ホスピスナースは今日も行く 五つの言葉
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ホスピスナースは今日も行く
アメリカ在住日本人ナースが、ホスピスで出会った普通の人々の素敵な人生をおすそわけします。
五つの言葉
 ホスピスナースになりたての頃は、一回一回の訪問が勉強で、あの頃私の受け持ちになった患者さん達のことを思うと、申し訳ないような、穴があったら入りたいような、複雑な気持ちになります。同時に、新人で、比較的若く(随分長い間、チームの中で一番年下でした)、しかもRとLの発音の区別もおぼつかない外国人の私を、よく文句も言わずに受け入れてくれたものだと、ありがたく思わずにはいられません。16年目に入った今でも、RとLはいまいちですし、毎回何かを学ぶ事に変わりはありませんが、それでも、患者さんや家族に、プロのホスピスナースとして話せるようにはなりました。
 私が働き始めた頃は、クリントン政権が提唱したヘルスケア改革の為、今のオバマケアほど酷くはありませんが、それでも医療業界はコスト削減のために右往左往し、小さな病院はどんどん大病院に吸収されていった時期でした。それでも、ホスピスケアは他に比べてお金がかからない事もあってか、あまり制限はされませんでした。ですから、新人教育にもお金と時間をかけることができ、私も、フィラデルフィアにある癌センターで、四日間の“ホスピスとパリアティブ(緩和)ケアのためのセミナー”に参加させてもらえました。
 そのセミナーでは、医師、看護師、薬剤師、ソーシャルワーカー、チャプレン達による、ホスピスにおける、あらゆる面からのアプローチについての話を聞くことが出来ました。その中でも強く印象に残ったのが、ホスピスとパリアティブケアでは有名な、アイラ・バイオック先生の講義でした。
 バイオック先生の講義の焦点は、“よく死ぬ”ことでした。日本でも、アメリカでも、おそらく多くの文化圏でも同じだと思いますが、“死”そのものが、究極の“よくない事”として位置づけられていると思います。ただし、日本では「大往生」という言葉があるように、ある意味、“よい死”という概念もあります。「大往生」を辞書で引くと、“少しの苦しみもなく安らかに死ぬ事、又、立派な死に方であること”とあります。一般的には、高齢で、天寿を全うした方に使われる言葉ですが、実はこれがホスピスのゴールでもあるのです。つまり、年齢に関わらず、天寿(与えられた寿命)を全うし、苦しまずに安らかに死ぬ。そして、サンダース女史の言う、「その人が死ぬのをケアするのではなく、死ぬまで生きるのを支える」のが、ホスピスナースの役割。
 その講義の中で、バイオック先生は、“死ぬ前に言っておきたい五つの言葉”について話されました。それは、「私を許してください(Forgive me)」「あなたを許します(I forgive you)」「どうもありがとう(Thank you)」「愛しています(I love you)」「さようなら(Good bye)」の五つでした。日本語にするとなんとなく照れくさくなる言葉なのですが、アメリカ人でもなかなか正面切っては言いにくいことなのかもしれません。でも、だからこそ、死んでいく者、残される者が、お互いに伝え合うべき言葉なのではないでしょうか。
 この五つの言葉は、以来、いつも私の意識の片隅にありますが、実際に患者さんや家族に話したのは、ほんの数回です。多くの人たちは、私がきっかけを作らなくても、自然に伝えるべき事を知っています。ただ、そのタイミングが分からないだけなのです。ですから、そのタイミングを逃さずにすむよう、言いにくいことを言えるようになった時、プロのホスピスナースに一歩近づいたかな、と思ったものです。
[2014/04/04 10:33] | ホスピスナース | トラックバック(0) | コメント(0)
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アメリカ東海岸で在宅ホスピスナースをしています。アメリカ人の夫、子供3人、犬一匹と日々奮闘中。

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2冊目の本がGakkenから出版されました。 「それでも私が、ホスピスナースを続ける理由」https://gakken-mall.jp/ec/plus/pro/disp/1/1020594700 「ホスピスナースが胸を熱くした いのちの物語」と言うタイトルで青春出版社から発売されました。 http://www.seishun.co.jp/book/20814/

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