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にっぽんGメン 特別武装班出動

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#1622「にっぽんGメン 特別武装班出動」
当時のお台場周辺の映像が面白い

製作年:1956年
製作国:日本
製作会社:東映(東京撮影所)
監督:小石栄一
出演:波島進/高倉健/堀雄二/浦里はるみ/萩京子/小沢栄
公開:1956年7月25日


 「にっぽんGメン」シリーズ、本来なら次は第三作目の「不敵なる逆襲」を取上げたいところですが、残念ながらわたくし未見なので、これは飛ばします。といふか、この作品は現在見られるものでせうか。名画座系でも上映された話は聞かないし、東映チャンネルでも多分未放送の気がします。フィルムが現存しないのでせうか。

 その「不敵なる逆襲」から五年を経て製作された、第四作「特別武装班出動」であります。監督は小石栄一、脚本は春万作と云ふ人ですが、寡聞にして存じ上げません。他にも何か書いてゐるのでせうか。音楽は飯田三郎

 とある居酒屋から発見された偽札を巡り、刑事たちが捜査に当ります。新人園川刑事(高倉健)のお手柄で、それは近所の印刷会社を営む井原(吉川英蘭)が、映画会社から依頼されて作つた小道具でした。ヤレヤレ、これで一件落着かと思はれましたが、偽札製造集団のカシラ・安部(小沢栄=栄太郎)が井原の腕を見込んで拉致し、偽札を大量に作らせます。それで御払ひ箱になつた技術者の塩谷(杉義一)を用心棒の依田(伊藤久哉)に命じて殺してしまふ。

 安部は密輸団の宮崎(斎藤紫香)とタッグを組み、香港のギャング・ゴーサル(ハロルド・コンウェイ)の持つ麻薬と取引をせんとしてゐます。かつて宮崎を追つてゐた元刑事の影岡(波島進)は、逆に宮崎の罠に嵌り、汚職刑事の汚名を着せられて免職になつてゐます。

 生沢刑事(堀雄二)は塩谷の死体から見つけたトランプを発見、その出所はバア・バッカスの女給あけみ(浦里はるみ)だと云ふ。丁度その頃、偽札を使用せんとして見破られたあけみを、笠野刑事(高木二朗)が尾行しますが、失敗して捕つてしまひ、拷問を受けた末に殺害されてしまふ! 怒りに燃える影岡は、「元悪徳刑事」の肩書でワルどもの仲間に入り込み、潜入捜査をするのですが......

 前作から五年のブランクの間に、チャンバラ禁止が解除され、千恵蔵御大も時代劇に戻りました。それで本作では、既にシリーズ開始してゐた「警視庁物語」のテイストに近いものにシフトしてゐます。出演陣もかなり被つてゐます。なので一人の大スタアにスポットを当てるのではなく、チームで事件を解決する群像劇です。

 波島進・高倉健・堀雄二を中心に、松本克平・石島房太郎・須藤健・佐原広二・高木二朗・片山滉らが警察側。一方でワル側に廻つたのが、斎藤柴香・加藤嘉・大東良・山本麟一・杉義一・南川直ら。専門ワルは小沢栄・伊藤久哉・藤井貢・ハロルド・コンウェイ(「日本警察を愚弄する札つきのギャング」と呼ばれる)となります。

 女優陣はヒロイン枠が萩京子さんですが、一寸大人しすぎて印象が薄いのです。寧ろ悪女枠の浦里はるみが物語に絡みます。ただ、偽札を使はうとして直ぐに足がつくなど不格好だし、波島進に惚れてしまひ彼を救はんとして自身が殺される過程が、少し粗つぽい展開でした。

 どうせなら「警視庁物語」の世界をなぞつてリアルな刑事ドラマにすれば良かつたと存じますが、ラスト近くのドンパチでそれは完全に破られてしまひました。しかもこの銃撃戦、いまいちテムポが悪いのです。活劇として、もう少し心躍るものが欲しいですね。
 この作品の楽しみ方としては、健さん始め懐かしい顔ぶれの面面や、当時のお台場や牛田駅でのかき氷、京成線の高架付近の雑踏とか、昭和感たつぷりの映像を堪能する方が宜しからうと思つた次第であります......

