2023年11月の記事 - NewOrder
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GOMA28

Author:GOMA28
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過去のない男

Mies vailla menneisyyttä002

Mies vailla menneisyyttä

2002
フィンランド、ドイツ、フランス

アキ・カウリスマキ監督・脚本・製作
レーヴィ・マデトーヤ音楽


カティ・オウティネン、、、イルマ
マルック・ペルトラ、、過去のない男
アンニッキ・タハティ、、、救世軍のマネージャー、バンドのヴォーカリスト
マルコ・ハーヴィスト&ポウタハウカ、、、救世軍バンド メンバー
タハティ(監督の犬)、、、ハンニバル
ユハニ・ニユミラ、、、ニーミネン
カイヤ・パリカネン、、、カイザ・ニーミネン
エリナ・サロ、、、造船所の事務員
サカリ・クオスマネン、、、アンティラ
アンネリ・サウリ、、、バーのオーナー
オウティ・マエンパー、、、銀行員


過去のない男が、寿司を食べながら日本酒呑んでいる時に日本のロックバンドのクレイジーケンバンドの「ハワイの夜」がBGMで使われていた(笑。
暴漢にこっぴどく殴られた為に、記憶を失い自分の名前も家も職業も分からなくなってしまった男の数奇な物語。
だが、噺が面白く笑える部分もある。

Mies vailla menneisyyttä001

相変わらずタイトに切り詰めた映像だが内容~トピックが豊かでバンド演奏にも幅がありエンターテイメントとしても充分愉しめる。
3作の中では一番楽しく観られた。展開が面白く見応えがあるのだ。
1作目に出ていたキャストがここでも主要キャストを務める。
カティ・オウティネンは監督のお気に入り女優であるか。

過去のない男は確かに初っ端から暴漢に襲われ死ぬほど酷い目に遭うが、その後は物凄く憎たらしい悪徳警官に虐められるも、他の二作ほどの過酷な目に何度も遭うようなことはない。病院で死んだと思われ処分されそうになったり、浜辺まで逃げて昏倒していたらブーツを奪われたり、散々な目には遭うのだが、その後目障りなのは胸糞悪い悪徳警官くらいか。

Mies vailla menneisyyttä003

3作全てに謂えるが、役所や警察が実に冷たい。仕事も見つからず、やっと雇われたと思っても直ぐにクビにされ社会的弱者は、まともに生きられない。銀行などもっての外。
おまけに治安が悪い。ギャングは勿論だが、チンピラがあちこちに跋扈している。
身を守り何とか生き抜くことが如何に大変であるか。
ストレスからか皆よく酒を呷り、煙草を吹かす。一作目は特に酷かったが、もう酒と煙草が途絶えない。
健康にも当然悪く、アルコール依存症でカウンセラー通いの人もいたが。
基調となるのは只管貧しく陰鬱なトーンだ。

だが絶望に浸ってばかりではない。
身包み剥がされ記憶を失い悪徳警官には何かと金を絞り取られるが、手を差し伸べてくれる人もいる。
皆ホームレス同然の人々だが。
そして公的な機関なのか「救世軍」という自立支援組織を紹介されそこで仕事も見つけてもらい随分と助けられる。
ここの職員である(もうお馴染みの)カティ・オウティネン演じるイルマに一目惚れ。
彼女を誘うと相手もまんざらではない様子。
直ぐに2人は親しくなる。

Mies vailla menneisyyttä006

ここで面白い突飛な展開は、就職する会社の事務員、いつも良い役処のエリナ・サロから給料を振り込む口座を作るように言われ窓口に行ったタイミングで銀行強盗と鉢合わせとなる。彼は理不尽な資産凍結に怒り自分の金を奪いに来たのだった。彼が去った後、金庫に銀行員と共に閉じ込められる。銀行は北朝鮮のモノになるらしい。酸欠になりかけた時に煙草を吹かし火災報知機の作動で助けられる。だがその後、自分の名前も出身地も忘れている不審者として警察に身柄を拘束されてしまう。
しかしイルマの手配で弁護士により釈放される。この辺の警官と弁護士のやり取りが面白い。

自由を得た後、彼には気力が漲って来て、イルマの職場のバンドのマネージャーのような事をはじめ、彼らに時代遅れの詰まらぬ曲ではなく、コンテンポラリーミュージックを演奏するように勧める。
名前の無い男の案に乗りロックまで演奏し出す。
観客の受けもよくバンドもその方向にゆく。
更に溶接仕事を観て強く意識に引っ掛かるモノを感じ、その仕事の腕前で直ぐに雇われることに。
実は彼の以前の仕事がそれだったのだ。僅かではあるが出来事に触れ、思い出す部分はあった。
(この前に決まった仕事はどうなったのかは分からない)。
悪徳警官は相変わらずだが、彼の勢いに押されがちになってゆくところは笑える。
イルマともかなり接近してきたところで、警察から何と君の情報が得られたと名前と住所と妻の名まで教えられる急展開。

Mies vailla menneisyyttä005

イルマと取り敢えず別れて実家に戻ると、妻が離婚届けを作ったのに蒸発状態で種類を渡せなかったという。
おまけに妻の新しい相手も控えていて、決闘だとかいうから、頼むから大切にしてやってくれと言って戻って来る(笑。
自分がプロヂュースしたバンドがとても良い調子でパフォーマンスしている会場にいるイルマの元に帰り、二人でホッとする。

だが、夜道で人が3人に寄ってたかって殴られている場面に遭遇してしまう。かつての自分の姿だ。
ボスがお前まだ生きていたのかと言ってナイフを出して迫って来る。この地で最初に彼を迎えた連中であった。
しかしそのトリオに別の人の群れが襲い掛かって行く。これまで酷い目に遭わされてきた人々が報復に出たのだ。
例の悪徳警官が嬉々として本業である悪者退治に向って行く。

Mies vailla menneisyyttä004

名無し男は、この地に根を下ろし、イルマと幸せに過ごすことはもうはっきりしている。
何だこれもハッピーエンドではないか。
つまり厳しいのは3作目ということ、、、あの作品も僅かながら希望は匂わせていたけれども。
どれも良いのだが、本作が一番面白い。
犬が他に比べ一番活躍~演技していたのも本作である。




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浮き雲

Kauas pilvet karkaavat001

Kauas pilvet karkaavat

1996
フィンランド

アキ・カウリスマキ監督・脚本・製作・編集

カティ・オウティネン、、、イロナ (レストラン給仕長)
カリ・ヴァーナネン、、、ラウリ(イロナの夫、元市電の運転手)
エリナ・サロ、、、スヨホルム夫人 (ドゥブロヴニクのオーナー)
サカリ・クオスマネン、、、メラルティン(イロナの同僚)
マルク・ペルトラ、、、ラユネン(イロナの同僚、コックでアル中)
マッティ・オンニスマー、、、フォルストロム
監督の犬


フィンランド三部作”第一作に当たる作品。
これも悲惨路線のようで観るに当たり気は重い。

Kauas pilvet karkaavat002

だが、ソリッドな質感がとても好ましく、ストーリーがどうであっても見易いのだ。
最初は、夫婦がそれぞれしっかりした仕事に就いており、夫が運転手をしている市電にレストランで給仕長を務める妻が仕事帰りに乗り込み、家まで夫の運転で車で帰るという、素敵な光景が映される。
SONYのテレビ(スーパートリニトロン)を買って妻を驚かしたりと、何とも小市民的な幸せパタンの家庭を描いていくのだが、、、
本作も彼らをとことん奈落の底まで落とす(爆。
そういう連作ものですから、と言われれば仕方ないのだが、、、社会背景もそうした時期だし。

(その悲惨さを)いちいち書く気にもなれないが、、、
「ドゥブロヴニク」というかつて街一番のレストランで給仕長を長年務めたイロナであったが、不況の為銀行の経営方針が変わりオーナーが店を維持できなくなり、失業してしまう。それに先んじてやはり赤字路線のため夫が市電運転手をリストラされていた(経営者が籤引きで決めていたのは正解。これをヘタに理屈つけしていたら拙いことになったはず)。
しかもこの夫は不運なことに折角見つけた観光バスの運転手の口も健康診断で落とされてしまう。更にダメ押しで耳の障害が見つかったことから運転免許証まで取り上げられるのだ。夫婦そろって踏んだり蹴ったりである。
職安に行くが二人とも全くだめ。
夫婦ほぼ同時に失業で全く展望が無いという状況が続く。
但し、昨日のようにたった一人で奈落の底へというのではなく、飽くまでも夫婦で協力して励まし合えるところは、救いか。

Kauas pilvet karkaavat003

「ドゥブロヴニク」解散の夜のパーティーで踊りのバックを務めるミュージシャンがこれまたなかなか聴かせるバンドであったが、二曲くらいフルで演奏していて、このバンドのMVみたいにも感じられ些か尺が長すぎた感がある(何の映画だったか忘れそうになった)。
最初の導入部の黒人ジャズミュージシャンのピアノ弾き語りも味わい深い。
この監督、音楽へのこだわりがかなりのもの。3作目のロックバンドもそうであったが。

さて何とかせねば、と藻掻き始め更に二人は泥沼に嵌って行く。
二人とも幾つも当たってみるが不景気でどこも雇ってはくれない。
そんななかで妻は雑誌の変な求人広告を頼りにその仲介所に行くが大金を取られみすぼらしい食堂に行くことに。
ここでは給仕と厨房を独りで任され大変な目に遭う。
そこへ税務署が押しかけてきて、店主は脱税であげられてしまうようであった。当然店は畳むことに。
妻への給料が未払いのままであるため夫がオーナーの家に乗り込むと、逆に3人がかりでボコボコにされどこかの波止場みたいな場所に車で運ばれ捨てられる。
血塗れになって妻に連絡するが、姿を急に消したことで彼女は怒りまくっていた。

Kauas pilvet karkaavat004

これ以上の踏んだり蹴ったりはなかろう、と思うが、昨日よりはまだマシである。
家に戻ると、アパートの家具や電化製品全て業者が運び出していた。
妻は彼の妹のところに一時退避しているらしい。
この辺でこちらもどうなることかと流石にハラハラして来る。
妻と逢って車(ヴュイック)を売ることにする。それで金を作り保証人も立て銀行に店を出すための資金を借りに行くが、以前より条件が厳しくなっていて例のごとく断られる。そこで一発勝負に出ることに。
カジノで金を作ろうと謂うのだ。これで成功したところを映画で観たことが無く、100%全部すってしまうぞと思ったが全くその通り。
この展開が例のごとく余りに淡々としているので、許す(笑。

Kauas pilvet karkaavat005

妻が美容師の免許を活かし美容室に勤めようと出向いた時、偶然あのドゥブロヴニクのオーナーに出逢う。
そこで何と彼女が出資するからあなたの店を出してみなさいと後押ししてもらうのだ。
新しいイロナの店のスタッフは、全員ドゥブロヴニクの面々である。普通の映画なら泪の再会だろうが飄々と集まっていた。
こんな幸運をこのシリーズで使って良いのか、と思ったが、いやまだ落とし穴があるのかもと注意して見てゆくのだが、途中なかなか店に客が入らず業を煮やすところも描くが、一人入って来ると次々に淀みなくやって来て遂に団体客の予約まで来ることに。
彼女はクローク係の夫と共に、暫し店の外に出て空を見上げ安堵の表情を浮かべるのだった。

Kauas pilvet karkaavat006

完全なハッピーエンドなのでは、、、。
夫婦一緒にやったぜ。どうよ!という顔でないの。
一作目はこうだったのね。
裏切られた気がした(笑。



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街のあかり

Lights in the Dusk001

Lights in the Dusk
2006
フィンランド・フランス・ドイツ

アキ・カウリスマキ監督・脚本・製作・編集

ヤンネ・フーティアイネン、、、コイスティネン(警備員)
マリア・ヤルヴェンヘルミ、、、ミルヤ(マフィアのボスの情婦)
イルッカ・コイヴラ、、、リンドストロン(マフィアのボス)
マリア・ヘイスカネン、、、アイラ(屋台のソーセージ売り)
ヨーナス・タポラ、、、少年
ペルッティ・スヴェホルム、、、刑事
メルローズ、、、ディスコのバンド
犬(監督の犬)、、、パユ


監督の“フィンランド三部作”の第三作だそうだ。
前二作とも観ていない。いきなり第三作目を観てしまった。

Lights in the Dusk002

これがアキ・カウリスマキ監督の本領発揮なのか、どうなのか、、、凄かった。
こんな質感の映画を観てしまうと、第一作『浮き雲』、第二作『過去のない男』も是非とも観ないとなるまい。
この監督についてはまだまだ。

まるで無声映画を観るような感覚に陥る。
徹底的にそぎ落とした表現手法。
何というか、骨格だけを観ているような禁欲的な映画であり物語だ。
主人公の内的な世界そのもののような映像が沁みる。

Lights in the Dusk003

SF映画でないのに、これ程惹き付けられる映画はこれまでに余り観たことが無い。
タルコフスキーやベルイマン、、、くらいかな。後は、溝口・小津あたり、、、。アニエス・ヴァルダやゴダールも好きだけど。
兎も角、主人公がわたしみたい(笑、でもあるのだ。
動けない人間。
他人ごとではない(爆。

しかし、ひと言も文句を言わず、独りで淡々と生きている分、大変強い。
わたしはブログで文句を好きなだけ言っているが、この男は煙草を吹かすくらい。酒も呑むか。
何度も酷い目に遭わされ過酷な生活に苛まれていても希望は捨てない。
「こんなところでは、死なない」と何度貶められようと最後にも言っていた。
これぞ男の中の男だ。

Lights in the Dusk004

シンは強いことは分かるが、孤立無援の生活者は悪の権化のような奴のカモにされ易い。
悪ほど、そういう対象を見抜き操るのが得意である。
ここに出て来るマフィアのボスは、見るからに悪魔そのものだ。顔がまず悪魔だし。
そして魅入られたようにやられる主人公も典型的な存在と謂えるか。
やられるタイプは確かにある。

そもそもマフィアのボスの情婦にコロッとやられ、散々な目に遭わされるのに全く懲りない。
ここだけはどうにも共感できない一点である。
まずこの女の何処に惹かれるのか、わたしには全く分からない。魅力を感じないのだが。どちらかと謂えばファニーフェイスだぞ。
屋台の女性の方がずっとまともだと思う。彼は自分と同じ匂いを彼女に感じとる為、距離を持つのか?似た者同士かも知れない。
何にしても嵌められて酷い目に遭わされれば、普通は学習しもうお前の好きにはさせない、とか報復にも出るはずだろうに。
また直ぐ後で、いいように騙され利用される。
何でこんな女にと思うばかり、、、。彼の事を「負け犬」呼ばわりしている糞女である。
自暴自棄なのかとも思ったりするが、漠然とした希望は抱き、くたばるつもりはないのだ。

Lights in the Dusk006

彼が楽しそうに笑ったのは、情婦に騙され罪を被せられて有罪となり刑務所で過ごしていた時だけである。
警備会社でも仲間や上司から疎まれ、笑顔など全く生じる余地すらなかった。
唯一笑えたのが、社会的にみてどん底の状況下においてである。
そして仮出所して施設に身を置き、何とか皿洗いの職に就くが、またもやマフィアの目に留まり、手を回され解雇となる。
流石にボスに恨みをもち果物ナイフを持って襲い掛かるが手下に呆気なく阻まれ、ボコボコにされ重傷を負う。

浜辺で息絶え絶えになっているところを屋台の女性に助けられる。
避けて来た馴染みの女性と謂う微妙な関係であるが、彼女の手を握ったところで、映画は唐突に閉じる。

Lights in the Dusk005

全く希望が無くなったわけではない。

なかなか魅せてくれるではないか。
ストイックの極致の素敵な映画であった。

メルローズ結構聴かせるバンドである。




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スノーホワイト/氷の王国

The HuntsmanWinters War000

The Huntsman: Winter's War
2016
イギリス、アメリカ、中国


セドリック・ニコラス=トロイアン監督
クレイグ・メイジン、エヴァン・スピリオトプロス脚本
グリム兄弟『白雪姫』原作
ジェームズ・ニュートン・ハワード音楽


クリス・ヘムズワース(幼少期コンラッド・カーン)、、、エリック (ハンター)
シャーリーズ・セロン、、、ラヴェンナ(氷の王国の女王)
エミリー・ブラント、、、フレイヤ(ラヴェンナの妹)
ジェシカ・チャステイン(幼少期ニーヴ・ウォルター)、、、サラ(ハンター)
ニック・フロスト、、、ニオン
ロブ・ブライドン、、、グリフ(ドワーフ)
シェリダン・スミス、、、ミセス・ブロムウィン(ドワーフ)
アレクサンドラ・ローチ、、、ドリーナ(ドワーフ)
ソープ・ディリス(幼少期ナナ・アジェマン=ベディアコ)、、、タル(ハンター)
サム・ヘイゼルダイン、、、リーファ
ソフィー・クックソン(幼少期アメリア・クラウチ)、、、ピッパ (ハンター)
サム・クラフリン、、、ウィリアム王


キャストは実に豪華。
しかし無駄に豪華。
シャーリーズ・セロンとエミリー・ブラントとジェシカ・チャステインの3人の主演女優を持ってくるほどの噺には思えない。

The HuntsmanWinters War001

演出で面白いなと思うところはあった。
姉によって潜在能力を放たれたフレイヤの術で氷の壁を一瞬のうちに作るVFXがなかなかのものだが、その壁に透けて見える光景がどちら側から見ても彼女の思った画像が映し出されるという優れものなのだ。
ほうっと思わず感心してしまった。後でだが(笑。
詰まり氷の壁を通して見える相手~向う側の姿を想う通りの画像として生成できる。
勇敢な相手が氷を打ち破って助けに来ようとしていたとしても尻尾を巻いて退散する画像を見せることが出来る。
反対に向うに対してはこちら側の者が無残に殺されたという映像を見せて落胆させることも。
これで壁に挟まれた両者の絆は砕け散ることになる。
信頼も愛も生死においても。

The HuntsmanWinters War003

氷の女王の技としては、これ程のものはないように思える。
その後、二人が生きており、出逢ったとしても元のようにはいかない。
一度不信感をもったり、絶望して諦めたりした後で、ぼくたち愛し合ってたよねとはいくまい。
この技は凄いと思ったが、その他は単調なのだ。
特におおっと驚くほどのものはなかった。
小技は繰り出して来ても想定の範囲内。
確かにサラ役のジェシカ・チャステイン、アクション~弓矢頑張っていたが、、、。

