1年の夏、初めて他劇の同期役者と話した際、この空気感を打破したい、みたいなことを言っていた覚えがあります。
あの時の僕は、自分だったら出来るという全能感で満ち溢れていました。それが、役者としてであろうとなかろうと。
絶妙に尖っていた僕は、その流れで彼と話しました。彼と2時間くらい、こんな風にしてやる、変えてやると言っていた覚えがあります。自分のやりたいことも含めて。
彼とはその後もあったら話す、みたいな付き合いをしていました。けれど、1年の秋に彼の演技を観て以来、都合がつかずに彼の出る舞台に足を運ぶことは無くなりました。その間、僕は役者チーフになり、感情がひっくり返り、作演出になり、そして、引退公演の稽古をしていました。そうして、少しずつ彼と疎遠になっていきました。
昨日、ふと思い立って彼の引退公演を観に行きました。
僕の知らない様々な事象が起こっていたのは想像に難くありません。けれども彼はそれらを全て背負って、舞台を回していました。あくは強いかもしれないけれども、強度の高い役者になっていて、僕は帰り、思わず彼に「かっこよかった」と伝えました。彼は笑顔でそれに応えてくれました。そう、僕が受け取っただけかもしれないんですけれども。
これが、この2年間の始まりと終わりの顛末です。次に起きたら、仕込みの朝。
僕は何かを背負って舞台に立てるほど器用ではありませんし、実力があるわけでもありません。
ずっとやっていくにつれて、僕は僕以外に完全になることはできない、と悟るようになりました。
僕は僕以外ができるほど器用ではないし、仮に描けたとしても、それを実際に再現できるほどの安定性がなかったから。
技術についても同様で、知っているから使っているだけで、使いこなせているわけではなかったから。
自分のことを「低くて地面に埋まりそうなハードル」と称していたのはそのためです。
そして、僕が作演出という面で演劇と向かい合い始めてから、周りは僕をきちんと飛び越していきました。
今ではもうハードルですらありません。頑張ってついていくことに精一杯です。
でも、僕は本当に、全てを背負うような役者として、まっすぐ向き合えていたんでしょうか?
僕はこの引退公演をもって、役者を辞めます。特定の条件下でない限り。
これが、ある意味最後の公演です。
僕は、背中で引っ張っていくことが苦手です。
必ず横並びで、色々な視点を渡して、人の世界を広げることが大好きです。
そして彼ら彼女らが走り出して、それを笑って見送るのまでが、好きです。
同期も後輩も皆、駆け出して行きました。僕はその背中を眺めながら、ちょっとだけ感傷に浸りたいと思います。
でもちょっとだけ、追いかけたいなと思って、走り出すかもしれません。
大好きだから。
でも、ちょっとだけでも、背負ってみたかったかな。
目が覚めたら、仕込みが始まります。
一つ一つ組み上げられ、形となった芝居の、構成要素の一つとして、僕もいます。
全員で組み立てた結晶に、お客様という光を通して。
『ホーランド・ロップとくらせば』、間も無く開演します。
駒場小空間で会いましょう。
3年役者 東野
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