ゲームに登場する女性キャラはいかにして性の対象として描かれているか?
ゲームの世界における女性の扱われ方に対してさまざまな提言を行なうAnita Sarkeesianさんは、2014年に開催されたゲームデベロッパーズ カンファレンスで「ビデオゲームにおける女性の扱われ方」というプレゼンテーションを行ない賞まで受賞した人物です。そのSarkeesianさんが「ゲームに登場する女性キャラクターはいかにして性の対象として描かれているか?」という内容のムービーを公開し、ゲームにおける女性キャラクターのあり方について一石を投じています。
Women as Background Decoration: Part 1 - Tropes vs Women in Video Games - YouTube
こちらがSarkeesianさんです。
1971年11月、「コンピュータースペース」という世界初のアーケードゲームがアメリカで発売されます。
コンピュータースペースのプロモーションには、服が透けて内側の肌が見えそうな女性が実機の横に立っている画像が使用されました。
「女性を装飾品とする」というプロモーション戦略は、主に男性をターゲットとしているゲームマーケットに浸透し、長い間使用され続けてきました。
「こういったプロモーションは、ただ単にゲームを売っているだけではなく、女性が男性の欲望を満たすための装飾的存在であるという考え方のゲームを売っていることになります」と語るSarkeesianさん。
「もちろん、女性は長い間男性の付帯的な存在と扱われてきた過去があるので、女性を装飾品のように扱うプロモーションが導入され始めた時に衝撃はありませんでした」
「女性を装飾品として扱う描写が最も顕著なのはレースゲームです」
1995年に発売された「レイブレーサー」や……
「ニード・フォー・スピード プロストリート」のカメラの動きを注視すると、女性の体の一部分が、ゲームにおいて最も重要な要素であるかのように映し出されているのがわかるとのこと。
Sarkeesianさんは、女性を装飾品のように描写することを「Women as Background Decoration(背景的装飾品としての女性)」と表現。Women as Background Decorationの定義は「いやらしい描写をゲームに与えるために、操作不可能な女性キャラクターを性的に利用すること。性の対象として表現された女性キャラクターが、男性プレイヤーの興味をそそるために創作されること」となっています。
ゲームに登場するキャラクターのうち、通行人や敵キャラクター、商人などプレイヤーが操作できないキャラクターはNPC(Non-Playable Character)と呼ばれていて、その行動は通常プログラムで指定されています。「そういったNPCの中でも売春婦としての役割が与えられている女性キャラクターの存在が問題である」とSarkeesianさんは主張。
「グランド・セフト・オートシリーズ」や……
「ウィッチャー2」といったゲームには売春婦として仕事をする女性NPCが登場します。
また、「デウスエクス」や……
「龍が如く4 伝説を継ぐもの」など多くのゲームにストリッパーの女性NPCが登場。多くのNPCが「何らかの意味」を持ってゲームに登場するにもかかわらず、売春婦やストリッパーといった女性NPCは、ほとんどの場合ストーリーに関係ない場合が多いとのこと。
英語には「人間を性の対象として扱うこと」を意味する「Sexual Objectification」という言葉が存在します。
「『マックスペイン 3』や『Far Cry 3』といったゲームにおいては、女性を性の対象として扱うシーンでは『白人男性が売春婦の多く住んでいる貧困街を調査する』といった貧困差別的な内容を含む描写が登場します」と語るSarkeesianさん。
また、「デウスエクス」や「バイナリー ドメイン」には、片言の英語を話す売春婦の女性NPCが登場。
Sarkeesianさんによると、貧困街で働いたり、片言を話す女性NPCが登場するシーンは、女性を目当てに他国へと旅行する「売春ツアー」を想起させ、白人もしくは西洋人が別の人種の女性を性の対象として消費してきた伝統的な人種差別表現の典型であるとのこと。
こちらは「Shellshock: Nam '67」でのワンシーンで、現地住民が兵士を買春に誘っているところ。
Sarkeesianさんは「こういったゲームのシナリオは『男性が性の主体で、女性が性の対象』であるという概念を売りつけている」と主張します。
「男性が性の主体で、女性が性の対象である」という考え方は、主人公に女性を選択できるゲームにも存在します。例えば、「Mass Effect 2」は主人公に男性と女性を選択可能です。
女性を主人公に選んでもストリップシーンに変化は見られません。しかしながら、Sarkeesianさんは「主人公に女性を選ぶことが可能だとしても、性の対象として描写される女性NPCが男性のエゴを刺激するためにゲームに登場するという事実は否定できない」としています。
「女性を性の対象として描写することは、ゲームだけでなく他のメディアにも登場しますが、ゲームの問題はプレイヤーが主人公を操作するという点にある」とSarkeesianさんは主張。
他のメディアがユーザーを「見学者」としているのに対して、主人公を操作して世界を楽しめるゲームはユーザーを「見学者」から「参加者」に変えてしまっているとのこと。
Sarkeesianさんは、アメリカの哲学者であるマーサ・ヌスバウムさんが執筆した書籍に書かれている「対象者を定義する5つの要素:手段・商品化・互換性・違反可能性・廃棄可能性」を「性の対象として描写される女性NPC」に当てはめて、持論を展開。
「アサシン クリード IV ブラック フラッグ」では、踊り子を雇って敵を誘惑することが可能。
「Saints Row」には、敵ギャングの娼婦を勧誘して指定された人数を連れて帰ればクリアとするミッションが存在します。こういった要素は女性を「手段」という目的で使用していることに違わないとのこと。
「Fallout: New Vegas」や……
「ウィッチャー2」といった多くのゲームでは売春婦としての女性NPCが登場し、主人公がお金を払えば相応の仕事をしてもらえます。これは女性キャラクターの「商品化」に当たるとのこと。
また、「スリーピングドッグス 香港秘密警察」や「グランド・セフト・オートシリーズ」には、プレイヤーが売春婦を買うことで、主人公の能力がアップするという機能があり、こちらは対象の定義の1つである「互換性」の教科書的な例。こういった描写は「女性の役割は男性の欲望を満たすことである」という強いメッセージをプレイヤーに投げかけるそうです。
ゲーム内で女性を持ち上げて振り回したり……
おびえる女性をナイフで刺し殺したりする行動は違反可能性に当たるとのこと。
対象を定義する5つの要素のうち最後の「廃棄可能性」に当たるのが「レッド・デッド・リデンプション」です。レッド・デッド・リデンプションでは、縄で縛った女性NPCを……
線路に放置して、汽車にひかせることでアンロックされるトロフィーがあります。
また、「THE GODFATHER2」では、殺された女性NPCが消えてしまう、という効果が使用されていて、これらは女性NPCの「廃棄可能性」に当たるとのこと。
一方で、男性を性の対象として描写するゲームも存在。
「Dragon Age: Origins」や……
「Fallout: New Vegas」には男娼が登場します。
しかしながら、Sarkeesianさんは「男娼がゲームに登場して、ゲーム内で女性と男性を性の対象とする描写が平等になったとしても、社会における女性と男性の扱いの差を考慮すると、女性キャラクターを性の対象として描くことの根本的解決にはなりません。男性の性的能力が他人を喜ばすものとして考えられておらず、社会的ポジションを男性が独占する文化である以上、男娼を登場させたところで男性の優位性を変えることにはならないのです」と主張します。
Sarkeesianさんは「ゲームといった特殊な参加型のメディアが、女性キャラクターをおもちゃのようにして扱うと、現実社会における女性の立場に少なからず影響があるのではないか」ということを危惧していて「ゲームの持つエンターテインメント性を批判しているわけではない」とのことです。
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