ホスピスナースは今日も行く 2019年08月
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ホスピスナースは今日も行く
アメリカ在住日本人ナースが、ホスピスで出会った普通の人々の素敵な人生をおすそわけします。
浜辺のビーナス (5)
 家族会議をしてから、ジャッキーさんの訪問時に、お子さんを連れた次女や三女、お姉さんやお母さんにも会うようになりました。ご主人は、すべてが解決したわけではないけれど、それでもずっとうまくいっている、と言いました。ジャッキーさんの心からの言葉を受け止めた家族は、間もなくやってくる彼女の死に、逃れられない現実として向き合おうとしていました。ジャッキーさんの表情は明るく、痛みは適宜PCAポンプの用量を調整することで、コントロールされていましたが、両足の浮腫みや疲労感は少しずつ増えていきました。それでも毎日必ず着かえて階下に降り、その日その日を楽しんでいました。
 ある土曜日、週末勤務だった私は二件目の訪問中に、週末のマネージャーから電話を受けました。ジャッキーさんのご主人から電話があり、PCAポンプに何か問題がある、というので、電話してほしいということでした。すぐに電話すると、ご主人が「ああ、Nobuko、電話してくれてどうもありがとう」と言い、一体どうしたのかと訊くと、「それが、チューブから薬が漏れているみたいなんだ。昨夜は問題なくて、ジャッキーもよく寝てたんだけど、今朝になって、いつもより痛みがひどくて、ボーラスもいつもみたいに効かなくてね。そしたら、シーツが湿ってるのに気づいたんだよ。ちょうど枕の横くらいで、水でもこぼしたのかと思ったんだけど、そうじゃないし。それで、点滴のチューブをよく見てみたら、一か所穴が開いてるみたいでね。どうも、猫が爪をひっかけたみたいなんだ。いつも彼女の横に潜り込んでくるんだけど、たぶんその時に引っかかったんだと思うよ。ジャッキーは猫のことを心配して、すぐに足を拭いたから、猫の方は大丈夫なんだけど、問題はそこじゃないし」と言ったのです。私は前代未聞の状況に驚きながら、「あらら、それは大変です。ポンプは止めましたか?」と訊きました。ご主人は「うん、すぐに止めたよ」と言い、私は、「そうしたら、とりあえずコンフォートパック(緊急時用の薬が数種類入った箱)から液体のモルヒネをあげてください。できるだけ早く行くようにしますが、それまで痛み止めがないのは辛いでしょうから。それから、穴が開いている所よりもジャッキーさんの身体に近い方に白いクランプを止めておいてください。そこからバイ菌が入ると大変ですから」と言いました。ご主人は、「わかった。そうするよ。ありがとう、君には気の毒だけど、今日君が働いていてくれてよかったよ」と言い、電話を切りました。
 私はその時の患者さんの訪問を終えると、車の中で次の2件の家族に電話をし、緊急の訪問が入ったので予定よりも少し遅れることを伝えてから、ジャッキーさんの家に向かいました。ドアは開いており、中に入って声をかけると、2階からご主人が「彼女は上にいるよ。どうぞあがってきて」と呼ぶのが聞こえました。壁にかかっている家族写真や象の飾りを見ながら2階に上がると、キングサイズのベッドにエラさんとご主人に付き添われて、ジャッキーさんが上体を枕で支え、ヘッドボードに寄りかかりながら、起き上がっていました。ジャッキーさんは、私を見ると、「ああ、Nobuko。あなたはいつも抜群のタイミングで現れるわ」と言って、両手を差し伸べました。私も両手でその手を握りながら、「こういうのを、ついてるっていうんですかね」と言うと、ご主人が「不幸中の幸いっていうんだろうなあ」と言いました。早速ルートを調べると、確かに一か所、小さくよじれて明らかに穴が開いているのがわかりました。私は、「20年以上この仕事してますけど、こんなのは初めてです。こういう事って、あるんですねえ」と思わず感心しながら、ご主人に冷蔵庫から予備の薬を持ってきてもらうように頼みました。