The HuntsmanWinters War005

ほぼここはこう来るなと思ったように展開する。
こういう感じに流れるな、と思っているとそうなるパタン。
最初から鉄板フォーマットなのだと思う。
製作側からすれば、これまでにない新しいポイントを幾つも上げて来るものだと思うが、、、
(確かにこれまでになく女優陣がゴージャスだ)。
やはり驚きも発見の楽しさも特には無かった。
貫禄たっぷりの恐ろしい姉妹同士の葛藤ももっと凄みを見せつけても良かったか、、、。
流石に綺麗であったが。それは充分知っているし(笑。

The HuntsmanWinters War002

またこちらの現実への結びつきも無い。
そりゃ、ファンタジーなんだからあるはずなかろう、と言われるところだが、ファンタジーでも接続してくるものはある。
よく出来たSFだとかなりある(考えてみればSFが一番あるな。だから興味があるのだ)。
逆にリアリズムものドキュメンタリーなどは、仰々しくわざとらしかったり、上なぞりの現状確認に終わっているものは多い。
その上退屈だったり。
ファンタジーやSFものなどは、現状を激しく揺り動かして来るものが少なくない。
そこが信頼できるところだ。

The HuntsmanWinters War004

現実を深く語る~抉るには虚構や抽象が必要である。これは絶対に。
本作は原作もあり、滅多なことは出来ないのは分かる。
ファンタジーVFXをエンターテイメントとして活かし切るのが目的だ。
スリリングでダイナミックでディテールでハッとさせたりが出来ていればまずまずであろうが、、、
イマイチ感は否めない。
但し、この路線でもっと興行成績を伸ばすものをと考えるとやたらと刺激を強くしてゆく方向性しか残らないようにも思える。
AIに任せればかなりましなものが出来そうだが、限界がはっきりあり、展望は無い。
まあ枠を外せば、つまり制限がなければ、凄いものが出来るのでは、、、。
そうしたものは近いうちにお目見えするはず。

The HuntsmanWinters War006

それも含め、単なる暇つぶしに映画を観ている余裕は無いことは自覚できた。
そうしたブログを書いているゆとりもないのだ(笑。
娘二人が揃って進学は可成り、キツイ。
(自分が進学の時は、ほぼ無意識で無風であったが。こんなに大変なの(爆)。





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エレクトリック・ドリームズ よそ者を殺せ

Kill All Others001

Kill All Others
2018
イギリス、アメリカ

ディー・リース監督・脚本
フィリップ・K・ディック原作

メル・ロドリゲス、、、フィルバート(品質管理者)
ヴェラ・ファーミガ、、、候補者
サラ・ベイカー、、、マギー(妻)
ジェイソン・ミッチェル、、、レニー(同僚)
グレン・モーシャワー、、、エド(同僚)
ルイス・ハーサム、、、主任
デュション・モニーク・ブラウン、、、精神科医


Season1最後の作品。第10話。

候補者が一人しか出ない、3D広告の鬱陶しいメガ国家の日常でどんどん浮いて行くフィルバートが描かれる。
太った気の良い真面目で正義感もあるおじさん。但し要領は悪い。
彼が何故追い込まれてゆき、最終的にあのような姿で終わるのか。それ以上に周囲は何故それに対し無感覚なのか、示唆的な作品に思える(サブリミナル効果など飽くまでも補助的な小細工)。

Kill All Others002

少し落ち込んでいる様子を心配され、同僚に買い物を勧められる。
何かを買ってキッチンのルータを付けると3D広告の美女がが出てきて気晴らしになるぞと言われ。
フィルはチーズを買ってやってはみたが、全く馴染めない。
確かに面白くも何ともないのだ。

その夜、リビングのTVで候補者が政策の演説の中で「余所者を殺す事」とサラっと語る。
発言に驚くフィル。何と飛んでもないことを発現するのか。
弾劾されるはずと期待していたが、その後誰も何も言わない。どのメディアからも声が出ないことに不信感を募らせる。
同僚に訴え相談するが、そんなこと聞き流せと諭されるばかり。
一種のエンターテイメントだと思えと(コメディ番組を観ていたわけではないのだが)。

Kill All Others003

そして朝の通勤途上、電車の窓からド派手に”KILL ALL OTHERS”と赤で書かれている電子看板を見て驚愕する。
どうなってるのかと写真を撮りまくり、危険を感じ電車を緊急停止させてしまう。
その結果、精神科医のカウンセラーを受けさせられる。
こうして政府に対する危機感を抱く彼は、徐々に周囲から浮いて行く。
(しかし自分をまだ信じている分、救われている。これでカウンセラー通いになったら厳しい。それは適応を目指すという事に他ならない)。

お陰で電車ではなく自動運転の車に乗ることになる(わたしはこっちの方が良い(笑)。
わたしも早く自動運転の車に乗りたい。
トラブル続きでイライラしながら妻と噺をして乗っている時に、またもや事件に巻き込まれてしまう。
(彼だから巻き込まれると謂えるが)。
女性が寄ってたかって暴力を受けている現場を目の当たりにするのだ。
黙っていられない彼は直ぐに車を停めて、女性を助けようとする。
すると彼ら暴徒~自警団が口々に言うのは、こいつは余所者だ!である。だから殺してよいという論理だ。
必死に集団で暴力を働くなんてもってのほかと謂って止めるが、これがまた厄介なことに。
警察沙汰となる。

Kill All Others005

この調子で彼はどんどん生き辛くなってゆく。
職場の親友たちも距離を置き始める。
主任からは強制的にアップルウォッチみたいなガジェットを付けさせられる。
飽くまでも彼の健康状態をモニタリングする装置だと謂うが、もっとずっと踏み込んだ管理ガジェットであった。
自由に管理体制側が薬物を血液注入出来きる身体コントロールが効くものなのだ。
まさに危険なガジェットを装着されてしまった(ここで言う主任の言葉が象徴的。最初はチクッとするが全く気にならなくなる)。

Kill All Others004

終盤、TV番組に対し変装して偽名で抗議するが、実名がバレバレで政治活動禁止の会社の方針にも背いてしまった。
ここがペーソスもあって笑ってしまうがとてもほろ苦い。
そしてフィルバートの力説する余所者だろうが誰であろうがそれを選別し排除すること自体がおかしいということに耳を貸す者がいないのだ。
親友でさえお前は余所者ではないというだけであり、余所者かどうかという選別の思考形態しかない。
しかもこの余所者、極めて狭い政治的な意味での移民とかいうレベルのものでもない。
候補者は直観に従えという。それからあなた自身が余所者でないのなら心配無用だと。敢えて言語化せずに内省的に判断させようともってゆくとは。これは危険だ。
何れにせよ当局から余所者と断定された時点で死刑なのだ。
彼は追い詰められて被害妄想も酷くなる。

Kill All Others006

パニックとなり看板に登って吊るされた死体にしがみつき抗議をするが、自らがその場所に吊るされてしまうことに。
TVで先程までその様子を見ていた職場の親友たちは、候補者の解説を聴いた後、直ぐに彼の事は忘れてビリヤードに興じている。
彼女の説話の中でサブリミナル効果が使われていたのは事実だが、、、
ノーマルな人間がある次元に置いて全く無感覚であることの警鐘になるこういった作品は必要。





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エレクトリック・ドリームズ 地図にない町

The Commuter001

The Commuter
2018
イギリス、アメリカ

トム・ハーパー監督
ジャック・ソーン脚本
フィリップ・K・ディック原作

ティモシイ・スポール、、、エド(駅員)
タペンス・ミドルトン、、、リンダ(メイコン・ハイツ計画者の娘)


メイコン・ハイツという本当はあったかも知れない駅を巡って展開する噺。
街は地図には存在しないが、リンダの父によって以前実際に開発計画なされたものだ。
駅も作られるはずだったが、事業は結局頓挫して、彼女の父は亡くなってしまったという。

The Commuter002

リンダに誘われて駅員のエドもその街を初めて訪れる。
街は駅ではなく、途中で列車から飛び降りて向かうのだが、かなりの人々がその街に向う事を知る。
実際に街のカフェに入ってみるとサービスもよく、住民たちもフレンドリーで優しい。
エドは街もカフェも気に入って気持ち良く夜の列車で帰って来る。
途中から仕事をすっぽかしていた為、同僚はお冠であったが、彼の家族構成が何故か変わっていた。
然程気にせず帰宅すると、いつも家庭や外で暴れて面倒を起こしている精神障害の息子が生まれていない状況になっているのだ。
妻との二人暮らしを仲睦まじくしていることに。エドは正直ほっとした気持ちも味わう。

The Commuter003

どうやらエドの動き~関与の仕方によって現実世界とメイコン・ハイツの両方が変容するらしい。
こういう噺~関係性も時折SF映画で観て来た。
メイコン・ハイツに馴染みそれによって変わった現実の生活を享受すれば事態は落ち着くようだ。
しかし、エドはいくら息子が暴力沙汰を起こしあちこちで問題になっても、彼を愛おしむ気持ちは消し去れない。
リンダの謂うには、今後ますます息子の状態は悪化し、刑務所に入れられるような事態にも発展するという。
これから更に大変になる。あなたを救うつもりでメイコン・ハイツに招待したと彼女は諭す。

The Commuter005

エドは、息子に恐怖を覚え、違う生活の可能性を想ったことは正直あったが、やはりどんなことがあってもそれに向かい合っていきたいことを彼女に告げる。とことん息子に寄り添い続けて生きると。
結局、彼は息子が怒って暴れる日常世界に戻って行く。微笑みながら、、、。
(その気持ちはわたしにも痛い程分る)。

メイコン・ハイツに通い続ける人は、どうしてもそれが出来ない人々のようだ。
追い込まれてそこに縋るしかない哀しみを湛えた人たちがいつものように向かってゆく。
これが反復して閉じてしまうところはどうにも辛い。
そのパタンに組み込まれてしまう悪無限循環。

The Commuter004

とは言え、メイコン・ハイツのような街には大変興味がある。
稲垣足穂の謂う薄い街のようだ。何やら香しいではないか。
わたしも何かの隙間~拍子に滑り込みたい。
まあ、新たな素粒子を探すくらい大変な事だろうけど(笑。
とは言え、この世は11次元によって成り立っているのなら、別の平面からの情報により何らかの変容が齎されてもおかしくない。
ミューオンの加速器の実験からも、別の次元からの何らかの粒子への作用~ズレが報告されている。
何かが起きているのだ。
いま各次元を横断して作用しているのは重力だけだが。
何らかの重力子が見つかれば、余剰次元についての認識も深まるはず。
ヒッグス粒子が発見されたのは2012だった。あれから10年。そろそろ18番目の粒子または、理論が出てきても良い頃。
ダークマター、ダークエネルギーが一気に解ける時かも(当然、余剰次元との絡みとして現れると思うけど)。

ウンベルト・ボッチオーニのような未来派の画家は、時代の先頭に立って新たな認識~世界像を見事に可視化してくれたが、あのようなパワーを感じる芸術が、見えてこない。よくって政治的なモノ、、、バンクシーもよいが、ボッチオーニの後を継ぐような画家でありたい。音楽もDevoの後は出てきていないし、キャバレ・ヴォルテールの後も。いやクラフトワークの後こそが肝心か。
(テリー・ライリーがまだ元気なのには驚いた。『ミニマル』というより、むしろ『サイケデリック』と呼ばれたい、というお爺ちゃんだ。何処からか何か出てきてもよい)。

SFだと何でも思いついたことがお気楽に書けて楽しいわ。

The Commuter006

しかし何にしても現実に戻るとき、夢から覚める時の悲哀には同調出来る。
そういうものだという、、、。夕日に照らされた列車ほど哀しいものは無い。

この映画のエドは、ストイックに現実に向き合いそこに新たな局面を創造できれば、これ以上素晴らしいことは無いのでは。
大変ポジティブなある意味、本来的に科学的な挑戦にもなろう。
(実は、わたしもそれをこそ目論んでいる)。






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エレクトリック・ドリームズ ありえざる星

Impossible Planet001

Impossible Planet
2018
イギリス、アメリカ

デヴィッド・ファー監督・脚本
フィリップ・K・ディック原作

ジェラルディン・チャップリン、、、イルマ・ゴードン(耳の不自由な350歳を越える老婦人)
ベネディクト・ウォン、、、アンドリュース(宇宙ツアー・ガイド)
ジャック・レイナー、、、ノートン(宇宙ツアー・ガイド)
ティモシー・スポール


美しいファンタジーであった。最後のシーンには思わず感動してしまったのだが、、、傑作。
余りフィリップ・K・ディックぽく無い(笑。シニカルな捻りが無いと疑ってしまう(爆。
わたしはフィリップ・K・ディックの小説は結構読んだ気ではいたが、ここの短編は読んでいない。
当然、小説と映像では表現形式の違いから、どうしても制限が生じて来る。
これまでこのシリーズに対し極力肯定的に観るようにしてきたが、この作品の出来栄えに触れこれまでちょっと甘めに観て来たことに思い当たる。特に想像力を限定してしまう作りに対して。もっと映像作家はそこに敏感であるべき。

Impossible Planet002

舞台は宇宙旅行会社の宇宙船船内。
宇宙ツアー・ガイドであるノートンとアンドリュースは、色彩やサウンド効果で過剰な演出を加え乗客を愉しませていた。
乗客に夢を見せる仕事である。夢を見せることは、嘘をつくことではない。これが彼らの信条だ。
しかし彼らの働きに対する会社の待遇に満足しているようではない(報酬面か)。
ノートンはともに暮らす恋人の要望もあり、良い勤務成績を出さなければならない状況にあった。
アンドリュースの方は諦観が感じられる。あまりやる気が見られない。

そんなところに350歳ほどの老婦人が執事ロボットを連れてやって来る。
自分の祖父母の暮らした思い出の土地、地球のカロライナに是非とも行きたいというのだ。
提示された報酬は現金で2000ポジティブという彼らの5年分の給料に相当する額であった。
ロボットから彼女の余命は2ヶ月であることを聴かされる。
しかしノートンは恋人の希望で社に異動願いを申請しているところであり、今問題は起こしたくない。
会社に内緒で既に消滅している地球ツアーの企画に大乗り気のアンドリュースの勧めを断っていたが、、、
(アンドリュースとしては太陽系の他の惑星を地球と偽って見せて帰ればよいというもの。演出効果でそれらしくみせようと)。
アンドリュースはその金を持って会社を辞め、優雅な隠居生活を目論んでいた。

Impossible Planet003

突然入って来たノートンの彼女からのヴィデオレターで、上司から申請却下の連絡と彼女の憤りもぶつけられる。
それにいらつき、彼もこの噺に乗ってしまう。アンドリュースはやる気満々。
そしてイルマをビップ対応で丁重に偽地球への旅に招待することに。

ロボットもかなりのレベルのAIをもっており、大変思慮深い。
クルーの嘘に気付き誤魔化そうとしているのを直ぐに察知するが、あからさまに地球などなく騙されている事実などは彼女に伝えない。
飽くまでも彼女がサービスに満足できるかどうかの視点で考えている。
アンドリュースたちを批判的に観ながらも出しゃばらず彼女の為に嘘に加担もしているのだ。
かつて強力な電磁波の影響で、太陽系は大きく変化していた。
土星から輪がなくなり、金星に輪が出来、火星は灰色の惑星と化しておりイルマはそれに驚く。
しかし肝心の地球は消滅したことは伝えず、代わりの惑星を地空に見立ててそこを周回して帰還することにしていたが、、、。
何とイルマはそこに着陸して、お目当てのカロライナに行くという。そこで泳ぐと、、、。少女のような目で語る。

Impossible Planet004

金がどさりと入り、良い調子でガイドに関わって来たアンドリュースであったが、着陸と聞いてこの船は着陸船ではない。他にそれ専用の船がありそっちで頼んでくれと強く拒否するが。
ノートンはそれを承認する。
何度も客室に呼ばれ、彼女の想い出の噺などを聴かされ、地球で暮らしていた祖父母の写真を見て驚いていた。
その写真の祖父が自分にそっくりでしての祖母がイルマの若い頃を思わせるものであったのだ。
次第にノートンはイルマに対して共感を抱き始め、彼女の願いを実現したい気持ちになってゆく、、、。
反対に今の恋人に対し自分のこころを偽って頑張って来たことを自覚し彼女にお別れのメールを入れる。
ノートンの内省は深まって行くに従い、老婦人との親和性が強くなってゆく。

彼女の願いを実現させたいという気持ちが揺ぎ無いものとなりアンドリュースの反対を押し切り船を強制着陸させる。
そしてイルマはノートンを誘い2人で船外へと出て行く。
執事ロボットは全てを呑み込み文句は言わない。
しかしその偽地球は極めて荒涼とした地表であり気象状況も歩くのがやっとというような状況であった。

Impossible Planet005

アンドリュースは補助宇宙服の酸素残量を気にする。
早めに戻ってくることを警告するが外のノートンは応答しない。
どこまでも荒涼な風も吹きすさぶ光景ばかりが続く中、船内パネルに表示される酸素残量がもうじき切れるところに来る。
パニックになったアンドリュースが直ぐに戻れと叫ぶが、応答のないまま遂に計器はゼロを示す。
そのとき、ノートンとイルマのいる環境が晴れ渡った緑と豊かな水に満ちた自然に変貌し、イルマはそこがカロライナであることを知る。
彼女は最初から決めていたようにドレスを脱ぎ湖に入り泳ぎ出す。
そしてノートンを呼ぶ。
彼もイルマと共に泳ぎ戯れる。
いつの間にか、あの写真に写っていた祖母の姿に彼女はなっていた。
ふたりの若い男女に。地球のその時間に移動したのだ。

Impossible Planet006

この光景が美し過ぎた。
この流れが見事でそのまま持っていかれた。
感動した。
74歳?のジェラルディン・チャップリン熱演であった。まるで少女のよう。
この場の現象は純粋で無垢な憧れの力による。




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エレクトリック・ドリームズ 父さんに似たもの

The Father Thing001

The Father Thing
2018
イギリス、アメリカ

マイケル・ディナー監督・脚本
フィリップ・K・ディック原作

グレッグ・キニア、、父
ジャック・ゴア、、、チャーリー(野球少年)
テリー・キニー、、、教師
ミレイユ・イーノス、、、母


ちょいとフィリップ・K・ディックと謂うよりレイ・ブラッドベリ風な噺に思えた。
父と息子の関係を軸に据えている所や、野球の噺で盛り上がったりと、、、。
特にチャーリーは、どんなに仕事が忙しくても試合に駆けつけてくれる父のことが大好きであった。
「父さんはそんなに野球が好きなの?」「いや野球をしているお前が好きなんだ」いいお父さんだ。
でも、これフィリップ・K・ディック?それにSFとしても弱い。

The Father Thing002

夜空に妙な流星が降り注いでいた。
大概、ろくなことはない。
禍々しい兆候である。

どうやらチャーリーの両親は離婚を考えているようで、いつそれを息子に切り出すかタイミングを見ているようであった。
そんな折、父親がこれからはガレージに住むとか言って、母屋を出て行く姿を彼は二階の窓から確認している。
チャーリーもこの辺の経緯はそれとなく気づいているのだ。
少年野球チームの選抜選手の発表で、見事チャーリーは選ばれる。喜んで父のいるガレージに走って行くと、、、
入り口の窓から見えたのは、父が得体の知れぬ不気味な光と共に何者かに吸収されてゆく恐ろしい光景であった。
一目散に部屋に逃げ戻るチャーリー。
あれは何事だったのか?!

