カテゴリ:  女王蜂シリーズ (1/1) | 源氏川苦心の銀幕愉悦境
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  女王蜂シリーズの記事 (1/1)

女王蜂の逆襲

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#00305「女王蜂の逆襲」
地方出張する女王蜂


製作国:日本
製作会社:新東宝
監督:小野田嘉幹
出演:三原葉子/天知茂/池内淳子/星輝美
公開:1961年1月15日


 新東宝女王蜂シリーズの第四作目にして、最終作であります。監督は石井輝男に代り小野田嘉幹。念の為に言ふと、平田昭彦の兄にして三ツ矢歌子の夫君であります。この人も娯楽作品に定評があり、テレビ時代になつても、二時間サスペンスなど多くを演出してをります。脚本は内田弘三が単独執筆、音楽も渡辺宙明が続投、全体に軽い作りの娯楽作となりました。

 今回も女王蜂は三原葉子、役名も同じく桜珠美となつてゐます。珠美は関係筋の金竜親分を弔ふため、鬼怒川温泉に出向きました。金竜の息子・慎介(御木本伸介)は真面目な男で、父の死後組を解散し、温泉旅館を経営してゐます。

 慎介によると、ここでは黒部組といふワルが蔓延つてゐて、そのカシラの黒部(大原譲二)は、金竜が持つ元湯の権利書を狙つてゐるといふ。父・金竜は自殺とされてゐますが、黒部が殺したのだらうと囁かれてゐるのです。黒部はあくどい手を使ひ、権利書を強奪、返還を要請する慎介も監禁します。

 そんな折、無鉄砲の政(天知茂)と名乗る風来坊が黒部の用心棒を買つて出ます。慎介を消せば雇ふといふ事になり、政は橋の上で慎介に迫る。黒部が見てゐるので助ける事はできません。政のハジキが発砲する音とともに、橋から落下する慎介。ああッ、そんな莫迦な。ここで彼は死ぬのか?

 黒部は黒部で流れ者のサブ(沖竜次)といふ奴を持て余してゐます。此奴が黒部に頼まれて金竜親分を殺した真犯人であります。当地から姿を消すといふ約束を守らず、黒部を強請る行為を繰り返す為、政にサブを殺すやうに命じます。
 対決した政はサブからすべてを聞き出し、勝負に勝つて珠美に身柄を渡します。皆は政が刑事だと思つてゐるやうです。珠美は地元の若い衆を集め、愈々黒部との決戦に挑むのであります......!

 第一作以来、中山昭二宇津井健吉田輝雄が女王蜂を助ける腕利きとして登場しましたが、今回は天知茂が「無鉄砲の政」なる役で登場します。これまでで一番喜劇的で軽い感じの男。喧嘩は滅法強く、登場場面の多くを殴り合ひに費やしてゐます。女王蜂もやや圧され気味。その行動から刑事ではないかと思はれましたが、正体は終盤に明らかになります。

 政を追つかける芸者・とんぼ役に池内淳子。珠美の配下(?)に「おけらの松」鳴門洋二に「ジャズのおとみ」星輝美のお気楽コンビ。こんな二人にやられてしまふサブつて奴は、結局強いのか弱いのか分かりませんな。
 少々とつ散かつた印象の脚本や、些かもたつき気味の演出が気になるけれど、まあ明るく楽しい娯楽作です。珠美も安心して鬼怒川温泉を後に出来ます。益益日活無国籍映画に近づいた女王蜂でした。


女王蜂と大学の竜

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#00304「女王蜂と大学の竜」
石井イズムに溢れた一作


製作国:日本
製作会社:新東宝
監督:石井輝男
出演:三原葉子/吉田輝雄/万里昌代/天知茂嵐寛寿郎
公開:1960年9月1日


 新東宝の女王蜂シリーズの第三作目であります。監督は引き続き石井輝男。脚本も石井と内田弘三、撮影に岡田公直、音楽も気心知れた渡辺宙明と、スタッフ陣も石井カラーに染まつてゐます。

 舞台は終戦直後くらゐの東京。「女王蜂」桜珠美(三原葉子)は関東桜組の組長・千之助(嵐寛寿郎)の娘であります。桜組のある界隈では暴力団と化した「三国人」どもがやりたい放題の暴虐ぶりを見せてゐて、地元の露天商たちが困つてゐました。日本人は戦争に負けた癖に大きなツラをするんぢやねえ、といふ感じ。
 三国人たちに負けた訳では無いのですが、奴らは「日本人に勝つた」と意気軒高なのです。ところで「三国人」は今は死語なのでせうか。或はNGワード?

