西部戦線異状なし
All Quiet on the Western Front
1930年
アメリカ
エーリヒ・マリア・レマルク『西部戦線異状なし』原作
ルイス・マイルストン監督
舞台劇を想わせる展開で進んでゆく。(本当に舞台のように見える)。
リュー・エアーズ、、、ポール・バウマー
ウィリアム・ベイクウェル、、、アルバート・クロップ
ラッセル・グリーソン、、、ムラー
ルイス・ウォルハイム、、、カチンスキー
ジョン・レイ、、、ヒンメルストス
アーノルド・ルーシー、、、カントレック
ベン・アレクサンダー、、、フランツ・ケメリック
スコット・コルク、、、レエル
ウォルター・ブラウン・ロジャース、、、ベーム
みんな英語で喋っているが、全員ドイツ人でありドイツ軍兵士の胸を締め付ける赤裸々な苦悩が描かれていく。
ドイツ兵が主役のアメリカ映画である。しかし原作者はドイツ人である。
しかもティーンエイジの志願兵たちの物語である。
第一次世界大戦
何の授業か知らぬが、戦意高揚と愛国心を煽る老教師の言葉にすっかり感化(洗脳)された生徒たちが我先にと入隊を志願してゆく。
級長のポールはその先頭を切って意気揚々と教室を出て行った。
塹壕戦の砲弾に怯え震え上がる。
狂ったようにヒステリックにドブねずみを追い立て叩く。
砲弾の爆音の響くたびに大きく揺れて土が崩れ落ちる。
恐怖と不安による気持ちの昂ぶり具合が伝わる。
銃撃戦もかなり長い尺で大変リアルである。
これまで見た戦場シーンのなかでも最も生々しいものであった。
また、兵士の怯え方も尋常ではない。
堪らず外に飛び出し撃たれて死ぬ仲間、、、。
共に志願した若い仲間はその後も次々に死んでゆく。
最後に志願に加わったベームは目をやられて死ぬ。
他にも何人も死んでゆく。
ケメリックは負傷し野戦病院に運ばれ片足を失い、死ぬ。
彼の高級な革製の長靴をみんなが欲しがる。
最初に貰ったムラーは、これなら思う存分戦えると喜ぶが、直ぐに戦死して次の者が引き継ぐが、彼もまた程なく戦死する。
そうやって高級靴だけが、人から人へと渡り歩く。
死んだ友を身近に見て彼が感じたのは、生きることの価値であった。
長靴を胸に抱え生きていることを実感しながら彼は息が出来ないほど突っ走った。
また、初めてフランス兵を刺殺したとき、激しく動揺する。
「ただ生きたかっただけだ。大変なことをしてしまった。殺すつもりはなかった。彼の為ならなんでもしよう」と。
「制服と銃がなければ兄弟にもなれた、、、。」
戦争なんだから仕方ないとカチンスキーから優しく慰められ漸く落ち着く。
塹壕で、何故戦争が起きるのかという議論が彼らのなかから巻き起こる。
そこで、卓見だと思った見解が、「だれも戦争なんぞ望んじゃいない。熱病みたいなもんさ」である。
時折、どうしてもせざる負えないものということか、、、。
やはり生命の属性であるのか。
ポールも負傷したが病院から奇跡的に生還し、休暇をもらって帰郷するが、、、。
飛んでもない違和感に、彼はそこは「もう故郷じゃない」と悟った。
外野は好き勝手な事を言い合って熱狂している。
彼の実情などにお構いなく。
父親でさえも。
勲章や武勲のことや勝手な戦術で競い合ったり。
本当の戦況など知ろうともせず「パリに進め!」で盛り上がる。
彼は予定を繰り上げ戦地に戻る。居場所が何処にもないのだ。
恐らく母親や妹などの肉親にさえも異化作用を見ているのだ、、、。
(現実感の喪失、、、真摯な戦争映画には、この感覚が描き込まれている)。
帰りがけに母校に立ち寄ると、例の老教師があいも変わらず若者に祖国に殉じろと扇動していた。
その教師に英雄と紹介され生徒の前で戦場での活躍振りを披露することを促されたが、、、。
「何も話せない」と断る。
「何も話すことはない。殺されないよう努めるが、ときに殺される。それだけだ」と突き放す。
そして改めて「初めての砲弾で目が覚めた。祖国に殉じることが美しいと思っていたが、戦死は汚くて苦しい。国のためになど死んではいけない」と諭す。
生徒たちはそれでは納得がいかない。彼のことを卑怯者呼ばわりするものまで出る。「帰るんではなかった、、、。」
彼は変わらない祖国~故郷いや人々に愛想を尽かす。
戦地に戻ると部隊には、気心の知れた食料調達係のカチンスキーが残っていた。
彼はやっとほっとする。
「ここには嘘がない」と彼に再開したことを歓ぶポールであったが、突然の敵機の銃撃により負傷して彼に担がれたままカチンスキーは死んでしまう。
ポールの姿には今や深い諦観が染み込んでいる。
塹壕にいると、何処からかハーモニカの音が聞こえてきた。
そして外には綺麗な蝶ちょがすぐ手を伸ばした先にとまっているのだった。
束の間の安らぎがこころに訪れた。
(彼は元々詩人を志していた)。
そして蝶を見ようと塹壕から身を乗り出した時に、無情な銃弾が彼を捉える。
最後の彼らが後ろを振り向きながら行進する姿が遠い思い出のように流されエンドロールへ、、、。
1930年にこれだけの映画が発表されたにも関わらず、第二次大戦が勃発する。