The Father Thing003

戻って来た父は既に別物であった。母は全く気付かないが、父を愛していたチャーリーには一目で分かった。
しかしその父は母に対しこれまでと違い優しく細やかな気遣いを見せる夫に成っている。
母は父に対する態度を改めてゆく。きっと彼はやり直そうと努力しているのだわ、って感じ。

不安と危機感を募らせるチャーリーは、iMacでネット上を調べると、彼と同様の立場の書き込みが幾つも見られるのだ。
普通の見慣れたiMacだったから、設定は現在なのね。
ファミレスで見つけた警官に事情を話すとパトカーに連れていかれる。
やはり今の時代の車だ。車内で警部に必死に助けを求めるが、どうも様子がおかしい。
彼女が車を離れた隙に脱走する。既にもうかなりの数の人間がすり替わっているに違いなかった。

The Father Thing006

チャーリーは意を決して、やんちゃな友人とその不良の兄に助けを求める。
少年が活躍することで、余計にブラッドベリ感が増してしまう。
ただ、異星人が地球人に乗り移るという噺は余りにも沢山あって、それをどういう形で魅せるのか、である。
(バシャールによれば、もう地球人は端からハイブリッドなのよ、ということで、オリジナルとかルーツに拘ること自体ナンセンスみたいなのだが)。

学校の屋上から妻が違う、と言って飛び降り自殺をしてしまう先生も出来てきて、いよいよ事態は切迫して来る。
まだまだ気づかない人もいたり、既に入れ替わって知らん顔しているモノもいるなか、チャーリーたち3人でエイリアンの侵略を食い止める覚悟をする。
この噺は少年たち3人でこの地域のエイリアンを一掃するという活躍と何より慕っていた父の姿をした違うモノを滅ぼす決断が見ものとなる。ショックだったのは、ガレージのゴミ箱に父の抜け殻みたいなものを発見してしまったところか。
こりゃ、偽物を倒してやるという動機にはなるが、トラウマもさぞ大きいのでは。

The Father Thing004

エイリアンは子供の小細工で倒せるような軟な相手ではなかったが、明らかな殺害モードでかかれば不意を突いて倒すことが出来た。兄ちゃんの方が車で思い切り撥ねたのだ。やはりタフとは言え、人間の身体である。
倒した父の口からメタリックな昆虫みたいなものが這い出てきて、やんちゃな友人が踏み潰してしまう。仇は討った。
丁度その場がエイリアンの中身が透けて見える卵がポコポコ置かれている林の中であった。
少年たちは、灯油?を撒いてその一帯を焼き尽くしてしまう。
卵の中で既に特定の人の顔に変身したモノも沢山おり、阿鼻叫喚の地獄と化していた。

The Father Thing005

チャーリーは愛機iMacから世界に向けてエイリアンをやっつけようと呼びかけて終わる。
かなりシンプルで捻りもない、父息子の絆と少年たちの闘いのドラマでありフィリップ・K・ディックぽい噺ではなかった。
父の犠牲を通して頼もしくなったチャーリーであるが、、、。

入れ替わりものは、やはり怖い(所謂ホラー映画よりも怖かったりする)ものだが、この映画に関しては、余りにもはっきりと父が乗っ取られる場面から描かれている為、父に対する疑心暗鬼の気持ち~場面が無い。単に父の仇のエイリアンを倒すという単純明快で平板な展開である。勿論、他にどれくらいの人がすり替わっているのか、エイリアンそのものに対する恐怖は抱いているが、飽くまでもそれに対し徹底的に闘うぞという意思表明で終わっている。
原作は未読なのだが、、、この作品だけは確認したくなる。





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エレクトリック・ドリームズ 安全第一

Safe and Sound001

Safe and Sound
2017
イギリス、アメリカ

アラン・テイラー 監督
カレン・イーガン&トラヴィス・センテル脚本

アナリース・バッソ、、、フォスター・リー(女子高生)
モーラ・ティアニー、、、アイリーン(母、反体制派活動家)
アルジー・スミス、、、カーベ(フォスターのクラスメイト)
アリス・リー、、、ミレーナ(フォスターのクラスメイト)
コナー・パオロ、、、イーサン(シミ社サポートスタッフ)
マーティン・ドノヴァン、、、オーディン


ウェアラブルデバイス「デックス」を腕に嵌めることによりかなりのセキュリティは保証されるが個人情報と日々の行動の全ては追跡され筒抜け状態となる。そんな現実がアメリカ東部に実現していた。
プライバシーが全く無くとも安全なら良いと。わたしは到底耐えられない。いや絶対無理(爆。
その状態で、生きていると謂えるのか?

Safe and Sound002

マインドコントロールの度合いから謂えば統一教会や悪徳ホストの餌食となったのと同等だ。
その点において本作品はとても啓発的であると謂えよう。
裏の手口も終盤、ご丁寧に描いてくれているし、お陰で無実の母がテロリストとして終身刑をくらってしまった。
そして駒として操ったフォスターをシミ社は、あたかも事件摘発で役に立ったヒロイン扱いである。
あんなにまともな母を終身刑にされても満面の笑顔で皆の前でスピーチする娘なのだ。
もう完全に行ってしまってる(チ~ン。

Safe and Sound003

フォスターは母と二人で、自由な西部から管理が行き届いた東部の大都会に出て来て、知り合いも友人もいない心細いところで転校生として過ごすことに。洗練度も違うが、何においても管理下で安全に過ごすという意識~規範が尋常でないことを知る。
高校では誰もが身を守るためのウェアラブルデバイス「デックス」を身に着けているが、彼女の場合、母の政治的な思惑での1年間だけの滞在であり、母が自分の情報を全て管理されてしまう事を酷く嫌っていた為デバイスは着けることが出来なかった。
しかしそれでは友達が出来るどころか、皆が遠ざかってしまいボッチとなるしかない。それでなくとも西部から来たというだけでテロリスト扱いなのだ。虐めである。

関りの出来たカーベという不良に頼み、母の無防備な預金口座からデックスを購入する手助けをしてもらう。
母のセキュリティー感覚の薄さも問題なのだが、、、。
製品はドローンで程なく彼女のもとに届く。
操作法が分らぬ為、最初はサポートに頼るが直ぐに使い熟してしまう。

Safe and Sound004

だが学校に友達がいなくて寂しい分、サポートの優しさに惹かれ彼の名前まで聴こうとする。
懇切丁寧なサポートに過剰に思い入れをしてしまうのだ。
やはり地方出のボッチ女子が悪質ホストに嵌るパタンか(笑。

案の定シミ社~テロ対策システム企業のサポートの魔の手が付け入って来る。
日常的にありもしないテロの事件で煽りほうだい煽って危機意識を植え込んでいる前提の上であるが、、、
今まさに君の学校が危機状況にあると。
そして褒めたり脅したりで揺さぶって来ては、周りの者たちに対する警戒心を植え付ける。
精神的に孤立させ、唯一頼れるサポートの言いなりに動くように洗脳してしまう。まさに究極の洗脳サポートだ。
マニュアル通りか?
ある意味、悪質ホストよりも悪質だわ。

Safe and Sound005

しかしこれらは完全に虚偽のでっち上げで、真実が暴かれたら企業と国の絡んだ大きな犯罪である。
実際何も起こっていないにも拘らず、「テロ」という概念でこれだけ人々を操り思いのままにしてきたのだ。
企業としては更に住民の危機意識を高め、セキュリティ強化を政府から依頼されることで大儲けしようというもの。
「安全第一」幻想は強い。
そして後半の詰めである。
もう孤独と不安と恐怖しかないフォスターは秘密で名前を教えてくれたサポートのイーサンの言いなりになり、爆弾をバッグに詰めて登校する。直ぐにセキュリティが発動し取り押さえられるものの。

母親が娘を騙して自爆テロを敢行させようとしたとして母は終身刑に。
娘は何故かヒロインに祭り上げられていた。
まあ、サポート担当のイーサンは必ず君を守るとは言っていたが、これで良いのかフォスター?
もう彼女はどうにかなってしまってる為、分らない。

Safe and Sound006

特にフォスターを気にかけて時折、助け舟を出してくれるミレーナを警戒させていたのは、彼女が電子化される前の紙の本が収蔵されている古典的な図書館に出入りしているからか。
本による知識を持っている者は要注意なのだ。
もう完全にミレーナとも切れてしまったフォスターである。
これからは、シミ社の広告塔などもやるのかも。
シニカルな回。




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エレクトリック・ドリームズ  フード・メーカー

The Hood Maker002

The Hood Maker
2017
イギリス、アメリカ

ジュリアン・ジャロルド監督
マシュー・グラハム脚本
フィリップ・K・ディック原作


ホリデイ・グレインジャー、、、オナー(ティープの女性)
リチャード・マッデン、、、ロス捜査官


まず、インターネットの廃止された未来なのね。
こりゃ辛い。退行したデストピアはあり得る。
インターネット~Web無しの世界なんてわたしには無理。
(ウイルスの蔓延やSNSの誹謗中傷の渦巻く中、収拾がつかなくなったか)。
電話はあるのかな。手紙のやりとりなどなら風情があって良いのだけれど、、、
兎も角、この世界では遠隔通信は、ティープ~テレパスに頼っているらしい。
こりゃ滅法住みにくいわ。いや生き難い。色々と軋轢が起きるのは避けがたいね。

The Hood Maker001

ティープは人のこころを読む種族だが、単に今現在の思いや考えを読み取るだけでなく、その思いや考えを生む傾向が何に由来するのかも読み取ってしまう。
謂わば優れた精神分析医でもある。その人間の記憶を遡って分析してしまい、読まれた当人はもう丸裸のこころを抉られたようなもので、ごめんなさいと泣くしかない。犯罪者ならそれで良いが。
これはどんな警察官の取り調べよりも過酷で残酷で疲弊を呼ぶことだろう。
ロス捜査官としては、とても優秀な相棒を得て手柄にも繋がりいうことないはずだが。

The Hood Maker003

そのためこのテレパス能力を持つティープたちは一般の人々に恐れられ、嫌われ排斥される対象でもあった。
(これ以降であろうが、この手の噺はよく映画で観るところだ)。
しかし警察は彼らの能力を利用し犯罪捜査に活かそうとしており法案も通っていた。
但し捜査官のこころは読んではならない規定になっている。
上官から命令を受けロス捜査官が、優れた能力を持つティープであるオナーとチームを組むことになった。
彼女の能力を充分に引き出し捜査効率を上げるために彼女の理解者という立場をとる。
彼女も彼を普通の人間に対して持たない信頼感を寄せるようになってゆく(それは彼特有の能力によるところもあってか)。
しかし彼女は、普通の人間はもとより、仲間のティープからも裏切り者扱いされ、いよいよ孤独を深めることに。
(自分に対する誹謗があらゆる角度から聴こえてくるのも大変辛いはず)。

The Hood Maker004

しかし鋭い読心術の利かない相手が突然現れる。
特殊なフードを被った人間なのだ。
布に特別な加工が施されており、それによって超能力を遮断してしまうのだった。本の装丁に使われる素材であると。
街にそれが配布されるようになり、フードの箱には「フード・メーカー」の名が冠されたメッセージカードが入っていた。
「フード・メーカー」とは何者か。その調査に二人は乗り出すが。

普通の人間がこのアイテムでティープから身を守れるようになる。
本来個を個として自立させるものはこころと謂う場が誰からも隠されているからだ。
これが透けて見えてしまい権力に抑えられたらもう人類に原理的に自立も自由もあり得ない。
普通の人間とフードを持って防御し攻勢に入った人間、ティープたち、そして警察の複雑な力関係が絡み合う。
街の混乱が増してゆく。

The Hood Maker005

そして終盤、大きな展開を迎える。
相棒であり、今や恋人と信じていたロスが特別な才能の持ち主で、ティープにこころを読まれない人間であることが判明する。
幾ら読もうとしても少年時代に父と川に鱒釣りに行ったCM映像みたいなクリアでチープなイメージしか見えてこないのだ。
その能力故、上司から彼女の相棒に任命されたのだったが。
フードメーカーの工場をオナーが見つけ、ロスが乗り込むとカッター博士が待っていた。
発明者の彼はフードでこころを隠すことが人間を守ることになると力説する。
オナーも現れることで仲間のティープをその場に誘うことに繋がってしまう。

The Hood Maker006

博士はティープたちに取り囲まれて殺され、全てのフードに火が放たれてゆく。
工場に火の手が回り、こころの読めないロスに不信感を抱くオナーは火の燃え盛る空間に彼を残したまま、隣の部屋に逃げ込み鍵を掛けてしまう。
自分のこころを読みホントの気持ちを分かってくれと懇願するロスであったが、最後に彼女が彼のこころを読んだのが、上司にどんな手段を使っても彼女を信用させ利用できるようにしろと言われ、化け物だが手懐けてみせると答えた記憶であった。
今現在の気持ちではないにせよ、彼女は悲嘆に暮れてしまう。
火は刻々とロスの部屋を周り、もう余裕はない。
というところでエンドとなる。
果たして彼女はそれでも鍵を開け彼を救ったかどうか、わからない。


演出がしっかりしている。
最後の場面でオナーのいる側の部屋に「恋人たち」~ルネ・マグリッドのコミュニケーションの不可能性を示す絵が飾られていた。
まさに絶望の絵である。しかし絶望したらそこまで。

問題は即物的にこころの中を覗いてどうかではなく、全体をまるごと受け容れ信用できるかどうかであろう。
時空的な文脈においてである。
(勿論、視覚化は大変な強度を持つ。それにかえって足を取られるもの。しかしどういう意味~価値を見出すかは飽くまでも当人の問題だ)。




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エレクトリック・ドリームズ Crazy Diamond

Crazy Diamond001


Crazy Diamond
2017
イギリス、アメリカ

マーク・マンデン監督
トニイ・グリソーニ脚本
フィリップ・K・ディック原作


スティーブ・ブシェミ、、、エド・モリス(スピリットミル社QCエンジニア)
ジュリア・デイヴィス、、、サリー(妻)
シセ・バベット・クヌッセン、、、ジル(アンドロイド、保険のセールスウーマン)
ルシアン・ムサマティ、、、(スピリットミル社CEO)
ジョアンナ・スキャンラン、、、スー(キメラ)


7つの海を航海してエルドラドを見つける夢をもつエド。どこまで本気かは分からない。
不確かな世界に住んでいるとこんな感じになってしまうのかも、、、
人によるとは思うが。妙に明るいデストピア。

Crazy Diamond002

舞台は、野菜とか生物関係が急速に腐って逝く、エネルギーを失った滅びゆく世界なのだ。
海岸浸食が進み、家屋もそれと一緒に瓦解して行くような覚束ない現実を生きる人々。
地面を僅かに掘ったくらいで薄い土が撒かれているだけの人工地盤で脆弱極まりないものときた。
地盤がしっかりしていないところに住むということは、大変落ち着かない、何においても確信がもてない、のもよく分かる。
お家野菜栽培も地域経済を守る名目で違法、エドは嫌気がさしてやはり違法である航海を企てていた。
妻に話すが一笑に付され、もっと地盤のしっかりした北部に引っ越そうとか言われる。

Crazy Diamond003

アンドロイドの製造工場に勤めるエド・モリス。
そこでは男型のジャック、女型のジルを製造し、意識を与え自己認識を促すQC(量子意識)を注入し、ほぼ人間と変わらぬ存在に仕上げる。QCは人と豚のDNAから作られている。
豚:人間が6:4のヒト~キメラが普通にいて奥さんの相談役になっていたり、、、猪八戒か。
まあ、こういう多様な存在が当たり前に暮らす世界と謂うのは、より多様化が視覚化されてそれに馴染みやすくなる。
そこはある意味、想像力や思考もしなやかになり、素敵な場にも思えるが、、、。
しかしヒト同等になったアンドロイドが虐げられている現実では、別に人間自体が進化しているわけではない。

Crazy Diamond004

人間と変わらぬというところは、あらゆる面でとても厄介だと思うが。
有効期限の迫ったジルが会社のエンジニアであるエド・モリスに接近し、QCを盗み出すことを企て協力を依頼する。
何となくエドもその気で彼女と付き合い始めていた。
人間とそっくりなのだが素性を知ればつい差別的発言も出てしまう。
そういう時は「僕らと神経回路網は同等だと信じてるよ」とか弁解するみたい(笑。
彼ら彼女らは、生きたいのだ。当然そうだろう。死にたくはない。
貞子だって行きたいがためにああいったことをしたのだし。生きる為なら大概の事はするもの。
そしてモリスも彼女に惹かれて協力する、、、のだが。最後までやり切る度胸というか誠実さは無い。

Crazy Diamond005

気弱で優柔不断のエドが中途半端にジルに協力するが、肝心なところで脅されて逃げてしまい、、、
彼女の愛もエルドラドへの夢も奥さんの信用も全て失う。
妻のサリーと結託したジルの女性二人から裏切られ自分が行きたかった海の向うには彼女らが行くことに。
彼は船から突き落とされて、何とか海岸まで辿り着くが、、、既に家も海岸の浸食で跡形無し(笑。
辛うじて自分がよくかけていたLPレコードだけ拾い上げることが出来た。
それを胸に白昼夢に浸る。

Crazy Diamond006

エドたちに対し、アジトで待ち構えていたQCを盗んだギャングが「来たなシド・バレット」とかいう場面がある。
”Crazy Diamond”は、シド・バレットの綽名みたいなもので、ピンクフロイドのメンバーが彼を偲んで書いた曲が”Shine On You Crazy Diamond”であった。
ちょっと何をか期待してしまったが特にこれと言ってなかったような、、、。
思わせ振りか、、、。
エドも期待外れの思わせ振りな男であったし(笑。
まあ、妻と愛人に見捨てられてそれはそれでよしというところだが。

