かくも長き不在
Une aussi longue absence
1961年
フランス
アンリ・コルピ監督
マルグリット・デュラス脚本
アリダ・ヴァリ 、、、テレーズ・ラングロワ(カフェの女主人)
ジョルジュ・ウィルソン 、、、浮浪者(アルベール・ラングロワか?)
ジャック・アルダン 、、、ピエール
シャルル・ブラヴェット 、、、フェルナンド
テレーズはパリの下町にカフェをもち、御客で店は賑わっている。
彼女が信頼され土地に根付いた生活を営んでいることが窺える。
パリ祭が始まると、人々はバカンスに出かけてゆき、すっかり街は静まりかえった。
そんな時、彼女は16年前にゲシュタポに強制連行された夫にそっくりな男に出会う。
”歌手”と綽名を付けられた浮浪者である(セビリアの理髪師を唱っている)。
驚きの念を隠せず、テレーズは男に何とかコンタクトを取るも、彼はこれまでの記憶をすべて失っていた。
男は、川岸に掘っ立て小屋を作り、そこに寝泊まりしている。
古紙を集め生活しており、午後は小屋の前に腰掛け、残った雑誌から気に入った写真を切り抜き箱に収集しているのだ。
彼は基本的に他者に興味がない様子で、淡々と自分のやるべきことに没頭していた。
女は決して直接自分と彼の関係を仄めかしたり、過去を殊更問いただしたりはしない。
ただ話を聞いたり、彼が口ずさむオペラの曲について話したり、店のジュークボックスにその曲を追加して一緒に聞いたりするだけである。
思い出せる一番昔の記憶は、、、とは聞くが、彼は野原で立ち上がり、歩いたというだけであった。
(恐らくそれはつい最近の記憶である)。
彼女はあくまでも彼の方から思い出してもらいたいのだ。
わたしはアルベール・ラングロワだと、、、。
彼女は親族を呼んで、彼を監査してもらうが、目の表情が違う、身長が違う、音楽に興味はなかったと否定的な見解を述べるが、彼である可能性を打ち消すことも出来ない。誰もが少なくても16年は逢っていないのだ。その不在は、あらゆる面で大きい。
結局、テレーズの彼への想いを、彼こそが帰って来た夫だという確信を、強めることになる。
彼の持っている証明書には名前が「ロベール・ランデ」となっている。
しかしそれも記憶喪失の彼の持ち物であり信憑性に欠ける。
彼には店で食事をしたり、音楽を聴いたり、話をしたりしましょうと持ち掛け彼の承諾を取る。
彼女自身であくまでも彼の正体を暴きたい。
いや共に生きた何らかの記憶を共有したいのだ。
(これが人間の究極的な願いなのかも知れない)。
彼女は食事に取って置きの「ブルーチーズ」を振舞う。
やはり好きであった食べ物が想い出に繋がる可能性は高い。
そう、マルセル・プルーストは(紅茶に浸った)「プチット・マドレーヌ」であった。
だが、そのチーズは美味しいというだけで、何かの想い~記憶に接続することはなかった。
街の住人(バカンスに行っていない人々)も彼女の動向を固唾をのんで見守る。
皆、個の事態に狼狽えているのだ。
或る夜、音楽(オペラ)を聴いて歌を二人で唄って打ち解けた後、ダンスをして彼女は初めて気づく。
彼の後頭部に大きな深い傷が生々しく残っているのだ。
普段は帽子で気付かなかったそれに彼女は少なからぬ衝撃を受ける。
医者ももう治らないだろうと言っていると彼は他人事のように語る。
そう、感情的な面でも(記憶と感情は切り離せない)何か欠損があるように受け取れる。
彼女の表情は曇るが、時間をかければ記憶の蘇る可能性もあると気を取り直し信じようとする。
いや、そうではない。もはや彼の記憶が戻ろうが戻るまいが、夫であるかどうかなどの次元ではなく、夫をゲシュタボに奪われてからの空白の長い年月の空虚~不在を埋める生きる力~希望と、彼の存在はなっていたのではないか?
夜の街頭に出たところで彼は、テレーズから、寄り集まって来た街の人々から”アルベール・ラングロワ”と叫んで呼ばれる。
彼はフリーズし両手を上げる。
そして怯えて走って逃げ出す。
街の人々に追われて、、、何かに追われて、、、
正面からやって来た車に、助けを求めるかのように両手をひろげ飛び出してゆく、、、。
警官が彼女のもとに戻って来て、「彼は出て行った」「分かるだろ」と告げる。
彼女は、「また出て行った」と返し呆然としながら「でも冬が来ればまた帰って来る」「冬を待ちましょう」と呟く。
彼女にとり、(また)永遠なる不在がはじまる。
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