日本映画 にの記事 (1/7)
- 2024/10/20 : 忍術大阪城
- 2024/10/19 : 忍術真田城
- 2024/09/25 : 日本仁侠伝 花の渡世人
- 2024/09/24 : 日本仁侠伝 血祭り喧嘩状
- 2024/08/18 : 人間魚雷回天
#1762「忍術大阪城」
大阪城内大混乱!
製作年:1961年
製作国:日本
製作会社:第二東映
監督:小野登
出演:里見浩太郎/山城新伍/円山栄子/三原有美子/花房錦一/坂東好太郎
公開:1961年2月8日
「忍術真田城」の続き。主要スタッフ・キャストはそのまま継続です。猿飛佐助(里見浩太郎)、霧隠才蔵(山城新伍)は、駿府のそれぞれ別々の場所で危機に陥りましたが、共に切り抜けます。徳川の秘密兵器・甲一号とは超巨大な長距離大砲である事が判明し、才蔵は報告の為、真田幸村(坂東好太郎)の待つ九度山へ向ひました。
佐助と志乃(円山栄子)は駿府に残り、甲一号を破壊、強力な法力を持つ天海僧正(瀬川路三郎)も斃します。甲一号と天海を失つた家康(北龍二)は切歯扼腕、最後の頼み、玄魔斉(鈴木金哉)と桔梗の精(霧島八千代)のコムビに大阪城潜入と城内混乱を指示します。しかし智将幸村に阻まれ、最後の手段として自分の化身を佐助と才蔵の姿に変へ、大量に城内に出没させ大混乱を起します。
この事態に城主秀頼(中村竜三郎)は、已む無く本物の佐助と才蔵を場内から退去させます。しかし本物二人は命懸けの訴へで、妖術使ひとの最終決戦に挑む......!
と云ふ訳で、完結篇。「大阪城」であつて、「大坂城」ではありません。甲一号と天海が序盤で退場し、佐助+才蔵VS玄魔斉+桔梗の精の対決構図が鮮明になります。甲一号がもつと禍禍しく活躍する場面も見たかつた喃。折角の超兵器も、戦艦大和みたいに何もせず破壊されます。玄魔斉は妖術使ひなのに体当り攻撃をするのが可笑しい。
大量のニセ佐助とニセ才蔵が大阪城内を跋扈する図は笑つてしまふけれど、本物二人の解決策といふのが少し肩透かしで面白くありませんでした。折角のファンタジイなのだから、もつと絢爛たるスペクタークルを伴つたものを期待したのに。その分をクライマックスに投入したのでせうか。
真田幸村が敵味方ともに対し焦らしに焦らし、最後に大坂冬の陣でその攻撃力を大爆発させるのですが、カタルシスはいまいち。やはり真田十勇士の残りのメムバアがあまり魅力的ではないのでね。
通常の東映娯楽版ですと、前後篇それぞれ一時間くらゐの尺なんですが、ここでは各約75分と中途半端な長さです。第二東映だから二線級スタアも少し優遇ですか。お馴染みのガマガエルや大蛇も登場しますが、学芸会みたいな造形です。全体的に此の出来栄えなら、態々前後篇にせず90分で収めるか、各50分程度の前後篇で十分だと思想したのであります。
2024/10/20 (日) [日本映画 に]
#1761「忍術真田城」
猿飛佐助と霧隠才蔵
製作年:1960年
製作国:日本
製作会社:第二東映
監督:小野登
出演:里見浩太郎/山城新伍/円山栄子/三原有美子/光美智子/坂東好太郎
公開:1960/12/27日
里見浩太郎ウィーク、本日は1960年公開の「忍術真田城」。タイトルからして忍者ものと判明します。監督は小野登、脚本は結束信二、音楽は高橋半であります。
太閤秀吉亡き後、徳川家康(北龍二)は豊臣残党の滅亡を図り、大阪城内へ忍者・鬼垣赤雲斎(市川百々之助)を忍ばせます。豊臣秀頼(中村竜三郎)は、頼りとする真田幸村(坂東好太郎)の出馬を求める為、腹心の木村重成(林彰太郎)を九度山に派遣します。家康は代官・岩堂(青柳竜太郎)に命じ九度山の守りを固めます。
真田幸村の息子・大助(花房錦一)は、村に遠乗りし恋人の明美(三原有美子)と逢ひますが、折悪しく岩堂と出喰はします。岩堂は明美を人質にして大助を捕へ、雪村を誘き出さんとします。大助に同行した真田十勇士の一人、望月六郎(光美智子=その正体は妹の雪江で、徳川に殺された兄の仇を討たんと、男装して六郎を名乗る)は救出に向はんとしますが、雪江と恋仲の霧隠才蔵(山城新伍)が代りに大助の牢へ忍び込み救出します。
和歌山城へ入つた家康は、忍術師玄魔斎(鈴木金哉)に重成暗殺を命じますが、猿飛佐助(里見浩太郎)がこれを撃退します。十勇士たちは大阪入城にいきり立ちますが、雪村はそれに先立ち、家康の本拠・駿府に佐助と才蔵を忍ばせます。敵の情報が少ないままの出陣は危険と判断したのです。佐助を慕ふ志乃(円山栄子)を加へた三人で出発します。
佐助は徳川側の秘密兵器・甲一号を載せた荷車を襲ひますが、桔梗の精(霧島八千代)と玄魔斉の妖術に阻まれ大ピンチ。一方駿府城内を探つてゐた才蔵も、天海僧正(瀬川路三郎)の法力に力を封じられてしまひ、両者とも絶体絶命......
