あったものね。今日はゆっくり話そうよ」
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
「キナ...あたいッ、、、うわぁああーーーんッ!」
「しょうがないねえ~、とてもじゃないが今の泣きべそがお順だなんて信じられないよ!呆れた泣きべそぶりだよ」
「だってぇえーーッ、あんた優しいんだもの!あたいは罵られて蹴(け)られて叩かれると思っていたものー!」
「!?・・・そこまで覚悟して来たの?」
「うん、、、だってあたいそれだけの事をしてきたもの!キナにそうされても文句が云える立場じゃないの、、、」
「ふっ、女だねえ〜。そうしていると健気(けなげ)に見えるからいいやね!おかまじゃそうは見えないもの」
「だってあたいは女だもの」
「ふん!だけど今は不細工な狐だわさ」
「い、言えてるわ...」
しょぼくれるお順にキナは今までとの違いを感じる。前ならすぐに突っかかってくるのに、今はそんな元気もないようだ。二人は其れぞれに起きた出来事を夜遅くまで話し合う。
「クルミは又、あんたにお世話になったのね、、、本当にありがとうございました」
「いいってことさ!あの子の御陰で半端な弟達がまともになれたんだもの、こっちこそ感謝しているよ!それに茂吉様や紫狼様とお近づきになれたのだもの」
「あたいにはおっかないよ」
「当たり前だよ!あんたが間違っているのだもの」
「本当だね、今になってよくわかったよ」
「あんた本当にコノミちゃんに会いに行くのかえ?」
「だってこの櫛(くし)を届けたいし、何よりも謝らなければならないもの」
「そしたら、相当、覚悟をして行かないとね。あいつらの比じゃないよ」
「うん、あたいの所為でしなくていい苦労をさせたのだもの、わかってるよ」
「なら帰りには寄りなよ」
「えっ!いいの!?」
「あたいだって、あんたの気持ちが変わってくれれば嬉しいのさ!クルミだって、コノミだって同じだと思うよ。最初は許してもらえないかもしれないけど頑張るしかないよ」
「キナ・・・あたい...」
「今日はここに泊まって、明日、発つと良いさ」
「ありがとう!本当にありがとう!」
キナがお順にした行為は徳を持って怨みに報いるといった処か...生半の者に出来る事ではない。それも紫狼と出会い、やり取りする手紙の中でキナは少しづつ教えられてきたのであろう。
翌朝、キナはお順を粒傘村まで送る様にテレとトチに言付けた。二人は文句を言っていたが『クルミへの恩返しだと思え!』と云われ、不満ながらも承諾する。お順は固辞したが、キナが利かない。無理矢理に駕篭に乗せられ猫宿を旅立つ。しばらくして狐街道に入るとお順がテレに声を掛ける。
「テレさん」
「へっ?何だい?」
「あの止めて頂けませんか?」
「どうしてよ?」
「ちょいとお腹が痛くて」
「そりゃまずいよ、あの草むらにでも行って用を足したらいいよ」
「はい、すみません」
テレはトチに声を掛け止まるとお順は急いで薮の中に入って行く。
「なあ兄貴、あの狐、遅いんじゃねえの?」
「余程、加減が悪いんじゃねえか?大丈夫かね、、、腹が痛えのは辛いからなあー」
「もしかして兄貴みたいだったら大変だぜ!」
「脅かすなよ、そしたら声かけてみようぜ!倒れていたら事だぜっ」
お順の姿が消えた薮の方に向かって声を掛ける。
「お順さーん!大丈夫かよー!おーい、返事してくんなあ~」
「おーい、大丈夫かあー?」
二人が声を枯らして呼んでも全く返事がない。いよいよ二人は慌てて遮二無二、駈けて行く。お順が居たと思われる場所に行くと白い紙の上に石が置いてある。急いでその紙を拾う、お世辞にも達筆とも云えない字で何か書いてある。
『たいへんおせわになりました、あたいがらくしていくことはいけないことです。どうかおみのがしください。おじゆん』
「兄貴ぃ」
「流石はクルミちゃんの親と云ってやろうよ!ちったあ見直したぜ!」
「どういう事だよ?おいらさっぱりわからねえよ!探さなくていいのかよ?」
「いいのさ。さっ、客でも拾いに行こうぜ!」
「いいのかな・・・」
テレがさっさと戻ってしまうのでトチも仕方なく後を追った。二人の影が見えなくなると隠れていたお順が姿を見せる。
「これでいいんだわ。キナにそこまでしてもらっちゃ罰が当たるわ!今でも当たってるか?」
お順は薮から出て狐街道に戻ると歩き出す。その日からお順の消息は途絶える...
