新幹線「焼身自殺」事件から考える、日本の福祉政策の悲しい帰結(舛添 要一) | 現代ビジネス | 講談社(1/2)
2015.07.07

新幹線「焼身自殺」事件から考える、日本の福祉政策の悲しい帰結

増え続ける「下流老人」と「子どもの貧困」
〔PHOTO〕gettyimages

今や日本でも「水と安全」はタダではない

6月30日、東海道新幹線の中で、男がガソリンをかぶり、焼身自殺した。乗客の女性一人が巻き添えで亡くなり、20余名もの重軽傷者を出す大惨事であった。最初はテロではないかとの憶測もあり、大騒ぎになったが、実はその男の身勝手な行動で、思想的背景などはないと見られている。

安全神話を確立している新幹線の車内で、これまで、このような事件は起こったことがなく、「火災」も初めてである。そして、安全という観点から、多くの課題を残した。

まずは、手荷物検査を実行するのか否か。飛行機では、安全検査が必ず行われるが、鉄道に関しては、そうではない。新幹線の良さは、出発間際でも飛び込めばよいという点である。ところが、航空機の場合は、セキュリティ・チェックの時間を余分にみなければならない。

かつて母親の遠距離介護で、東京と北九州市を往復したが、所要時間は、飛行機で1時間半、新幹線で4時間である。しかし、空港へのアクセス時間や手荷物検査などにかかる時間を考えると、所要時間の両者の差は1時間くらいになってしまう。さらには、機内に持ち込めないモノもあるし、通信機器の使用制限もある。

一方、新幹線では、30秒前に車内に入ればよいし、手荷物検査もないし、パソコンの使用なども自由である。そこで、私が主として遠距離介護に使ったのは、新幹線であった。駅弁を食べたり、寝たり、仕事をしたりと、いろんなことが自由にできるので、結局は、飛行機よりも有効に時間を使うことができるのである。

航空機内の種々の制限は、もっぱら安全上の配慮からであるが、新幹線で同様な規制をすれば、利便性は大きく損なわれる。

しかし、2020年のオリンピック・パラリンピック東京大会には世界中から人が集まるので、徹底したテロ対策が不可欠となろう。都庁でも、7月1日から、試行的に手荷物検査などセキュリティ対策を強化している。開かれた都庁が理想であるが、テロ対策との兼ね合いが難しいところである。

今後、国とも協議しながら、鉄道に関するテロ対策、乗客の手荷物検査や持ち込み制限などについて検討をしていきたいと思っている。一部の不心得者のために、多くの人の利便性が失われかねないが、今や、わが日本でも、「水と安全」はタダではないという認識を共有しなければならない時代となっている。

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