友だちのうちはどこ?
Khāneh doust kojāst ? Where Is the Friend's Home?
1987年
イラン
アッバス・キアロスタミ監督・脚本
ババク・アハマッドプール 、、、 アハマッド
アハマッド・アハマッドプール 、、、モハマッド・レダ・ネマツァデ
ゴダバクシュ・デファイエ 、、、先生
イラン・オタリ 、、、アハマッドの母
ラフィア・ディファイ 、、、アハマッドの祖父
イラン北部のコケールが舞台。
そうとうな田舎である。
「風が吹くまま」のシダレとどちらが田舎か、、、よく分からないが。
凄い土地だ。
今回もアッバス・キアロスタミ監督である。
8歳の少年が主人公である。
とても大変な濃密な一日を送るのだが、彼にとって一種のイニシエーションか。
様々な意味(政治的なものも含め)をくみ取れる余地があり、象徴も込められているかと思うが、そのまま少年に寄り添って彼のこころの打ち震えを実感したい。
朝の最初の授業で、少年にとって尋常ではない現場を経験する。
宿題をノートにやってこなかった少年が先生に退学のリーチを喰らうのだ。
先生に責め立てられ打ちひしがれて泣きじゃくるその少年ネマツァデ。
次回また同様なことがあれば退学というのだ(すでに同じ件で彼は3回注意を受けていた。この3回というのが限界値らしい。宗教的な意味もあるか)。
それを隣の席で見届けていたのが真面目で優しい少年アハマッドである。
アハマッドは下校時にすっころんだそのネマツァデ少年の脚を水場で洗ってあげる。
(どこのクラスにも一人くらいはいる世話の焼ける少年のようだ)。
面倒見の良い子だが、学用品を拾ってあげた際に、その退学リーチのネマツァデ君のノートも自分のカバンに入れて持って帰ってしまった。
帰ってすぐ、真面目に宿題をしようとした時に彼はそれに気づく。
アハマッドの唖然とした顔。今朝の修羅場がフラッシュバックする。
これは一大事だ!
ということで、彼のその友達の家にノートを届けに行く冒険の一日が始まる。
こちらもずっとハラハラし通しで寄り添わざるを得ない上手い演出で見せる。
まず家を出るまでが一苦労。母が彼の言うことを頑として聞き入れない。
事情を話しても、まず宿題をやれの一点張り、その上宿題の後にパンを買いに行けと命じる。
つまり彼が何故直ぐに(今日)届けなければまずいと訴えているのかを理解しようとしないのだ。
そわそわしながら宿題を始めるが、赤ん坊の世話やら何やら手伝いも次々に命じてちっとも宿題にも専念できない。
子供の話しは一切聞かず、一方的な身勝手な命令だけ押し付けてくる。
(大人側の考えとしては、規則を守り、言われたことは直ぐ行う、礼儀正しい人間にするための躾ということだ)。
これは、母だけでなく全ての周りの大人の傾向であった。
彼は隙を付き、意を決して、ジグザグな路を辿って丘を越え遠いネマツァデの住むポシュテまでノートを届けに行く。
手掛かりはポシュテという地名だけで、ひたすら聞き込みをしながら探してゆくのだがこれがちっとも埒が明かない。
細かい住所まではおさえていないのだ。名簿みたいなものはないらしい。
高低差のある細い路地をノートを抱えて走り回って、出逢った人に聞く。
ヤギの群れがその道を普通に通行して行く。
やはり凄いところだ。
ヤギが鳴き、牛が鳴き、猫が鳴き、鶏が鳴き、犬が吠える。
一度、コケルに戻ることになるが、祖父に見つかり在りもしない煙草を探してこいという躾~単なる意地悪をされる。
それで随分、時間を浪費するが、再びともだちの家を探しに走る。
「近くに枯れ木が立つ青い扉の家だよ」とか情報を得るが、青い扉でも違う家である。
よく見覚えのある茶色いズボンが中庭に干してあるため、てっきり彼の家だと思ったら違う子の家であった。
誰に聞いても的を得ず、その従兄弟までは近づくが、結局それもつかまらない。
ネマツァデという苗字の扉商人の後を追い、その家で尋ねると「この辺はみなネマツァデだよ」。
その地域がみんな同じ苗字というのは、日本にもある。
その内だいぶ暗くなってきた。
行き詰まる。パンはもうダメだなと、少年もこちらもすでに諦めている。
路地はいよいよ暗くなり、漆黒の闇から突然牛が人のように現れては静かに去って行く。
ステンドグラスのような灯りが暗い壁に反映するのが、余計に心細い。
そんな時に扉の上部が開き、お爺さんが顔を出して彼の呼びかけに応える。
(まるで寓話の世界みたいに)。
その物知り翁はアハマッドが探しているまさにその子をよく知っているという。
親切に一緒に行ってあげようと持ちかけるが、彼の表情は少し不安気である。
アハマッドはゆっくりと歩を進める扉職人の老人の案内で、暗い入り組んだ路地と階段を渡って行く。
少年は親に叱られる事は必須でもあり、かなり焦りの色は隠せない。
扉や窓に纏わる話をしながら事もあろうに老人は泉に差し掛かるとそこで気持ち良いと顔を洗い始める。
彼はアハマッドに花を一輪手渡し、ノートに挟めと促す。
そんな調子で充分遅くなったところで、その先の扉が、君の探している家だという目的地に辿り着く。
風が吹き荒ぶなか、アハマッドはその扉を前にして決断する。
扉を叩かず、踵を返す。
疲れた老人は彼に神のご加護をと言って自分の家にいそいそ入ってしまう。
ひとり残されたアハマッドのいる暗転した恐ろしい舞台袖には、犬が狂暴に吠えまくった。
少年はしっかり家まで戻ったが、夕食は勧められても拒否する。
父は無言でラジオを聞いていた。
その後、黙々と宿題を始める彼の目前で、突然扉が勢いよく開く。
真っ暗な闇に強風が吹き遊び、真っ白いシーツが激しくはためいていた。
それを茫然と見つめる彼。
明くる朝、例の宿題チェックを先生がはじめ、ネマツァデが怯えて顔を伏せ、まさに絶体絶命のタイミングに、アハマッドが救世主のように遅刻してやって来る。
ネマツァデの分まで宿題を完璧にこなし、そのノートを彼に渡す。
二人とも文句なしに合格するが、ネマツァデのノートには押し花が出来ていた。
アハマッドは大人に対する対抗策が練られるようになったようだ。
完璧な流れであった。
これに何かイデオロギーを当てはめて解説物などにしたら勿体ない。
しかし、ある意味、児童虐待的な演出にも感じられた。
出演者が皆、素人と言うのが、ちょっと際どい。
真に迫り過ぎているのだ。
舞台裏ってどうなんだろう?