ミケランジェロ・プロジェクト
The Monuments Men
2014年
アメリカ
ロバート・M・エドゼル『ナチ略奪美術品を救え 特殊部隊「モニュメンツ・メン」の戦争』原作
ジョージ・クルーニー監督・脚本・製作
ジョージ・クルーニー、、、フランク・ストークス(ハーバード大学付属美術館館長)
マット・デイモン、、、ジェームズ・グレンジャー(メトロポリタン美術館キュレーター)
ビル・マーレイ、、、リチャード・キャンベル(シカゴの建築家)
ジョン・グッドマン、、、ウォルター・ガーフィールド(彫刻家)
ヒュー・ボネヴィル、、、ドナルド・ジェフリーズ(イギリス人歴史家)
ボブ・バラバン、、、プレストン・サヴィッツ(演劇興行主、美術鑑定家)
ジャン・デュジャルダン、、、ジャン=クロード・クレルモン(ユダヤ系フランス人美術商)
ディミトリー・レオニダス、、、サム・エプスタイン(若いドイツ系アメリカ人兵士、通訳兼運転手)
ケイト・ブランシェット、、、クレール・シモーヌ(美術館学芸員?)
ユストゥス・フォン・ドホナーニ、、、ヴィクトール・シュタール(ナチス親衛隊士官、略奪した美術品をヘルマン・ゲーリングに流す)
「モニュメンツ・メン」では分かりにくいか。
『ミケランジェロ・プロジェクト』というのは、カッコ良い。結構、気に入った邦題だ。
ミケランジェロの聖母像をやっとのこと見つけた時のクルーニー他メンバーの喜びと達成感?から言っても妥当な題。
1943年第二次世界大戦時。
ヒトラーによって貴重な美術品や文化財が破壊される前に、その奪還を試みる連合軍の美術専門家たちの活躍である。
「総統美術館」といのは、途轍もないが、何とも笑える。そんな物を作らんとしていたのだ。
そこに略奪した自分のお気に入りの美術作品全てを展示しようとしていた。
ドイツが負けたり、ヒトラーが死んだら「ネロ指令」という美術品をみな破壊する指令が出されていたという。
そうでなくとも退廃芸術の烙印を押された「名作」も、片っ端から燃やされた。
やってることが退廃以外の何ものでもない。
それに高い志を持って立ちはだかる少数精鋭の特殊部隊、、、。
とてもよい話ではないか。
こういう題材にこそ目をつけてもらいたい。
基本コンセプトは素晴らしいと思う。
ジョージ・クルーニーに賛辞を送りたい。
これもまた紛れもないひとつの過酷で崇高な戦争映画である。
銃など持ったことのない連中が軍服を着て兵隊として前線の真っ只中を、人類の文化と歴史の象徴の保全任務の為、駆け回るのだ。
もうひとつの英雄譚である。
そう、確かに崇高な使命の為、身を張って動いているのは分かる。
任務に誇りをもって死んだメンバーが2人もいるのだ、、、。
しかしどうも流れに張りがないのだ。
いまひとつ展開に歯切れがなく危険な仕事をしている割に全体に緊張感が薄い。
突然銃撃されるシーンでは、こちらもびっくりはするが、、、。
いまひとつ話がモニュメンタルに昇まらない。
もう少しドラマの作り(プロット)にメリハリを持たせ演出効果の工夫も欲しい。
勿論、妙にドラマチックにすると、せっかく実話を元に描いているのに、リアリティが失せ嘘臭くなってしまうのは分かる。
淡々と描くなかで度々美しい光景が展け、名作との邂逅などに渋い感動を呼ぶ場面も少なくない。
そういった意味での大人の映画であると思う。
が、「ダヴィンチコード」のあのシリーズみたいにハラハラドキドキを演出としてつけちゃってよいのでは、、、。
ちょっとトム・ハンクスにビル・マーレイが似ているので、尚更そう思ってしまった。
とは言え、人類の文化そのものを戦禍から命を投げ打って守る仕事をした人びとにスポットを当てた作品に文句はつけたくない。
品格のある美しい映画であった。
(ここのところ連日、塹壕でのたうち回る戦争映画を観てきたため、終戦間際とは言え戦時下にこんな穏やかで綺麗な環境があったのかという驚きもあった。ちゃんとシャワー浴びてるし、お菓子も食ってる)。
違う角度から戦争を描いたものとしてもうひとつ脳裏に浮かぶのは、アラン・チューリングの半生の物語である。
ちょうど昨日、エクス・マキナでもとりあげたが、「イミテーション・ゲーム/エニグマと天才数学者の秘密」で、当時最高のドイツ暗号作成機「エニグマ」の解読をなし得、現在のコンピュータの前身を作り、チューリングマシンによってAIの父とも讃えられているアラン・チューリングの格闘のドラマである。
これは戦争を機に急速に発展し、今の文明の基本を決定づけた情報戦の物語でもある。
(1次大戦は電線網の切断戦で2次大戦は無線の暗号解読戦でもあったという)。
何れにせよ、戦争ドラマは重火器による戦いや肉弾戦だけでは語りきれないものである。
映画で語られていたが、強奪した美術品のほとんどがユダヤ人の富豪から得たものだという。
美術館は秘密裏に事前に作品を隠していて強奪は免れたらしい。
ユダヤ人の当時からの経済力と名画を観る眼力がこんなかたちで際立つ。
フランク・ストークスが最後にスライドでミッションの成果について話していたが、その時に見つからず出来ればこのまま継続して探したいと述べていたラファエロの「若い男の肖像」は、確か2012年にひょんなところから発見されたはず。
映画ではこの絵がドイツ軍に焼却されたような場面を暗示的に映していたが、、、。
まだまだ、ナチスに焼却されずどこかでひっそり飾られている大傑作があるかも知れない。
ともかく、呑気な顔をして美術館巡りで眺めている歴史的名画が、このメンバーの活躍がなければ永遠に誰の目にも触れることさえない運命にあったかったかも知れないと思うと、何れ程価値あるミッションの達成であったかを思い知る。
この特殊部隊の存在を世界に知らしめたというだけでも、ジョージ・クルーニーの功績は決して小さくない。