現代任侠史

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#1569「現代任侠史」
実録物に無理矢理任侠道を挿入する

製作年:1973年
製作国:日本
製作会社:東映(京都撮影所)
監督:石井輝男
出演:高倉健梶芽衣子安藤昇/夏八木勲/郷鍈治/辰巳柳太郎
公開:1973年10月27日


 石井輝男シリーズも愈々佳境に入つて参りました。1973年製作・公開の「現代任侠史」であります。脚本は橋本忍。ほう。音楽は木下忠司。女性コーラスを交へた劇伴が印象に残ります。主演は高倉健

 元松田組の幹部・島谷良一(高倉健)は、現在堅気となり寿司屋の主人に納つてゐます。現在は松田組は先代の実子・初治(郷鍈治)が継いでゐます。良一の父はペリリュー島で戦死し、その遺品の日本刀を引き取つてきました。此の件はマスコミの好餌となり、ルポライター仁木克子(梶芽衣子)も良一に取材を重ねます。その経過で二人の仲は接近し、結婚の約束をするまでになりました。

 サテやくざ世界では、大阪永井組の若頭・栗田(安藤昇)が、関東に乗り込み無駄な抗争を阻止すべく、連合会の結成を呼びかけます。大勢は賛成に回つたものの、松田がこれに反対します。大阪の永井(内田朝雄)の関東進出の野望と、松田組の殲滅を狙ふ関東関口組(小池朝雄)の思惑が一致したものと見たからです。しかしそのせいで松田に対する嫌がらせが頻発、幹部の船岡(夏八木勲)や中川(成田三樹夫)はいつまでも頑なな松田を責めます。

 追詰められた松田は覚悟を決め、良一の寿司屋を訪ねて最後の別れを告げます。単身関口組へ殴り込んで壮絶な最期を遂げます。血だらけ。続いて船岡も高速道路上でダンプに囲まれ殺されます。関口組・松田組の仲裁に入つてゐた栗田ですが、親分の永井が関口と手を組んでゐる事が分り、さらに大ボスの湯浅(辰巳柳太郎)と会見します。
 仲裁の成功を良一に報告する栗田ですが、これは罠で、良一の寿司屋を出た瞬間、中川ともども撃たれてしまひます。結婚が決つてゐた良一は、「行かないで」と縋る克子を残し、父の日本刀を胸に湯浅の元へ殴り込むのでした......

 「仁義なき戦い」の成功により、実録路線へと舵を切つた東映。本作でもその路線は堅持しつつも、任侠路線の顔である健さんを起用する事で、あらたな任侠映画の模索もなされてゐます。冒頭で飛行機のタラップを降りる健さんが何とも場違ひな着流し姿であることがそれを如実に表してゐると申せませう。

 物語は、表向きは抗争阻止の為に大団結しやうと関西勢が関東勢に乗り込むのを、その陰謀に気付いた抵抗勢力が次々と殺され、足を洗つた健さんが再び渡世の道へ戻る、といふもの。かつて健さんがゐた松田組には郷鍈治、成田三樹夫、夏八木勲ら。このシマを狙ふのが関口組の小池朝雄。関西の内田朝雄が小池と組んで、松田組を潰しに行きます。更にバックには辰巳柳太郎が控へます。親分の内田に裏切られた立場の安藤昇が、苦悩満点の演技を見せます。そしてその最期は、まさに仁義なき世界!

 そこへ旧来のヤクザ・高倉健が乗り込む構図で、無理矢理実録路線に放り込まれた感があります。何より健さんには盃外交は似会ひません。寿司屋の主ですが、自ら握る場面は無し。職人の南利明田中邦衛は良いコムビです。芸者を連れた客の笑福亭仁鶴は勘定の高さにぼやきます。

 それよりも本作は、梶芽衣子さんを堪能する映画と申せませう。さそりシリーズでアウトローのイメエヂを決定付けてゐた彼女が、事もあらうに正統派ヒロインです。明るく活発なルポライター役。健さんが梶の両親に挨拶しなければ、と言つた時の嬉しさうな顔と、結婚を待つて欲しいと言はれた時の絶望的な眼の落差。見てゐる方も辛くなるのでした。そして健さんが分れの際、「幸せだつた」と過去形で語るのを、「行かないで」と縋る姿は哀しい。わたくしだつたら、梶芽衣子さんにさう言はれたら行かないな。しかし大きな眼であります。

