お嬢さん
아가씨 (アガシ)
2016年
韓国
パク・チャヌク監督・脚本・製作
サラ・ウォーターズ『荊の城』原作
原作のヴィクトリア朝を日本統治時代の朝鮮に置き換えている。
キム・ミニ、、、秀子お嬢様
キム・テリ、、、スッキ、珠子
ハ・ジョンウ、、、藤原伯爵(詐欺師)
チョ・ジヌン、、、上月
キム・ヘスク、、、佐々木夫人
ムン・ソリ、、、秀子の叔母
これ程の完成度をもつ映画は、最近見たことがない。
極めて緻密に計算しつくされた映像だ。
呆気にとられて観てしまった。
韓国映画、恐るべし。
というか、このパク・チャヌク監督のパワーの成せる業か。
他の映画も観てみたい。
と思ったら、あの「イノセント・ガーデン」(Stoker)の監督ではないか!
ミア・ワシコウスカがあそこまでやるか、という切れのあるエロティシズムも凄かったが、、、その比ではない。
だが、よく分かる。同様の構築美を誇るものだ。成る程、、、である。
映像も緻密で圧巻であったが、ストーリー、脚本も見事な運びであった。
その為、映像に説得力があるのだが。
衝撃としては、「神々のたそがれ」、「シルバー・グローブ/銀の惑星」に並ぶところだが、エンターテイメントな面でも突出している。
どこにも隙が無い。ストーリーの3部構成の交錯する立体的展開が見事。
エロティシズムにおいては、ひたすら美を堪能するところだが、セリフが露骨なのには驚いた。
創作に体制的抑制が掛かることは、多くの例があるが(それで人生の多くの時間を牢獄で過ごした監督もいるが)、通常自分の中で自己規制してしまうことも少なくないはず(内なるマイクロファシズムである)。この監督は、それを完膚なきまでに蹴散らしている。
あくまでも、ある(監督の)美意識に従い一切の妥協を許さず生成された映画である。
である為、ディテールまでとてもスタイリッシュだ。
「映画」(の生成)それ自体が自己目的なのだ。
ある意味、芸術至上主義的作品でもある。
人が普遍的にもつ審美的な感受性に深く訴え陶酔させる類のものだ。
しかしその上で、この映画自体のベクトルはある方向性を確かに指し示す。
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キム・ミニはカリスマ的人気を誇る女優だそうで、確かに透明感溢れるオーラを発していた。
その相手役のキム・テリは新人だという。
今回がデビュー作なのだ。
体当たりで精いっぱいの演技であることが分かる。だが、誰かに似ている。
最近わたしがTVでよく見ている乃木坂のメンバー若月女史に似ているのだ。
途中までそんなことが妙に気になったが、似ているからと言って鑑賞の邪魔になるものではない(笑。
そう役割、固定的イメージというものはたちどころに浸透してしまう。
噺の内容的には、お嬢さんにしろ、詐欺師の手先で自身泥棒の娘のスッキ(珠子)にせよ、上月にせよ、詐欺師にせよ、、、
だが、何重にもがんじがらめになっているのは、男性中心的文化の支配下に置かれた女性であろう。
そこに経済的なものも大きく絡む。
ここで、富豪の娘のお嬢さんを結婚詐欺で上手く騙して金を得ようとする男とその手先のメイドに成り済ました女が登場する。
しかし、男は自分の身の上をお嬢さんにばらし、屋敷の主である上月に拘束されている彼女を自由にすることをも持ちかける。手に入れた金は山分けということで。ここでメイドのスッキ(珠子)を裏切る。
しかし、お嬢さんとスッキ(珠子)は感情的に深く結ばれてしまっていた。双方とも母親を幼くして亡くしたことが現状の孤独と隷属を強いている面は大きい。そうしたことからも、ふたりは手を組む。だが二人だけでは動き切れないため、スッキの泥棒一味の人々にも金品を送り、企てに参加してもらう。
当初、お嬢さんを騙して精神病院に送り込んで、スッキをお嬢さんに仕立てて逃げる予定であったが、病院に収容されるのはお嬢さんに仕立てられたスッキの方であった。これでうまく運んだと、お嬢さんと金の両方を手に入れた気でいた詐欺師であったが。
女性二人組の方が上手であった。女性二人はすでに誰の拘束も受ける気はない。全てを切断するつもりであった。だから強靭なのだ。
そしてスッキの仲間が病院に予定通りに火を点け、その隙に彼女は逃げ、用意された偽旅券で二人は船に乗って無事に逃亡、、、。
いや、解放されたのだ!
出自から、身分から、制度から、性から、、、ある意味究極の解放を耽美的に詠っている。
二人が上月の秘蔵する高価な、お嬢さんに無理やり読書会で読ませていた本を滅茶苦茶に破いて(勿体ない)、地下に放り込み、トランク抱えて小舟に乗り込むために叢を走る姿の、何と軽やかな歓喜に充ちた姿~シルエットか!
トワイライトゾーンを突っ切る二人の姿のそれは美しいこと、、、。ここはホントに感動した。(本が勿体なかったが)。
解放である!
この映画は、映画自身も含め!全てのシステムからの解放を描く。
それは美しく、、、。
面白い映画とはこういうものだ、ということを確信した。