やはり妙に明るいコミカルなデストピア。
(狂気のテイストは特に無かった気はするが)。
中休み的な仄々作品(笑。
悪くは無いけど、、、。




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エレクトリック・ドリームズ 人間らしさ

Human Is001

Human Is
2017
イギリス、アメリカ

フランチェスカ・グレゴリー二監督
ジェシカ・メクレンブルク脚本
フィリップ・K・ディック原作

ブライアン・クランストン、、、サイラス・へリック大佐
エッシー・デイヴィス、、、ヴェラ・へリック(サイラスの妻)
リアム・カニンガム、、、オリン将軍


冷酷であった夫が突然豹変する。
愛情深い優しい夫になっていた。
そっちの方が良いに決まっている。
妙な捻りや展開、こて先の演出が無い分、ストレートに感動出来た。

Human Is002

スペースコロニー?の”テラ”に空気が足りなくなった。それを製造する源となる水を蓄えたレクサー星に水の強奪に繰り出す。
現在の地球でも同様なことは起きている。
レクサー人の反撃に遭い、テラからは物資を守るため爆撃許可が下りる。
その爆破で、隊長である夫サイラスの死亡を確信したヴェラであったが、自動操縦の船で彼と隊員1人の2人で水も獲得して奇跡的に帰還した。

だが、船内のビデオで確認すると、二人が辛うじて入船した時に同じタイミングでレクサー人二体も潜入していたのだ。
戻ったばかりの頃は体調が酷く悪かったが直ぐに復調して妻のもとに戻ったのだが。
明らかに姿かたちは夫であるが、戸惑いを覚える。
違和感は周囲の側近たちも感じていた。
とても優しい相手を労わる心を持った繊細な人物になっていたのだ。

Human Is003

レクサー人は大変非情で悪辣かつ狡賢い知的生命で我々の敵であるという認識をテラの人間は持っている。
丁度二次大戦中に日本国民に対し政府が鬼畜米英と言い聞かせていたのに等しいものか。
もう一人の隊員が寝言でレクサー語を喋っていたのが分かり、サイラス大佐も逮捕されてしまう。
テラ本部の認識では寄生したレクサー人がDNA融合し、本体の記憶や思考を操っている可能性があると。
但し、サイラスに成り済ましたレクサー人の位からして軍事裁判にかける必要があった。

Human Is005

裁判では、サイラスは一貫して人間であることを主張し、今現在われわれの置かれた困難な状況について語ろうとする。
しかし彼はレクサーに乗っ取られたメタモーフであると誰もが証言してゆく。
ヴェラ独りがサイラスは人間であり、わたしの夫だと主張する。
だがもっともへリック夫妻に長く親密な関係を築いて来た側近も大佐はレクサー人であると証言する。
そして奥さんはそれを知ったうえで庇っているとまで言う。
つまり妻も反逆罪に問われる立場になった。
誰もの観点が全てレクサー人であるかないか、でありそれはイコール敵かどうか、であるに他ならない。
(ある意味、テラが様々な要因から存亡の危機にあることからくる恐怖と不安が精神に及ぼす影響も大きい)。

Human Is004

大佐は、わたしは決して敵などではない。メタモーフであると性急な結論を出しわたしの命を奪い妻の人生をも奪おうとしている。
わたしにレクサー人であることを認めろと謂うなら、妻であるベラ・ヘリックを一切の罪に問わないことを条件にしたい。
法廷はそれを認め、彼をメタモーフとして退廷させようとする時に妻も意を決して発言する。
レクサー人は道徳心を持たず思いやりなど無いとオリン将軍はこれまで強調してきた。
本法廷は先の証言を真実だと認めるなら、被告人はレクサー人ではない。
彼は自分の命よりわたしの命を優先させた。
自己犠牲による深い愛情と優しさをもってしても人間としての証明とならぬのなら、一体人間とはなんであるか!
何からも目を逸らし、単に敵か味方か、それはすなわち悪か善かのみで人を裁こうとする法廷~人々に対しヴェラは立ち向かう。
最近の世界情勢ととっても重なり込上げるものがある。

Human Is006

最後は、二人きりで佇む窓辺で、ベラが彼に言う。
「そろそろあなたの本当の名前を教えてください」と。
わたしの名は君には発音不可能なのだ、、、
それなら、これからもサイラスと呼ぶけど、、、

間と情感もタップリな余りアメリカらしからぬ映画(いやTVドラマ)に思えた。
絵や演出を観ても余白まで非常にしっかり作りこんでいる。
映画と変わらない~まさに短編映画だ。
こういう作品は好き。





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エレクトリック・ドリームズ 真生活

Real Life001

Real Life
2017
イギリス、アメリカ

ジェフリー・ライナー監督
ロナルド・D・ムーア脚本
フィリップ・K・ディック原作


アンナ・パキン、、、サラ(女性警官、同僚をコリンズに殺害される、仮想現実でジョージとなる)
テレンス・ハワード、、、ジョージ(アヴァコム・データシステム社CEO、サラが仮想現実でこの男になる)
ララ・パルヴァー)、、、ポーラ(医師、ジョージの不倫相手)
レイチェル・レフィブレ、、、ケイティー(ジョージの妻、コリンズに殺害される、サラの伴侶)


個人に最適化されたVRヘッドセットで仮想現実に没入し違う人格として生きることが出来る。
仮想現実で休暇を取るとか。暫く休んできなさいという感覚で、、、しかし使い過ぎると危険。

Real Life002

その世界が余りにリアルすぎる為、どちらが本物の人生か分からなくなる。
サラとジョージという共に大切な相手を失った喪失感をトラウマに持つ人間。
コリンという殺人犯が共通項。

或る時、サラはジョージになってしまう。
ジョージはVRヘッドセットでサラになる(戻る)。
そしてそれぞれにその現実を生きてみた(というよりサラがジョージになったり元に戻ったりするのだが)。
しかし戻らなければならない。どちらかを選ばなければならなくなる。
ちょっとした休暇なのだから。

Real Life003

ここでどの現実を選ぶか悩むことになった。
幸せな現実を選ぶか、罪に対する罰を求める生を選ぶか。
どちらも等価であれば、好きな方を単に選ぶだけである。
しかし、こちらが幸せだから選ぶというシンプルな選択~思考にはならなかった。
真実の生はどはちらであるか。という一般化した考察となる。

人間というのは、幸せに耐えられない生き物でもあるようだ。
幸せな関係性に嘘っぽさを感じ、更にわたしにこんな幸せが与えられて良いものか、などという感情が込上げて来る。
VRヘッドセットにより、現実を行き来する主人公は、罪の意識に苛まれつつ罰を受ける生活こそが真の現実だと悟ってしまう。
人は苦しんで生きる事こそが相応しい。
論理的に、合理的に選択するのではなく、そのような感情で自分の真の生を選ぶ。

Real Life005

ジョージは名誉と財産には恵まれているが、不倫中に妻を殺され罪の意識に囚われ淋しい生活を送っている。
サラとしてケイティーと共に恵まれたセレブ生活を送ることが何故か違うと思ってしまうのだ。
ジョージはVRヘッドセットを破壊してサラがジョージとして生きることを選択してしまった。その為、本物のサラはケイティーの呼びかけにも全く反応しない仮想現実に閉じ込められてしまう。軽い気持ちで仮想現実界に休養を取りに行ったはずなのに、、、。

とっても皮肉な結果である。
何故そんな現実を選んでしまったのか。
われわれはそもそも、、、
自分のイメージそして現実を歪んだ因習的な観念で固定していないか。
これを機に改めて観直してみたいものだ。

Real Life004

ポーラに言い包められた面は大きい。
やはり不倫相手だからか。
誰に気持ちを許すかはかなり肝心なところでもある。
それによって重大な選択を誤ることも。





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エレクトリック・ドリームズ~自動工場

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Autofac
2017
イギリス、アメリカ


ピーター・ホートン監督
トラヴィス・ビーチャム脚本
フィリップ・K・ディック原作
ハリー・グレッグソン=ウィリアムズ テーマ曲

ジュノー・テンプル、、、エミリー(優秀なエンジニア、レジスタンス)
デビッド・ライオンズ、、、コンラッド(彼氏、本の収集家)
ニック・エバースマン、、、アヴィ(エミリーの同志)
ジェイ・ポールソン、、、ペライン(エミリーの同志)
ジャネール・モネイ、、、アリス(顧客担当ロボット)


「エレクトリック・ドリームズ」(SFドラマ・アンソロジー・シリーズ)の2話「自動工場」
特にこれを選んだ理由は無い。
順番に観て行こうとしたら1話目が途中から止まってしまい先に進まなくなったため、急遽これに切り替えた。
何だったのか、、、。ネットワークに支障が出た。

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ジュノー・テンプルはこれまで映画で何度も観てきているが、人間の時の彼女は素敵だった。ロボットになってからのレジスタンス然とした格好と鼻ピアスにはちょっと違和感を持った。
冒頭の車で外の街?自動工場を通り過ぎ飛ばしていたら核ミサイルが自分の街に向けて飛んで行き直撃、キノコ雲に唖然とする彼女。
掴みはOKなのだが、、、デストピアは相変わらず。

もう全く必要としない商品を自動で生産し続ける工場が、街にドローンで定期的にドサッと何やら注文もしていないのに送って来る、という自分たち(Amazon)に対するブラックジョークみたいな光景が描かれる(笑。
残った人々は、資源を使い環境汚染もしており、何のメリットもないため、工場に苦情を訴え、操業の中止をさせようとしていた。
必要のないものを生産する必然性はない。工場の稼働継続の為の生産でしかないのだ。

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実は核戦争で人類は既に全滅していた。先の女性が自動工場を作った当人であるが、彼女と入れ替えられたのがエミリーと謂うロボットなのだ。その頭脳と意識を引き継いでいる為、大変優秀なのだが。
核戦争後も人類は少数だが生き残ったと思われていたのだが、皆自動工場で生前の人間の意識~記憶を引き継いで作られたロボットなのだ。自分は人間だと信じて疑わぬプログラムの走るうえで。

だが、エミリーはそのことに気づいているのだ。
自分で自分の頭部を切開して自分で作ったウイルスをプログラムに紛れ込ませている。
それだけ分かっている~知っているのにちょっとちぐはぐな行動や対応が気になるところ。
周りのロボット人間に気付かれないようにそう振舞っているのか、、、。

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工場にクレームをつけ顧客対応ロボットがやって来たところで、彼女を拉致しプログラムを書き換えようとしたら複雑すぎた。
人間のように考えるAIなのだ。だがそんなことは、エミリーは端から知っていたはず。驚くのは妙だ。
まあ、他の仲間を遠ざけようとしていることからして、彼女だけの考えで工場に入りこんでやるべきことを考えているのは分かる。
顧客対応ロボットと共に仲間2人を引き連れエミリーらは工場に潜入。文字通り巨大無人工場であった。
他の2人は工場に爆弾を仕掛け爆破するつもりであったが、エミリーは違う計画を企てているのだ。

同行したロボットに捕らえられエミリーはプログラムのバグを修復されそうになるが、それはバグではなくマルウェアであり、エミリー自身がプログラムに接合させたメタプログラムであった。彼女はそのお陰で人であった頃の自分の記憶を夢で確認することが出来ていた。
そしてそのプログラムから逆に工場のシステムに入りこみ操業をストップさせる。
かつて自らが作ったシステムだ。

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一緒に行った2人は首を斬られていたが首だけで平気で喋っていた。自分がロボットだったと自覚したか。
彼女は街に戻り自分の恋人と再会を果たす。
勿論、皆ロボットであるが。

何と言うか、自分に対する違和。外界~社会に対する違和を誰もが少なからず抱えている。
それが大きければ過重なストレスで病気になりもするが、、、
存在する事への不安は人または人のような意識を持つ者にとり前提である。
存在は本質に先立つのだ。

この人たちはもはやロボットを超えており、このまま生きればよい。
エミリーみたいに恋人でも作って不確かななかで不安を抱えながらも生活を愉しめば良い。
そう、恋が出来るのだから何の問題もない。




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ロバと王女

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Peau d'âne  / Donkey Skin
1970
フランス

ジャック・ドゥミ 監督・脚本
シャルル・ペロー『ロバの皮』原作
ミシェル・ルグラン音楽

カトリーヌ・ドヌーブ、、、王妃/王女«ロバの皮»:
ジャン・マレー、、、王様
ジャック・ペラン、、、王子
ミシュリーヌ・プレール、、、赤の国の王妃:
デルフィーヌ・セイリグ、、、リラの妖精
フェルナン・ルドゥー、、、赤の国の王
アンリ・クレミュー、、、医者
サッシャ・ピトエフ、、、大臣
ピエール・レップ、、、ティボー
ジャン・セルヴェ、、、ナレーター
ジョルジュ・アデ、、、学者
アニック・ベルジェ、、、ニコレット
ルイーズ・シュバリエ、、、老婆


カトリーヌ・ドヌーブのヒロインミュージカル。曲の方はわりと控え目な感じのミュージカルだ(インドと比べてはならない)。
彼女を見初めた王子はこれと言って自分では動かず、恋煩いで寝て待つだけ。周りがあたふた。
超過保護のボンボンもいいところ。
ここでは、ドヌーブが焼いてプレゼントしたお菓子に入っていた指輪を町中の娘が試すというメンドクサイ流れに、、、。

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そんなアホな。何ともまどろっこしい。
ロバの皮の女だという事は分かっているのに、、、回りくどいことを。
指がやたらと細いのね。でも指の細さだけなら他にも該当者はいるだろうに、、、。
兎も角、ドヌーブが一番細くて良かった、のかどうなのか。

兎も角、噺などどうでもよく、美術を魅せる映画と謂える。鮮やかな色彩を。
それは確かだが、何だかね、、、。
おお美しい!、、、が愛なのだ。

Donkey Skin003

家来たちは青は皆服装だけでなく顔まで青い。乗る馬まで青い。
赤は顔も当然赤い。馬も赤い。
何だこりゃ。
ちょいと不思議の国のアリスみたいな世界を構築しているでないの。

音楽はまずまず。お城の庭園でドヌーブがオルガン弾いて唄っていた曲(テーマ)は素敵だった(歌は吹替だが)。
ロバは、お尻からザクザク宝石を垂れ流す。
財に困ることは無い。
だが、お妃が病気になり、わたしよりも綺麗な人が現れるまで再婚しないでと王に遺言して逝く。

Donkey Skin004

その言葉を守りながら再婚を勧める重臣たちに取り合わず過ごすが、何と言う美しさだという女性が見つかる。
それが娘~姫なのだ。そりゃカトリーヌ・ドヌーブ二役なんだからそうなるでしょ。
だとしても何でこの父~王はそれに気づかないの。
そしてこともあろうに娘に結婚を申し込む。
アホかい?

だがマジなのだ。余の心は決まっておると。
娘は流石に困ってしまい、リラの妖精に相談する。
妖精は国王を諦めさせるための難題を出しなさいと姫に忠告する。
結局この妖精の謂うがママの事を国王に願い出ることに、、、。
超豪華ドレスである。
しかしこの手のオーダーは全て叶えてしまうだろうに。

Donkey Skin006

晴れた空色のドレス。次は月色の輝くドレス。そして極めつけに太陽の色のドレス。皆作らせてしまう。
妖精にそそのかされて次々に父の申し出を断って行くが、最後にロバの皮をはげはキツイ。
そのロバは生かしておけばドンドン宝石をお尻から垂れ流すのに皮をはいでしまう。
ここまでされたらもう逃げるしかない。

そしてロバの皮を被り魔法の杖を妖精から貰い、身をやつして城から脱走する。
よくロバの皮なんて羽織れるなと思うが、普通に羽織って歩く。
まあ、魔法の杖があれば大概のものは出せるので困ることは無い。
下女として他の城下で身を隠して働くことに。
彼女をこき使う老婆が唾を吐くたびにガマガエルが口から落ちる。おもろい。
民衆から汚い臭いと罵られながら”ロバの皮”の呼び名でずっとこき使われて過ごす。
これもひとつのイニシエーションなのか。
そこで王子様を待つという何だか分るような分らぬ展開に。

Donkey Skin007

王子が或る時森の中で小屋を覗くと彼女を見つけ恋に落ちる。だがそれから先が意味不明のアプローチをとることに。
そして例の件で彼女に指輪を試すとピッタリなので結婚となる。初めから分かっているのだが。
すると父である国王がヘリでお祝いに駆けつける。
何と彼は自分の思惑を悉く邪魔してきたリラの妖精と結婚していた。わけわからん。
その後世界中の王たちが祝いに駆けつけ、、、
盛大な結婚祝いは3ヶ月間続いたという。めでたいことだ。

絵を愉しむ子供向け絵本のような映画であるが、まあ何だろうね。
わたしはどう愉しめばよいのよ?という映画であった。
一度は観ておこうと思っていたので、これでよし(爆。





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私の20世紀

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Az en XX. szazadom
1989
ハンガリー、西ドイツ


イルディコー・エニェディ 監督・脚本
ラースロー・ビドツキー 音楽


ドロタ・セグダ、、、りり、ドーラ、双子の母
オレーグ・ヤンコフスキー、、、Z
パウルス・マンカー、、、ヴァイニンガー
ペーター・アンドライ、、、エジソン
ガーボル・マーテー

4Kレストア版であった為、夢を見ているような綺麗なモノクロ映像であった。
ブダペストで幼くして生き別れた双子の数奇な運命を描くが、独特の美学のもとに制作されていることが分かる。
妙に古風に作られている。その拘りが形式になっているような。
エジソンの発明による電球のお披露目で人々が湧きたっている頃から始まる、、、この辺の導入から持っていかれる。
(双子はマッチ売りの少女などやっていたが、妙に芝居じみていて如何わしかった((笑)。

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双子はリリ、ドーラと名付けられ、全く違う環境下でかけ離れた人生を送っていた。
1900年にオリエント急行に偶然、上りと下りではあるが、乗ることになる。わたしの20世紀の始まりへ、、、。
第一次世界大戦前のちょっときな臭い雰囲気もあれど。(寧ろこの作品製作時期の世界情勢こそ微妙であった気がする)。
リリはちょっと頼りない小心者の革命家になっており、ドーラは詐欺師娼婦となって羽振りは良い。
ドロタ・セグダが見事に大胆に演じ分けている。
最初にそれを知らなければ、違う女優が演じているように見えてしまう。
もっとも双子(一卵性)であるから、同じ姿かたちがしっくりするが、演じ方が余りに違い同一人物には思えない。
女優が上手いに尽きるが。女性監督特有の演出も当然利いている気がする。

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パッと見ロートレックみたいな紳士(背は高い)が、何と二人を同一人物だと思って好きになってしまう。
容姿がそっくりだとしても表情や仕草、所作、振る舞い、行動、言動、姿勢、衣装、が全くかけ離れていて違うパーソナリティー(人間)である。わたしの好きな人に似てますねえ、とは謂っても、もう同じ人間と決めつけて接近は普通しないと思うが、、、。
調べて驚いたが「ノスタルジア」(余りに古い記事なのでわたしの記事には思えない(爆)のオレーグ・ヤンコフスキーであった、この人。
わたしという存在の非連続性を思い知る、、、

