シルバー・グローブ/銀の惑星
Na srebrnym globie
1977(1987)
ポーランド
アンジェイ・ズラウスキー監督
イェジイ・ズラウスキー『銀球で』原作(監督の大叔父)
アンジェイ・コジンスキー音楽
アンジェイ・ヤロシェヴィッチ撮影
アンジェイ・セヴェリン 、、、マレク
クリスティナ・ヤンダ 、、、アザ
ラジーナ・ディラグ 、、、イエザル
イェジー・トレラ 、、、イェルジー
160分の間に数回、気を失う。
抗えない睡魔との壮絶な闘いであった。
間違っても詰まらぬ作品だからではない。
体調の上からも無理はあった。
凄まじい大作であるが、余りに鑑賞者を寄せ付けない圧倒的な自律性~独自性により成り立つもののためか。
(半ば鑑賞者を拒絶するような)。
その強度は(度肝を抜くドロドロの映像においても)「神々のたそがれ」にも通じるものがある。
その(原)神学性からもタルコフスキー作品に繋がるものを感じる。
だが、この映画の対話~言説に入って行くことに対する抵抗は大きい。
神学的な、いやそれ(神)以前のヒトの存在に対する根源的な問いが全編を通して発せられる。
その高い熱量で素早いやり取り(過剰な情報)が難解というより極めて詩的でもあり、字幕でついて行ける範囲ではない。
異星人(シェルン)との語りもあるので猶更だ。
更に画像~細やかで特異な所作、表情、表現、行為からの微妙なメッセージからも目を離せない。
本当はポーランド語をそのまま聞き取れないと分かるところまで辿り着けない気はする。
字幕でなければ、もう少し入り込み易いかも知れない。
最低限の理解なしには、3時間近くを見届けることは出来ない映画である(いや何の映画でもそうであろうが)。
(正直、一回の鑑賞でこれほど理解の難しい映画は初めて観た。二度続けて見る体力もないし)。
観たイメージを頼りに取り敢えず書くというのも覚束ないが。
神学的なやり取り~語りなどは、タルコフスキー映画にはかなりあるが、それとは随分異なる。
あのように物質的な自然に属するような語り(風のような質)ではなく、こちらは意味でありその質量がのしかかってくる。
役者たちの鬼気迫る狂気の演技により相乗作用である。
さらに衣装やシェルンの鳥を元にしたようなフィギュアの造形が際立つ。
美術のセンスが非常に高い。
また特異な点は未完であることからもくる。1977年に予定通り運べば完成を見るという矢先にポーランド政府から製作を強制的に打ち切られフィルムの多くの部分を奪われ、監督はその迫害から逃れるようにフランスに亡命して後、10年後にこの映画を未完のまま執念で完成にまでもちこむ。しかし監督自身はその上映を観ることなく亡くなってしまう。
途中の何箇所にも渡り、フィルムの欠損からそこに本来繋がるはずであったシーンの早口のナレーションが流れるという構成なのだ。
それで緊張の途切れるようなやわな映画ではないが、映像共々思弁的な運びで、世界をこちらでまとめ咀嚼することが容易ではない。
鑑賞者も編集作業をしながら見るような形を強いられる。受け身ではどうにもならない敷居がある。
その映像の塊は危険な程のエネルギー体であった。(政府は、これに危機意識をもったか?)
見る前に覚悟が必要であったことを知る。
(涼しくなってから再度、出直したい(拝)。
荒廃した地球から別天地を求めて他の惑星に移住を図るというのは、極めて今日的テーマである。
ここでも地球に激似の惑星に宇宙船で不時着する。その直後から彼らは神学的な問答を始める。
わたしもその手の噺は好きなのだが、置いてけぼりを喰う(爆。ポーランドのセンスにどうもついてゆけないのか、、、。
その惑星で彼らは子供を作るが、地球におけるより成長が速く、自分が活きている間に何世代もの子孫をもうけることとなる。
子孫たちは科学者の先祖の教育は拒否し、独自の宗教を打ち立て呪術的な世界が形成されてゆく。
初代は太古の人と呼ばれ聖職者みたいな立場となり、一人が殺され残った者は神となる。
不時着以来ずっと日々の出来事をビデオに撮り続けていた彼は、膨大なデータを地球に送る。
そのカプセルを手に入れた科学者がその星に実情を調べに来て、救世主の扱いとなる(これは預言されていた)。
シェルンという先住民との闘いで彼は陣頭指揮を執り脅威から人々を救うが、人類を地球に連れて還る気が無かった為、十字架に架けられ殺される。
、、、このような表層の筋を追ってもまるで意味はない。その場面場面での迫真の演技とセリフの連打がこの映画そのものであろう。スプラッター場面はあるにしても、高く掲げられた棒にお尻から刺されて内臓を垂れ流して死んでゆく刑は、如何にも痛いが(爆。
やはり「神々のたそがれ」に対抗できるのはこの作品くらいか、、、
この映画は夏バテの身で見る映画ではない。
冬の迫る秋にでも体調を整えて集中して観なければならない映画と謂えるか、、、。