つい2日前に新しいカセット(薬は100mlまではポンプに直接装着するカセット、それ以上はバッグに入ったものを使う)に取り換えたばかりだったので、かなり無駄にしなければならなかったのですが、もう一つ予備のカセットがあったのも、不幸中の幸いでした。私がカセットを取り換えると、ジャッキーさんはすぐにボーラスを押しました。それから、「ああ、助かったわ」と言ってから、「これで安心してビーチに行けるわね」と言いました。私は、「あら―、これからですか?どこのビーチですか?」と訊くと、「ニュージャージーよ。お友達がね、ビーチハウスを持っててね、今週末は天気もいいし、ぜひおいでって言ってくれたのよ。ああ、楽しみだわ。ビーチはね、私の一番好きな場所なの」と言いました。ご主人が、「一泊だしね、たった2時間のところだから、大丈夫だと思ってね」というので、私は、「問題ないと思いますよ。楽しんできてくださいね。ただ、万が一のため、緊急時用の薬のパッケージと、ホスピスの番号は必ず持っていってください。ただ、うちでは電話での対応しかできないので、一応一番近い病院の場所は調べておいた方がいいかもしれないですね」と言うと、ご主人は「そうだね、そうするよ。でも、もし何かあったらすぐに戻ってくるよ」と言いました。
 ホスピスの患者さんが週末など、一泊以上の遠出をする時は、通常、宿泊先の住所や一緒にいる人の名前と電話番号などを控え、その地域をカバーする地元のホスピスと連絡を取って、万が一の時に備えるのですが、ジャッキーさんの場合はあまりに急だったので、とにかく何事もないことを祈るしかありませんでした。特に、ホスピスの患者さんの場合、どんなチャンスでも逃したくないので、細かいことは言わず、私は、「ジャッキーさん、海のにおいをいっぱい吸って、波の音を聞いて、砂に足を入れて、思いっきり楽しんできてくださいね」と背中を押しました。ジャッキーさんはにっこりして、「どうもありがとう。あなたがすぐ来てくれたおかげで安心していけるわ。あー、ワクワクするわ」と言いました。私は、「それじゃ、私は月曜日は週末の代休なので、火曜日に来ますね。楽しいお話を聞かせてくださいね」と言い、階下におりました。ドアまで見送ってくれたご主人は、「僕は問題ないと思うけど、大丈夫だよね?せっかくだから、連れていってあげたいんだよ。気心の知れた人たちだし、ジャッキーも疲れたら静かに休む部屋もあるし。多分、これが最後だろうから」と言いました。私は、「よくわかります。とにかく万が一のために経口の痛み止めはあるだけ持っていってください。それから、そんなことはないとは思いますが、念のためDNRの指示書のコピーを持っていてください。それがないと、万万が一の時、CPRをされてしまいますから」と言うと、ご主人は一瞬間をあけてから、「そうだね、そうするよ。良いアドバイスをありがとう」と言いました。私は、「お天気もパーフェクトだし、絶好のビーチ日和ですね。ジャッキーさんがもう一度海に行けて、私も嬉しいです」と言うと、背の高いご主人は突然少年のような笑顔になり、「僕もだよ」と言いました。
 火曜日、ビーチでの週末を楽しんだジャッキーさんは、少し日に焼けてほんのり赤らんだ脚を投げ出し、ベッドの上に起き上がって私を待っていました。私が「わあ、ジャッキーさん、焼けましたねえ。ビーチはどうでしたか?」と訊くと、ニコニコしながら「ああ、Nobuko、最高だったわ」と言って、横にいたエラさんに写真を見せるように言いました。たくさんの写真の中から、エラさんは、砂浜に座っている嬉しそうなジャッキーさんと、ビーチハウスのデッキでご主人と一緒に笑っている写真を見せてくれました。ジャッキーさんは遠い目をしながら、「潮風を受けながら、砂の上に座るのって、最高に素敵だったわ。素足で砂に触れるのって、本当に気持ちいいの。日が暮れるまで、ずっとそうしていられたわ」と言い、もう一度、「本当に、素晴らしかった」と言いました。ご主人とエラさんもビーチでの様子や、砂浜で車いすを押す大変さをジェスチャー交じりで話してくれ、ジャッキーさんも、「ほんと、うちの家族は力持ちでよかったわ」と笑いました。
