不注意な異邦人 2012年07月

    汎神論と無宗教

    オリンピックでイスラム教徒のラマダンやスカーフの着用が物議をかもしている。日本人は「郷に入れば郷に従えばいいのに」「水飲まなかったから負けたとか言うなよ」などとお気軽に話している。

    八百万の神の国日本では自分は無宗教だなどとうそぶいている人が少なくない。あるいは自分は仏教徒だと思い込んでいる人も多い。実際には、神様仏様一緒くたのアニミストであって、べつに宗教を哲学する必要もなく海や山やトイレの神様や中絶した子のお地蔵様が守ってくれるので、何も考えていないだけだ。それと無宗教とは違うのよね‥。

    夫も私も自覚的には宗教を信じていないが、生育環境はどちらもキリスト教だったので、基本的価値観がそれに形作られていることは二人とも認めている。もし、この基本的価値観が二人別々だったら(例えば夫がイスラムで私が日本的汎神教だったら)、結婚生活は無理だったかもと夫は言う。愛があればでは済まないことがいっぱいあるから。

    宗教とは何かを意識しないままで他人の宗教に敬意をもつことなどできない。敬意とは、自分には理解できないと知る慎みだ。世界人口の55%以上が一神教を信じている。アッラーもヤウェの神も八百万いる神様仏様の一人だとは、その宗教の人たちは思っていないのよ。少なくともそれだけは学校で習っておこうね。

    The Rose

    ジャニス・ジョプリンの生涯を描いた映画の主題歌になった"The Rose"。いくつかカバーバージョンが出ているし、結婚式の定番になっている。私もオルガン弾き時代に何度か頼まれて弾いた。

    今一度歌詞を読み直してみると、あまりにも自分の来し方そのままで、思わず訳してしまった(これまでにも和訳はたくさん出ているけど、誤訳があったりするせいもある)。

    Some say love, it is a river, that drowns the tender reed
    Some say love, it is a razor, that leaves your soul to bleed
    Some say love, it is a hunger, an endless aching need
    I say love, it is a flower, and you, its only seed

    It's the heart afraid of breaking, that never learns to dance
    It's the dream afraid of waking, that never takes the chance
    It's the one who wont be taken, the one who cant seem to give
    And the soul afraid of dying, that never learns to live

    When the night has been too lonely and the road has been too long
    And you think that love is only for the lucky and the strong
    Just remember that in the winter, far beneath the bitter snow
    Lies the seed, that with the suns love in the spring becomes the rose.

    愛は川だと言う人がいる、微かな笛の音をかき消す川だと
    愛は剃刀だと言う人がいる。心を切って血を流させる剃刀だと
    愛は飢えだと言う人がいる、満たされることのない渇望だと
    私は、愛は花だと思う、そしてその唯一の種は自分なのだと

    傷つくことを恐れる心は踊ることを学べない
    目覚めを恐れる夢は賭けに出ることがない
    誰にも取り込まれることのない人は誰にも与えることがない
    死ぬことを恐れる魂は生きることを学べない

    夜があまりにも寂しく、道のりがあまりにも遠いとき
    愛なんて、運のいい連中や強い人たちだけに訪れるものだと思うとき
    覚えていて
    冬、凍てつく雪のはるか下に眠るあの種のこと
    そして種は太陽の愛に暖められて、春には
    薔薇になるということを

    テーマ : 音楽
    ジャンル : 音楽

    お魚に似て‥‥

    小さい頃の私は、ふくれた輪郭に間隔の開いたちいさい目、大きな口で、ポニョのような顔をしていた。女の子バージョンではなく魚バージョンの。対する兄はつぶらな瞳、ちいさな口に卵形の顔で、会う人ごとに「ユズルちゃんは可愛いわね~、お父さんそっくりでハンサムね~」と言われていた。兄の横に立っている私にふと気づいて、慌てて「みっちゃんは‥‥‥」。先が続かない。「魚にそっくりでビジンね〜」では無理があり。また気まずい思いをさせてしまった、と私は反省するのだった。その女性たちは、父のファンだった。

    それで私はすんなりと自分はブサイクなのだと信じて育った。これはもう、美ではなく芸を磨くしかないと諦観してその道に励んだ。ファンデーションやマスカラなぞ30代の終わりまでつけてみたこともなかった。だから最近になって「いや、お前は可愛かったぞ」と父や兄に言われてびっくりしたのである。

    当時私たちはニッポンのど田舎、富山県に住んでいた。しかも1960年代の話だ。男はおだて、女は潰す。その姑文化のど真ん中に身を置いていたのだ。そういう場所で女の人たちに言われた事には眉にたっぷりツバをつけて聞くべしなんて、コドモの私は知らなかったので、やすやすと暗示にかかりブス街道を邁進した。

    ところでポニョを知ったのは去年のことで、知人に「シカさんってポニョに似てるよね」と言われてググってみたら、本当に似ていた。つまり今でも似ている。兄は、卵形がピーナツ形に進化し、髪が薄くなり、なんか人の良さそうなフツーのオヤジになっている。