お馴染み真田十勇士の物語。里見浩太郎の猿飛佐助と山城新伍の霧隠才蔵が中心で、あとのメムバアは完全にその他大勢扱ひであります。従来の忍術・妖術映画のイメエヂをそのまま踏襲してゐますので、リアリティは皆無。敵味方とも相当の手練れが登場しますので、大妖術合戦が繰り広げられるかと思ひきや、肝心の格闘場面はチャンバラです。まあ良いんですけど。
里見・山城両君はそれなりにヒーロー然として頑張つてゐます。秀頼には、倒産した新東宝からやつて来た中村竜三郎(晴彦)、思慮深い真田幸村には坂東好太郎が演じてゐます。花房錦一の真田大助は自分の立場を弁へず女と逢引なんかして、迷惑をかけてゐます。新人林彰太郎は木村重成役で、結構目立つてゐます。
女優陣はやはり第二東映クラスの人が並びます。猟師の娘で佐助の彼女役には円山栄子、庄屋の娘で真田大助の彼女に三原有美子、十勇士の一人・望月六郎を名乗る妹に光美智子。個人的には敵方の「桔梗の精」を演じた霧島八千代が気に入りです。
物語は佐助・才蔵のピンチで終つてゐます。実は前後篇で、完結篇は「忍術大阪城」で語られるのでした。如何なる展開を迎へるのか、震へて待て。それほどのものでもないか。
2024/10/19 (土) [日本映画 に]
#1737「日本仁侠伝 花の渡世人」
ヒデキ最盛期の一本
製作年:1966年
製作国:日本
製作会社:日活
監督:野口晴康
出演:高橋英樹/和泉雅子/川地民夫/山内賢/佐々木孝丸
公開:1966年6月15日
日本仁侠伝シリーズの第二弾、「日本仁侠伝 花の渡世人」であります。監督は野口晴康、脚本は甲斐久尊、音楽は鏑木創。主題歌「花の渡世人」と挿入歌「おとめ流し」を歌ふのは、姫之宮ゆり。流しの歌手として出演もしてゐます。タイトルバックは燃えさかる炎。
明治末期。火消「め組」の頭・文二郎(佐々木孝丸)は、一番纏の直吉(川地民夫)を娘のお初(和泉雅子)と所帯を持たせて跡目を継がせやうとしてゐます。しかしお初は若い纏の清二(高橋英樹)に惚れてゐます。清二もお初を愛してゐますが、その思ひは封印して直吉を立てます。
め組が請負つてゐる建築工事を、悪徳ヤクザの松木組(組長は内田朝雄)が何かと邪魔をします。その妨害はエスカレートし、怪我人も出る始末。皆の反対を押して、文二郎が自ら松木組に申し入れに行くことに。頭に万一のことがあつてはいけないと、清二は先回りして松木組に殴り込み、強引に話をつけてしまふ。この行動が問題となり、清二は破門、旅に出る事になりました。
三年の間、清二は渡世人として修行の日々、しかし再びお初に会ひたい思ひから、め組に帰つてきました。お初は喜び、文二郎も破門がなかつたかのやうに歓迎します。しかしめ組は猖獗を極める松木組の煽りで、すつかり零落し文二郎も病床にあります。更に肝心の直吉が裏切り、松木の盃を受け幹部に収つてゐたのです......