つづく
クルミ 51 喧騒
前回
茂吉に諭され、謝罪の旅に出たお順。
はじまり、はじまり
お順は歩いた。
姿は燻(くす)んだ灰色の狐になったが、心が違う。腐り切った気持ちが無くなると空の青さまで違って見える。不思議なものだ。
挿絵参照↓↓↓ 絵をクリックすると大きくなります

ふと目をやれば、楽しく語り合う親子連れ、額に汗して働く者、元気で愛想の良い商売人。今までは理由もなく嫌い『ふん』と鼻でせせら笑っていたが、今は全くそんな風に感じない。何もかもが新鮮に映る。
心の持ち様如何(いか)で、こうまで世間を見る目が違うものか。
「あたいは何を見て、今まで生きてきたのだろう...」
歩く道のりは楽しい。昔なら歩くのが嫌でさっさと駕篭を頼み、目的地に直行していた。今は心から自由になった身が嬉しい。
「尾に何もないとこんなに軽いのかしら?でもこれは飽くまでも今だけだし、それに何より、あたいにはこの世で済まさなければならない事だらけだよ...だけど体が軽くて幸せだわ」
卍宿から一週間程で猫宿に着く、お順は久しぶりに味わう喧噪に心を躍らせた。卍宿も賑やかだが猫宿の活況は又、別物だ。誰も彼も楽しそうに浮かれている。お順はそのざわめきを楽しむ。屋台で葱焼きを買って頬張りながら歩く。
「ここには東雲楼(しののめろう)があるのよね。あたいの所為でコノミに辛い思いをさせたのよね、、、見に行った事も訪ねた事もなかった、、、本当に酷い親だよ・・・」
項垂(うなだ)れながら歩いているとふと目についた看板がある。【茂吉様・紫狼様御用達】《バー・黒河童》と書いてあった!忘れる訳もないキナの店だ。
キナが狐宿を出てから勿論、お順とは音信不通である。世話になったキナに、最後まで悪口を利いていた自分が恥ずかしい。
今までの非礼を詫びようと考える。『クルミが世話になった事もきちんと礼も言おう、どんなに罵られても謝って許してもらおう!』と覚悟した。だが、重い気持ちである事に変わりなく、店の前で愚図愚図していた。
「えっほ、えっほ、おーい!トチよ~、兄貴のとこで一休みしようぜ~」
「はいよー」
テレとトチはあれから駕篭かきに精を出している。恵み子様と関わりあいのある駕篭かき屋と云うので、ご利益があると云うのか、どこでも引張り蛸だ。
お陰で疲れたの草臥(くたび)れたのと愚痴を云う暇もない程の忙しさ。この日も朝からお客を乗せての帰り道、キナの店で一休みしようとした。
「あれ誰だろ?よう!どうしなすった?」
突然、テレに声を掛けられ、驚き振り返ると河童がいる!今更、逃げ出す訳にもいかないので諦める。
「誰だい?」
トチが声を掛ける。
「あの、、こちらはキナさんの店ですか?」
「そうだよ」
「あの、あたいは狐宿でお世話になったお順と云います。キナさんはいらしゃいますか?」
「えっ?お順って、もしかしてあのお順?・・・」
「あの、、、ご存知なのですか?」
テレとトチはもの凄い剣幕で怒りだす。
「てめえかっ!ろくでなしの母親ってのはッ、何を今更のこのこと出てきやがった!クルミちゃんを酷い目に合わせやがって、
勘弁ならねえッ!」
「おいらだって許しておくもんか!