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二人のヒロインは20世紀を生き始めるが、エジソンその人との繋がりは全くない(笑。
エジソンは時代の象徴として登場しているようだ。
二人は、電球による夜を照らす光とも電信技術による世界を瞬時に繋ぐネットワークとも、特に関係ないように見える。
革命家はそれ以前に沢山いたし、新しい手法を取り入れて活動している訳でもない。とても古い手法で動いている。
男をたぶらかして金を巻き上げる詐欺娼婦はそれこそ、古典的な存在でもある。
テクノロジーが進歩~激変してもヒトがそれほど変わる訳でもない、といった側面を描こうとしているのかどうかは、ちょっとわからないが、、、。

リリが爆裂弾に火をつけたは良いが、投げることが出来ず、火も消えてしまったところは、実にペーソスはあるが、ショボすぎる。
エジソンの発明には絡み様がない。
「ハンガリー 女性解放論者の会」も何だかどういう意図でここまでしつこく挿入されているのか分らぬエピソードである。
繋がりに拘らなければ、まさに夢の断章であろう。それなら分かる。

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二人は鏡の部屋に紛れ込み、ロバに出会い、Z氏もロバに鞄を銜えられ鏡の部屋~りりとドーラのいる部屋に誘われる。
そこで彼は真相を知るが、それでどうなるのかは分からない。
この鏡の部屋のようなシュールな場面は随所にあるが、動物園のチンパンジーの語る自叙伝みたいな噺は、まさに夢で見るような光景だ。彼の語った噺が如何繋がるのかと思っていたが、特にそこだけのことに思える。
「好奇心はほどほどに、、」とか言っていたが、エジソンは好奇心の塊である。
わたしの観方が浅いのかしらとも思ったが、確かに3回くらいウトウトしてしまった。
決して詰まらないとかではなく、こちらも夢見心地に誘われてしまうのだ。
間違いなく一風変わった映画だ。ドロタ・セグダと謂う女優が何と言っても独特の魅力を放っていた。

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終始、絵としての形式的な美が意識された構図が光った。
猫が何故だか一時、クローズアップされたり、それが自然に文脈に収まっている。
ロバもそうだが。
今知ったが、「心と体と」の監督なのね。
これはたまげた。この映画は実に印象に残る映画であり、今BSTVで観ているフランスドラマの「アストリッドとラファエル」の自閉症のアストリッドみたいな女性ヒロインがとても素敵であった、、、。この作品が2017であるから、28年後の作品である。
どちらも形式的に美しいよく練られた作品であったが同じ作家と言われると、、、やはり飛躍は感じられる。

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最後は、エジソンの電報の実験イベントで幕を閉じる。
ここで伝書鳩を窓際に出すか、、、こんな対比は幾つも感じた。
キャストもよく不思議な感触の映画であった。音楽もしっかりフィットして心地い良い。長編処女作だそうだ。





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レディ・プレイヤー1

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Ready Player One
2018
アメリカ

スティーヴン・スピルバーグ 監督
アーネスト・クライン、ザック・ペン 脚本
アーネスト・クライン『ゲームウォーズ』原作
アラン・シルヴェストリ 音楽

               本体/アバター
タイ・シェリダン、、、ウェイド・オーウェン・ワッツ / パーシヴァル
オリヴィア・クック、、、サマンサ・イヴリン・クック / アルテミス
ベン・メンデルソーン、、、ノーラン・ソレント(IOI社長)
リナ・ウェイス、、、ヘレン・ハリス / エイチ
T・J・ミラー、、、アイロック
サイモン・ペッグ、、、オグデン・モロー
マーク・ライランス、、、ジェームズ・ドノヴァン・ハリデー / アノラック
フィリップ・チャオ、、、ゾウ / ショウ
森崎ウィン、、、トシロウ / ダイトウ
ハナ・ジョン=カーメン、、、フナーレ・ザンドー
ラルフ・アイネソン、、、リック


のっけのヴァン・ヘイレンの「ジャンプ」からニューオーダーの「ブルーマンデー」など選曲が決まっている。
3Dアニメーションもとっても自然でなめらかで迫力充分。
アイアン・ジャイアント”や”メカゴジラ”や”ガンダム”、”キングコング”が派手に暴れまくる。ガンダムにタイムリミットがあるのが不思議ではあったが、フィギュアの再現は見事。動きも申し分なかった。

Ready Player One006

2045年に地球は飛んでもなく荒廃していた。
ちょっと早過ぎだろう、という光景。もう現実に夢も希望もない、、、。
どうしょもないスラムで暮らしている主人公ウェイドだが、VR空間「オアシス」に逃避すれば、自分の成りたいものに成り、好きなように過ごせる。戦闘ゲームで荒稼ぎしたり。しかしそれで殺されたりすると、これまで集めたものが全てクリアされ初めからやり直しとなる。これは誰もショックらしい。

Ready Player One002

ほとんど全ての人が「オアシス」に依存して生きている。そちらが主体なのだ。こころはオアシスに。
このオアシス空間とそこで活躍する自分のアバターを操る現実の身体~本体との間を目まぐるしく行き来する映像がスリリングな緊張と臨場感を生む。
何故、バーチャル空間内で完結しないかというと、この物語は、主人公がその空間で5年間誰もが探し出せなかった創始者が隠した第一の鍵を見つけたことによる。
その為、この空間を自分たちが独占したいという野望を持つIOIという企業によって現実空間の生身の本体が狙われることになったのだ。こうしてバーチャル空間と現実空間の両方をまたがっての闘いがド派手に行われることになった。

Ready Player One003

ジェームズ・ハリデーによってシステムは構築され、彼の遺言で、オアシスにしこまれたゲームで3つの鍵を手に入れた者にはオアシスの所有権と5000億ドルの資産を受け渡すとあり、誰もがその鍵を血眼で探し求めているのだ。
ゲームの入り口は見つかったが幾ら挑んでも誰もが途中でリタイヤとなっていた。
ウェイドは、生前のハリデーについての深く細やかな情報~知識を収集し「ハリデー記念館」などで熱心にヴィデオを精査し研究を進めていた。結局、聞き逃してしまうような言葉の解釈が肝心なのだった。
IOIなどの大企業もその鍵を求めて、主人公たちと熾烈なバトルを繰り広げることとなる。

Ready Player One004

兎も角、映像はヘビーな3Dバトルゲーム空間と同等なものと謂えるか。
もう目まぐるしい、と言うかとてもわたしは目で追いきれない。
速くて激しいダイナミックな動きに着いて行くのが大変(笑。
この手のゲームをやり慣れている人にはとてもフィットする映像に違いない。

Ready Player One005

キャラクターも思いっきり個性豊かな者ばかりでアニメの利点を最大限に活かしている。
そしてアバターと本体との対比もとても面白い。
ヒロインはどちらも綺麗で鋭い女性であったが、その他は何とも言えないズレが愉しませてくれる。
ウェイドよりパーシヴァルの方がずっとイケメンであり、親友の巨漢メカ男は黒人女性である。仲間の鎧の武士のダイトウはスリムな日本人青年。忍者のショウは11歳の中国人少年というアバターからは想像もつかないものばかり。
アルテミスとサマンサは別として。

最後は収斂すべき形に収まり終わり。
特に拗らせる必要はないし、ハッピーエンドで良い噺だ。
愉しく観られた。



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サクロモンテの丘-ロマの洞窟フラメンコ-

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Sacromonte, los sabios de la tribu
2017
スペイン

チュス・グティエレス監督

ロマのフラメンコのアーティストたちのドキュメンタリー。
かつては(写真で見れば)輝くスターパフォーマーであったが、今はおじいちゃん、おばあちゃんなのだ。とても味のある。
それでも凄い熱量と技量で迫ってくる。
お孫さんのような人たちがしっかり魅せるので継承されていることは分かりホッとした。
出来れば若い人のパフォーマンスをもっと観たかった。継承を超えたものをちょっと感じたからだ。
(もう洞窟は無くなってしまい普通の住居で暮らしている世代だ)。

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アンダルシア地方のサクロモンテの洞窟でロマたちがフラメンコを盛んに踊っていた。
彼らに所謂、学校とか授業と呼ばれるものは無く、皆師匠に当たる人を見て聴いて真似て技量を身に着けていたという。
洞窟ごとに何やらグレード~流派があり、継承されたフラメンコを各自極めていたようだ。
それぞれのかつての大スターから昔の栄光の噺がなされるが、こちらとしてはほとんどピンとこない。
場所名もその頃のフラメンコの大スターも分からないことで、何だか凄いみたいと感じるくらいだ。
フランク・シナトラの名前だけはわかったが。

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終盤には、3世代に渡ってパフォーマンスが観られたが、まだ年端もいかぬ娘さんが凄い歌を聴かせたのは印象的。
まあ、おじいちゃん、おばあちゃんたちも5歳くらいから歌とダンス、男子はギターも見よう見真似で誰もがやって来たそうだ。
謂わば、生活そのものが、フラメンコのパフォーマンスの一部であったのだ。
だから生きることが、常に唄って踊って弾いている状態。
考えてみれば凄いことだ。生活の細やかな機微を全て掬って歌にして唄い踊り弾いてしまうのだ。
これ程裂け目のない芸術的生活なんて、、、。もう芸術のアマルガムのなかで生きてるような。

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洞窟が大雨(水害)で崩れるなどして、977あった洞窟から4429人が立ち退き命令を受けバラックに引っ越したというが、それによりロマのコミュニティが衰退し一時、フラメンコも下火になってしまったという。
ロマたちはかなり辛い時期を過ごしたというが、、、。つまり下界に降りて普通の職業に就いて生活を営むこととなった。
今は確かに洞窟に住んでいる人はいない。洞窟コミュニティはもう存在しない。
しかしフラメンコ自体は、新たな生活形態のなかで蘇り、若い世代に引き継がれていることはこれを観て確認できた。
基本的に、政治的な要素は無く、生きる喜びを謳歌する力強いものである。ユーモアがあり下世話な部分もあり、、、。
特に第二世代の椅子に座って踊るフラメンコダンスはやたらカッコよかった。
(第三世代の若い女の子の歌も見事だったが)。

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わたしにとっては、若い世代のものがしっくりくる。
ほぼロックに近いパフォーマンスが感じられたからだ。
オランダのトレースのリック・ヴァン・ダー・リンデンがバッハを高速で弾いてまさにロックにしていたみたいに、エッジの効いたパワーで迫るパフォーマンスは同様のインパクトを感じられるところであった。
そう言えば、フラメンコを取り込んだロックアーティストも70年代かなり見られたな。
スパニッシュ・プロフレッシブ・ロックバンドが幾つもあった、、、が今確認できない。かなりディープな構築美による世界を表出していたものだが。
LP版でしまい込まれている為、どういう状態になっているかちょっと心配になって来た、、、(涙。

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もっと身近なフラメンコ・プログレ・グループでいうと”カルメン”が有名。
音もよく出来ていて演奏力も高い。何よりステージ上で映えるライブバンドであった。
イエス並みの楽曲と演奏力に加えヴォーカリストが実際にフラメンコを間奏で見事に踊ってしまう。
これは受けると早速目を付けたのが、デヴィッド・ボウイであった。やはりアンテナ張ってますな。日本で言えば坂本龍一か。
未だに彼らの楽曲は脳裏に浮かぶくらい、かなりのインパクトであった。
恐らくフラメンコの形式を取り込んで楽曲にすることで本質的なソウルもものにしているのだ。
まだギリでフラメンコの噺には乗っかっているな、、、(笑。

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ともかくこのドキュメンタリーでロマのフラメンコと切り離せない生活と洞窟文化に触れ、その独特の継承の形体を知ることが出来た。
そして元気なかつてのスターであったおじいちゃん、おばあちゃんの現在のパフォーマンスにも浸り刺激は充分受けたものだ。
が、わたしは2世代目、3世代目のパフォーマンスこそ見たい。
(余り観られなかったものだし)。
世代の繋がりと飛躍も確認したいのだ。
この続編でやってもらえたらとっても嬉しいのだが。
ただ監督の趣旨はそこにはないようだし無理ね。
何かの形で、若いロマの現在のフラメンコ観たい。




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トラベラー

The Traveller001

The Traveller

1974
イラン

アッバス・キアロスタミ 監督・脚本
カンビズ・ロシャンラヴァン 音楽


ハッサン・ダラビ(10歳の困った少年)

アッバス・キアロスタミ監督の処女作だという。
しょうもない少年を使った映画は最初からなのね。
これでこの監督の映画は確か8本目の鑑賞となるか。

The Traveller002

まあ一般人の少年の頑張ること。
これ以後の映画でも素人少年が、かなり酷使され怖い目に遭わされている。
そもそもイランには子役は少なかったりするのか?
素人を是非とも使いたいと謂う監督独自の拘りか?
イラン、トルコ、イスラエル等の大国に役者が不足しているとは思えないし、やはり監督の趣味であろう。

アッバス監督の作品では、少年の強い不安や恐れがリアルに描かれたものがとてもよい。
友だちのうちはどこ?」、「ホームワーク」等特に、、、名作である(子供たちにはたまったもんじゃなかったり)。
わたしとしては、真に迫っていて上手いのか、素朴そのままの素直さが見事に引き出されているのか、分らない部分はある。

他にも子供主体でない~出てこない作品も良い。
「桜桃の味」、「オリーブの林をぬけて」、「そして人生はつづく」、「風が吹くまま」など、、、どれも味わい深いものばかり。

The Traveller003

さて本作であるが、まあ悪ガキが学校の勉強も宿題もせず、友達と少年サッカーばかりやって過ごしている。
当然成績は悪く、落第をしているみたい。小学生で。
テストでもカンニングしてテスト用紙を取り上げられている。

そんな彼が、明日テストという日に、よりによってお目当てのチームの試合がテヘランで行われるということで、絶対に行ってやると決める。勿論学校さぼってである。テスト受けなければまた落第であろうに、、、。どういう奴なのか。TVではダメなのか。
しかしテヘランまで行き、試合会場に入るには、往復旅費と入場料金は最低必要である。
そこで家の金は盗むは、無理やりガラクタを押し売りに行くは、古ぼけたカメラを掘り出して、カメラが売れないと分ると、フィルムも入っていないのに写真を撮ってやると謂い、順番に子供たちから前金をもぎ取り一枚ずつ撮ったふりをしてゆく。相棒が肝心の写真はどうするんだよと聞くとボケて取れなかったという、と平然と応える。しかしまだまだ足りない。
そこで、何と自分たちのチームが大事にしているサッカーボールとゴールを、チームが解散したからと言って売り飛ばしに行く。
飛んでもないガキだ。
それでどうにか資金調達出来、その夜の11時のバスに乗ってテヘランへと向かうことに。

The Traveller004

バスの時間まで自宅で息を潜めて待つがちょっと眠りかけたりする。
まさか眠ってしまって乗り遅れ等しないよな、と思っているとギリで家を出る。
案の定、バスに乗り遅れ走って追いつき、ドアを叩き辛うじて乗せてもらう。
このガキ万事このペースなのだ。

そして明くる朝会場に到着し、長い列に押し込まれる。
ここでも押すなとか早く行けとか、実に何とも、、、
それで、彼の前で券は売り切れ。さあ帰れと来た(爆。これはちょっと監督やり過ぎとも思えるが(笑。
当然、納得しない悪ガキである。
そこで現れるのが、所謂チケット高額不正転売のお兄さんである。
50リアルを200リアルで売っているのだ。
当然文句を言うが相手にされない。だが落ちていた札を使い一枚買い取る。

The Traveller005

そして走って良い席を見つけ、そこでホッとして弁当を食べる。
隣りのおじさんになれなれしくテヘランの見所などを聞いたりするが、ここからは遠い。
まだ始まるまで3時間あることを知り、おじさんに席を取って置いて貰い、町の見物に出てしまう。飽くまでマイペースだ。
スポーツジムやプールなどを覗き、何故か芝生みたいなところで昼寝をしている人々がおり、そこに混じって寝てみる。
前日の疲れも手伝ったか眠りに落ちてしまう。
夢には皆に責め立てられ苦しむ自分の姿が出て来る。
ハタと目覚め会場に走って戻るが、がらんと人気のいない一面ゴミだらけに汚れた席がひろがっているだけ。
清掃員が残っているだけだった。

The Traveller006

何とも徳のない少年に相応しい空間よ。
あれだけ彼なりに頑張った仕打ちがこれである。
哀愁に充ちた絵であるが、、、何とも言えない。

いくら自分の行いの周囲に与える影響が計れない年頃とは言え、これからどうするつもりなのか。
恐らく何も考えていないだろうが、無意識的には悔悟の念は生じているようだ。
予知夢まで見ている(爆。
これから帰っても、金策で苦労をかけた相棒には、試合どうだった?としつこく聞かれるだろうし、撮影で騙した子供たちからは写真はどうなったのと催促がやまないだろうし、少年サッカーチームのメンバーたちからは、俺たちチーム解散した覚えはないぜと、恐らくボコボコにされるだろう。更にテストをさぼった付けも当然、先生から言い渡されるはずだし、お金が無くなったことを母はまだ強く疑っており、追及は続くはず。わたしなら帰る気はしないが。

この後の監督の映画に出て来る少年の中で、最もお先真っ暗な子だ。
ご愁傷様
最初からこんな感じだったのね。巨匠と謂われているが、かなりの意地悪。
ただ素人にここまでやらせるのは、凄い。




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パリの調香師 しあわせの香りを探して

Les Parfums001

Les Parfums
2020
フランス

グレゴリー・マーニュ監督・脚本
ガエタン・ルーセル音楽

エマニュエル・ドゥヴォス 、、、アンヌ・ヴァルベルグ(気難しい調香師)
グレゴリー・モンテル、、、ギヨーム・ファーヴル(運転手)
ゼリー・リクソン、、、レア・ファーヴル( ギヨームの娘)
ギュスタヴ・ケルヴェン、、、アルセーヌ(ギヨームの上司)
ポリーヌ・ムーレン、、、ジャンヌ(アンヌに仕事を斡旋するエージェント)
セルジ・ロペス、、、バリェステル医師


最後のシーンからエンドロールの歌で感動した。
(そう、歌が渋くて特に良かった)。
そこに全てを収斂してきた。
もしそれが無ければ、微妙~で終わっていたかも。ギリで合格(笑。

Les Parfums002

グレゴリー・モンテルという役者さんが渋くて味わい深いギヨームである。
親権を取って娘と暮らしたいのだが、収入と住居の点でそれが降りずに悩むタクシー運転手。
エマニュエル・ドゥヴォス演じるアンヌは余り観ないタイプで、役作りが難しくなかったか。
とっても気難しい上に掴み処のない微妙な性格である。ちょっと自閉症的だし。
香り~匂いのアーティストである。やり甲斐のある面白そうな仕事だ。
ギヨームみたいな、人は良いが不器用で素朴なタイプが結構、アンヌの相棒に向いていそう。
つまり彼も運転手から調香師へ転職だ。