 土橋組といふのが桜組のシマを狙つてゐて、親分の土橋(近衛敏明)は三国人グループの総帥・呉(大友純)と手を握ります。近衛は脂ぎつた助兵衛親爺をやらせたら天下一品。更に桜組の達(沖竜次)を篭絡し、三国人たちと対決させるやうにけしかけます。その隙に乗じて土橋組が果実を頂かうといふ寸法ですな。
 その陰謀は突如現れた風来坊、「大学の竜」こと竜二(吉田輝雄)が妨害します。竜二は桜組の仲間に入つてゐたのです。腕ッぷしは強く、女にもモテモテのおあにいさん。忽ち弟分を多数引き連れブイブイ言はす存在になります。

 竜二に悉く企みを粉砕される土橋は、夏祭りを逆襲のきつかけにせんとします。祭りの神輿になぜか肉体女優を乗せ、桜組に迫ります。負けじと桜組は珠美自らが神輿に乗り対抗。
 この意味不明のセクシー対決を、千之助は必死に止めやうとしますが、覆面の集団に踊りに紛れて拉致されてしまふ。駆け付けた桜組のメムバアによつて救はれますが、千之助は傷つくのであります。

 千之助は遂に決戦を決意、関東一家に廻状をまわして、親分衆の前で跡目を珠美に譲ると表明、即席の襲名式を披露します。桜組が珠美の指揮で先陣を切る......!

 久保菜穂子を継いで二代目女王蜂となつた三原葉子が、伝法かつ妖艶な女親分を演じます。女子分たちを引き連れてのし歩くのが様になつてゐます。やはりこの役に関しては、女優交代は成功でせう。大学の竜・吉田輝雄も長らく石井組として活躍する人。ハンサムタワーズの中でも、石井監督は何故か吉田を重用しますね。お陰で東映では異常性愛ものに付き合はされて気の毒でした。

 後に「網走番外地」でレギュラーになるアラカンも、これが石井監督との初顔合はせらしい。大御所の登場は画面が引き締まりますね。おきやんな万里昌代も存在感を示します。浅見比呂志とのコンビも良い感じです。
 一方天知茂は、桜組の代貸的な存在なのに、良い場面がないのです。ワルどもの手によりあへなく連行されてしまひ、その後のクライマックスも出番もありません。勿体ない起用法と申せませう。

 前作もさうでしたが、善側の犠牲者が殆ど出ません(今回も普通の展開ならアラカンは死ぬところでせう)。甘いかも知れぬが、元元勧善懲悪とは、かういふものです。三原と吉田が結ばれる結末も嬉しい。ご都合主義の脚本も石井監督のサアヸス精神が免罪するのでした。ハピイエンド万歳!


女王蜂の怒り

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#00303「女王蜂の怒り」
ハリケーンの政、大活躍(笑)


製作国:日本
製作会社:新東宝
監督:石井輝男
出演:久保菜穂子/宇津井健/中山昭二/天知茂菅原文太
公開:1958年12月28日


 女王蜂シリーズの第二弾であります。監督は田口哲から石井輝男に交代し、より活劇度を増してをります。原案の「牧源太郎」とは企画に名を連ねる佐川滉の筆名ださうです。総天然色のシネスコとグレードアップしての登場となりました。

 舞台は神戸。ここで対立してゐるのは海堂組と竜神組。海堂組を継いだのは女親分・ゆり(久保菜穂子)。竜神組の剛田(天知茂)は海堂組のシマを狙つて何かと妨害・嫌がらせを繰り返します。たまりかねた海堂組の広(中山昭二)が単身竜神組と対決するも、刺されてしまふ。そこを救つたのが、ハリケーンの政(宇津井健)と名乗る風来坊。漫画チックなキャラを宇津井が愉しさうに演じてゐます。これはどう見ても石原裕次郎を意識してゐますね。助けられた中山昭二は、出血多量ながら、俺は血の気が多いから丁度いいやなんて強がりを言つてます。

 剛田の属する三軒一家の襲名式に、剛田は故意に海堂ゆりへの招待状を送りませんでした。彼女に恥をかかせやうとのせこい考へです。それを知つたゆりは、単身襲名式に乗り込み、チラシを送らなかつた理由を質します。居並ぶ親分衆もゆりの言ひ分が筋が通ると支持し、剛田は満座の中、面目を潰されるのでした。

 剛田は腹いせに、海堂組が担つてゐる積荷を奪ひ、荷主の信頼を失墜させ、さらに莫大な賠償金でゆりを苦しめます。ゆりは博奕で活路を開かんとしますが、剛田のいかさまに負けてしまふ。しかしそれを見破つたハリケーンの政が、元海堂組の彦太郎(佐々木孝丸)に知らせます。政は現在、剛田に草鞋を脱いでゐる為、間接的にしか伝へられぬのです。

 彦太郎の尽力で剛田とゆりは表面上は和解に辿り着きますが、その席でゆりは睡眠薬入りの酒を飲まされ、剛田に犯されてしまふ。天知茂は前作と同じことをしてゐますね。
 遂にゆりは剛田に最終決戦を挑みます。戦場となる波止場に集結する海堂組と剛田組。ゆりのピストルが唸る......!

