2014 年 27 巻 1 号 p. 32-42
シナリオを用いて将来を洞察するアプローチが近年になって増加しており,持続可能な消費やライフスタイルの研究においても同様の状況にある。しかしながら,ビジネス戦略を策定するためのシナリオアプローチをそのままライフスタイル研究に適用できるかは自明ではなく,既存のアプローチの十分な理解とライフスタイル研究の特徴と目的をふまえた適用が求められると考えられる。
本研究では,既存のシナリオアプローチの類型を整理したうえで,環境問題ならびにライフスタイル・消費研究へのシナリオアプローチの適用事例をレビューし,それぞれへのシナリオアプローチの適用の特徴と適用性について考察を行った。その結果,ライフスタイル・消費へのシナリオアプローチの適用には賛同,個別定量化,創発の3つの方向性があると考えられた。他方,各方向性にそれぞれの課題がありそれらの課題克服に向けた知識や経験の積み重ねが求められること,さらに,現実的な作業量の範囲で多種多様なライフスタイルを描写することや,多様な価値観への配慮から規範的要素の取り入れが弱くなりがちであること,ライフスタイルだけでなく社会の状況も重層的に描写すること,ライフスタイルの概念を曖昧にしないこと,シナリオ作成作業の参加者の多様性を確保すること,定量情報と定性情報の有効な組み合わせ方を検討することといった共通的な課題があることが示された。