 観客も、任侠スタア健さんが、ドキュメンタリイタッチの中に一人昔の侠客として居心地悪さうにしてゐる違和感を抱いたか、興行的にはイマイチだつたさうです。やはり群像劇の実録物に、従来のスタアが入り込む余地は無かつたか。これでは石井監督独特の諧謔調も、影を潜めたのも無理はございませんでした。結果的に、十年続いた東映任侠路線はここに終焉を迎へたのでした。
 

顔役(1965)

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#1566「顔役(1965)」
グループを掌握できない鶴田浩二

製作年:1965年
製作国:日本
製作会社:東映(東京撮影所)
監督:石井輝男
出演:鶴田浩二高倉健/三田佳子/佐久間良子/長門裕之天知茂
公開:1965年1月3日


 石井輝男シリーズ、今回は1965年1月3日公開の「顔役」であります。製作年も1965年となつてゐますが、たつた二日で撮れる筈がないので、実際には1964年と思はれます。脚本は笠原和夫深作欣二石井輝男の濃ゆいトリオ。紆余曲折があつてこの顔ぶれになりました。音楽は八木正生。劇中で高倉健と三田佳子が「網走番外地」を口ずさむシーンがあります。

 関東のヤクザ組織「関東城政会」では、①大産業地帯指定埋立地で儲けやうぜ!②関西から「関西同志会」なるヤクザ組織が東京進出を狙つてゐるので、これを阻止せよ! の二大議題をもつて大々的に幹部会を開きます。大幹部の花岡(天知茂)が仕切つてゐますが、本来なら会長・檜山(安部徹)の身代りに10年もの臭い飯を喰つてきた中神(鶴田浩二)がその役目をするべきだらうと、弟分の早見(高倉健)は怒つてゐます。しかも檜山は又も、かかるやつかいな問題を中神に押し付けます。

 中神は早速、堅気になつた旧友・柏田(大木実)の仲介で、土地の顔役・小杉(曾我廼家明蝶)と面会、埋立地工事の入札を関西に渡さぬやうに依頼します。小杉は渋渋認め、関東城政会に工事権を与へますが、その裏で早見が地元の市長(神田隆)を脅してゐる事が発覚、中神は指を詰めて詫びます。そして必ず工事は完遂する事を約束しますが、波乱含みの幕開けとなりました......

 鶴田浩二がそのイメエヂ通りの、筋を通すヤクザを演じます。いつも思ふが、こんな人格者がどうしてヤクザになるかね。十年も身代りで勤め、出てくると天知茂がマウント取つてゐる。それでも文句言はず、安部徹の野望成就の為、難儀な仕事を引き受けます。女房は盲目の佐久間良子で、子供が出来たばかり。

 こんな兄貴分にイラつくのが、弟分の健さん。結構チンピラつぽく、ヤンチャです。勝手に神田隆を脅したりして結果的に鶴田を追込んでしまふ。短気で失言が多いと鶴田からいつも注意されてゐます。元カノが三田佳子で、今はブンヤの長門裕之にアタックされてゐます。長門は中中優秀のやうで、例の埋立地では、農地には適さない土が搬入されてゐる事を突き止めます。此の件から安部徹が、住宅地に転用せんと目論む開発会社社長の内田朝雄と結託してゐた事が判明、流石の鶴田も安部に意見しますが......

 鶴田組に健さんの他、江原真二郎曽根晴美待田京介アイ・ジョージ。江原は天知と裏で通じるワルでした。待田は顔に大きなあざがあるのですが、それを全く気にしない藤純子に惚れます。でも今回の藤はかなり天然、と云ふか足りない感じ。しかも大喰ひ。

 関西勢は遠藤辰雄がふてぶてしくて結構。工事現場に放火するなどしますが、関東勢に報復を受けます。瀕死の状態で、刑事に誰にやられたかを聞かれても答へず、「ヤクザのカタはヤクザがつける」と、息を引き取るあたりは案外潔い。

 で、健さんはヤクザの道を外したとの事で、鶴田が責任を持つて始末をつける事に。当初はこの結末に不満を漏らしたわたくしですが、今ではまあ分かります。何故なら、ワルは結局安部徹-天知茂ラインの身内で、此奴らが死んだ時点でもう物語は終つたも同然だから。天知なんかは、佐々木孝丸ら親分衆から信頼されてゐませんでしたからねえ。この鶴田の命懸けの仲裁で、関西同志会は以後、関東から手を引くと宣言、健さんの死は無駄になりませんでした。