 木曜日にまた来る、と言った私は、水曜日の昼頃、ご主人からメールを受け取りました。それには、ジャッキーさんがポータブルトイレを使おうとしてベッドから落ちた、と書いてありました。私はすぐに電話すると、ご主人が「ああ、電話してくれてありがとう。いつもは一人でベッドから起きようとはしないのに、ちょっと混乱してたみたいでさ。ベッドの横にあるポータブルトイレに行こうとしたらしく、でも、足が立たなかったみたいで、ベッドとトイレの隙間に座り込むようにして転んだらしい。僕が引き上げて、何とかベッドに戻ったけど、もう、トイレに行くのは無理そうなんだ」と言いました。私は、「わかりました。あとで寄るので、とりあえず使い捨てのベッドパッドを敷いて、トイレは差し込み便器を使ってください。もしかすると失禁するかもしれないので、念のため尿漏れパッドを重ねてつけておいてあげてください」と言い、それからオフィスに電話して緊急でジャッキーさんを訪問することを伝えました。
 私が着いたとき、ジャッキーさんはベッドで眠っていました。ご主人がその横に添い寝をし、エラさんがベッドの足元に腰かけ、次女のアマンダさんがベッドサイドの椅子に座ってジャッキーさんの手を握っていました。ご主人が、「あの後ボーラスを押して、それからずっと眠ってるんだ。一応尿漏れパッドはつけたけど、あとでシャワーカーテンを買ってきて、シーツの下に敷こうと思うんだ。万が一ベッドを濡らしてもマットレスまで濡れないようにね」と言いました。それから、「ジャッキー、ハニー、Nobukoが来たよ」と声を掛けました。するとジャッキーさんは目を開け、私を見るとかすかな声で「ハーイ」と言って微笑みました。私は「ジャッキーさん、大変でしたね。痛いところはありませんか?」と訊くと、「ううん、大丈夫」と言い、「これからはトイレもベッドでしましょう。やり方は皆さんに見せるので、心配しなくても大丈夫ですよ」と言うと、「オーケー」と言って目を閉じました。私はアセスメントをして、けがのないことを確かめてから、シーツを一枚持ってきてもらい、それを四分の一に畳んで、体位交換用のシーツにし、使い捨てのベッドパッドと一緒にジャッキーさんの下に敷きました。ご主人たちにそのシーツを使って体位交換をしたり、身体の位置を直したりする方法を見せると、3人とも感心しながら「わかった」と言いました。ジャッキーさんの寝室には電動ベッドを入れるスペースはなく、ご主人も娘さんたちも、ジャッキーさんと一緒に横になれる今のベッドを望んだので、ベッドの上に敷ける褥瘡予防のエアーマットだけオーダーし、ホームヘルスエイドのサービスも入れることにしました。ジャッキーさんはうつらうつらしながらも、事の成り行きを理解しており、私が「それじゃ、また、明日来ますね」と言うと、「いろいろありがとう」と言って手を振りました。 浜辺のビーナス(6)に続く。
 
 
[2019/08/31 15:34] | 忘れられない人々 | トラックバック(0) | コメント(0)
浜辺のビーナス (4)
 その日の午後、私はその前の小児ケースの訪問が少し長引き、ジャッキーさんの家には予定よりも5分ほど遅刻をして着きました。ドアをノックすると返事がなく、押してみるとカギはかかっていませんでした。すると、キンバリーから『バックポーチにいるわよ』とメールが来ました。私は家に入り、キッチンを通って裏のポーチに行くと、ジャッキーさん、ご主人、エラさんと、ジャッキーさんのお母さんとお兄さんが、キンバリーと話をしていました。私が「遅れてすみません」と言いながらポーチに出ると、ジャッキーさんが「ああ、Nobuko。全然問題ないわよ。雑談してただけだから。紹介するわ、私の母と兄のチャックよ。お母さん、チャック、私のナースのNobukoよ」と言いました。私は「お母さんには少しだけお会いしたことがありましたね」と言ってから、二人に挨拶し、ご主人に勧められた椅子に腰かけました。
 ざっくばらんでカジュアルなジャッキーさんやご主人に対し、ジャッキーさんのお兄さんは話し方や物腰がキッチリとして、きまじめで落ち着いた印象でした。そして、お母さんは以前会った時とは違い、かなり硬い表情をしており、これから話し合うことにたいして全身で身構えている感じがしました。キンバリーはそんな雰囲気を和ませるように雑談しながら、私が席に着くのを待って、それからさらりと本題に入りました。
