トラベラー
The Traveller
1974
イラン
アッバス・キアロスタミ 監督・脚本
カンビズ・ロシャンラヴァン 音楽
ハッサン・ダラビ(10歳の困った少年)
アッバス・キアロスタミ監督の処女作だという。
しょうもない少年を使った映画は最初からなのね。
これでこの監督の映画は確か8本目の鑑賞となるか。
まあ一般人の少年の頑張ること。
これ以後の映画でも素人少年が、かなり酷使され怖い目に遭わされている。
そもそもイランには子役は少なかったりするのか?
素人を是非とも使いたいと謂う監督独自の拘りか?
イラン、トルコ、イスラエル等の大国に役者が不足しているとは思えないし、やはり監督の趣味であろう。
アッバス監督の作品では、少年の強い不安や恐れがリアルに描かれたものがとてもよい。
「友だちのうちはどこ?」、「ホームワーク」等特に、、、名作である(子供たちにはたまったもんじゃなかったり)。
わたしとしては、真に迫っていて上手いのか、素朴そのままの素直さが見事に引き出されているのか、分らない部分はある。
他にも子供主体でない~出てこない作品も良い。
「桜桃の味」、「オリーブの林をぬけて」、「そして人生はつづく」、「風が吹くまま」など、、、どれも味わい深いものばかり。
さて本作であるが、まあ悪ガキが学校の勉強も宿題もせず、友達と少年サッカーばかりやって過ごしている。
当然成績は悪く、落第をしているみたい。小学生で。
テストでもカンニングしてテスト用紙を取り上げられている。
そんな彼が、明日テストという日に、よりによってお目当てのチームの試合がテヘランで行われるということで、絶対に行ってやると決める。勿論学校さぼってである。テスト受けなければまた落第であろうに、、、。どういう奴なのか。TVではダメなのか。
しかしテヘランまで行き、試合会場に入るには、往復旅費と入場料金は最低必要である。
そこで家の金は盗むは、無理やりガラクタを押し売りに行くは、古ぼけたカメラを掘り出して、カメラが売れないと分ると、フィルムも入っていないのに写真を撮ってやると謂い、順番に子供たちから前金をもぎ取り一枚ずつ撮ったふりをしてゆく。相棒が肝心の写真はどうするんだよと聞くとボケて取れなかったという、と平然と応える。しかしまだまだ足りない。
そこで、何と自分たちのチームが大事にしているサッカーボールとゴールを、チームが解散したからと言って売り飛ばしに行く。
飛んでもないガキだ。
それでどうにか資金調達出来、その夜の11時のバスに乗ってテヘランへと向かうことに。
バスの時間まで自宅で息を潜めて待つがちょっと眠りかけたりする。
まさか眠ってしまって乗り遅れ等しないよな、と思っているとギリで家を出る。
案の定、バスに乗り遅れ走って追いつき、ドアを叩き辛うじて乗せてもらう。
このガキ万事このペースなのだ。
そして明くる朝会場に到着し、長い列に押し込まれる。
ここでも押すなとか早く行けとか、実に何とも、、、
それで、彼の前で券は売り切れ。さあ帰れと来た(爆。これはちょっと監督やり過ぎとも思えるが(笑。
当然、納得しない悪ガキである。
そこで現れるのが、所謂チケット高額不正転売のお兄さんである。
50リアルを200リアルで売っているのだ。
当然文句を言うが相手にされない。だが落ちていた札を使い一枚買い取る。
そして走って良い席を見つけ、そこでホッとして弁当を食べる。
隣りのおじさんになれなれしくテヘランの見所などを聞いたりするが、ここからは遠い。
まだ始まるまで3時間あることを知り、おじさんに席を取って置いて貰い、町の見物に出てしまう。飽くまでマイペースだ。
スポーツジムやプールなどを覗き、何故か芝生みたいなところで昼寝をしている人々がおり、そこに混じって寝てみる。
前日の疲れも手伝ったか眠りに落ちてしまう。
夢には皆に責め立てられ苦しむ自分の姿が出て来る。
ハタと目覚め会場に走って戻るが、がらんと人気のいない一面ゴミだらけに汚れた席がひろがっているだけ。
清掃員が残っているだけだった。
何とも徳のない少年に相応しい空間よ。
あれだけ彼なりに頑張った仕打ちがこれである。
哀愁に充ちた絵であるが、、、何とも言えない。
いくら自分の行いの周囲に与える影響が計れない年頃とは言え、これからどうするつもりなのか。
恐らく何も考えていないだろうが、無意識的には悔悟の念は生じているようだ。
予知夢まで見ている(爆。
これから帰っても、金策で苦労をかけた相棒には、試合どうだった?としつこく聞かれるだろうし、撮影で騙した子供たちからは写真はどうなったのと催促がやまないだろうし、少年サッカーチームのメンバーたちからは、俺たちチーム解散した覚えはないぜと、恐らくボコボコにされるだろう。更にテストをさぼった付けも当然、先生から言い渡されるはずだし、お金が無くなったことを母はまだ強く疑っており、追及は続くはず。わたしなら帰る気はしないが。
この後の監督の映画に出て来る少年の中で、最もお先真っ暗な子だ。
ご愁傷様。
最初からこんな感じだったのね。巨匠と謂われているが、かなりの意地悪。
ただ素人にここまでやらせるのは、凄い。
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