カテゴリ:  一発シリーズ (1/1) | 源氏川苦心の銀幕愉悦境
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  一発シリーズの記事 (1/1)

喜劇 一発大必勝

無題

#00162「喜劇 一発大必勝」
粗暴な男が浮き彫りにする人間模様


製作国:日本
製作会社:松竹(大船撮影所)
監督:山田洋次
出演:ハナ肇/倍賞千恵子/谷啓
公開:1969年3月15日


 タイトルに「一発」を冠した三部作(監督自身にはさういふ意識はなかつたらしいが)の最終作にして、山田洋次監督×ハナ肇主演映画の最後の作品であります。タイトルは松竹によるもので、監督は気に入らなかつたみたい。まあ、さうでせうねえ。
 これはまた凄い男を創造したものであります。とにかく粗野、とにかく粗暴、とにかく下品の良いところなしの男・団寅吉(ハナ肇)。

 舞台はまたも日永といふ名の地方都市。ここでバスの車掌をしてゐるのがヒロインのつる代(倍賞千恵子)。幼子を抱へた一児の母であります。昭和40年代はまだ、バスに車掌が乗つてゐました。ここでは二人も乗務してゐますが、これは見習いですかな。乗客のお婆さん(武智豊子)に「墓場行きですよ!」と叫ぶのが笑へます。
 つる代の住む貧乏長屋では死人が出たらしく(遺影がいかりや長介)、その男の友人といふのがボルネオから帰つてきました。これが寅吉であります。寅吉は長屋の面面(田武謙三・佐藤蛾次郎・佐山俊二・桑山正一ら)ともめ、大暴れをして何もかも滅茶苦茶に破壊し、住民を震え上がらせるのでした。田武謙三たちは、住民たちから集めた組合費(?)を手切れ金とばかりに寅吉に差し出し、寅吉は一旦長屋を去ります。

 しかし長屋の連中がバスで旅行中に、運悪く寅吉に見つかり、再び寅吉は長屋に居座ります。寅吉が怖くてへいこらする事なかれ主義のおやぢたちに愛想を尽かしたつる代と、つる代に気が有る左門(谷啓)の二人が寅吉と対決、寅吉に大きなダメージを与へます。苦しんで動けない寅吉に、ここぞとばかりに痛めつける田武佐藤佐山桑山の卑しい人格を見ました。山田監督も罪な場面を挿入するものです。
 回復した寅吉は、つる代の夫が服役中で、手切れ金としてつる代に三十万円要求してゐる事を知ります。何とかしたい寅吉と左門。寅吉は思ひ切つた方法に出ますが......

 ちよつと馬鹿シリーズに似てゐますが、主人公がより暴力的で救ひやうがないほどです。むしろ倍賞と谷が「馬鹿」の役割ですね。あまりの粗暴な役に引いてしまふ観客がゐたかも知れません。その分谷啓が美味しい役どころでした。興行的にはイマイチだつたやうで、本作で山田×ハナコンビは終了。両者の間に何か確執でもあつたのか、たまたまなのか、わたくしは知りませんが。本作の僅か五か月後に、劇場版「男はつらいよ」の第一作が封切りされてをります。山田監督は渥美清といふ素材を得て、寅さんといふ国民的スタアを創造するのです。
 一方ハナ肇は、瀬川昌治や野村芳太郎らと「アッと驚く為五郎」のシリーズを展開しますが、やはり山田洋次を失つたのは大きかつたやうです。以降は助演に回るやうになります。ハナ肇による寅さんも観てみたかつたとも思ひますが、まあこれで良かつたのでせう。


ハナ肇の一発大冒険

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#00161「ハナ肇の一発大冒険」
小父さんが夢見たつていい


製作国:日本
製作会社:松竹(大船撮影所)
監督:山田洋次
出演:ハナ肇/倍賞千恵子/入川保則/犬塚弘
公開:1968年1月3日


 山田洋次監督とハナ肇主演によるロードムーヴィーであります。ほぼ全篇ロケの不思議な物語。
 ハナは肉屋の主人。或る時フランスよりある女性名の葉書が届きます。それを持つて、旅行会社へ渡仏の相談に行くハナ。担当者になぜフランスへ行きたいのかを語り出します。「どうせ信じないでせうね」と前置きしながら......