この馬鹿狐!とっとと失せやがれーッ!」
罵られた途端にお順は這いつくばる。平身低頭で顔も知らない河童に謝った。クルミの名前を呼ぶ以上は、何か関わりあいのある者だろう、それだけにこうなる事はわかっていた。
わかってはいたが辛かった...泪が自然と溢(あふ)れてくる。店の外で騒いでいるのでキナはドアを開けて覗いて見た。
「この尼ぁああーーーッ!
何してやがるんだ!」
「そうだよっ、おいら達にそんな見え透いた真似したって許せるものじゃねえやっ!」
普段は大人しいトチまで顔を赤くし、灰色の狐を罵倒している。キナは只事じゃないと割って入る。
「ちょいとッ、何してんだよ?店の前なんだよ、ほら猫垣が出来ているじゃないか、止めなよッ」
「だって兄貴ッ」
「ったくもう!『姉貴』だって言ってるだろよ、バカ野郎!さっ、いいからお狐さん、こちらにお出でな」
キナはとにかく、このままではみっともないので三人を店の中に引き入れた。
「さあ、いいから事情を話しなよ」
「兄貴っ!」
河童パンチをテレは食らう。
「ひぇっ、痛てぇええーっ!」
「おめえはすっこんでろ」
「ひぃいいーーー」
「さっ、お狐さん!泣いてないで話してみな、どうせ、こいつらが余計な銭を頂こうとしたんじゃないの?中身はまだまだ雲助だから、悪い根性がすぐ出て来るんですよ」
キナは銭で揉めているのだろうと早合点した。お順は二人以上に罵られる事を覚悟して泣いている顔を上げて言う。
「キナさん、あたい・・・あたいね、姿は変わっているけどお順で..す」
言った途端、万感こもごも到り、次の言葉も出ずに泪だけが溢れてくる。
「ぇえっ!?ぇええーー?
お順って...綺麗なお狐だったはず・・・」
流石にキナは二人の気の早い弟達とは違う、、、今のお順をしげしげ見る。
「ふぅーん」
つづく
季節の変わり目だからなのか、更年期なのか
しつこい風邪にやられました。
まだ、体調が戻らないのでコメ欄は閉じました。
クルミもあと少し、気合を入れて頑張りたいと思います。
これからも宜しくお願いします。
ぴゆう
茂吉に諭され、謝罪の旅に出たお順。
はじまり、はじまり
お順は歩いた。
姿は燻(くす)んだ灰色の狐になったが、心が違う。腐り切った気持ちが無くなると空の青さまで違って見える。不思議なものだ。
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ふと目をやれば、楽しく語り合う親子連れ、額に汗して働く者、元気で愛想の良い商売人。今までは理由もなく嫌い『ふん』と鼻でせせら笑っていたが、今は全くそんな風に感じない。何もかもが新鮮に映る。
心の持ち様如何(いか)で、こうまで世間を見る目が違うものか。
「あたいは何を見て、今まで生きてきたのだろう...」
歩く道のりは楽しい。昔なら歩くのが嫌でさっさと駕篭を頼み、目的地に直行していた。今は心から自由になった身が嬉しい。
「尾に何もないとこんなに軽いのかしら?でもこれは飽くまでも今だけだし、それに何より、あたいにはこの世で済まさなければならない事だらけだよ...だけど体が軽くて幸せだわ」
卍宿から一週間程で猫宿に着く、お順は久しぶりに味わう喧噪に心を躍らせた。卍宿も賑やかだが猫宿の活況は又、別物だ。誰も彼も楽しそうに浮かれている。お順はそのざわめきを楽しむ。屋台で葱焼きを買って頬張りながら歩く。
「ここには東雲楼(しののめろう)があるのよね。あたいの所為でコノミに辛い思いをさせたのよね、、、見に行った事も訪ねた事もなかった、、、本当に酷い親だよ・・・」
項垂(うなだ)れながら歩いているとふと目についた看板がある。【茂吉様・紫狼様御用達】《バー・黒河童》と書いてあった!忘れる訳もないキナの店だ。
