NOSTALGHIA - 映画
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GOMA28

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また昔話になりそうです。すみません。それも相当古い。

先だって娘が私の青いクロッキー帳を持っていたお話をさせてもらいました。
そのときすでに彼女らは、作ったことも忘れていた同人誌(笑)も入手していたのです(恐)
お絵かき用にとって置くつもりだったのか?(彼女らには文字はノイズか?)
ボロボロだったので、にわかにそれと判断出来なかったのですが、”InvisibleCollege No.1003”(薔薇十字か?)
でした(笑)その当時、ルドルフ・シュタイナーに入れ込んでおり、中でもアーカシャー年代記の空前絶後の圧倒的内容にただただ幻惑されており、神智学というものに傾倒?しておりました。
それらについては、そのうちに。

今回は、書庫など久しぶりに掃除すると、こねずみが喜ぶという話ではなく、タルコフスキーのノスタルジアについて、かつて私が学生時代書いたことを、自分のために再度ここに書き写しておきたいというだけの話です。
何とそれ以前に出した同人誌もタイプを外注していたのに、これは手書き印刷なのです。
今と関心の方向が同じだし、とりあえず残しておきたい、と言うだけの行為です。すみません。
「ノスタルジアを読んで、一言」というだけの題。

部分あるいは、一要素が文脈のなかから異様にはみ出ていたり、物語がどうもつかみにくい、端的に言えば、わけが分からない映画というものを観たことがあると思います。しかし、わけは分からないが、何か心にズシッとくるものがあった、妙に心が騒ぐ、と言った経験も一度や二度あるのではないでしょうか?

日常生活では分からないことがあっても、別に気にしないで過ごしてしまうことは容易です。何かしっくりしない事柄に出会っても、自分のよく分かるところ(よく話の分かる友達)だけに関わっていればよいのですから。しかし映画を観たり、本を読んだりするとなると、分からないことについては(それを投げ出さない限り)首を傾げながらも付き合わなければなりません。まず、それをつきつけられているのですから。

では、分かるとはこの場合、どういうことでしょう?ひとつには物事を明確に分けてそれを並べて整理できない、、、物語にならない、、、というところにあると思います。そしてそこに誰もが苛立ちを覚えるのではないでしょうか?物語、、、言説の持つ線状構造、、、にうまく絡め取れないと不安になってしまう。

しかし、日常的な世界自体、関わり方、意識の持ち方次第でいくらでも異なる(時に不安な)世界に変質するものです。映画も日常的な意識でスムーズに追って楽しめるものが多いです。でもここでお話しする「ノスタルジア」は違います。かと言って楽しめないものと言う意味では全くありません。質の異なる楽しみ方が出来ます。

ノスタルジアにおいて、所謂日常性の中の局面、夢と現、内と外、部分と全体、時間と空間、見るものと見られるもの、、、等の遠近法的な関係が全体として崩されています。ノイズも沢山あり、主と従の関係も定かではなく感じられます。でも物語は単なる混沌や無秩序とは明らかに異なる稠密さと郷愁に貫かれてゆきます。

主人公のロシアの作家がイタリア・トスカーナにいるはずなのに、唐突にロシアの故郷の風景の中にいたり、鏡に映った顔が彼が興味を寄せる誰からも排除されている狂人(但し、作家は宗教者と呼ぶ)の顔となっていたり、、、その映像が彼の内面なのか外界の光景なのか、戸惑う場面は数多くあります。
また、水、雨、ワインの空瓶、自転車、扉等の物たちがオブジェとして異様に鮮明に、まるで異なるレベルの現実法則の元に存在しているように見えます。少なくともそれらは、物語を進める上での道具立てではありません。文脈を解体して自らの存在を浮き彫りにしていると言う他ないのです。

この映画の構成が分かりにくい、物語性が希薄と言うより、わたしたちの日常生活もこのようなあり方をしているのではないかと視線が逆照射される説得力・物質性をこの濃密な映像はもって徐々に迫ってきます。
世界は物語(起承転結)の中に収まるものではなく、何時でも部分は全体を呑み込んでしまうし、わたしたちにとって明確に区別できる内と外などないし、時間と空間も人の作り上げた悟性形式に過ぎない。
そんな考えが強烈な郷愁と共に実感を伴ってくるのです。