 キンバリーはまず、私たちが誰かをジャッジするためにここにいるわけではないこと、みんなそれぞれの立場から思うところや言い分があることは承知していること、そして、どんな家族にも歴史があり、私たちはそうした家族内の関係にはあえて立ち入らず、今、ジャッキーさんが直面している問題を解決するために話し合い、最善策を見つけるためのミーティングであることを明確にしました。みんなそれぞれ頷き、まず、ジャッキーさんが口火を切りました。
 「ホスピスのおかげでね、調子はいいのよ。でもね、それでもやっぱり、朝はきついの。スティーブが夜中に1時間ごとにボーラスを押してくれるんだけど、それでも、一日を始めるまでに時間がかかるの。私ったら、すっかりノロマになっちゃったのよ。でもね、みんなが来てくれるのは嬉しいし、私もみんなに会いたいの。ただ、薬のせいで私の頭がちょっとイカレちゃってて、いろんなことを忘れちゃったり、勘違いしたりするもんだから、ちょっと誤解を招いてたかもしれない。だから、それは謝るわ。」するとご主人が、「ジャッキーは謝ることないよ。忘れっぽいのは薬のせいなんだから。だから、みんな僕に電話をしてくれるように言ってあるだけなんだ。別に、僕はゲートキーパーをしているわけじゃないんだ。うちは誰だって大歓迎さ。ただ、朝は彼女が大変だし、こっちもスケジュールは管理しなきゃならないから、あらかじめ電話してほしいって、それだけなんだよ」と強い口調で言いました。すると、今度はお母さんが、隣に座っている私に向かって、「私たちの家族はね、とっても仲がいいの。いつだって、会いたいときに会いに来てたわ。でもね、私だって娘の調子が悪い時には邪魔なんてしないわ。それくらい、心得てるわ」と言ったのです。するとご主人は、以前、ジャッキーさんが入院した時のことを持ち出し、お母さんとお姉さんが最悪のタイミングで来たことや、それに対して苦言を呈したらその後しばらく会いにも来なくなり、ジャッキーさんが心を痛めたことなどを、一生懸命感情を抑えながら訴えました。すると、お母さんが彼の方を見ずに、「私だって、会いに来たかったわ。でもね、誰かが来させてくれなかったんじゃない」とつぶやきました。それ聞いたご主人はさらに興奮し、その時のジャッキーさんと彼の負担がどれほど大きかったかと訴え始めたのです。すると、隅の方に立って話を聞いていたお兄さんが、遮るように、「よくわかってるよ、スティーブ。でも、母たちだってわざとああしたわけじゃないんだ」と言うと、ご主人は「そりゃそうだろう。でも、だったらどうして僕のメールを無視して好き勝手な時に来るのか、僕には理解できないよ」と言い、お母さんが「メール?何のメール?」とつぶやきました。そこですかさずキンバリーが、「過去にいろいろあったことはわかります。でも、そこにこだわってしまうと、なかなか先に進めません。今は、これからのことを話し合うのが先決です」と言ってから、お母さんに向かって、「長い間、いつでも好きな時に行き来していた習慣を変えるのは、難しいと思います。ご自分のご都合だってあるでしょうしね。ただ、今の状況だとスティーブさんが言うように、ジャッキーさんのその日の調子や来客予定なんかが複雑になっているので、ルールを決める必要はありますよね」と言いました。お母さんは、「それはよくわかるわ。私だって、他の子供たちや孫たちとの約束だってあるし、いつもうまく都合が合うってわけじゃないもの。でも、だからこそ、来れる時に会いたいだけなのよ。それを、全部コントロールされたら、なかなか会えないわ」と言い、それに対してご主人が、「だから、僕は会いに来るなと言ってるわけじゃないんだ。うちのドアはいつだって開いてる。ただ、午前中は厳しいし、事前に連絡してほしい、その時のジャッキーの調子もあるからね。ただそれだけなのに、何がそんなに問題なんだ」と、イライラした様子で言いました。お母さんは表情を硬くしたまま、庭の方に顔を向けると、黙ってしまいました。私は、ご主人とジャッキーさんの家族の間にある確執と、その板挟みになっているジャッキーさんの苦悩に胸がつぶれるようなおもいで、こう言いました。