 ハナはある日外回り中に立ち寄つたレストランで、謎の美女(倍賞千恵子)と同席します。彼女は、ハナに自分を守つてくれと頼みます。自分はダイヤモンドを京都まで運ばなくてはならぬのだが、どうも追はれてゐるやうだ、一緒について行つてほしいと。承知したハナは、車で護衛しながら同行するのです。
 実際間の抜けた二人組のワル(石井均・なべおさみ)は執拗に追つてくるし、行き先が北陸に変更になるし、山道で病気の登山客(入川保則)を助けるしで、大変な目に遭ひます。

 さらに殺人犯と遭遇し、何とか逃げますが入川は犠牲になつてしまひます。完全に遭難状態の二人でしたが、ハナの励ましと頑張りで何とか助け出されました。
 任務を無事に終へた倍賞とは、いよいよ別れです。ハナの脳裏に、彼女と過ごしたあれこれが甦り、複雑な感情が入り混じるのでした。切ない喃。彼女はその後、念願のフランス行きを果したやうです。

 話し終つて、さつぱりしたと云ふハナ。何やら吹ッ切れたやうで、フランス行は止めますと告げ、去るのでした。そしてまた、ふらりと入つたレストランで、美女と同席しますが、ここの演出が気が利いてゐるのです。またこれから何か起きるのか?と思はせて劇終となります。
 誰でも大なり小なり持ち合せてゐるだらう蒸発願望を、美女との大冒険に絡めました。平凡な肉屋のをぢさんだつて夢を見てもいいでせう。一連の山田洋次監督作品とはイメエヂが異なる逸品と申せませう。


喜劇 一発勝負

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#00160「喜劇 一発勝負」
日本親不孝物語


製作国:日本
製作会社:松竹(大船撮影所)
監督:山田洋次
出演:ハナ肇/倍賞千恵子/谷啓/加東大介
公開:1967年8月5日


 馬鹿シリーズから3年、今度は「一発」シリーズを世に送り出した山田洋次監督とハナ肇のコンビ。しかし監督としては単発作品の心算で、当初のタイトルは「日本親不孝物語」だつたさうです。それを松竹が勝手に一発勝負といふタイトルに変更してしまつたと、山田監督が不満げに語つてゐました(DVDの特典映像)。確かに「一発勝負」では親不孝のテエマは伝はらず、ハナがボーリングで温泉を当てる大バクチの方を強調する感じです。

 加東大介の父親に迷惑ばかりかけてゐるハナの息子。何しろ学生の身で妾を囲ふ奴で、勘当されます。おまけに他所で拵へた赤子が出てくる始末。加東はしかたなく引き取り、娘として育てます。ハナには妹がゐて、これが倍賞千恵子さんです。ますます寅さんに近くなります。ここでは、さくらよりも自己主張が強い、やや奔放な妹を演じてゐます。山田作品としては、上品なお嬢様の岩下志麻よりも、身近な下町のおねえさんの倍賞の方が合ひます。

 十年後に突然ハナは家に帰り、酒を飲んで御機嫌のところで、倒れてそのまま死んでしまひます(!) ところが葬儀の途中で生き返り、棺桶の中から出てきて一同大騒ぎ。喜劇とはいへ、このへんの説明は欲しいところであります。
 生れ変つたハナは、温泉を掘り当てやうとボーリングを開始します。犬塚弘桜井センリを手下に、技師の谷啓を雇つて自信満々。一方谷はやたらと「プロパピリティの問題で」と繰り返して頼りない。高速まばたきも披露。
 誰もが絶望視してゐたその時、奇跡的が起きます。つひに温泉が出たのです。一躍成功者となつたハナは、一大ヘルスセンターを建設・運営に当ります。しかし社長ではなく何故か専務らしく、社長には電話でペコペコしてゐます。昔からの使用人である北林谷栄には、それが不満であります。

 そんな時、ハナの末妹(実は娘)のマリ子が、チャライ若者たちと東京へ行きたいと言つて、加東を困らせてゐます。この若者は当時スパイダーズの堺正章井上順。マチャアキはともかく、井上順さんは中中のイケメンであります。もつともこの人、現在もあまり変りませんが。
 ハナは最初はマリ子に理解を示しますが、実は自分の娘だと知らされると、一転して反対します。しかしマリ子は振り切つて行つてしまひます。思はず叫ぶハナ。「親不孝もの~!」 それを聞いて加東は、「ざまあみろ!」 親不孝は続くよ......

 馬鹿三部作ほどの風刺といふか毒気は有りません。ストオリイも明快単純で、その分素直に愉しめる一作となりました。ハナ・谷・犬塚・桜井のクレージーのメムバアは流石に息が合つてゐるし、倍賞千恵子は活動的な可愛らしさが魅力的だし、北林谷栄は「坊つちやん」の清を思ひ出させるし、ギューちやん加東大介は安定の巧さを見せます。瑕疵は色色あるものの、安心して鑑賞できるシャシンと申せませう。
 それにしてもこの当時、タイトルに「喜劇」が付く映画が多いですね。駅前シリーズの影響なのかな。