【アニメ制作会社研究 Vol.1】A-1 Pictures じっくり時間をかけて作り上げた「時季(とき)は巡る~TOKYO STATION~」の舞台裏 | ガリガリ

【アニメ制作会社研究 Vol.1】A-1 Pictures じっくり時間をかけて作り上げた「時季(とき)は巡る~TOKYO STATION~」の舞台裏

2015.05.27

今回より始まった新連載「アニメ制作会社研究」。第一回は、ヒットアニメの制作を数多く手がけているA-1 Picturesだ。阿佐ヶ谷、高円寺に二つのスタジオを持ち、多くの制作スタッフを抱える業界でも最大手の一つである。当社が手掛けたアニメCMや制作スタイル、アニメCMに関する今後について話を聞いた。

 


 東京駅の開業100周年を記念して制作された「時季(とき)は巡る~TOKYO STATION~」。シンガーソングライター・さかいゆうによる「時季(とき)は巡る」に乗せて、東京駅の魅力を一編のストーリーに仕立てた短編アニメーションCMだ。

 

 制作を手掛けたのは、『アイドルマスター シンデレラガールズ』『ソードアート・オンライン』といったヒット作で知られるアニメ制作会社・A-1 Pictures。ソニー・ミュージックエンタテインメント傘下の映像企画・製作会社、アニプレックスが100%出資して、2005年に設立された同社は、今年で設立10周年となる。

 

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「ソードアート・オンラインⅡ」
(c)2014川原 礫/KADOKAWA
アスキー・メディアワークス刊/SAOⅡ Project
「アイドルマスター シンデレラガールズ」
(c)BNGI/PROJECT CiNDERELLA

 

アニメーションビジネスの川上(作品制作)から川下(販売)まで、一貫して自社(アニプレックス)で手掛けることを目的に設立された同社だが、近年ではポニーキャニオンやキングレコードなど、他メーカー企画の制作を担うことも。現在放映中の2015年1月クールでは、計7本ものテレビシリーズを制作する、まさに旬のアニメスタジオのひとつといえる。

 

 そんなA-1 Picturesが2014年に制作した「時季(とき)は巡る~TOKYO STATION~」。そもそもは、同じグループ内のエムオン・エンタテインメントから声をかけられたのがきっかけだという。今回の企画立ち上げに関わった、エムオンの石毛克利氏はこう語る。

 

「東京駅の開業100周年を記念して、日本の中央駅である東京駅でしか出来ない企画をやりたいという話を東京ステーションシティ運営協議会(※)さんから頂いたんです。男女関係なく若い人からシニアの方までを対象に、キャッチーで注目を集めるものができないだろうか、と。で、そのとき “マンガ”というキーワードも挙がっていたので、それならアニメーションはどうだろうという提案をしたことが始まりでした。たまたまA-1 Picturesに私の先輩がいたので、その方を通じて同社の大松さん、野村さんを紹介して頂いたんですけど、そのときはA-1 Picturesが業界内でもクオリティに定評がある会社だという十分には理解しておらず、後から知って“すごいところに頼んじゃったな”と(笑)」

 

「アニメーションと音楽を使って感動できるもの」「曲を1曲使うので、尺は4~5分」といったポイントがいくつか提示された中、企画を受けることになったA-1 Picturesの大松裕プロデューサーは、その提案をどう受け止めていたのだろうか?

 

「僕は、将来的には映画をやりたいなという夢がずっとあって……。普段のテレビアニメシリーズも当然、大事なんですけど、それ以外のフォーマットで作品を作ってみたい。そういう気持ちがずっとあったんです。実際、いくつかCMの仕事で声をかけていただいたりもしていたんですが、タイミングが悪くて、立ち消えになってしまうことも多くて。なので今回のお話は、いいチャンスだと思ったんです。あと今回のフィルムでは、歴史的建造物である東京駅の絵を作ることができる。そこも大きな魅力でしたね」

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 実際に企画にゴーサインが出たのち、大松氏はさっそくスタッフ集めに着手する。
「今回の「時季(とき)は巡る~TOKYO STATION~」はCMなので、普段のアニメよりはユニバーサルデザインというか、より広い範囲の人たちに届くものにしなければならないんだろうな、と。なので、いわゆるアニメフレンドリーになりすぎない演出家なり、アニメーターなりを集めて。あともうひとつ大きかったのは、今回はクライアントの想いやメッセージをうまく咀嚼して、提出することが求められた。なので、監督を引き受けていただいた松本淳さんのクレジットが「演出」になっているんですが、いわゆる普段のテレビアニメシリーズの仕事――制作現場でテーマや目標を決めて、いちからモノを作っていくのとは少し違う。そういう意味を込めて『演出』というクレジットになっているんです」

 

 作品の中核となる脚本や演出家が固まり、いよいよ本制作がスタートしたのが、2013年の夏。松本監督を中心に、舞台となる東京駅のリサーチを重ねつつ、クライアント側の担当者を交えて作品のコンセプトを固めていった。
「じつは今回、最も苦労したのがコンセプトなんです。というのも、最初にブリーフィングだったりオリエンテーションがあって、そこから制作に入る……という形ではなかった。たぶん多くの広告の現場では、代理店の方が間に入って、クライアント側が何を表現したいのか――曖昧模糊とした想いだったりメッセージを明確化していくんだと思うんですが、僕たちにその技術はないわけです。だから何度も定期的にヒアリングをして、範囲を狭めて、違ってたらまたやり直して……という。それをひたすら繰り返して、コンセプトを固めていく。そこに制作の力の9割を注いだような印象があります」(大松)

