#1693「花の長脇差」
舞台は東海道池鯉鮒宿
製作年:1954年
製作国:日本
製作会社:大映(京都撮影所)
監督:衣笠貞之助
出演:長谷川一夫/高峰三枝子/市川猿之助/入江たか子/浪花千栄子/進藤英太郎
公開:1954年4月28日
本日の長谷川一夫映画は、1954年公開の「花の長脇差」。監督・脚本は戦前から名コムビの衣笠貞之助、音楽は服部正。
旅芸人一座を率ゐる嵐門右衛門(小沢栄=小沢栄太郎)は、贔屓筋から「三河屋團十郎」と呼ばれる人気を博してゐましたが、或る日上演中に倒れてしまひます。そのまま息を引取り、後を継いだのが若い門次郎(長谷川一夫)。
東海道知立(池鯉鮒)の宿で興行すると云ふその前日、見物衆が寄贈した「三河屋團十郎」の幟がずらりと並びました。其処に通りかかつたのが、何と本物の市川團十郎(市川猿之助)の一行。團十郎はそれをむつつりと見てゐるだけでしたが、弟子たちが怒つて幟を次々と引き抜いて川に投げ込んでしまふ。
門次郎は単身團十郎と会見しその狼藉を問ひ質します。自分たちは自ら團十郎と名乗つた事はないとも弁明しました。天下の名優を前にして臆する事のない堂堂たる態度に感じ入つた團十郎は、詫びを入れるとともに、改めて幟を贈り、門次郎の舞台の初日を見物する事を約しました。
その当日、團十郎目当てに見物客が詰めかけ、周囲の垣根や木に登る人も多数出るほど。「高岡や刈谷くんだりからも来てゐる」とのセリフあり。高岡とは現在の豊田市南部、トヨタの高岡工場があります。この集客ぶりに驚き注目した一人に、土地のやくざ権太郎(進藤英太郎)がゐました。團十郎は門次郎達の芝居を褒めた上で、改善点を的確に次々と指摘します。
ところで知立の宿の女主人・お梶(入江たか子)の妹が、かつての門次郎の許婚者・お藤(高峰三枝子)で、偶然の再会を果たします。彼女の亡父は門次郎に目をかけ、剣の修行に旅立たせましたが、門次郎は役者となり音信不通となつてゐたのです。お藤は門次郎の母・萩乃(浪花千栄子)に知らせ、一緒に門次郎の「弁天小僧」を見に来ますが、萩乃は期待に反して役者ふぜいに身を落した息子を苦々しく見つめるだけでした。
サテやくざ権太郎は、自らのプロデュースで團十郎の興行をしたい。彼をカネの成る木と思つたんでせうね。しかしどうしても團十郎は首を縦に振りません。面子を潰されたと怒つた権太郎、配下の者どもと、当地を去る團十郎を襲撃せんとします。それを知つた門次郎、一座を引き連れて現場へ急行する......!
タイトルはまるで股旅の任侠ものみたいですが、衣笠×長谷川コムビの芸道もの。市川猿之助(二代目。後の初代市川猿翁。最近問題を起こしたのは四代目)が團十郎に扮し、三河の團十郎と呼ばれる長谷川一夫が、芸を通じて成長する物語です。「子狐」を披露する團十郎が素晴らしい。幟を巡つて対峙する最初の二人の会見も迫力が有つて良いですね。
ワルは進藤英太郎一択。團十郎の人気に目を付け、興行を勝手に企画します。断られると今度は入江たか子に手を出さうとします。「いくらお人好しの俺だつて」などと図々しい事を云ふのが愉しい。
ラストでは腹いせに團十郎を襲はんとしますが、我らが長谷川一夫が立ちはだかります。この立ち廻りも、ワルを成敗する意味合ひよりも、團十郎を救ふ事が主眼に思はれ、ドスを持つてゐても斬りはしません。やはりこの辺は任侠アクションではなく、飽くまでも芸道ものと云ふ事を示してゐます。チャンバラは既に解禁されてゐるので、意図的なものでせう。
その分、高峰三枝子とのロマンスや、母親浪花千栄子との関係もやや中途半端に終つた感じで少し残念。浪花千栄子はあれ程役者になつた長谷川を嘆いてゐたのに、最後は笑顔で舞台を鑑賞してゐます。高峰が色々と説得したのでせうが、唐突な感じはします。それでも、名優たちの共演が功を奏し、プログラムピクチュアの一作としては中中の出来と思想する次第なのです。
2024/08/12 (月) [日本映画 は]
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