うちのホスピスが小児ホスピスを始めて3年、私が小児のケースをを受け持ち始めてから2年が過ぎました。小児のホスピスは、大人のそれとはかなり違います。その理念と目的は同じですが、小児の場合、蘇生措置の如何については、その決断をぎりぎりまで保留にすることも多く、また、場合によっては救急に行ったり、入院する事もあります。 小児のケースを受け持つホスピスナースは、小児ホスピスを学ぶ三日間のセミナーを受けるのですが、うちの場合、メンバーは成人を看てきたナースですので、最初はホームケアの小児チームのナースの一人とペアになって訪問します。つまり、実際に患者さんのアセスメントをするのは小児ナースで、ホスピスナースは家族への指導と支援を主に担います。そうする事で、ホスピスナースが、小児ナースから小児のアセスメントを学び(逆に小児ナースも私たちからホスピスケアを学ぶ事にもなります)、最終的に、小児ホスピスの専門ナースになっていく事が望まれているのです。 3年前、ある日のチームミーティングで、“小児ホスピスを始める事になったから、興味のある人は申し出て”と言われた時、私を含む多くのメンバーが、“自分には無理”と思っていました。その理由の一つは、運良く健康な子供を持てた自分が、そうではない人達に、一体何が言えるのだろうか、と言う疑問でした。そしてもちろん、“子供の死”をどうやって受けとめられるのか、と言う不安。しかし、最初に申し出た二人のナース達(60代と50代)のケースの様子を聞いていくうちに、私の考えは変わっていきました。 子供は生きる為に生まれてきます。しかし、どんなに医療が発展しても、長く生きられない子供はいるのです。そして、長く生きられない子供の親は、どんなに辛くても、その現実を受け入れなくてはなりません。もちろん、どうしても受け入れられない親も大勢います。そして、そういう人達こそ、専門家の支えを必要としているのです。10年以上ホスピスナースをやってきて、少なくとも自分はホスピスの専門家であり、たとえ自分が痛みを共有できないとしても、プロとしてできることがあるのではないか、いや、するべきではないのだろうか、と思い始めたのです。そして、もちろん、子供達自身も、たとえ短い一生であったとしても、命のある限り、少しでも苦しい思いをせずに過ごさせてあげるべきであり、そうする事によって、親を支える事にもなるのだ、と言う事に気付いたのです。 小児ホスピスのケースはまだまだ少なく、2年間で私が受け持ったのは7人です。(その内2人は現在進行形。)ケリー(仮)は、私にとって4人目の小児ケースでした。ケリーは3歳の女の子で、先天的な染色体異常で、生まれてからずっと、入退院を繰り返してきました。両親はナイジェリア出身で、家の中にはナイジェリアの美しい絵や写真、置物などが飾ってありました。ケリーには年子のお姉ちゃんがいて、お姉ちゃんは、目も見えない、話もできない、食べる事も歩く事もできないケリーを、とてもかわいがっていました。両親は、ケリーが生まれた時から、長くは生きられないと言う事は理解していました。それでも、何かがあるたびに入院、治療を繰り返してきました。しかし、ここ何ヶ月かの間に感染を繰り返し、小児病院でも、ありとあらゆる手を尽くしましたが、残念ながら回復は見られませんでした。両親はこれ以上ケリーに薬を使い、針を刺し、病院のベッドにねかしておくよりも、家につれて帰り、自分のベッドで、最後まで家族と一緒に過ごさせてあげる事を選んだのです。プリンセス(2)に続く
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