長谷川たかこのパリのふつうの生活

25年間通った朝市の八百屋さん、エルザおばさんが72歳で定年退職したのは今年の７月。

退職後のエルザ夫妻、素敵なツーショット



「死ぬまでやめない」と言っていたので「えっ？！」と思ったけど、「アレ（とご主人を指さし）がもう無理って言うから」
過酷な職業だから、逆に「よく70過ぎまでがんばった」と言うべき。

夜中の12時に起きて（！）冷蔵室の野菜果物をトラックに積み込む。
定番の商品だけで50種類以上あり、そこに季節ものが加わるから大変な量だ。
バスティーユに着くのが午前４時。従業員たちが到着。
陳列台を作り、野菜果物をきれいに並べ、値段をつけ（これが一仕事）終わると６時すぎ。
「ここでみんなカフェに行って一杯やるのよ」とエルザおばさん。
朝の６時に一杯！…でも考えてみれば、夜中の12時に起きているからふつうの時間帯のお昼過ぎだ。
７時になると最初のお客が現れる。
「朝市」と言っても午後２時近くまでやっていて、それから残った商品をトラックに積み、帰り、冷蔵室に戻すと夕方。
約17時間ぶっ通し労働だ。よくやる、といつも感嘆していた。

長年、エルザ夫妻は13区とバスティーユの２か所の市場に、週２日ずつ出していた。
13区が（金）と（日）。バスティーユが（木）と（日）。
日曜はトラック２台出るから２時間早い10時起き。と聞いて「あたしより寝坊じゃない」と一瞬思い、あ、夜の10時なんだ。
さすがに体力が続かなくなって13区をやめたのが２年前。
その時すでに「馴染みのお客さんたちと別れるのがつらかった」とガックリしていた。

退職を決めたときも本人は言い出せず、従業員が教えてくれた。
彼らは、エルザおばさんには内緒で、常連客のメッセージを集めた「Livre d’or」（ゲストブック）を準備していた。
ポラロイドで顔写真を撮りメッセージを添えるという凝ったもので、わたしも書いた。

エルザ夫妻がやめたあと、営業権を引き継いだ他の八百屋が店を始めた。
わたしが日本にいる間、そこで買った夫が「梨はリンゴみたいに固い。メロンは味がない。その上前より高い」。
前は行列が隣の店まで続いていたのに、お客もまばら。



チーズ屋のご主人クリストフは亡くなったし、朝市も代替わり。こっちも歳をとるはずだ。


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