    1960s

    オータコに教えられ

    日本語教師なら知っていることだけど、母音のオ音の後に続いてひらがなで“う”と表記される音は実際にはウではなく長母音(音引)だ。「とうきょう・きょうと」をトウキョウ・キョウトとは読まないし、「総合」も「構想」ソウゴウ・コウソウとは発音しない。正しい発音はトーキョー、キョート、ソーゴー、コーソーとなる。

    母(関西人):負うた子に教えられっていうけど、このことねぇ。
    子(関東人):大タコ?
    母:そう、負うた子。
    子:大タコって、海で岩場に張りついてるやつ?
    母:‥‥(うちの子は海で岩場に?)
    子:そいでさ、教えた〜い教えたいって、プカプカ浮かんでてさ、溺れかけた人が来ると「教えてあげようか?」って言うんだよね。
    母:そうなの??
    子:それで陸の方に触角伸ばして、「あっちだよ」って‥‥。
    母:そうなの? 大タコに教えられって、そうなの?

    これは本当にあった会話です。

    赤信号みんなで渡る

    中2自殺 遺族に部外秘の確約書
    http://mainichi.jp/select/news/20120712k0000m040107000c.html

    組織が、加害者を含む多数者である「我々」VS少数者である「あなた方」(被害者)という構えになって、義ではなく組織の安泰を最優先するのは、あまりによくある話だ。正邪はどうでもいい。赤信号みんなで渡れば怖くないのだ。

    私も9歳と15歳の時、学校によって言葉で言い表せないような仕打ちを受けた。あの時私は世界への信頼を失った。ある人の愛によってその信頼を回復するまでに30年以上かかった。それだけの時を生傷を抱えて耐えるのと、自殺してしまうのと、どちらが楽なのかは分からない。

    愛は、世間や世間がつくる常識とは別のところにある。世の中に分かってもらおうなんて考えてもいけない。正しいこと、善いことを受容するのは愛だけだから。

    テーマ : 社会ニュース
    ジャンル : ニュース

    ある夫婦の物語

    彼は身一つで異国の地で成功を収めた技術者出身の会社経営者。彼女は、その地で、20年ほど前の日本企業全盛期に日本人相手の風俗店で彼に見初められた。才能たっぷりでハングリーな彼と、媚びたっぷりでハングリーな彼女は結婚し、子供をもうけ、彼はどんどん出世した。

    駆け出しの頃の、日本人バーで日本人ホステスに慰めてもらわなければならなかった田舎出の秀才の面影はもうない。今の彼は自信にあふれた精悍な50代。仕事柄、日本人らしからぬ西洋式のくだけたチャーミングな物腰を身につけ、高い車や、カミさん仕込みのブランドファッションもバッチリで、はっきりいってモテる。現地女性にさえ、モテる。いっぽう彼女は、自分の玉の輿ぶりに陶然としたまま、日本人学校のPTAで幅をきかせ、現地語もろくに覚えず、オバサンになった。

    家庭内離婚が発生する。離婚しようと思ったら、水商売あがりの彼女に何を強請られるか分かったものではない。今の生活を捨てたくない彼女としては、彼が離婚など言い出さない限りはとくに文句はない。浮気の10や20、離婚されない限りは。離婚されるんだったら、その全部について強請りますけどね。

    というわけで、彼は彼女に、マンションを一つ買ってやった。ここから発生する家賃収入はぜんぶお前のもの。エステなり旅行なり、好きに使えばいい。その代わり、俺と俺の愛人(たち)のことは放っておいて。

    カエルとわたくしは、そのマンションを、不注意にも、借りてしまったのですよ。来月引っ越すんですが、くわばらくわばらです〜。

    Name-dropping

    同好会や習い事、はては父兄会やオフ会で一緒になったお偉いさんについて吹聴する人がいる。エラい人が知り合いだと自分もエラくなってしまうなんて、人の虚栄心は可愛くおバカなものだ。

    誰しも多少はそういうところがあるけど、あっけらかんと公言してしまえる人は、たぶん上昇志向で努力家なのだろう。いわゆる成功、いわゆる派手な人生が好き。それを真っ直ぐに追い求める子供のように素直な欲。

    斜に構えてスナフキンを気取っている私にも、じつはそういうものが欲しかった僻みがあるから、そういう人を見ると鼻で笑いたくなるのだろう。

    言い訳:幼い頃、親の商売柄、うちに出入りする人たちの中にどこそこの学長だの院長だの総書記だのがいた。エラい人も死ねば坊主の世話になるからね。くわえて日本のキリスト教界はインテリが多いので、エラさん遭遇率も高くなる。田園調布で豆腐屋をやっているようなものだ。近所の有名人が豆腐を買いにくる。客がどんなに有名だろうと自分ちは豆腐屋だ。そのあたりは子供でも理解していたから、今でも理解しているのさ。
    プロフィール

    シカ

    Author:シカ
    夫のカエルとともにヨーロッパに住むシカです。シカは日本生まれですが、ここ30数年イギリス、フィンランド、ノルウェー、スペイン、ドイツ、振り出しに戻る(イギリス)と流れてきました。カエルはフランス生まれです。詳しくは自己紹介ページへ。

    引用・転載は原則として歓迎ですが、事前にご一報ください。どのような論旨・目的での引用・転載か、把握しておきたく存じます。

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