 女王蜂シリーズは全四作ですが、石井輝男監督の二作目と三作目が特に人気が高いやうです。折角総天然色になつたのに、肝心の決戦シーンで突如白黒になるので吃驚します。作劇上の意図かと思つたら、単に予算不足だつたといふ、当時の新東宝の事情が明るみに出たのであります。まあ、それはいいでせう。

 キャスト陣は豪華。女親分の久保菜穂子は前作よりも貫禄が付いた感じ。でもやはり伝法な役は似合はぬかなあ。それが原因かどうか知りませんが、第三作目から主役は三原葉子に交代します。
 久保を陰に陽に助けるハリケーンの政に宇津井健。持ち前の青臭さと裕次郎ばりの不良性が不器用に混在して笑はせます。最後に正体が分かりますが、剛田組の倉庫を調べる辺りで、大体想像がついてしまつた。

 他には善側に中山昭二佐々木孝丸国創典(のちの邦創典)ら、ワル側に天知茂菅原文太近衛敏明(二代目若旦那)ら、一曲歌ふだけの歌手役に高島忠夫と贅沢。
 女優陣も久保の他、三原葉子高倉みゆき星輝美ら、主役を張つた経験のある人たちが揃ひました。
 
 外連味の無い(少しはあるか?)石井演出は、観客が何も考へずに愉しめる作品を創りました。当時流行つた日活アクションの影響も見られますが、痛快ならばそれでいい。別段賞狙ひのシャシンでもなし、これで良いのですよ。


女王蜂(1958)

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#00302「女王蜂(1958)」
薄幸の女親分を久保菜穂子が演じる


製作国:日本
製作会社:新東宝
監督:田口哲
出演:久保菜穂子/中山昭二/大空真弓/天知茂
公開:1958年2月15日


 新東宝が製作した女親分の映画であります。主演は久保菜穂子さん。日本映画に於ける最初の女任侠ものは何か存じませんが、少なくとも本作は江波杏子や藤純子よりも随分古い。役名も「お竜」であるのは偶然の一致でせうか。

 サテそのお竜(久保菜穂子)は横浜・港組の跡目を継いだ女親分。先代の鉄太郎(横山運平)はもう隠居状態のやうです。お竜には船乗りの俊介(中山昭二)といふ幼馴染がゐて、相思相愛なれどお竜の境遇が結婚の邪魔をしてゐる模様です。
 その港組のシマを狙つて嫌がらせをエスカレートさせてゐるのが真崎(天知茂)一派であります。最近羽振りが良くブイブイ言はせてゐるやうです。鉄太郎は若い者たちに、挑発に乗つて早まつた事をせぬやうに釘をさしてゐます。

 或る時、港組が取り仕切るマーケットが火災で焼失してしまひます。これは真崎の手によるものでしたが、その時点ではお竜は気付きません。それが原因で父・鉄太郎は帰らぬ人に。お竜は再建の為の金策に走りますが、悉く断られます。唯一応じてくれたのが宮川(川部修詩)といふ男でしたが、此奴のバックには真崎がゐました。即ち罠であります。
 お竜は真崎からのお金と知り、何が何でも返済することを決意、賭場で勝ち続けあと一歩といふところで、警察のガサ入れが入りフイになります。これも真崎の仕業。

 お竜の身を案じた俊介が真崎のヤバイ仕事を請負ふ事でせしめた金で、お竜は真崎に借金を返します。しかし真崎は利子分がまだだと強引にお竜を犯す! その頃真崎の店の踊り子が、マーケットの火事は真崎の仕業であることを偶然盗み聞ぎし、お竜も凡てのからくりを知り、怒りに燃え亡父の言葉を胸に、真崎に闘ひを挑むのであります......!
 
 新東宝・大蔵貢体制では、藝術的作品は封印し、大衆の欲望に忠実に作品を大量に制作、本作もその流れの一環でせう。世間のおやぢどもの耳目を集めんと、やたら煽情的なタイトルを並べたものです。「女○○○」と名乗るものも多く、これもその一つか。ただ、内容は案外真面目に作られた活劇ものとなりました。
 
 主演の久保菜穂子は素晴らしいプロポーションの持ち主ですが、まだこの時代は後年程の色香は感じられません。大映入社後の悪女役なんかは好いんですけどね。結末は少し意外なものとなり、お竜の境遇の悲しさを伝へます。
 ワルの天知茂はまだ若いせいか、いまいち凄味が無い。ドンパチ嫌ひで頭脳戦を得意とするらしい役なのでこれでいいのかも。大空真弓はまだまだ少女といふ感じ。初々しいのであります。二代目女王蜂となる三原葉子も顔を見せてゐます。

 B級感たつぷりで完成度も大した事はないかも知れませんが、新東宝らしいドキュメンタリイ風の演出も相俟つて、わたくしは割と好きなシャシンなのです。