キナが狐宿を出てから勿論、お順とは音信不通である。世話になったキナに、最後まで悪口を利いていた自分が恥ずかしい。
今までの非礼を詫びようと考える。『クルミが世話になった事もきちんと礼も言おう、どんなに罵られても謝って許してもらおう!』と覚悟した。だが、重い気持ちである事に変わりなく、店の前で愚図愚図していた。
「えっほ、えっほ、おーい!トチよ~、兄貴のとこで一休みしようぜ~」
「はいよー」
テレとトチはあれから駕篭かきに精を出している。恵み子様と関わりあいのある駕篭かき屋と云うので、ご利益があると云うのか、どこでも引張り蛸だ。
お陰で疲れたの草臥(くたび)れたのと愚痴を云う暇もない程の忙しさ。この日も朝からお客を乗せての帰り道、キナの店で一休みしようとした。
「あれ誰だろ?よう!どうしなすった?」
突然、テレに声を掛けられ、驚き振り返ると河童がいる!今更、逃げ出す訳にもいかないので諦める。
「誰だい?」
トチが声を掛ける。
「あの、、こちらはキナさんの店ですか?」
「そうだよ」
「あの、あたいは狐宿でお世話になったお順と云います。キナさんはいらしゃいますか?」
「えっ?お順って、もしかしてあのお順?・・・」
「あの、、、ご存知なのですか?」
テレとトチはもの凄い剣幕で怒りだす。
「てめえかっ!ろくでなしの母親ってのはッ、何を今更のこのこと出てきやがった!クルミちゃんを酷い目に合わせやがって、
勘弁ならねえッ!」
「おいらだって許しておくもんか!
この馬鹿狐!とっとと失せやがれーッ!」
罵られた途端にお順は這いつくばる。平身低頭で顔も知らない河童に謝った。クルミの名前を呼ぶ以上は、何か関わりあいのある者だろう、それだけにこうなる事はわかっていた。
わかってはいたが辛かった...泪が自然と溢(あふ)れてくる。店の外で騒いでいるのでキナはドアを開けて覗いて見た。
「この尼ぁああーーーッ!
何してやがるんだ!」
「そうだよっ、おいら達にそんな見え透いた真似したって許せるものじゃねえやっ!」
普段は大人しいトチまで顔を赤くし、灰色の狐を罵倒している。キナは只事じゃないと割って入る。
「ちょいとッ、何してんだよ?店の前なんだよ、ほら猫垣が出来ているじゃないか、止めなよッ」
「だって兄貴ッ」
「ったくもう!『姉貴』だって言ってるだろよ、バカ野郎!さっ、いいからお狐さん、こちらにお出でな」
キナはとにかく、このままではみっともないので三人を店の中に引き入れた。
「さあ、いいから事情を話しなよ」
「兄貴っ!」
河童パンチをテレは食らう。
「ひぇっ、痛てぇええーっ!」
「おめえはすっこんでろ」
「ひぃいいーーー」
「さっ、お狐さん!泣いてないで話してみな、どうせ、こいつらが余計な銭を頂こうとしたんじゃないの?中身はまだまだ雲助だから、悪い根性がすぐ出て来るんですよ」
キナは銭で揉めているのだろうと早合点した。お順は二人以上に罵られる事を覚悟して泣いている顔を上げて言う。
「キナさん、あたい・・・あたいね、姿は変わっているけどお順で..す」
言った途端、万感こもごも到り、次の言葉も出ずに泪だけが溢れてくる。
「ぇえっ!?ぇええーー?
お順って...綺麗なお狐だったはず・・・」
流石にキナは二人の気の早い弟達とは違う、、、今のお順をしげしげ見る。
「ふぅーん」
つづく
季節の変わり目だからなのか、更年期なのか
しつこい風邪にやられました。
まだ、体調が戻らないのでコメ欄は閉じました。
クルミもあと少し、気合を入れて頑張りたいと思います。
これからも宜しくお願いします。
ぴゆう