シリーズの第二作ですが、前作とはストオリイの関連はなく、主人公の名前も違ひます。ヒデキは父が流行り病で死に、孤児となつたところを佐々木孝丸に引き取られ一人前になりました。ここでは佐々木は立派な人格者。英樹は男も惚れる男振り、腕も経つ仁義にも厚い、少しカッコ良すぎるんぢやないかと思ふくらゐです。
一方川地民夫は父親が佐々木の身代りとなつて死んだらしいので、佐々木が自分の後継ぎとして育てました。佐々木は和泉と一緒にさせたいが、川地自身は和泉の本心(高橋に惚れてゐる)に気付いてゐるので、あまり積極的な態度を見せません。裏切者として佐々木からは恨まれますが、高橋が信じたやうに、これには事情がありました。内田朝雄が借金のカタとして和泉雅子を要求したため、彼女を救ふ為に、心ならずも内田側に付いたのでした。
和泉雅子は相変らず可憐ですが、あからさまな「清二💛」の態度は少し困りますね。これでは川地の立場がありません。川地が戻つてから、佐々木は矢張り二人を一緒にさせたいやうだが、和泉は去る高橋に「待つてます」と告げるので、うまくいかないでせう。尚キネ旬の「あらすじ」によると「(清二は)お初にそっくりな遊女に会ったことから、お初恋しさに清二は再びめ組に帰ってきた。」と云ふくだりがありますが、実際の映像にはそのやうなシーンはないみたいです。
その他、山内賢は出番は少ないが、孤児の高橋が改めて家族愛に憧れる存在として登場。妹が西尾三枝子さん。ワルのカシラは内田朝雄、用心棒が木浦佑三、子分も藤岡重慶なので頼りない。別口のワルに弘松三郎、河野弘、無気味な刺客に田村保などが出ますが、我らが英樹の敵ではありませんでした。
クライマックスの大立ち回りも含め、兎に角ヒデキをカッコよく描く為の映画と申せませう。ロウソクを活かした撮影が印象的で、まるで怪談を語るかのやうなアングルもあります。いろは四十八組が一斉に大挙して助つ人として現れる場面は中中の高揚感。
東映任侠のやうに、主人公が耐へに耐へた挙句に(その間に仲間が次々と死ぬ)、最後に漸く怒りを爆発させる、といふものではなく、本作のヒデキはその度一々行動を起こし大暴れしてくれるので、観客もストレスが溜まらないので良いです。
前作以上の出来だと思ふのですが、不入りだつたのかシリーズはこれで打ち切り。まあ、似たやうな単独作品が多いので別に好いんですけどね。
2024/09/25 (水) [日本映画 に]
#1736「日本仁侠伝 血祭り喧嘩状」
カマのメシだけは喰ふな、と親父の遺言だ
製作年:1966年
製作国:日本
製作会社:日活
監督:舛田利雄
出演:高橋英樹/芦川いづみ/宍戸錠/和泉雅子/藤竜也/太田雅子
公開:1966年4月10日
1966年製作・公開の「日本仁侠伝 血祭り喧嘩状」。「任侠」ではなく「仁侠」。監督は舛田利雄、原作は松浦健郎、脚本はこの二人が担当。音楽は伊部晴美。主題歌「緋牡丹仁義」を歌ふのは三橋美智也であります。
明治40年頃の房州・流川。当地でブイブイ言はせる黒岩一家に、緋牡丹の銀次郎(高橋英樹)と名乗る男が草鞋を脱ぎます。子分の一人・宮川(藤竜也)と仲良くなるも、親分の金助(神田隆)はワルで、ライヷル白浜組のシマをえげつないやり口で奪つたらしい。
或る日、その白浜組が殴り込みをかけて来ました。非は黒岩一家にあると知りながら、銀次郎は一宿一飯の義理から、金助を襲つた般若の面を斬ります。すると面は割れ、その下から女組長・小春(芦川いづみ)の顔が! そして眼も斬られてゐて、彼女は失明します。
白浜組は引き上げたものの、金助は徹底的に相手を潰すために喧嘩支度を命じます。実は宮川は小春の妹・玉枝(和泉雅子)と恋仲で、穏便に済ますやうに頼みます。すると代貸の勘八(玉川伊佐男)が宮川を斬つてしまふ! その現場を目撃した銀次郎はショックを受け、黒岩一家を飛び出します。加へて女を斬つてしまつた事を悔み、もう刃物は持つまいと決意します。
旅に出た銀次郎は、旅芸人一座の一人が川に落ちたのを救つた事が縁で、一緒に行動するやうになります。或る日の興行中、清次(宍戸錠)と云ふ男が騒ぎますが、銀次郎の説得で大人しくなります。この清次、実は宮川の兄で、弟を殺した「緋牡丹の銀次郎」を仇として探してゐるのでした......
