女王蜂と大学の竜 | 源氏川苦心の銀幕愉悦境
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女王蜂と大学の竜

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#00304「女王蜂と大学の竜」
石井イズムに溢れた一作


製作国:日本
製作会社:新東宝
監督:石井輝男
出演:三原葉子/吉田輝雄/万里昌代/天知茂嵐寛寿郎
公開:1960年9月1日


 新東宝の女王蜂シリーズの第三作目であります。監督は引き続き石井輝男。脚本も石井と内田弘三、撮影に岡田公直、音楽も気心知れた渡辺宙明と、スタッフ陣も石井カラーに染まつてゐます。

 舞台は終戦直後くらゐの東京。「女王蜂」桜珠美(三原葉子)は関東桜組の組長・千之助(嵐寛寿郎)の娘であります。桜組のある界隈では暴力団と化した「三国人」どもがやりたい放題の暴虐ぶりを見せてゐて、地元の露天商たちが困つてゐました。日本人は戦争に負けた癖に大きなツラをするんぢやねえ、といふ感じ。
 三国人たちに負けた訳では無いのですが、奴らは「日本人に勝つた」と意気軒高なのです。ところで「三国人」は今は死語なのでせうか。或はNGワード?

 土橋組といふのが桜組のシマを狙つてゐて、親分の土橋(近衛敏明)は三国人グループの総帥・呉(大友純)と手を握ります。近衛は脂ぎつた助兵衛親爺をやらせたら天下一品。更に桜組の達(沖竜次)を篭絡し、三国人たちと対決させるやうにけしかけます。その隙に乗じて土橋組が果実を頂かうといふ寸法ですな。
 その陰謀は突如現れた風来坊、「大学の竜」こと竜二(吉田輝雄)が妨害します。竜二は桜組の仲間に入つてゐたのです。腕ッぷしは強く、女にもモテモテのおあにいさん。忽ち弟分を多数引き連れブイブイ言はす存在になります。

 竜二に悉く企みを粉砕される土橋は、夏祭りを逆襲のきつかけにせんとします。祭りの神輿になぜか肉体女優を乗せ、桜組に迫ります。負けじと桜組は珠美自らが神輿に乗り対抗。
 この意味不明のセクシー対決を、千之助は必死に止めやうとしますが、覆面の集団に踊りに紛れて拉致されてしまふ。駆け付けた桜組のメムバアによつて救はれますが、千之助は傷つくのであります。

 千之助は遂に決戦を決意、関東一家に廻状をまわして、親分衆の前で跡目を珠美に譲ると表明、即席の襲名式を披露します。桜組が珠美の指揮で先陣を切る......!

 久保菜穂子を継いで二代目女王蜂となつた三原葉子が、伝法かつ妖艶な女親分を演じます。女子分たちを引き連れてのし歩くのが様になつてゐます。やはりこの役に関しては、女優交代は成功でせう。大学の竜・吉田輝雄も長らく石井組として活躍する人。ハンサムタワーズの中でも、石井監督は何故か吉田を重用しますね。お陰で東映では異常性愛ものに付き合はされて気の毒でした。

 後に「網走番外地」でレギュラーになるアラカンも、これが石井監督との初顔合はせらしい。大御所の登場は画面が引き締まりますね。おきやんな万里昌代も存在感を示します。浅見比呂志とのコンビも良い感じです。
 一方天知茂は、桜組の代貸的な存在なのに、良い場面がないのです。ワルどもの手によりあへなく連行されてしまひ、その後のクライマックスも出番もありません。勿体ない起用法と申せませう。

 前作もさうでしたが、善側の犠牲者が殆ど出ません(今回も普通の展開ならアラカンは死ぬところでせう)。甘いかも知れぬが、元元勧善懲悪とは、かういふものです。三原と吉田が結ばれる結末も嬉しい。ご都合主義の脚本も石井監督のサアヸス精神が免罪するのでした。ハピイエンド万歳!


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