ホスピスナースは今日も行く お葬式
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ホスピスナースは今日も行く
アメリカ在住日本人ナースが、ホスピスで出会った普通の人々の素敵な人生をおすそわけします。
お葬式
 ホスピスケアを受ける人達は、メディケアの基準に合った人、つまり、医師によって余命6ヶ月もしくはそれ以下と診断され、積極的な治療(根治療法)を受けない事を前提としています。しかし、6ヶ月と言うのはあくまでも目安であり、24時間以内に亡くなる人もいれば、1年以上ホスピスケアを受ける人もいます。もちろん、6ヶ月以上ホスピスケアを受けているケースに関しては、メディケアなどの保険の監査が非常に厳しくなります。と言うのも、信じ難い話ですが、ホスピスをお金儲けのビジネスとして行う事業所が増えており、医療報酬を不正に受け取り、私腹を肥やす人たちが大勢いるからです。
 ホスピスケアを受ける平均日数は、全国では2ヶ月ちょっと(ただし、システムの濫用も含むので、実際はもう少し短いはず)、うちのホスピスでは大体3-4週間くらいです。(私が始めた頃は、平均2週間と言われていました。)ただ、うちのホスピスはパリアティブケアの患者さんもみるので、ホスピス以前に受け持つ期間がある場合もあり、そうすると、結構長いお付き合いになったりします。
 ホスピスナースでも、やはり患者さんや家族との相性はあり、受け持つ期間の長さに関わらず、思い入れの強くなる人とそうでない人がいるのは、どうしようもないもので、だからと言ってケアに差が出る事はありませんが、一つだけ、個人的にしたりしなかったりする事があります。それは、患者さんのお葬式に出席する、という事です。私がこの仕事を始めた頃は、メディケアも余裕があり、うちのホスピスでは遺族ケア(bereavement service) の一環として、ナースが受け持ち患者さんのお葬式に行く事を、訪問一件分に認めていました。残念ながら、10年近く前からそれはなくなり、今は、出席するのは構わないけれど、あくまでも個人の時間を使って、と言う事になっています。
 ホスピスナースに別れは付きものですが、ケースによっては、心にけじめをつける、と言うか、きちんと終結させないと前に進めないことがあります。そういう場合、私はお葬式に出席する事にしています。こちらのお葬式は、教会や葬儀社で行うのが通例です。人によっては、viewing (お通夜)とお葬式を二日間に分ける事もあります。また、お葬式のあとは、日本の精進落としのように、参列した人を食事や軽食に招待することもあります。
 お葬式では、故人を偲んで家族、親戚や友人が短いスピーチを行う事がよくあります。私は、たいてい一番後ろに座ってそれを聴くのですが、その度に、その場における自分の特殊な立場、つまり、健康であった時のその人とではなく、人生の終焉に立ち会った、という関わりしかない事を、改めて知らされるのです。また、それに輪をかけて思い知らされるのが、遺族に挨拶する時です。特に、最期を看取った家族が、私の顔を見たとたんに泣き崩れたりすると、やはり、一番辛かった日々を思い出させてしまうスイッチになってしまうのだと、実感するのです。
 それでも、それがわかっていても、“この人のお葬式には必ず行かなくては”と思う人達がいます。患者さんに最後のお別れをするため、看取りの介護をした“戦友”の肩を抱くため、そして、一つの人生の幕が閉じるのを見届けるために、行かずにはいられないのです。そして何より、そこでは、ホスピスナースとしての役目を終えた、私個人として、気兼ねなく涙を流す事ができ、この出会いを思い出に変えて、心の引き出しにしまう事ができるからなのです。
 
 
 
[2014/05/29 11:18] | ホスピスナース | トラックバック(0) | コメント(0)
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アメリカ東海岸で在宅ホスピスナースをしています。アメリカ人の夫、子供3人、犬一匹と日々奮闘中。

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2冊目の本がGakkenから出版されました。 「それでも私が、ホスピスナースを続ける理由」https://gakken-mall.jp/ec/plus/pro/disp/1/1020594700 「ホスピスナースが胸を熱くした いのちの物語」と言うタイトルで青春出版社から発売されました。 http://www.seishun.co.jp/book/20814/

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