   

 

 そうしていくつかプロット案を提出するなかから「主人公に結婚を控えた女性を据える」ということが決まったのは、翌年の年明け早々。シナリオが完成するまでに、半年ほどの時間がかかった計算になる。もちろん、そうやってじっくり時間をかけて制作が進められたことは、作品のクオリティとしてあちこちに反映されている。

 

「そもそも東京駅について、僕たちは何も知らない状態でしたからね。昔の東京駅と今の東京駅のどこが違うのか。あるいは、車掌さんや駅長さんどういう役割をはたしているのか。そして、この100年の間にいったいどんな出来事があったのか、とか。そうしたリサーチを重ねないと、作品のプランも立てようがなかったですから。そうした勉強をやりながら、演出の松本さんを中心に制作を進めていきました」(大松)

 

 さらに、シナリオが完成してからは映像の実制作がスタート。絵コンテから作画、仕上げ、アフレコ、ダビング……と作業は進み、フィルムが完成したのは2014年のゴールデンウィークあたり。約2か月半で完成に持ち込んだことになるが、この期間中も随時、クライアント側のチェックを受けなければならない。

 

「我々としても、どこまで進んだら後戻りができなくなるのか。そのあたりの感覚がわからなかったので、かなり細かくスケジュールを切ったうえで、クライアントにはチェックをしていただいています。ただ今回、チェックとスケジュールという面に関していえば、かなり異例だったと思いますね。というのも、A-1 Picturesさんの方でかなりいろんな資料を読み込んで、下準備をされていて。その状態で制作に入れたので、チェック自体がかなり簡略化できたんです。ミスに気付かないまま制作が進んで、後からあわてて修正する……みたいなことがほとんど起きませんでした」(石毛)

 

 そうして完成した作品は、YouTubeにアップされた他、首都圏のトレインチャンネルなどで使われ、またJR東日本の旅行商品である「TYO」の地上波CMでも使用されるなど、さまざまな場面で目にすることができる。

 

 では今回の経験を踏まえて、A-1 Picturesは今後、CM制作にはどう取り組もうと考えているのだろうか。A-1 Picturesの企画開発窓口を担当する野村信介氏は「A-1 Picturesの強みは、組みたい相手であれば誰とでも組めるところにある」と話す。

 

 

「A-1 Pictures自体、若い会社なので、固定メンバー以外のクリエイターと組むことができる。つまり作品ごと、案件ごとにベストなクリエイターを組み合わせることができる、というのが特徴のひとつかな、と思います。また今回の『時季(とき)は巡る~TOKYO STATION~』のように、楽曲はソニーミュージックのアーティストで、プロモーションはエムオン、実制作はA-1 Pictures……というように、グループとしての総合力で、作品のクオリティを高めることもできる。そこも強みでしょうね」(野村)

 

「僕としては、今回の企画はとてもありがたい企画でした。だからすごくやりがいがあった一方で、課題も明確に見えた。やっぱり最初のコンセプト固めの部分で、もっと早い段階で詰め切ることができれば、もっといろんなことができたのにな、と。なのでまたチャンスがあれば、ぜひこうした仕事をやってみたいと思いますね」(大松)

 

 

 改めて指摘するまでもなく、今やアニメーションはCMの世界においても、なくてはならない手法のひとつとなっている。そのなかでも、今回ここで取り上げた『時季(とき)は巡る~TOKYO STATION~』は、極めてユニークなケースのひとつだろう。

 

 そのユニークで、かつ面白いところとは、数あるアニメーションの特性のなかでも“物語を語る”という要素を十全に用いているところにある。単に「アニメ的なビジュアル」を見せるだけでなく、綿密なリサーチを積み重ねたうえで、さらにそれを「絵=物語」へと落とし込むテクニック。それは、実写映像以上に幅広い人々にアピールする力を持っている。ある意味、「絵」で「物語を語る」ことを追求してきた、日本のアニメーション――その最新の成果がここには表われている、といえるのではないだろうか。

 

 いわゆるテレビコマーシャルなどとは違った形で、アニメーションならではの面白さをアピールした『時季(とき)は巡る~TOKYO STATION~』。こうした試みを、今後もさまざまな場面で見かけることができる。そうなることを期待したい。

 

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■A-1Pictures 公式サイト
http://a1p.jp/

 

■「時季(とき)は巡る~TOKYO STATION~」公式サイト
http://www.tokyostationcity.com/special/tokihameguru/

 

※東京ステーションシティ運営協議会
東京ステーションシティの魅力を最大限に引き出し、エリア全体の価値を継続的に高めていくことを目的とし、東日本旅客鉄道㈱とJR東日本グループ24社を会員とする協議会。東京ステーションシティに関する情報発信・イベントの企画実施・エリア内環境整備などの活動を行っている。
http://www.tokyostationcity.com/

 

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インタビュー・構成:宮昌太郎
1972年生まれ、石川県出身。ライター。テレビゲーム雑誌の編集を経て、最近では主にアニメ誌、カルチャー誌を中心に活動。著書に『ポケットモンスター』の制作者・田尻智へのインタビュー集『田尻智ポケモンを創った男』(MF文庫ダ・ヴィンチ)など。