過去のない男
Mies vailla menneisyyttä
2002
フィンランド、ドイツ、フランス
アキ・カウリスマキ監督・脚本・製作
レーヴィ・マデトーヤ音楽
カティ・オウティネン、、、イルマ
マルック・ペルトラ、、過去のない男
アンニッキ・タハティ、、、救世軍のマネージャー、バンドのヴォーカリスト
マルコ・ハーヴィスト&ポウタハウカ、、、救世軍バンド メンバー
タハティ(監督の犬)、、、ハンニバル
ユハニ・ニユミラ、、、ニーミネン
カイヤ・パリカネン、、、カイザ・ニーミネン
エリナ・サロ、、、造船所の事務員
サカリ・クオスマネン、、、アンティラ
アンネリ・サウリ、、、バーのオーナー
オウティ・マエンパー、、、銀行員
過去のない男が、寿司を食べながら日本酒呑んでいる時に日本のロックバンドのクレイジーケンバンドの「ハワイの夜」がBGMで使われていた(笑。
暴漢にこっぴどく殴られた為に、記憶を失い自分の名前も家も職業も分からなくなってしまった男の数奇な物語。
だが、噺が面白く笑える部分もある。
相変わらずタイトに切り詰めた映像だが内容~トピックが豊かでバンド演奏にも幅がありエンターテイメントとしても充分愉しめる。
3作の中では一番楽しく観られた。展開が面白く見応えがあるのだ。
1作目に出ていたキャストがここでも主要キャストを務める。
カティ・オウティネンは監督のお気に入り女優であるか。
過去のない男は確かに初っ端から暴漢に襲われ死ぬほど酷い目に遭うが、その後は物凄く憎たらしい悪徳警官に虐められるも、他の二作ほどの過酷な目に何度も遭うようなことはない。病院で死んだと思われ処分されそうになったり、浜辺まで逃げて昏倒していたらブーツを奪われたり、散々な目には遭うのだが、その後目障りなのは胸糞悪い悪徳警官くらいか。
3作全てに謂えるが、役所や警察が実に冷たい。仕事も見つからず、やっと雇われたと思っても直ぐにクビにされ社会的弱者は、まともに生きられない。銀行などもっての外。
おまけに治安が悪い。ギャングは勿論だが、チンピラがあちこちに跋扈している。
身を守り何とか生き抜くことが如何に大変であるか。
ストレスからか皆よく酒を呷り、煙草を吹かす。一作目は特に酷かったが、もう酒と煙草が途絶えない。
健康にも当然悪く、アルコール依存症でカウンセラー通いの人もいたが。
基調となるのは只管貧しく陰鬱なトーンだ。
だが絶望に浸ってばかりではない。
身包み剥がされ記憶を失い悪徳警官には何かと金を絞り取られるが、手を差し伸べてくれる人もいる。
皆ホームレス同然の人々だが。
そして公的な機関なのか「救世軍」という自立支援組織を紹介されそこで仕事も見つけてもらい随分と助けられる。
ここの職員である(もうお馴染みの)カティ・オウティネン演じるイルマに一目惚れ。
彼女を誘うと相手もまんざらではない様子。
直ぐに2人は親しくなる。
ここで面白い突飛な展開は、就職する会社の事務員、いつも良い役処のエリナ・サロから給料を振り込む口座を作るように言われ窓口に行ったタイミングで銀行強盗と鉢合わせとなる。彼は理不尽な資産凍結に怒り自分の金を奪いに来たのだった。彼が去った後、金庫に銀行員と共に閉じ込められる。銀行は北朝鮮のモノになるらしい。酸欠になりかけた時に煙草を吹かし火災報知機の作動で助けられる。だがその後、自分の名前も出身地も忘れている不審者として警察に身柄を拘束されてしまう。
しかしイルマの手配で弁護士により釈放される。この辺の警官と弁護士のやり取りが面白い。
自由を得た後、彼には気力が漲って来て、イルマの職場のバンドのマネージャーのような事をはじめ、彼らに時代遅れの詰まらぬ曲ではなく、コンテンポラリーミュージックを演奏するように勧める。
名前の無い男の案に乗りロックまで演奏し出す。
観客の受けもよくバンドもその方向にゆく。
更に溶接仕事を観て強く意識に引っ掛かるモノを感じ、その仕事の腕前で直ぐに雇われることに。
実は彼の以前の仕事がそれだったのだ。僅かではあるが出来事に触れ、思い出す部分はあった。
(この前に決まった仕事はどうなったのかは分からない)。
悪徳警官は相変わらずだが、彼の勢いに押されがちになってゆくところは笑える。
イルマともかなり接近してきたところで、警察から何と君の情報が得られたと名前と住所と妻の名まで教えられる急展開。
イルマと取り敢えず別れて実家に戻ると、妻が離婚届けを作ったのに蒸発状態で種類を渡せなかったという。
おまけに妻の新しい相手も控えていて、決闘だとかいうから、頼むから大切にしてやってくれと言って戻って来る(笑。
自分がプロヂュースしたバンドがとても良い調子でパフォーマンスしている会場にいるイルマの元に帰り、二人でホッとする。
だが、夜道で人が3人に寄ってたかって殴られている場面に遭遇してしまう。かつての自分の姿だ。
ボスがお前まだ生きていたのかと言ってナイフを出して迫って来る。この地で最初に彼を迎えた連中であった。
しかしそのトリオに別の人の群れが襲い掛かって行く。これまで酷い目に遭わされてきた人々が報復に出たのだ。
例の悪徳警官が嬉々として本業である悪者退治に向って行く。
名無し男は、この地に根を下ろし、イルマと幸せに過ごすことはもうはっきりしている。
何だこれもハッピーエンドではないか。
つまり厳しいのは3作目ということ、、、あの作品も僅かながら希望は匂わせていたけれども。
どれも良いのだが、本作が一番面白い。
犬が他に比べ一番活躍~演技していたのも本作である。
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