圧縮冷凍タイムレンジャーは戦隊シリーズの中でもかなり画期的な内容であったのではないかと思う。まずその主題歌。オープニング曲は未だ戦隊史上唯一の女性単独ボーカルの曲となっている。曲自体もプログレッシブロック調で、戦隊シリーズ史上もっとも子供が歌いにくい曲と言われているのだが、名曲だ。ストーリー自体も子供向けというより、若者向けであり、その他、女性のタイムピンクがリーダー的役割を果たしてレンジャーを仕切るなど、従来の戦隊シリーズの枠を飛び越えた内容となっている。
そんな画期的なタイムレンジャーであったが、なかでも一番画期的であったのは「圧縮冷凍」の設定ではないだろうか。間単に説明すると、タイムレンジャーは悪者と戦うのだが、最後にその悪者を殺すのではなく、「圧縮冷凍」して再び刑に服させるという設定だ。もともと悪者は「圧縮冷凍」されて刑に服していたのだが、ロンダーズファミリーによって解き放たれ、悪事を働くという流れとなっており、正義の味方は最後に悪を倒して(破壊するなり、殺すなり)終わるという従来のヒーロー番組の常識を打ち破る、かなり画期的な解決方法ではなかったかと思う。
この画期的な解決方法は、問題意識の高い作り手側の意図の結果なのだろうが、「圧縮冷凍」という解決方法の意義が明確にセリフの中に出てくる回がある。第32話「犯罪者を救え」(脚本・山口亮太)だ。
未来からやってきたタイムレンジャーとは異なり、現代人でありながらVコマンダーを取得してタイムファイヤーになることが出来た滝沢直人は、その力を使って「敵」を殺そうとする。そのタイムファイヤーに向かってタイムレッドらは次のようなセリフを言うのだ。
タイムレッド 「あいつを殺させるわけにはいかない。」
タイムファイアー「何言っている?お前たちだって今までさんざん殺してるじゃないか?あのロンダーズの化け物どもを。」
タイムレッド 「そうじゃない!あれは、圧縮冷凍して逮捕しているだけだ!」
タイムファイアー「逮捕だと?」
タイムブルー 「命を奪わずに逮捕する。それが俺たちの戦い方だ。」
このセリフの中に作り手側のメッセージがこめられている。問題意識あふれる素晴らしい設定ではないだろうか。
しかし残念ながらタイムレンジャーでとられたこの画期的な解決方法は後続の戦隊シリーズに引き継がれることはなかった。
「特捜戦隊デカレンジャー」の考察の中でも触れたが、なんだかんだいっても結局最後は悪者を殺して終りなのだ。「特捜戦隊デカレンジャー」やその他の作品を否定するわけではないが、せっかくタイムレンジャーで新境地を開いたにもかかわらず、引き継がれていないのは残念なことだと思う。
タイムレンジャーの圧縮冷凍の設定からは死刑制度の廃止が想起される。ヨーロッパの国々をはじめとして、世界の多くの国は死刑を廃止している。重罪犯罪者は死刑という発想はわかりやすく、感情論として充分共感できるが、それでもなおかつ死刑を廃止している国が数多くあるという事実に対し、日本社会で生きる我々は目を向けるべきではないだろうか。何故それらの国々は死刑を廃止したのか?
死刑廃止をしている国の数について、具体的な数字を少し調べてみて愕然とした。
あらゆる犯罪に対して死刑を廃止している国:88
通常の犯罪に対してのみ死刑を廃止している国:11
事実上の死刑廃止国:29
法律上、事実上の死刑廃止国の合計:128
存続国:69
数字引用サイト
●リンク:死刑廃止国と存置国この数字を見る限り、悪者を退治する解決方法について、タイムレンジャーは世界の流れに乗っているとしても、後年のデカレンジャーについてはNGではないかと思う。冗談ではなく、デカレンジャーは死刑存続国の子供番組として、死刑廃止国からNGのレッテルを貼られる可能性があるのではないだろうか。
タイムレンジャーが圧縮冷凍という画期的な解決方法を採用した経緯を知りたいところだが、圧縮冷凍の設定以外にも、権力からつまはじきにされたような人たちを描いていたり、差別される側の痛みを描いていたり、敵側のロンダーズファミリーのドルネオやギエンにも実は過去があったりと、タイムレンジャーでは単純明快な子供番組の枠を超え、深みのある人間ドラマが展開されていた。しかし考えてみれば、かつての子供番組、例えば「ウルトラマン」や「ウルトラセブン」などであっても、怪獣を殺すことにためらいがあったり、差別される側の痛みを描いていたりと、同じように考えさせるドラマが、時に展開されていたのではないだろうか。
その主題歌に象徴されるように、タイムレンジャーはスーパー戦隊シリーズのクオリティーを語る上である種のピークであったと思う。続く「百獣戦隊ガオレンジャー」からは基本的に子供の視聴者を中心に作られた単純明快な内容が続き、現在もその延長にある。タイムレンジャーのような作品がスーパー戦隊シリーズで作られることはもうないのかもしれないが、バンダイなどスポンサーの意向とは関係のないところ、たとえば「イナズマ」などオリジナルビデオ作品で、若者をターゲットにしたリアリティーあるハイレベルな戦隊シリーズが作られても面白いかもしれない。
(この話、断続的に続く)
●自ブログ:未来戦隊タイムレンジャー考(1)