 とは云ふものの、エンタメ的にはやはり物足りないラストでした。最初から単独でシナリオを書いてゐれば、或は印象の違ふ作品になつたかもしれませんが、今更詮無い事ではあります。
 

いれずみ突撃隊

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#1565「いれずみ突撃隊」
何の縁もない者たちが殺し合ふ

製作年:1964年
製作国:日本
製作会社:東映(東京撮影所)
監督:石井輝男
出演:高倉健/杉浦直樹/朝丘雪路/津川雅彦/三原葉子/砂塚秀夫
公開:1964年10月21日


 乗つてきた石井輝男特集、次は1964年の戦争アクション「いれずみ突撃隊」。脚本も石井自身、音楽はこれも八木正生であります。

 主演は高倉健。親分なし子分なしの一匹狼のやくざ、衆木一等兵の役。見事な彫り物を入れてゐます。正義感が強く相手が上官でも反抗するので、各部隊で鼻つまみ者として嫌はれ、転属に転属を重ねます。そして今回は南支派遣軍杉野三中隊に転属となりました。

 ここでも暴れる衆木は、特に阿川准尉(安部徹)から睨まれ、軍法会議送りになるところでしたが、話の分かる安川中尉(杉浦直樹)のお陰でそれは回避されます。当初は安川にも反抗する衆木でしたが、腕力に於いて勝り、浅草一帯をシマとする大親分の息子である安川には叶はず、以後安川を「兄貴」と呼び慕ふやうになります。

 衆木の気風の良さは慰安婦たちにも人気。中でも衆木と同郷のみどり(朝丘雪路)は、お互ひに惹かれ合つてゐる様子。しかし両者とも素直でなく口喧嘩ばかりしてゐます。このみどりに阿川が横恋慕し、看護婦として送り込まれる彼女を、私情から無理矢理メムバアから外します。
 反発するみどりは、衆木らと一緒に馬車に乗り込んだ仲間を追ひ、さらに彼女を追ひかける阿川。衆木は引き返しますが、阿川はみどりを銃で撃つ! そして次の標的は衆木。これまでかと思はれましたが、阿川は八路軍の銃弾を受けて倒れるのでした......

 まるで「独立愚連隊」を思はせる、西部劇のやうな戦争アクション。喜八組の砂塚秀夫が出てゐるので、余計にさう感じます。健さんが理不尽な上官に反抗しまくる痛快なキャラクタアを演じます。杉浦直樹がヤクザの大物の息子と知り、「ははあ~ッ」となるあたりは、「兵隊やくざ」も交つてゐますかね。杉浦直樹は、岡本喜八作品なら仲代達矢の役どころですが、案外出番は少なく、最期も呆気ないものでした。

 女優陣は従軍慰安婦に限定され、朝丘雪路がメインで健さんと心を通わせるのですが、物語半ばで退場してしまひます。寧ろ三原葉子と、名古屋弁の殿岡ハツエがより印象に残ります。特に三原は儲け役で、最後まで健さんと絡みます。カネを貯める事に熱心ではありますが、所謂守銭奴ではなく、人間味があります。兵隊の為に御粥を焚くものがない時に、自分の紙幣を燃やす姿は切ない。やはり石井監督の時は美味しい役が多いですな。

 クライマックスは八路軍との大騎馬戦。敵は一切個人を特定しません。一見スペクタークルな血沸き肉躍るシーンですが、同時にお互ひ知らない間柄なのに殺し合ふ状況を生み出す戦争と云ふのは、やはり狂つてゐます。その責任を取らない愚劣な為政者の存在も洋の東西を問ひません。八路軍の襲撃に絶望的な状況になり、最後は一人だけ生き残つた健さんがふんどし一丁で単身特攻攻撃をかけるところで幕となるのでした。勿論、靖国神社に祀り如何なる理由付けをしても、皆犬死にであります。

 ところで、石井輝男作品では、矢鱈と「衆木(もろき)」と云ふ名の人物が出てきます。内田百閒の「甘木さん」みたいに何か意味があるのでせうか。誰か教へてください。

ならず者(1964)