高橋英樹さん主演の「日本仁侠伝」シリーズ第一作。父は伯爵で高貴な出自ながら、自由を求めて自ら渡世人となつた変り者と云ふ設定の「緋牡丹の銀次郎」に扮します。動機がイマイチ弱く感じるので、家を出るに当つて何か象徴的なエピソオドでもあれば良いと思ひました。背中に派手な彫り物を入れてゐます。
弟・藤竜也の仇として英樹を狙ふのが宍戸錠。しかし別の奴に英樹を殺されたくないので、彼を救ふ事もあります。そして誤解が解けたら一緒にワル征伐し、最後は自分ひとりがやつた事にして英樹を救ひます。この辺はエースのジョーと同じで、一寸嬉しい。
そして女優陣が充実してゐます。まづ女親分に芦川いづみさん。但し英樹に面ごと斬られて盲目となつてしまふので、殆どが眼を閉ぢた暗い表情での出演。ポスタアでは眼を見開いた顔で、英樹に次ぎジョーと同格扱ひ。
和泉雅子さんはいづみさんの妹役。「男の紋章」シリーズをはじめ、英樹とはコムビが多いけれど、ここでは藤竜也と恋仲設定。しかし彼が殺されてやはり暗い影を宿してゐます。仄かに英樹への慕情を忍ばせる演技が良い。ポスタアでは英樹・ジョー・芦川に次ぐ扱ひ。
太田雅子は旅芸人一座のヒロインとして登場、実質的な英樹の相手役となります。梶芽衣子としてはバイオレンスな印象が強いけれど、かういふ淑やかな役もグッドであります。ヒデキに向つて「イー」をする表情が可愛い。しかしポスタアでは申し訳程度に片隅に小さく顔が写るだけ。当時の芦川・和泉・太田の格差をそのまま表す扱ひですね。
その他、白浜組の代貸に小高雄二、いたぶられ痛めつけられるだけの出演といふ感じで気の毒でした。前述の藤竜也は気の良い奴ですが、退場が早く残念。旅芸人の座頭に高品格、女形に野呂圭介(無気味なメイクでヒデキに迫る。殺伐とした本作の中では珍しくコミカルな場面)、銀次郎と昔馴染みで憲兵大尉の新克利、ワルのカシラに神田隆、その手下に玉川伊佐男、杉江弘、別枠で深江章喜などが集結。
鶴田浩二・高倉健といつた絶対的な二枚看板を持つ東映は、ストオリイをパタン化することで様式美を確立しましたが、日活としては、専任の任侠スタアを持たぬ代りに、逆にアイデアで勝負する感じで脚本に色色工夫がみられるのが成功した一篇と申せませう。
2024/09/24 (火) [日本映画 に]
#1699「人間魚雷回天」
死なない絶対の方法は生れないことだ
製作年:1955年
製作国:日本
製作会社:新東宝
監督:松林宗恵
出演:木村功/岡田英次/津島恵子/宇津井健/加藤嘉/殿山泰司
公開:1955年1月9日
新東宝戦争映画ウィークの四作目は、1955年公開の「人間魚雷回天」。津村敏行『人間魚雷回天』と斎藤寛『鉄の棺』を原作とし、監督は松林宗恵、脚本は須崎勝彌、音楽は飯田信夫であります。助監督に瀬川昌治の名前有り。
「昭和十九年、菊薫る秋」、劣勢の日本海軍は関谷中尉(沼田曜一)の指導の下、水中特攻「回天」の訓練に躍起となつてゐます。しかし当初15名ゐた回天搭乗員は既に7名が戦死してゐて、この度更に岡田少尉(和田孝)が計器の不備の為、訓練中に殉職します。自分が搭乗する艇の速度も分からないシロモノらしい。
残るメムバアの玉井少尉(木村功)、朝倉少尉(岡田英次)らが追悼を捧げる中、出撃して戦死したと思はれた村瀬少尉(宇津井健)が帰還しました。艇の故障で発進できなかつたのですが、これが二度目といふ事で周囲の視線は冷たいのです。