この映画は特定の思想を伝えようとするものではありません。何事かの再現でもないし、描写でもないです。唯、自明性を覆し世界の実相を感じさせようとする。タルコフスキーはそれを「世界感覚」と呼んでいます。別のところでは「詩的関係」と述べます。
この映画の中で問われる言葉「幸福より大切なものがあるのが分からないか」
これがずっと残ります。

もともと人は一義的な論理で言い表せない世界感覚を詩によって描いてきました。詩は分かりにくいと言われがちですが、単に実相に出来る限り近接しようとした、または限りなく精確に世界を描ききろうとした結果と言えましょう。
自己実現とか自己表現などと言うレベルのものでない限りは。

タルコフスキーはそれを映像をもってしました。
他にも水やワインの空瓶が現れる映画は勿論ありますが、単なる書割ではなく異質な固有の時間性を湛えた水やワインの空瓶は見られそうでいて実際なかなか見られません。ワインの空瓶が時として物語全体を飲み込んでしまうかのような不安を醸す程の物質性を放っているなど。

いろいろな事柄がわたしたちの計り知れぬところから漂ってくる気配と共に引き起こされます。そして気配が飽和状態を迎え、カタストロフの予感に耐え切れなくなるとき、雨がザーッと降ってきたり、水溜りに倒れた自転車が煌いていたり、ワインの空瓶や止め処ないお喋りが、これまでの気配を引き取っていきます。
そんな事が何度か続く何か幼い頃の白昼夢を想い起す世界。

しかし、終局は突然訪れます。夢からハッと醒めるかのように。
火がそれまでこの映画世界を支えてきたロシア作家の影のような存在である「狂人」を呑み込むのです。
世界の救済を石像(マルクス・アウレリウス像)の上から切々と訴えた後の焼身自殺です。
ガソリンを被って「音楽を!」(第九が鳴ります)と叫びライターで火を点ける、この何とも言えない行為。

もう話も終わった、と思える蛇足のような場面で(多分舞台なら明かりは消え、幕も閉まった後で)ロシア作家は小さな火を蝋燭に点して温泉をこちらから向こう岸へと渡り始めます。狂人が生前、焔を守りながら温泉を端から端まで渡りきらなければならないと言う強迫観念(宗教的要請)を何度も何度も作家に訴えていたのです。「蝋燭に火を灯し、広場の温泉を渡りきることが出来たら、世界は救済される。」

作家が数歩、岸から離れるたびに風が火を吹き消します。すると、また元の位置に戻っては火を点け直し、また渡ってゆきます。何度となく風は火を吹き消してしまい、その度に作家はやり直す。時に後ろ向きに歩を進めてみたり、もどかし気に火を点しては手や外套で風を遮り、幾度も幾度も汗をかきながらやり直す、この何とも言えない行為。狂人ー宗教者の死んだ後、作家はついに課せられた行を達成します。作家はその後、安堵したように倒れます。彼も不治の病をもっていたのです。
しかしこういった行為ほど、わたしたちの同化できる行為はないのではないでしょうか?私は彼と共にもどかしく、火を点し、体で風を遮り、幾度も幾度も身を運ぶ思いをしました。

カーチェイスや恐怖映画のクライマックス等でワクワクドキドキするような距離を明確に置いた場所で楽しむこととは明確に違うこの次元こそが詩的関係と呼べるものでしょう。
詩人の岩成達也も、真の詩は行為によるもので、読者の身を運ぶものでなければならないといったことを説いていました。

ひとり蝋燭に火を点し温泉の中を最後まで火を守りながら横切るという何とも言えぬ愚かしい行為こそ、この世界を全体として支えている何かではないかという気持ちが禁じえなくなります。「狂人」と呼ばれる意味付けしようのない者たちの存在と共に。

*物語性の解体と言う点では、アラン・ロブグリエ原作「去年マリエンバートで」監督アランレネがいます。
*物質性と光に拘る監督にはブレードランナー、エイリアンのリドリー・スコットがいます。
*異なる意識レベルを追求した作品に「アルタード・ステイツ」(ケンラッセル監督)があります。
この後、タルコフスキーのその他の作品についての紹介が入りますが割愛します。

以上、同人誌の文面をそのまま打ってみました。スカスカでしたが、どうしても打っておきたかった。
打ちながら思い出すことがいろいろあり、私にとってよい時間でした。
みなさんにとっても何やら想いを導くところがあれば幸いです。

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