2023 年 58 巻 3 号 p. 74-85
大気化学輸送モデル(CTM)は大気オゾン(O3)の濃度を過大評価する傾向にあるため、CTMをO3の環境影響評価に活用するためには計算値のバイアスを補正することが好ましい。本研究では、日本におけるO3濃度場を構築することを目的に、統計的手法と機械学習モデルを用いてCTM結果のバイアス補正を実施するとともに、その再現性を相互比較した。解析対象は2012年の日本で、バイアス補正手法には、平均濃度比補正(手法1)、分位マッピング(手法2)、機械学習モデルの1つであるランダムフォレスト(手法3)を利用した。また、一般環境大気測定局で測定されたオキシダントデータを訓練データとテストデータに分割して交差検証を実施した。いずれの手法でもO3濃度1時間値の平均バイアスは改善されたが、手法3のみが平均誤差と相関係数を改善するとともに、時空間分布を適切に再現していた。また、O3濃度1時間値から算出した日最高8時間値や「40 ppbを超える1時間値の閾値超過分を積算したO3ばく露量」については、手法2・3ともにバイアスを大きく低減していた一方で、手法3のみが平均誤差と相関係数を改善していた。機械学習モデルを用いることで、健康影響と農作物影響に必要なO3濃度指標値のバイアスを整合的に補正できることが示された。また、バイアス補正前後の計算値を用いた、O3ばく露に起因する健康影響と農作物影響の推計結果も合わせて示した。