Les Parfums004

アンヌはかつてはパリで活躍する高名な調香師であったが、嗅覚障害を患いそれを隠して仕事を続けたが大きな失敗を犯し第一線を退いていた。
ここでギヨームに対して語る、アンヌの博学は聴いているだけでもこちらも面白い。
拘りの仕草、所作も興味深いところだ。
休養して回復後、匂いに関する様々な仕事をエージェントに謂われるままやって来たが、満足はしていない。
というより、4年間に渡り意に添わぬ仕事ばかりのようだった。
特にエージェントから多額の報酬が得られると紹介された工場の廃棄臭を消す仕事には大きな抵抗を覚える。
ここで酒を呑んでしまい、再び嗅覚障害を起こしてパニックとなる。

Les Parfums006

眠りたいと睡眠薬を飲み過ぎた彼女に危険を感じたギヨームは病院に連絡する。
病院の要請に従い大急ぎでタクシーを走らせたため、致命的な減点を喰らう。
(結局、彼は運転手はクビとなり、クボタの芝刈り機に乗るバイトに就くことに)。
しかしギヨームのお陰で名医のバリェステル医師が呼び寄せられ、彼女は本格的な治療を受けることが出来た。
(かつて掛かろうとしたが噂が流れる事を危惧して断念したのだ)。
回復した彼女は、再び香水の世界に舞い戻る決心をする。これはギヨームの勧めもあった。
アンヌはギヨームの資質を見抜いており、彼を助手~相棒に据え復帰を目指す。

Les Parfums005

でもこれ、香水で一発当てれば凄いことになるはず。
「シャネルの5番」みたいな。
終盤、二人で何とディオールに自分たちで開発した香水を売り込みに行っている。
(どうなったか、までは描かれていないが、、、その後を見れば何となくわかる)。
最後にギヨームが娘の小学校で颯爽と特別講師をしていたが、娘も鼻高々だ。
とてもカッコ良いではないか。調香師なんて。

Les Parfums003

お金が儲かり良いアパートが借りられれば、娘とも一週おきに暮らすことが出来る。
運転手続けるより絶対よい。
アンヌ・ヴァルベルグの荷物を運ぶ仕事で、運が巡って来たのだ。
何と言うか、こうしたひとつの極める仕事を介した信頼で結ばれる男女関係も素敵である。

わたしもチャンスの前髪には敏感にならないと。





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鉄道運転士の花束

DNEVNIK MASINOVODJE001


Dnevnik masinovodje
2019
セルビア、クロアチア

ミロシュ・ラドビッチ監督・脚本

ラザル・リストフスキー
ペータル・コラッチ
ミリャナ・カラノビッチ
ヤスナ・ジュリチッチ
ムラデン・ネレビッチ


これも当たりであった。
面白い切り口だと思う。
鉄道運転手の現実がわれわれの日常をある意味グロテスクに晒している。
ブラックジョークのようなシリアスな噺だ。
人が死ぬのは、あからさまな戦争状態においてばかりではない。
普通に人の犠牲の上に人は日常を、当たり前のように(かてとして)生きてゆく。

DNEVNIK MASINOVODJE003

養護施設にいた10歳の少年がバッグをさげて、独り線路上をトボトボ歩く。
ベテラン運転手のイリヤが急ブレーキで少年を辛うじて救う。
理由を聞き、家で食事を出し一晩寝かせて施設に帰すつもりであったが、、、。

少年の両親はオーストラリアで飛行機事故に遭い亡くなったと聞かされてきたが、それは嘘で施設の前にバナナの箱に入れられ捨てられていたことを知らされた。
里親も見つからず、自分は要らない子だという認識を持ち、線路上を歩いていたという。
そのまま、彼シーマをイリヤが引き取ることとなった。
隣りも鉄道運転手の家庭でとても彼に暖かく接してくれる良い環境である。

DNEVNIK MASINOVODJE005

長じてシーマは成績優秀で学校を卒業し19歳で義父と同じ鉄道関係の仕事に就くが、、、
彼はずっと運転手を希望していたがイリヤは頑固に認めない。
家を離れて列車の出発係の仕事に就くことになるが、実情はその仕事にも就けず、洗車係で腐っていた。

何故、イリヤは運転手を頑なに反対していたのか。
鉄道運転手は誰もが過去に事故で人を轢き殺していた。
イリヤは一番最近の事故で、6人のロマを車ごと無残に粉砕している。
事故後、正装して花束をそれぞれの墓に手向けお悔やみを述べているが、責任は自分にはないという認識である。
それは運転手全員の共通認識であり、事故で人を轢き殺していない運転手はいなかった。

DNEVNIK MASINOVODJE006

しかしそれに慣れることは、ひとつ大きなハードルを越える事でもあり、自分の息子にはさせたくなかったのだ。
だが、シーマがある夜、ホームで沈んでいると父の運転手仲間リューバが列車で入って来て彼をそそのかす。
これから実地訓練してやる。きっと輸送部門に入れるぞ、と甘いことばで誘い、シーマにいい加減な運転を教え、途中で放り出して姿を消してしまう。シーマ独り運転席に残されスピードはどんどん上がり、ブレーキが掛けられず、やむを得ず外に飛び降りてしまうという失態を犯してしまった。

奇跡的に人身事故などなく信号を二つ無視した形で走行して止められたが、これに父は怒る。
その矛先は、当然リューバにも向かい、父と優しいお隣さんが水浴び中の彼を二人してボコボコにしてしまう。
今度シーマに会ったら殺すとイリヤは告げる。
親なら当然だ。

さてシーマの決意が固いことを知ったイリヤは、息子に丁寧に運転を教えて行く。
呑み込みの良いシーマはしっかり身に着け晴れて運転手となった。
パーティーで先輩たちが、俺は何人轢き殺したという武勇伝を語って聴かせる。
先ずは、轢き殺してからいっぱしの運転手だというところだ。
流石にシーマはそれを真に受けはしないが、それだけ危険な仕事だと言う認識はもつ。

DNEVNIK MASINOVODJE004

3か月間、彼は無事故で、その期間を大変なプレッシャーとストレスの中で過ごす。
神経を使い過ぎて、心身ともに衰弱してしまっていた。
それを見兼ねた父とお隣さん、それから父の愛人たちは大いに気を揉む。
イリヤ自身も精神状態が危うくなり、自分のかつての恋人が戻って来たと普通に語りだす。
恋人の幻想と戯れ始めるのだ。これにもお隣さんは心配する。
イリヤは自殺を考えていそうな人に掛け合い、明日のこの時間に線路上に横になっていてくれと頼み込んだりしていた。
それを聴いた相手は機嫌を損ね、何でわたしがあんたの息子の犠牲になる必要があるのかと、その怒りで生きる意欲を取り戻してしまったりする始末。それはそれでよいのだが、父はほとほと困る。

DNEVNIK MASINOVODJE002

結局、意を決して自分がシーマが通過する線路上に横たわることにした。
ホントにこれが運転手のイニシエーションなのだと思えてくるから怖い。
もうブラックジョークとかいう余裕はなく子供を一人前にするべくシリアスな現実なのだ。
だが運命の悪戯かその手前、シーマに死ぬほど怖い思いをさせたリューバが車で遮断機の下りた信号の内側、線路上で立ち往生しているではないか。
当然、シーマ運転手は急ブレーキをかけるが止まり切らず、車ごとリューバを粉砕となった。

そのまま減速を続け、父の寝そべっている近くで停車し、今初めて人を轢き殺したことを報告する。
でかした!ところで誰だったと聞く父に、リューバの野郎だよ、とニコニコと返す。
それはよくやった、と。確かに今度会う時は彼の死ぬときだった。
息子もこれで一人前の運転手としてこころに余裕をもって仕事ができ、父をはじめ彼を心配する人たちは肩の荷を下ろすことが出来るのだ。

息子運転の列車でゆったりとした楽しい旅行に出る父と愛人、お隣の夫婦。
シーマの運転席には彼の可愛い彼女も乗っていた。
これから先、何人轢き殺すことになるやら。

エンディングは父と息子で正装して花束を持ち墓に向う後姿。
とても幸せな優しい光に包まれている。


ハッピーエンド。





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コントラクト・キラー

I Hired a Contract Killer001

I Hired a Contract Killer
1990
フィンランド、スウェーデン


アキ・カウリスマキ監督・脚本・製作・編集

ジャン=ピエール・レオ、、、アンリ・ブーランジェ
マージ・クラーク、、、マーガレット
ケネス・コリー、、、殺し屋


これまた、大当たり(笑。この連勝記録伸ばしたい!
舞台はイギリス。主人公はフランス人(フランス人に嫌われてイギリスで働いているアウトサイダー)である。

I Hired a Contract Killer002

ル・アーヴルの靴みがき」の監督である。「愛しのタチアナ」もよかった。
レニングラード・カウボーイズ・ゴー・アメリカ」や「レニングラード・カウボーイズ、モーゼに会う」は、ほとんど響かなかったが、、、。

何と言ってもジャン=ピエール・レオである。
何で生まれて来てしまったのか、という諦観が全身を覆っている。
水道局が民営化するにあたりリストラの対象となり、安い腕時計を渡されクビになったアンリだが、再就職など全く頭になく自殺を図るが自殺自体も手がかかり面倒なのでやる気になれず人に頼む。
まあ、彼には元々生きる情熱など無く、これを良い契機としてこの世からおさらばしようというところだろう。
殺し屋に大金払って頼むと、直ぐに引き受けられるが、気が変わったら早めに知らせるようにと念を押される。
そこに居合わせた殺し屋二人組にも、何で次の職探しをしないんだとか、職に就いてなくても楽しく暮らせるぜ、とか慰められる。
殺し屋の方が前向きだ。
俺たちはもう友達だから殺しは他の奴が行くぜということであった。

I Hired a Contract Killer003

このやる気のない小心振りが板についているアンリは、カフェで死ぬ前に酒とたばこを初めて試してみる。
これまで機械のように無味乾燥な役所仕事を続けて来たことの最後の反動ともいえる行為か。
プカプカ煙草吹かして酒を呑み続けていると花売りの綺麗な女性がやって来るので、思い切って声をかける。
人間死ぬ気になれば大概の事は出来ると言うが。
もう彼は電話もガスも使えずアパートも数日を残し解約である。金も殺し屋に払ってしまっていた。
飲み物を奢って、取り敢えず彼女、マーガレットの住所を聞き出す。
初めての成功体験か。

I Hired a Contract Killer004

ここで、彼に生きる意欲が芽生えたみたい。
成程殺し屋がやって来るが、死にたくなくなって逃げ回るのだな、と思うとその通りなのだ(爆。
分かり易過ぎだろ。
彼女のアパートに行くと一度は拒否されるが、結局結ばれることに。ここの展開は早いが、死も迫っているから急ぐしかない。
しかし殺し屋のボスが気が変わったらキャンセルの知らせをなるべく早くよこせ、と言っていたのを忘れている。
単に彼女のアパートに逃げたり、ちょっと変装した気になったり、ホテルに二人で身を隠したつもりでも、殺し屋はしっかり場所を特定してやって来る。
彼女に諭され、お金は戻らないけどキャンセルしてきなさいよと言われ、君って頭いいねって、自分がアホ過ぎるだろと思うが、これでリストラされたわけでもないらしいが(フランス人で外国人からクビと謂うことらしいが)、頼りないことこの上ない。
殺し屋事務所の酒場に行ってみるとそこは既に解体されているのだった。
気付くのが遅かった。

I Hired a Contract Killer005

例の酒場で出逢った二人組の殺し屋を偶々見つけ彼らの後を追ってゆくと宝石店で丁度店主を銃で脅し金庫から物を取り出しているところに出くわす。その遭遇に気を奪われた瞬間店主が銃口を押さえる。その反動で銃が暴発する。殺し屋は、ピストルをアンリに手渡し袋を持って逃げてしまう。彼はピストルを手にしたところを写真に撮られ新聞の一面を飾ることに。
殺し屋に追われる身でありながら、宝石店の強盗殺人犯にもなり、列車に飛び込み自殺を図ろうとする。
これらを全て無表情でホントにやる気なさそうにやるので、観ていて心地よい。
彼女との逢瀬の時だけ感情が観られるが、、、。

わたしを捨てて自殺など考えずに国外に逃げましょう。祖国のフランスでも他の国でもと提案されるが、彼の国を捨てるのかという問いに対し、彼女の「労働者階級に祖国なんてないわよ」には、膝を打った(笑。この彼女となら上手くいくぞ。
警察も逃げた二人組を捕らえ、第三の男は無実と報じる。
だが、自分が蒔いた種である殺し屋がどんどん迫って来るのは止められない。
この渋い殺し屋も癌で後数週間の命なのだ。全財産を娘に与えもう来るなと退路を断ってやって来る。
半端ではない。異様にカッコよいやさぐれたオヤジなのだ。

I Hired a Contract Killer007

アンリとマーガレットの逃避行に手を貸してくれる不愛想なホテルのオーナー?もいて助けられる。
このまた更にやさぐれたオヤジの伝手でハンバーガ―屋で働かせてもらう。
ハンバーガー屋で身を隠しかわしてゆくが遂に殺し屋に追い詰められ絶体絶命となる。
だが彼曰く、この世は実に詰まらんところで生きるに値しないみたいなことを述べる虚無的で厭世的な男であった。そしてアンリの目の前でピストル自殺してしまう。
彼は一目散に逃げてゆくが街に出て道路を横切ろうとしたところで危うくマーガレットの乗るタクシーに轢かれそうになる。
ここで再び九死に一生を得ることに。

I Hired a Contract Killer006

後は、国外逃亡して二人でそれなりに幸せに暮らすのではという感じを仄めかして終わり。
あのジョー・ストラマーが小さなパブで何だか切々と歌っていたのだが、監督とどういう交友関係なのかしら、、、。
頼まれての友情出演としか思えん。
(あのスーパースターを凄まじい無駄使い)。

な~んだ。結局ハッピーエンドか。
でもこのカップルには好感もてるから、いいわ。よくあるパタンだと二人そろってハチの巣にされて終わりというもの、でもそれあり過ぎだから、こっちの方が新鮮で良い。
とても心地よく観ることが出来た。





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ラ・ポワント・クールト

La Pointe Courte005

La Pointe Courte
1955
フランス

アニエス・バルダ監督
アラン・レネ編集
ピエール・バルボー 音楽

フィリップ・ノワレ
シルビア・モンフォール
その土地の人々


ここのところ、観る映画が皆当たりである。
観終わって虚しい気持ちに陥らないで助かるというもの(笑。

La Pointe Courte006

アニエス・バルダの初長編作とのこと。
最初から素晴らしい作品作ってたと言う訳。
ポワント・クールトという漁村が淡々と、しかし愛着を込めて描かれている。
ずっと鳴り続けるBGMというか環境音楽が場面にピッタリフィットしていて心地良かった。
何か癖になりそうな感覚を味わえたもの。

フィリップ・ノワレとシルビア・モンフォールの夫婦(役者は恐らくこの二人だけ?)が、巴里からやって来て一時だけその土地に浸ってみる。
もっとも、夫にとっては久しぶりの生まれ故郷なのだ。
5日遅れでやって来た妻に自分の故郷を紹介して回る。
何があるわけではないが、その土地固有の独自の時間をともに楽しむ。

La Pointe Courte001

妻は夫に別れを告げにやって来たのだが、滞在するうちに気持ちが変容してゆく。
その過程が、漁村のあちこちで過ごしながら絶え間なく続くお喋り~誌的なことばのやりとりを通して繊細に描かれる。
時折、正体不明のオブジェみたいな汽車が草原の中を忽然と現れたりしてビックリ。
アニエス・バルダは、元写真家であるから、そう言った視点も多分に感じられる。
わたしは物語からはみ出した次元のこのシーンがいたく気に入った。
まさにシュルレアリスム。

La Pointe Courte004

漁村では、衛生局が浜辺の水質に難があると言い、この界隈での漁を取り締まっていた。
しかし漁師たちは定期的に水のサンプルを役所に送り、汚染の問題は無いことを証明しようと抗っているが、、、
生活の為、監視船の運行の間を潜って魚や貝の漁を続けている。
役所との関係が険悪であることが見て取れるのだが、素人の住人たちがここまで演じてくれるのか、と感心するところ。
本物の役者にも劣らぬ演技をかます喧嘩上等の漁師のボスなど大したもの。
この人は味があって演技以前の存在感でも勝負できる(笑。

La Pointe Courte003

漁師たちの熱気~生命力に対し大変静かに語りあうばかりの夫婦の対比も際立つ。
夫婦の顔の前面と横顔のアップを絵画的に固めた構図のままする詩的な会話が印象的。
マグリッドの絵みたいな感覚である。
何と言うか、漁師の海と漁の道具やボート、女たちの家事と子供の世話と噂話、それらが海辺の村と有機的な一体感を持っているのに対し、巴里から来た夫婦は全ての景色から浮き立ち抽象的な存在として愛に関する観念的な対話に終始する。

観ているうちに背景に流れる音楽とこの構図の妙と、自然で鄙びた漁村に生きる素朴な漁師とその妻と子供たちのランダムさが織り成す対比がとても計算されていることが分かってくるのだ。
アニエス・バルダの映画はとてもスタイリッシュだったことを思い出す(笑。

しかし観念肥大の人形めいた夫婦の表情にも、やがて豊かな笑みも見られるようになる。
水上槍試合の観戦で村人に溶け込み盛り上がるのだ。
奥さんが席を離れ一瞬、心配になったが、何とアイスクリームを二つ手に持ってニコニコしながら戻って来るではないか。
彼らの前でアイスを食べている少女を見て食べたくなったのか。

La Pointe Courte002

この夫の里帰り計画はとても上手く行ったと言えよう。
二人に感情が戻ったという気がする。
そして村人たちのパーティーである。
やはりパーティーというのは、大きい。
日本にはこれに当たるものが無いなと思った。
お祭りの盆踊りとは根本的に違う。




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オン・ザ・ミルキー・ロード

On the Milky Road000

On the Milky Road
セルビア、イギリス、アメリカ
2016

エミール・クストリッツァ監督・脚本・製作
ストリボール・クストリッツァ音楽

エミール・クストリッツァ、、、コスタ (元音楽家、ミルク売り)
モニカ・ベルッチ、、、花嫁 (ジャガの花嫁、多国籍軍の将校に追われる)
スロボダ・ミチャロヴィッチ、、、ミレナ (コスタに想いを寄せる、元新体操選手)
プレドラグ・"ミキ"・マノイロヴィッチ、、、ジャガ (ミレナの兄)


