ノーム・チョムスキー 『9・11 アメリカに報復する資格はない!』
言語学者ノーム・チョムスキーの9.11発生直後に行われたインタビューをまとめたもの。彼の視点は明確であり、偏見に曇ることなくフェアであるがゆえに、その発言に驚かされてしまうことが多い。例えば以下のような発言だ。
「世界の大半において、米国が、充分な根拠をもって「テロ国家の親玉」と見なされている事実を認めるべきである。例えば、1986年に米国は国際司法裁判所で「無法な力の使用」(国際テロ)の廉で有罪を宣告されたうえ、米国だけが、すべての国に国際法遵守を求める安全保障会議の決議に拒否権を発動した」
このような事実に基づいた極めて真っ当な意見に驚いてしまうということは、逆にいうと、我々が日々接しているマスメディアの視点がいかにアンフェアで偏ったものであるのかということだ。9.11については誰でも知っていることだろう。しかしレーガン政権下で米国がニカラグアにしてきたこと、クリントン政権下でスーダンのアル・シーファ工場を爆撃し、その結果どれだけ多くの罪なき命が奪われることとなったか知っているだろうか?その工場はスーダン国民が薬品を手に入れるための命綱であった。(詳細については以下のサイトなどを参照していただきたい。)
●リンク:チョムスキーの「反テロ戦争」批判マスメディアによって情報が選別され、不都合な事実が広まることが抑制され続けているからこそ、受け手の偏見は偏見のまま解消されることがない。日本の侵略について、いまだに中国や韓国で怒りが渦巻いていること、米下院外交委員会が従軍慰安婦問題に関する決議案を可決したことなど、多くの日本人は「何のこっちゃ」と違和感を持っていることであろう。しかしその違和感は、不都合な事実が広まることをマスメディアが抑制してきた結果でもあるということを我々は知るべきだ。日本が近隣諸国でしてきたこと、そして現在までの日本の状況をよくみてきた人であるならば、ある人が「違和感」と感じていることを、当然の結果として受け止めていることだろう。
彼はまた、「テロ」という言葉について、次のように述べている。
私は「テロリズム」という言葉を米国の正式文書に定義されている通りに理解している。「政治的、宗教的、あるいはイデオロギー的な目的を達成するため、暴力あるいは暴力の威嚇を、計算して使用すること。これは、脅迫、強制、恐怖を染み込ませることによって行われる」この -どこからどこまでも至当な - 定義に合致する、最近の米国への攻撃は、紛れもなくテロ行為であり、事実、人に恐怖感を起させるテロ犯罪である。
そしてさらにその言葉が、通常は恣意的に使われてばかりいることにズバリ言及している。
テロと言う言葉について言えば、米国の正式文章から引用した字義通りの意味と並行して、プロパガンダ的な使い方もある。残念なことに、こちらのほうが標準的である。敵によってわれわれあるいは同盟国に対して行われたテロ行為を指すのに使われる。こうしたプロパガンダ的な使い方が事実上、普遍的なのだ。万人が「テロを非難する」のはこの意味である。ナチですら、テロを厳しく非難し、彼らが「対テロリズム」と呼んだ作戦行動をテロリストのパルチザンに対して実行している。
余談ながら、本書の最期には付録として「世界のテロリスト集団」という、米国国務省の報告が掲載されている。2001年10月の報告書の中で、世界のテロ集団28団体の中に日本のオウム真理教が含まれていることに驚いた。米国国務省が認定しているということは、当然CIAなども認識しているということなのだろう。