 「皆さんが、それぞれジャッキーさんのことを愛していらっしゃって、それぞれが悲しい思いを抱いているんだとおもいます。ジャッキーさんも、それはよくわかっていらっしゃると思います。ジャッキーさんも皆さんのことを愛しているから、よけい辛いんだと思います。そして、皆さんお分かりだと思いますが、ジャッキーさんにはもう、あまり時間が残されていません。今までのことをすべて水に流すことはできないと思いますが、今はジャッキーさんができるだけ気分良く、皆さんと大切な時間を過ごせるようにできるかを考える時なんです。」
 しばしの沈黙の後、ジャッキーさんが言いました。
 「Nobukoの言う通りよ。私、もうすぐ死ぬのよ。もう、ケンカは嫌なの。誰ともケンカなんてしたくないし、誰にもケンカしてほしくない。スティーブは本当によくやってくれてるわ。彼がいなかったら、私、どうにもならないもの。私はみんなを愛してるの。みんなに会いたいの。みんなと仲良くしたいし、楽しい時間を過ごしたいの。私に残された時間を、いい時間にしたい。みんなに幸せでいて欲しいの。お母さん、あなたのこと、大好きよ。本当に愛してる。チャック、あなたもよ。」
 すると、お母さんが立ち上がり、ジャッキーさんのところに行くと、泣きながら彼女を抱きしめました。そして、「かわいそうに、かわいそうに。私も心から愛してるわ」と言いました。ご主人も、お兄さんも、エラさんも、泣きながらその様子を見つめていました。
 エラさんがティッシュの箱をみんなに回し始めたのをきっかけに、キンバリーが「ジャッキーさん、あなたの気持ちは皆さんに十分伝わったと思います。今のところ、朝は11時以降で、スケジュールは、ご主人を通して調整してもらう、というのが案のようですが、あなたはどう思いますか?」と言いました。ジャッキーさんは鼻をかんでから、「いいと思うわ。お母さん、どう?」と言い、お母さんは「わかったわ。あなたがそう言うなら、もちろん、それでいいわ」と言いました。キンバリーはもう一度確認し、全員が口々に「わかった」と言いました。ジャッキーさんは、「みんな、どうもありがとう。キンバリー、Nobuko、どうもありがとう。私、ちょっと失礼してお手洗いに行かなくちゃ」と言い、ご主人に付き添いを頼むと、ゆっくりと家に入りました。私は、となりの席に戻ったお母さんの肩を、ポンポン、と、軽くたたくと、お母さんはその手を取って、「どうもありがとう」と言いました。それから、「これからどうなっていくの?あと、どれくらいなの?そういうことがわかるなら、教えて欲しいの」と言いました。私は、「もちろんです。私がわかる限り、説明できる限りのことはお伝えします」と言ってから、一般的な死への過程を話し、ジャッキーさんがどの段階にいるのかを、適宜説明すると約束しました。お母さんは、「どうもありがとう、どうもありがとう。本当に感謝するわ」と言ってもう一度私の手を取ると、少しだけ微笑みました。 浜辺のビーナス(5)に続く。
 
[2019/08/15 15:47] | 忘れられない人々 | トラックバック(0) | コメント(0)
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ラプレツィオーサ伸子

Author:ラプレツィオーサ伸子
アメリカ東海岸で在宅ホスピスナースをしています。アメリカ人の夫、子供3人、犬一匹と日々奮闘中。

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2冊目の本がGakkenから出版されました。 「それでも私が、ホスピスナースを続ける理由」https://gakken-mall.jp/ec/plus/pro/disp/1/1020594700 「ホスピスナースが胸を熱くした いのちの物語」と言うタイトルで青春出版社から発売されました。 http://www.seishun.co.jp/book/20814/

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