端から独特な異世界の物語という感じ、、、
草木のない広大な岩場と思えば、沼地で丈高い葦が伸びていたり、放牧地があるかと思えば、物凄い滝があったり、、、
そこに住む人々も日本人とはかけ離れている。いや絵自体がかけ離れている。
いや何より噺自体が飛んでいた。戦時中のミルクの配達人である。傘をさしてミルク缶をロバに二つぶら下げて乗り、時折双眼鏡で遠くを覗く。そんな主人公の物語だ。

On the Milky Road001

鶏、ガチョウ、ヤギ、ハヤブサ、蛇、羊、ロバ、熊、、、と色々動物が出て来るだけでなく、かなり複雑な役を彼らは熟している。
演じる様々な動物たちの尺は長い。タップリとある。勿論CGもかなりあるにせよ。
毎度血のプールに飛び込むガチョウや鏡に映る相手と戯れ続ける鶏、熊との口移しのオレンジ賞味、蛇とたっぷりタメを置いて格闘する場面や羊が次々に地雷で爆死するところなど圧巻であるが、一番唸ったのはハヤブサと主人公の相棒の度合いである。
(この拘りは監督の趣味か)。
更にこんな場所何処に在るんだという岩山の続く広大な絶景には度々圧倒される。引きの撮影自体も凄い。
こういうところに生きる人特有のパーソナリティなのか皆楽天的で享楽的な感じなのだ。
(場所が人間を作るのは確かだが)。
やはり若い美女と共演していてもモニカ・ベルッチは一際キレイであった(笑。

On the Milky Road004

ツィンバロム演奏者で戦時中のミルク配達人のコスタが監督でもある。
ほぼ出ずっぱりで、監督というのもさぞ大変なのでは。しかしロバに乗り慣れているのには感心したものだ。
戦時中なのだが、村人にとりその状況が日常過ぎて冗談言いながらルーチンを熟しつつ、楽しい食事を摂っていた。
陽気な歌や踊りダンスも忘れない。
そして村の人気者ミレナの兄で英雄のジャガが戻って来てイタリアから逃れて来た花嫁と挙式することに。
丁度そのタイミングで敵国との停戦協定が結ばれた。
ミレナはその日にコスタ と挙式するW結婚パーティーを目論んでいた。

On the Milky Road003

だが、すっかり祭気分の村に敵国とは全く別の特殊部隊が空から次々に降りて来るのだ。
訝る村人もいたが、基本戦後の救援部隊か何かだと思っていたところに、一斉射撃と火炎放射に見舞われ皆殺しされ村ごと焼き払われてしまう。
コスタはミルクを配達に出掛けており、花嫁は井戸に身を投じ、辛うじて逃れていた。
最終的に残ったのは彼ら二人のようだ。
二人は既に相思相愛の関係になっている(お互いに当初の結婚相手とは違うが)。花嫁がコスタが銃弾で落とされた耳たぶを縫い付けてくれたあたりから恋愛関係になっていた。
この残虐な行為は、戦争とは関係ない、イタリアの花嫁を追って来た多国籍軍の将校の仕業である。
もはや彼女を取り戻すと言うより嫉妬からの殺意以外のものではない。

On the Milky Road002

村人にとってはただの巻き添えでありたまったものではないが、、、。
ここからは、特殊部隊からの2人の何とも言えない逃亡が描かれてゆく。
徹底して逃げ切るという感じではなく、直ぐ近くまでやって来た時は必至で逃げるが、それ以外は結構のんびり過ごしたりする。
緩急ある逃亡なのだ。まあそうしないと神経がすり減ってしまうのかも。
途中で空き瓶拾って楽器作って演奏して一緒に楽しむのも、その場でなければ出来ないことだ。
それを大事にする姿勢は正しい。

On the Milky Road005

凄く深い滝壺に二人して飛び降りたり、蛇に襲われたことで助かったり、地雷の中羊たちと逃げ回ったり、、、
しかし最後は、蛇は彼女に対して守護神たり得なかった。
地雷にやられることを考えれば一か八かで蛇に身を任せても良かったのでは。
だが、充分濃い生活を送ったのでは、と言う気もする。
こんな大自然の中で、多種多様の動物たちと関り、人間の狂気がただひとつ糞厄介なものであったが、それは何処に逃れても襲い掛かって来るものだ。逃げても意味はなくただ叩き潰すのみである。

On the Milky Road006

エンディングのシーンで、あれから15年後、独りで暮らすコスタはすっかりキリスト教信者となっており、教会から石を袋に詰めて、かつて花嫁が地雷にあった土地まで上って行き、一面を敷き詰めようとしていた。
人、動物、自然の深く絡み合ったちょいとコミカルで凄いスケールの物語である。

これを丸ごと受け取れる体調の時に観たい(出来れば)。





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トビラ 魔の入り口

DOOR IN THE WOODS002

DOOR IN THE WOODS
2019
アメリカ

ビリー・チェイス・ゴーフォース 監督・脚本・製作

デヴィッド・リース・スネル、、、レッド・イーデン(夫)
ジェニファー・ピアース・マサス、、、エヴェリン・イーデン(妻)
ジョン=マイケル・フィッシャー、、、ケイン・イーデン(息子、自閉症?)
CJ・ジョーンズ、、、ユライヤ(黒人エクソシスト)


ホントの意味で悪魔の恐ろしさが分かる。
優秀なエクソシストとはどんなものかが分かる。
悪魔との契約とはこれ程のものなのか、と驚愕する。
ホラー史に残る名作を観てしまった。
映画としても最後の締めには思わず膝を叩いてしまう程の出来である。
全体にもう少し重めの演出にしたらよかったのでは、、、

DOOR IN THE WOODS001

まずこの映画、最初の頃はとても軽い感じ。
エヴェリンが森で見つけた得体の知れぬ汚い扉を持ち還って家のクローゼットの扉に修繕して嵌めこんでしまう。
(「アンティークな扉ね」ってどこが、である。DIYが趣味なので、小綺麗に作り変えられる腕を見せたかったか)。
何でそんな気持ち悪いことするの?としか思えない。どうせこれで悪いもの運び込んでしまったという設定ね、と思う。
家に良くない気を感じエクソシストを頼むが、やって来た彼が妙にお喋りでチャラい雰囲気で胡散臭い。
(どうやら手話でエヴェリンが返していることから耳が不自由なエクソシストみたい)。
お父さんはいい人みたいだが、状況把握に不安が。
この辺からして、如何にも軽めのお手軽ホラーという質感なのだ。

だが、この夫婦の苦悩がよく見えて来る頃から、重みが感じられるようになる。
一人息子ケインは発達障害(自閉症?)のようで、彼のような子供を養育してくれる学校を探してはるばるその土地に越して来たのだが、教職員はそんな彼に冷たく、クラスメイトは彼を嫌い虐めてくるのだ。
虐めに耐えかねて友達を殴ったという事で親は校長のもとに謝罪に行くことに。
夫もこの地で職がないため特別に学校の修繕係(用務員みたいなものか)として仕事をもらっている。
つまり学校に対しては複雑な感情を抱いていた。
妻も生活のため店を持つ計画を立て夫もそれに協力している。
子育てに苦労していることもあり、夫婦の結束力は強い。

DOOR IN THE WOODS003

明らかにドアを嵌めてからケインに妙なストレス~悪夢に悩まされるなど~がかかり始め、そのことに気付いたユライヤが血相変えてやって来る。
彼はこの家は悪い気が運び込まれており、直ぐに浄化しなければならないと伝え、浄化の儀式を執り行う。
ユライヤは、例のドアが原因であることに気付き、それを取り外し廃棄するように忠告する。
その夜、ドアを外そうとするが、頑丈に嵌っていてどうにも外れず週末に時間を掛けて外すことにして寝てしまう。
だが、明くる朝そのドアは森で見つけた時の痛んだ状態に戻っているではないか。
夫婦ともに尋常でないものをはっきり感じ取る。
そのドアから少女の幽霊が何度か出入りしているが、恐らくケイン以外は知らない。

そんななか、ケインはまた友達と喧嘩したということで、退学処分となってしまう。
これには流石に憤りと哀しみを隠せないイーデン夫妻。また新しい学校を探す相談を始めることに。
この土地に何かあることを察知し、エヴェリンは村の図書館で事件などの記事にあたってゆくと、子どもの失踪が過去に何度もあり結局誰一人発見されることがなく迷宮入りとなっていたという。
それを更に詳しく追うとドアだけ残して消失した家に辿り着く。その家を焼き捨てたという老婆を探し話を聴くと、焼いた家に子供たちが次々に何かの力で取り込まれて行ったのだという。老婆の娘もその一人であった。
彼女は残った扉を地に埋めたが、それがいつの間にか森の中に立ち上がっていたのだ。鍵を掛けることで封じ込めていたが、彼女は直ぐにその扉を処分しなければならないと悲痛な面持ちで叫ぶ。
そんな時、ケインが家から消えてしまう。

DOOR IN THE WOODS004

エヴェリンは頼みの綱ユライヤを呼び、ケインの奪還を依頼する。
彼は扉を外し森のもとにあった場所に鍵と共に戻させ、沢山のアイテムを並べ準備を整え扉の向こうの相手に対し対話を要求する。
相手の悪魔はケインをいたく気に入っており、取引なんぞには応じる気はないと突っぱねるが、、、。
何段階もの手順を経て何度も拒否されながらも結局、向こう側の悪魔のマスターとの直接交渉を取りつける。
ユライヤは耳は聴こえないが悪魔の声はしっかり聴き取り両親に伝えていた。
彼はネゴシエーターとしての優秀な腕前を見せる。悪魔との取引交渉中のVFXは決まっていた!
大概のエクソシストはそれ以前の段階で惨殺されておしまいであるが、契約書にサインまでして成立させてしまう。
つまりケインは戻って来るのだ。ユライヤも両親も無事なまま。普通のこの手の物語ではあり得ない。

DOOR IN THE WOODS005

しかし悪魔の提示した条件は「大変な苦痛を与える」というもの。両親は涙を呑んでそれに同意していた。
一体どんな代償なのか、、、と思って神妙に見ていると、、、。
なるほど。そういうことか、である。ユライヤが言うには悪魔は最初からこれを狙っていたという。
詰まりケインが呆然と扉を森で打ち眺めていた時に決定されていたことなのだ。
とすれば、母が扉を持ち帰ったのも全て悪魔の誘導によるものであったと言える。
ユライヤの能力と器も計算の上か。
悪魔の懐の深さに感服するとともに優秀なエクソシストの仕事ぶりと、夫婦の結束力も相まってこんな結末もありなのか、とつくづく感心した。

DOOR IN THE WOODS006

2人を先に帰し、父が意を決して学校にその扉を修復して取り付けていたが、、、。
悪魔はこれから容易にたらふく子供を取り込めるし、イーデン夫妻としては結果的に理不尽な理由で子供を虐め追い出した学校への復讐を遂げることにもなった。
ユライヤは契約の事はキレイに忘れこれからに向けて生きてくださいと両親に諭して去って行く、、、何ともカッコよい。
もうあなた方とは二度と逢いませんと言っていたが、謝礼とか受け取っていないように見えたのだが、気になる。
これだけの仕事をしたエクソシストを見たことないので。

こりゃホラー史に残る名作だわ。
もうちょっと全体に質量が欲しかったが、よく出来ていた。




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うれしはずかし物語

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1988

東陽一 監督
竹山洋 脚本
ジョージ秋山 原作

川上麻衣子、、、チャコ(フリーター、裕介の浮気相手)
寺田農、、、三国裕介(会社の部長)
本阿弥周子、、、三国和歌子(裕介の妻、専業主婦)
渡浩行、、、外山(ボクサー、和歌子の浮気相手)
麻生かおり、、、康子(チャコの姉)
佐久間哲、、、舟戸(康子の情夫、やくざ)
草見潤平、、、雨宮
島村紀之、、、三国広志


W不倫をあっけらかんに明るく描いた昭和映画。
1989まで昭和だったからと言う訳でなく、どっぷり昭和の雰囲気に浸かった映画という感じ。
濡れ場にしても。川上麻衣子も頑張っていたが、本阿弥周子の貫禄も流石というところか。
登場人物たちは皆、昭和の劇画から出て来たような味のある人たち。
ただチャコに関しては、時代関係なく20歳くらいの女子にはいそうな気はする。変に割り切っていて。

会社の部長で専業主婦の妻と高3の息子と中学生の娘がおりしっかりした家に住んでいるが、自分独りの空間が欲しく外にマンションを一室持っている。
そのマンションの部屋に毎週金曜日だけ愛人契約を結んだチャコという20歳の娘がやって来ることに。
しかし月15万はちょっと痛くないか。まあそんなところか。
ちなみに彼女は、金曜以外は全く裕介の詮索は受けず、自由に過ごすと宣言している。
裕介とは金曜限定なのだ。彼にとってはドライに思え、ちょっとモヤモヤはする。
裕介にとっては「愛」が芽生え相手を色々と思ってしまうから金曜だけ思うと言う訳には行かない(自然だと思う)。

ここまでならリアル路線でも展開可能であろうが、これはおもしろコメディである。
奥さんも若いボクサーから迫られ、浮気に走る。
お互いに隠し合い誤魔化しながらその関係は続けて行く。
息子は裏口入学の手筈は取っているが余りに入試の点が低いと取り消しとなる緊張感ある状況下ではある。
子どもの心配は家庭である以上、必ず生じるもの。
しかし夫婦の衝突もコミカルで何となく適当に収まっているのは、お互いが浮気している後ろめたさもあるからか。

裕介はチャコという週一の若くて愛らしい愛人が出来てからとても調子が良い。
和歌子も外山という若い浮気相手との関係で若返って行く。
共に良い状態になっているのだが、バレずに続けることが肝要となる。
だがそうもいかないことは、よく分かってしまっている現実。

そこでスリリングな面白展開を、という事で、、、。
裕介は流石に子供の教育費もかさみ、マンションの部屋を売り払い、安いアパートを借りることにする。
そこに家で余ったピンクの布団を持ち込みそこを新たにチャコとの金曜日の逢瀬空間とすることにした。
だがその部屋は、外山のアパートの向かいであり、窓が互いの部屋からしっかり見える位置関係なのだ。
そんなことあるもんか、と謂いたいところだが、これでお互いの情事を具に見てしまうのがいつになるのかという期待で引っ張れる。
しかも双方ともその最中に窓は開けっぱなしなのだ。季節が良いのなら虫が入って来るだろうに。
かなり無理のある設定であるが、、、、。

そして話の流れから丁度良いタイミングで、あれまとお互いの顔を見合って真相を知る。
流石に知った時はショックであるが、おあいこの関係であり、相手を責める資格はどこにもない。
しかも、そっちの関係は、もう続けることが出来ない自覚をお互いに持っていた。
止めるにこれはどのタイミングは無い。
そして雨降って地固まるといってよいかどうかはともかくとして、また仲良くやって行きましょうとなった。

まあ子供もいるし、チャコやボクサーをこれ以上引っ張るのも不味いだろうし、中年はリフレッシュはこれで締めて、お互いに良い経験になりましたにすればよい。そんな感じに終わった気はする。
その後、路で出逢ったチャコと裕介がお互いに吹っ切れていて、彼女から手渡されたオレンジを裕介が道端に置いて行くのはなかなか粋であった(笑。


まあ、川上麻衣子のファンとかでなければ、特にわざわざ観るほどのものではないと思う。





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ピッグ/pig

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Pig
2021
アメリカ

マイケル・サルノスキ 監督・原案・脚本
ヴァネッサ・ブロック 原案

ニコラス・ケイジ、、、ロビン・“ロブ”・フェルド(元有名シェフ、トリュフハンター)
アレックス・ウルフ、、、アミール(トリュフバイヤー)
アダム・アーキン、、、ダリウス(アミールの父、大物実業家)
ニーナ・ベルフォーテ、、、シャーロット
グレッチェン・コーベット、、、マック
デヴィッド・ネル、、、デレク・フィンウェイ(有名レストランのシェフ。かつてロブの下で働いていた)
ベス・ハーパー、、、ドナ
ダリウス・ピアース、、、エドガー
カサンドラ・ヴァイオレット、、、ローレライ・“ローリー”・フェル


ニコラス・ケイジが主演であるとは、観終わった後も気づかず。後でびっくり(笑。
これ程深みのある真面目な役をやるなんて、何年振りなのか、、、
圧倒された。

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3部に分かれており、最初の章はロブが世を捨て森の中でトリュフハンターとして生きる孤高の姿を淡々と描く。
寡黙な彼に豚がよく懐いていることが分かる。
2章では、最愛の豚を奪われ、アミールと共に街に出て探し回る。ここではロブが都会を裏社会まで知っていることが分かる。
かつて彼は有名レストランの名シェフであったのだ。
最後の章では、黒幕であるアミールの父親と豚を巡り対峙する。かなりの因縁があったことも窺える。

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トリュフを採るための豚が有る夜何者かに奪われるのだが、これは立派な犯罪である。
探しに行くと盗んだカップルが見つかるが既に都会の男に売りさばいたと涼しい顔で言う。
こいつら警察に突き出さないのかと思っていたがそれについてはこれっきり。それ以降の描写無し。
何なんだ。まさか盗んだもの勝ちじゃないだろうね。金をせしめたことは間違いないのだが、どうしたのか、、、もやっとする。

大変な不安を抱えながらバイヤーのアミールと共に、ポートランドの街に出てゆく。
ロブにとっては、単なるトリュフ豚ではなく、大切な相棒であり可愛いペットなのだ。
街では何と、ロブの名を知らぬ者はいない程の伝説の名シェフであることが分かる。
(一定の年齢層から上は、、、)。
アミールは余りに若いためそれを全く知らなかった。
ここで、取り敢えずの金策で地下で催される殴られて金を儲けるイベントに参加しロブはしこたまボコられる。
(こんなことせずにアミールに金を出させればよいのにと思うが)。

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豚を買い取ったのがアミールの父で人々にその影響力を恐れられているダリウスであることを知る。
(勿論、ロブは彼の事もよく知っていた)。
彼の家を息子に聴き、直接豚を返すように訴えに行く。
当然の権利であるが、そもそも何故彼がロブの豚を奪う必要があったのか。
勿論、息子からロブとトリュフの取引で儲けていることを聞いたうえでの仕打ちである為、何らかの意図があるのは分かる。
一度は金を払うからそれで諦めろと追い返されるが、ロブはアミールに食材を用意させ、彼の父をディナーに誘うのだ。
そこでロブから振舞われた料理に思わずダリウスは涙する。
かつて夫婦で彼のレストランでディナーを愉しんだ記憶が蘇ったのだ。妻はその料理をいたく気に入っていた。
(今現在は自殺未遂で病院に長く入院したままである)。
そして正直にダリウスはロブに伝える。
豚は死んだと。運び屋のジャンキーの扱いが元で弱って死んでしまったそうだ。
今度はロブが泣き崩れる。