その数日後、今度は朝倉が訓練中に艇の故障で遭難しかけます。自力で脱出し、救助に来た玉井や村瀬に感極まり「生きてる事は文句なく素晴らしい」と語りますが、皮肉な事に回天の出撃が決つたばかりでした。
その前夜、菊水隊のメムバアは主計少佐(丹波哲郎)らと宴会、最後の夜を楽しんでゐましたが、玉井は怏々として愉しまず、一人部屋に籠つてしまふ。そこへ恋人の早智子(津島恵子)が来て、二人は浜辺で最後の逢瀬を過します。朝倉は一人で宿舎に残り、東大の先輩で世話係の田辺一水(加藤嘉)と語り明かします。
盛大な見送りを受け、伊号潜水艦は回天乗組員たちも乗せて出撃します。見届けた早智子は自ら海に身を投じました。潜水艦は敵の駆逐艦に遭遇し、関谷が真先に回天で出撃! 続いて朝倉、玉井、村瀬も続きます......
そもそも「人間魚雷」なる呼称からしてふざけてゐますな。劇中の岡田英次のセリフ通り、「人間を人間として扱はないこと」を前提とした作戦しか立てられないなら、戦争なんかやめてまへと思ひます。将来を担ふ若者たちを、事もあらうに国家自らが殺すなどは言語道断であります。
松林宗恵監督は、その怒りと共に反戦の思ひをぶつけました。自身の姿は、「龍谷大学卒業の僧侶・川村少尉(高原駿雄)」に投影されてゐます。飄飄とした雰囲気のキャラクタアですが、彼自身も「回天」搭乗員で、僧籍なのに人殺しに行くなんて地獄行きだなと自虐的に語る姿が印象的。
岡田英次が「生きる事の素晴らしさ」を実感し、それを公に口に出来ないもどかしさを表現します。老農夫の横山運平が十年後の話をするのを聞いて、老人でさへ十年後の夢を語れるのに若い自分たちはそれが出来ぬ事を嘆くシーンは印象的。でも最後の夜にカントの『純粋理性批判』を原書で読むなど、少し嫌味な感じもします。
木村功と津島恵子の最後のデートシーンがまた泣かせます。あと三時間しかないと云ふ木村に、私の分を合せたら六時間よ、応じる津島がいぢらしい。将来を語るのが若者の特権と思つてゐたら、それも出来ないと嘆く木村。そして空想の「無人の海水浴場」を歩く二人は、個人的にこの映画の白眉と存じます。服装もデートに相応しいお洒落なものになつてゐます。
宇津井健は二度まで生還した経験があり、周囲から白眼視され自身も苦しみます。「戦争に行つたらお国の為に死ぬ」のが美徳で、生きて帰れば「恥かしながら」と云はせる世論。三者三様の「回天」への思ひが交錯するのです。
脇役陣も良くて、特に世話係の殿山泰司と加藤嘉は上手いです。主計少佐の丹波哲郎は眼鏡をかけて少しユウモラスな感じ。小高まさるは18歳とかなり実年齢より若い設定で、実際には三歳若い宇津井健から「せめて俺の年齢まで生きろ」と言はれてゐます。一方で織本順吉や御木本伸介(鈴木紳也名義)は目立たちません。
卑怯な役が多い沼田曜一が部下思ひの人格者で、逆に高橋昌也が典型的な堅物軍人、神田隆は事なかれ主義の中佐、整備兵曹長の西村晃はワンシーンのみの出演、イ号潜水艦艦長の伊沢一郎と、結局青酸カリを回天乗組員に渡せない軍医長の増田順二も終盤で見せ場を作りました。
本作の後も回天ものの映画は幾つも製作されましたが、反戦への願ひやドラマ性の高さを保つ本作の価値が減ずる事は無いと存じます。人間の命を余りに軽んずる為政者たちに見せたいけれど、あいつらにはどうせ蛙の面に何とやら、なのでせう。あゝ情けない。
2024/08/18 (日) [日本映画 に]