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#1563「ならず者(1964)」
人を騙した事が無い「ならず者」

製作年:1964年
製作国:日本
製作会社:東映(東京撮影所)
監督:石井輝男
出演:高倉健丹波哲郎/杉浦直樹/江原真二郎/三原葉子/南田洋子
公開:1964年4月5日


 次なる石井輝男作品は、1964年の「ならず者」。監督に加へ脚本も担当してゐます。音楽は八木正生
 殺し屋の南条(高倉健)は、殺しを請負ひ香港までやつて来て、あつさり暗殺を成功させます。事後とあるホテルにて美女が報酬を用意してゐる筈が、ベッドには女の死体が転つてゐました。南条は仕事の発注者・毛(安部徹)を探しますが、その過程で、ゲームコーナーで何やらの缶詰を景品としてゲットします。ところがこれは手違ひで、缶詰の中身は麻薬でした。南条はこれを宿で働く少女・小紅(高見理紗)に預けます。

 麻薬を手に入れた南条に接近したのが、明蘭(三原葉子)と云ふ女。彼女のボス・蒋(丹波哲郎)と面会した南条は、毛に関する情報と引換に麻薬を渡す事で話をまとめます。しかし明蘭は蒋を裏切り、独断で情報を南条に与へ、麻薬が小紅の部屋にある事を聞き出します。明蘭は小紅から麻薬を強奪し、その際弾みで小紅は死んでしまふ!
 
 それを知つた南条は怒り、その矛先は蒋へ。蒋もまた、情報を与へたのに南条が麻薬を渡さないと誤解し、二人は争ひます。しかし互ひに誤解と分かり、協力体制をとるやうになりました。蒋は明蘭を探し出し裏切りの報復として殺します。南条は蒋から聞いた毛のアジトへ向ひ、愈々復讐の時はやつて来ました......

 健さんが悪党を演じるクライムアクションであります。その生立ちからアウトローを運命づけられた男で、しかし人を騙した事はないと云ふ筋の通つたワルです。一方で弱い者、日陰で虐げられる者たちへの眼差しは優しい。ただ、少女の高見理紗(高見エミリーの姉)が死んでしまふのは、健さんに大いに責任があります。

 後半は相棒的存在となる丹波哲郎もよろしい。コイツもワルながら、非道ではなく理詰めで行動します。しかし三原葉子の裏切りは堪へたでせう。愛した女を抹殺せざるを得ない彼の心中は如何許りかと......
 それから麻薬Gメンの杉浦直樹も良い。俺は日本の警察だから香港では何も出来ない、などと態々健さんに告げて、まるで逃げるのを幇助するかのやうな言動が面白い。ギャンブラー江原真二郎も出番は少ないながらイムパクト大。ワルの安部徹は定番ですが、その極悪ぶりは言葉で語られるのみで、実際に憎憎しい描写が希薄なので最期のシーンもイマイチスカッとしません。

 女優陣も良い。クレジットを見ると加賀まりこがヒロインかと思つたら、ほぼワンシーンのみの登場で肩透かし。小悪魔なんて言はれてゐましたが、普通に美人女優だと思ひます。
 前半は三原葉子がメインで、これまた「地帯シリーズ」みたいに可愛い悪女を演じます。しかしやり過ぎて墓穴を掘るのでした。

 後半の中心は南田洋子。労咳の咳が止まらず、つひには血を吐いてしまふ。その血を健さんが吸ひ、命を助ける。騙され続けて人を信用できない女ですが、健さんが安部徹を始末した後、二人で日本へ帰らうとの言葉を信じ、約束の時間に約束の場所で彼を待ちますが、すぐその前を、息を引き取つたばかりの健さんを乗せた警察車が通る......まことにやるせないのです。やはり騙された......と思ふのか。後に杉浦直樹が「あいつは死んだよ」と伝へたと思ひたいですな。

 香港マカオの一大ロケを敢行して、国際色豊かな一作となりました。東映東京としては案外カネをかけてゐるのでは。ショウブラザーズの面面も参加してゐます。日本人俳優の多くは中国語を結構話してゐますが、アレで通じるんですかね。かなり発音が怪しい人もゐましたが、きつと現地人が見たら嘲笑するのでせう。まあいいけど。