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気遣うアミールには、また木曜に会おうと言って別れるロブ。
トリュフを探すだけなら自分だけで出来ると言う。
これまでの取引は継続するということだ。
また彼は元の森の生活に戻っている。
金はしっかり取ったのかどうか分からないが。どうもそこのところが気になるのだが、、、。

終始、ニコラス・ケイジの重厚な演技に圧倒されっぱなしであった。
時折、話す言葉も哲学的で思慮深く、、、。謂わば森の賢者という風情である。
彼の演技無しでは到底成立しない映画である。
かつてのオスカー俳優だけの事はあるが、ここのところ何なんだという感じの仕事ばかりが目立ち終わった感が凄かったところ。
兎も角、めでたしである。

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それから相棒(人間の方)となるアレックス・ウルフも頼りげないファザコン青年役がとても良い味を醸していた。
このふたりの関係は、絶妙で興味深いものだ。
良い作品であり、キャストの演技も申し分ない。
見応えがしっかりあった。

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ニコラス・ケイジは本作で、第42回ゴールデンラズベリー賞の名誉挽回賞にノミネートされたそうだ(爆。





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マリグナント 狂暴な悪夢

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Malignant
2021
アメリカ

ジェームズ・ワン監督・原案
アケラ・クーパー脚本・原案
イングリット・ビス原案

アナベル・ウォーリス、、、マディソン・ミッチェル
マディー・ハッソン、、、シドニー・レイク(マディソンの義妹)
ジェイク・アベル、、、デレク・ミッチェル(マディソンの夫)
ジョージ・ヤング、、、ケコア・ショウ刑事
ジャクリーン・マッケンジー、、、フローレンス・ウィーバー医師
マッケナ・グレイス、、、幼少期のマディソン
イングリット・ビス、、、ウィニー(鑑識)


如何にもホラーという感じの題だが、よく出来たエンターテイメント作品である。
研究所で如何にもという感じのモンスターが暴れ狂っている状況から始まるのは、既視感タップリではあるが。
フローレンス・ウィーバー医師が悪性腫瘍を切除すると決意する。

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何度も流産を繰り返しているマディソン。
夫はDV男。健気な妹は初代プリウスを乗り回し姉の為に奔走(この映画、日本車が多い)。
今も妊娠しているが、またしても夫に暴力を振るわれ、後頭部を強打し、結果的に流産してしまう。
しかしその夜から悪夢を観始める。
夫が惨殺されるのだが、その現場に居合わせたかのような疑似体験めいた悪夢なのだ。
状況からマディソンが疑われる。だが殺し方が無残に首をへし折られていて尋常ではない。
マディソンの悪夢は続き、その通りの惨殺が繰り返される。

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マディソンには8歳までの記憶がない。里子に出されるが本当の両親については何も知らない。
妹シドニーと共に過去を探り始める。
何とマディソンには双子のガブリエルがいたことが分かるが、彼がどうなったのかの情報は掴めない。

殺されてゆく人間がフローレンス・ウィーバー医師のかつて働いていた研究所の医師たちであることを警察も掴む。
そして何よりその線で捜査中にケコア・ショウ刑事が犯人に鉢合わせしてしまう(もっともターゲットは既に惨殺済みであるが)。
激しい攻防戦が繰り広げられる。
後半アクション要素が急に入って来るのだ。

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マディソンが自宅に鍵を新たに取り付けて回りカーテンを閉めてゆくところなど(長回しで一気に見せるが)、完全にその悪魔は外部からの侵入者であると言う前提だが、それもいよいよ怪しくなる。

ガブリエルに攫われ縛られた女性が縄を自力で切り、その部屋から脱出しようとした時に床が抜け、マディソンの家の居間へと落下したところは、本当に驚いた。
そういうことなのね!である。確かに。ここは秀逸。

この女性の身元は警察が調べ、マディソンの実母であることが分かる。
ケコア・ショウ刑事が、にやけている割に意外とタフで強かった。
他の刑事が皆殺されてもこの人は残る。

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妹が頭が切れて行動的な人格者であることが様々な面で利いて来る。
DV夫がマディソンを壁に打ち付け後頭部を打ったことで、封印されていたガブリエルが目覚めたところまで洞察するのは凄い。
過去の流産もガブリエルが胎児を自分の栄養源にしていたことも見抜く。
義理の姉の失われた初期8年間の情報を廃病院に探りに行って資料を収集して来るというのもアッパレな妹である。
(普通、ここで悪魔の妨害に遭い悪ければ殺されたりもするが、そこは大丈夫。わたしもホッとした)。
持ち還ったビデオを母と共に見る。そこには殺害されたフローレンス医師のレポートが映されており、ガブリエルとマディソンの驚愕の関係を知ることとなる。15歳の少女がレイプされて生まれた双子がその2人であったのだ。大変な功績であるが、まさか背中に貼り付いた脳を共有する兄弟とは、、、。しかもガブリエルは甲殻類みたいな姿で、これはマディソンもいくら双子だと言え生理的に無理だろう。いや凶暴で理性のコントロールが不可能であるからだが。記憶が消されていたから生きてこられたところは大きい。

しかしそりゃ、(ガブリエルが)殺害時に自分もそこに居る臨場感を持つわな。当然。
ガブリエルが主体で強靭で獰猛な殺戮に入る体制を作る所作から凄い動きだ。背中が前面となるのだし関節の動きが何とも。
(「魁男塾」にも、こういう難敵が現れたことがあったぞ。そういえば)。
この悪魔であるガブリエルは、誰でも片っ端殺すのではなく(確かに研究所や女子留置場、警察署では殺しまくるが)基本、自分を排除しようとした研究者たちとマディソン周辺の人々を抹殺する目的だった。
この殺害に入る際に周囲がその場に溶けるように変容するVFXがとてもスタイリッシュ。
マディソン(のパーソナリティ)がそこに誘われる感覚だ。ホントは一緒に~一つの身体で、そこに行っているのだが。

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最後は、脳を共有するマディソンがあなたの好きにはさせないと彼を檻に閉じ込め自分の身体を取り戻す。
そして血の繋がりは無くてもあなたが一番大切な人よと妹と抱き合う。
実母も命は助かる。
感動のハッピーエンド。
(鑑識のお茶目なウィニー女史も隠れていて無傷で助かったのも何故かホッとする)。

あの飛んでもない数の殺戮も全てガブリエルのやったことだし。
わたしたちは、平穏に暮らすの、で良い。マディソンには関係ないし。
とは言え、改めて振り返ると、自分を悪性腫瘍呼ばわりして切除し共有する部分(脳)だけ残して葬った相手を憎むのは充分分かる。自分も生きたいのだ。当然の権利だ。しかし彼らの母をレイプして産ませた男についての言及が一切ない。
もし続編があれば、この得体の知れぬ父の姿が明かされる展開となるのでは、、、。
その父こそプレデターかも知れぬではないの。続編があれば、きっと面白いぞ。




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台風クラブ

Typhoon Club002

Typhoon Club
1985

相米慎二 監督
加藤祐司 脚本
三枝成彰 音楽

三上祐一、、、三上恭一(野球部3年、理恵の恋人、優等生)
紅林茂、、、清水健(野球部3年、美智子に片思い。サイコ気味)
松永敏行、、、山田明(恭一や健の友人)
工藤夕貴、、、高見理恵(恭一の恋人)
大西結花、、、大町美智子(優等生で潔癖症。恭一のことを慕う)
会沢朋子、、、宮田泰子(演劇部3年。由美と同性愛関係)
天童龍子、、、毛利由美(演劇部3年)
渕崎ゆり子、、、森崎みどり(演劇部3年、泰子と由美とつるむ)
三浦友和、、、梅宮安(恭一のクラスの担任、数学)
尾美としのり、、、小林(東京で理恵をナンパした若者)
鶴見辰吾、、、三上敬士(恭一の兄。大学生)
寺田農、、、清水留造(健の同居人)
小林かおり、、、八木沢順子(梅宮の恋人)
石井富子、、、八木沢勝江(順子の母)


確かに台風はワクワクする。
それから長回しが印象的。

Typhoon Club001

Barbee Boysは、導入にピッタリフィットしていた。
夜にプールに忍び込んで泳ぐと言うのは気持ち良かろう。
星空仰げばホント怪しくてガイアとの一体感も生まれるかも。

しかし田舎町の日常は退屈みたいだ。
学校の授業はほぼ成り立っていない。チャンと聞いている生徒は僅か。
そこへ非日常的な乱入がある。
訳の分からんおばちゃんたちが、数学の授業にいきなり入って来て先生を責め立てる。
先生は閉口、生徒は混乱。この土地柄ならではなのか、まさか時代の問題ではない。ともかく普通あり得ない乱痴気騒ぎ。

Typhoon Club006

感性の鋭い生徒~高見理恵が台風を待ち望むのは、分る。
閉塞感と劣情の嵐ではたまったものではない。
わたしも台風は望んだものだ。

「ただいま。おかえり。」を繰り返す清水は危ない。
サイコ野郎だ。間違いない。
片思いの相手、大町美智子の背中を理科の実験中に大火傷をさせる。
これに対し被害届を出さず、養護教諭が反省しなさいレベルで終わりは流石に無かろう。
保護者にも謝罪は当然で、傷害罪で訴えられても当然と言うところだが、何か変。
このサイコ男、後にもホラーをやらかす(かなり濃厚な怖いホラーだ)。

Typhoon Club005

不穏な空域が濃くなると強風になり雨も降りだす。台風にもなって外もまともに歩けなくなる。
この辺、長回しと相まって彼らの心象風景の反映~重なりとなるところ。
ずっとこのトーンが続く。
抑えられたワクワク感である。

学校は他の教員はいるのだかいないのだかという感じで、梅宮Tのいい加減な対応が目立つ。
生徒が家出しても学校は関係ないの一点張り。
台風が来て生徒が全員下校したかの確認なくさっさと教員が施錠して帰ってしまう。
帰ったら梅宮は自分の部屋で授業中に乱入してきた母娘とその叔父?らとカラオケ宴会で酔っぱらっている。

その間、閉じ込められた生徒たちが、野球部の三上とサイコ清水に演劇部の宮田泰子と毛利由美と森崎みどり、更にまたも清水に迫られ逃げ惑い暴力も振るわれた災難続きの大町美智子である。
清水は美智子の背中を見て泣き出す。2人で泣く。何故か残っていた三上が来て何とか落ち付く。
しかし今このサイコ役が出来るのは、清水尋也くらいでは。

Typhoon Club004

そして彼らは観念して学校に籠ることに。
体育館に集まり再びBarbee Boysの二曲目のチューンでご機嫌に踊ってみたり、適当に暇つぶしたりで緊張感は無い。
同性愛の女子二人は緊張感よりそちらの方で恍惚感に浸っている。
一方、家出した高見理恵は東京に行き、声をかけて来た男と過ごし赤いドレスを買って台風でどうにもならず男のアパートに逃げ込む。彼女が東京に出たのは恋人の三上が東京の高校に進学を決めていたからだ。自分も何にも囚われずに外に出たい。
どちらも台風の為に閉じ込められるが、、、。

真面目な三上はそれぞれの家に電話連絡しようとするが美智子に止められる。
理恵の家に連絡するがまだ帰っていないということで、考え詰めることになる。
何で俺たちはこんな風になるのだろうと。
皆、煮詰まって来る。
担任の梅宮に連絡するともうへべれけで知ったことではないというもの。ここで三上も呆れ果てた返答をすると「お前は後15年経てば俺になる」と言われ電話を切る。ここで決別である。

Typhoon Club003

その後、彼ら学校組は下着姿で台風の中、「もしも明日が…。」を唄いながらの狂乱の踊りである。
まず一人では出来ないがみんなでやれば怖くないというところか、終盤は下着も脱いでいたような。
一種のイニシエーションでもあろうか。
理恵も男のアパートを深夜台風の中一人出て帰宅することにする。
台風で電車は止まってしまったが翌朝には何とか帰り着く。

深夜ずっと寝ないでいつものように哲学的に考えあぐねていた三上はある結論に達する。
窓際に机と椅子を高く積み重ねその天辺に座ると朝方皆を起こす。
「今からいいものを見せてやる。皆が何故こうなったのか分かった」と言って、「厳粛に生きるために、厳粛な死が与えられていない。皆の為に死んでみせる。死は生に先立つ」と言った瞬間、窓から飛び降りた。
驚愕した彼らは咄嗟に窓に張り付く。

Typhoon Club007

台風で水の溜まったぐちゃぐちゃな校庭に彼は真っ逆さまに落下し二本の脚が地表に突き出ていた(笑。
下に降りて来た学校組はただ口をあんぐり開けて唖然とするのみ。
理恵も休校となった学校に向かう山田明に出会い一緒に泥水に嵌りながら校舎を目指す。
台風の通過した後の空はやたらと明るい。


もう全員びしょ濡れ映画。





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ジョジョ・ラビット

Jojo Rabbit001

Jojo Rabbit
2019
アメリカ

タイカ・ワイティティ 監督・脚本・製作
クリスティン・ルーネンズ『Caging Skies』原作
マイケル・ジアッチーノ 音楽

ローマン・グリフィン・デイヴィス、、、ヨハネス・"ジョジョ"・ベッツラー(10歳のドイツ少年)
トーマシン・マッケンジー、、、エルサ・コール(ユダヤ人の少女)
スカーレット・ヨハンソン、、、ロージー・ベッツラー(ジョジョの母親)
タイカ・ワイティティ、、、アドルフ・ヒトラー( ジョジョの空想上の友達)
サム・ロックウェル、、、クレンツェンドルフ大尉(ナチスの将校)
レベル・ウィルソン、、、フロイライン・ラーム(ナチスの女性教官)
アルフィー・アレン、、、フィンケル(クレンツェンドルフの部下)
アーチー・イェーツ、、、ヨーキー(ジョジョの親友)
スティーブン・マーチャント、、、ディエルツ(ゲシュタポ)


オールド」と「 ラストナイト・イン・ソーホー」のトーマシン・マッケンジーがユダヤ人少女を好演。この女優には今後どんどん出て来て貰いたい。
ローマン・グリフィン・デイヴィスは、未知数。確かに上手いが、この先どう出るか、お楽しみ。
スカーレット・ヨハンソンがすっかりお母さん役というのはちょいと淋しい。かなりすっ飛んだファンキーなお母さんであったが。
月に囚われた男 MOON」の好演が忘れられないサム・ロックウェルがここでもやさぐれたクールな男が似合っていた。

Jojo Rabbit002

ビートルズの「抱きしめたい」ドイツ語版でヒトラーがビートルズ並みの熱狂を呼ぶアイドルであった事が分かる。
このセンスで進む。
ちなみにエンディングはデヴィッドボウイの「ヒーローズ」である。しびれる。
このポップさで、現代にホロコーストを接続する。
感覚的には、ジョジョ少年と言うより、クレンツェンドルフ大尉のノリであろう。
彼も大いに白けていた。ナチスでありながらナチスに。
終盤、ジョジョを助ける大尉がとっても粋でロック的なのだ。
そう、このロックを基調に置くことで今と地続きにしたのだ、監督は。

Jojo Rabbit003

10歳のジョジョ少年の視座から描くというところで、おデブキャラの親友ヨーキーにせよ、ゲシュタポの面々にせよ、少年の本から出て来たような戯画化された人懐こい親和性が漂い、例え破壊された街であっても殺伐とした感じはしない。
イマジナリーフレンドのヒトラーといつも対話をするくらいのヒトラーユーゲント振りの少年である。
しかし訓練でウサギを殺すことが出来ない心優しい彼は「ジョジョ・ラビット」と綽名を付けられ馬鹿にされてしまう。
友達のヒトラーはそれを聴き、彼にウサギに成れと励ます(このヒトラー本物より人が好い)。

どこか箱庭的な光景なのだ。
屋根裏の秘密部屋から突然、ユダヤ少女エルサが現れ、自分と同じヒトであることを知ったり、、、
それ以降のコミカルな対話など、ファンタジーの展開でもある。
流石に愛しいママが処刑され街中に吊るされているのには、驚きと深い悲しみを抱くが。
その大きな経験を経て彼はナチスから逸脱してエルサに対しこころを開いて行く。
このエルサこそママのロージーが密かに匿っていたユダヤ人少女なのだ。ママは反体制活動家でもあった。
ある意味、亡くなったジョジョの姉に似ており、彼女の代わりという意識もあったかも知れない。

Jojo Rabbit004

ジョジョは次第にエルサに惹かれて行く。
エルサにとっては弟姉みたいな関係であろうが。
母の謂っていた通り、恋愛感情は、どのような環境であろうと生まれて来るものなのだ。

ドイツの劣勢も伝わって来る。
以前のようなイマジナリーフレンドの言葉も空疎なものになって来る。
今や盲目的な熱狂から覚め、目の前の現実やエルサのかけがえのなさに気付いて行く。

このエルサ、アンネ・フランクにも重ね合わせる意識も生じる。
今度こそ無事に彼女に生きて欲しいという、、、

Jojo Rabbit006

こちらのアンネは強かでもある。
ゲシュタポを手玉に取る機転も効く。
だが、これはジョジョの姉にとてもよく似ていたことと、そこに駆けつけたクレンツェンドルフ大尉が身分証明書と供述との記述のズレを黙認してくれたことによる。
ジョジョたちは、この白けた大尉に大変な危機を2度救われている。

確かに終戦間際になるとこのような意識が上層部にも生じて来るか。

Jojo Rabbit005

最後、大尉によって命をギリギリのところで救われたジョジョ少年は、家に戻りエルサの隠れ部屋をノックする。
明らかに外の状況の異変が察知でき、彼女は彼に聴きただす。どうなったのかと。
ジョジョはドイツが勝利したと伝えるが、安全に逃がすことも約束し、共に外に出る。

エンディングのセンスが光る。
家の外に出ると、完全にナチスドイツの終焉の光景が開けていた。
彼女は一度彼のほっぺたを引っ叩くが、、、ふたりは一緒にリズムに乗り踊り始める。
かねてから自由になったら踊りたいとエルサの謂っていたように、、、

Jojo Rabbit007

絵も本も音楽の選曲においても、センスの良い映画であった。




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スローターハウス5
ザ・ドア 交差する世界
メランコリア
アルファヴィル
アンダー・ザ・スキン
不思議の国のアリス
イーオン・フラックス
サリュート7
アポロ13号
シルバー・グローブ/銀の惑星
イカリエ-XB1
アイアン・ジャイアント
アンドロメダ
地球の静止する日
地球が静止する日
宇宙戦争
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