不注意な異邦人

    日本ってどんな国?

    私もずっと前は、日本はアメリカ式の資本主義社会だと思っていた。しかし欧州の色々な社会を見てきた今は、そうかな?と感じる。まず資本/社会/民主/共産という分け方がぐちゃぐちゃなのだ。民主国家は必ずしも資本主義ではない。社会主義国家は必ずしも共産主義ではない。資本主義は必ずしも民主ではない。

    じゃあ日本は何なのか。資本主義なのは間違いない。民主主義では、決してない。共産主義でもない。しかし社会主義的な面は多々ある。

    たとえば日本の医療システムは、超民主社会主義である北欧に比べ、また民主資本社会主義というべき英国に比べても、優れている。医者や病院へ行けば、何時間かは待つにしてもその日のうちに診てもらえる。保険により、自己負担分は僅かな金額で済む。何科に行くか患者が勝手に決められる。

    ー 医療費については英国は完全無料、北欧は日本の倍ぐらい。ドイツは保険があれば無料だったと思う。
    ー 予約待ちは、英国は永遠(数ヶ月先)。他は‥‥いくらかは待ったような気もするが、寄る年波で漠としている。
    ー 診療科目は、英国と北欧はまずGP(かかりつけ医)、紹介をもらって初めて専門医に行き着く。GPの裁量権は広く、日本だと専門医に行くような症状でもありふれたものならGPが診察から処方までする。ドイツは日本と同様勝手に自分の行きたい科に行く。
    ー 医者の接客(?)態度は、ドイツとスペインは高圧的、北欧は普通、イギリスは非常に愛想がよい(ただし、医師の出身国の文化による)。日本はどうだっけ?→これも寄る年波。急な膀胱炎でフランスの病院に行った時には、あまりにつっけんどんで乱暴な扱いに唖然とした。無料ではあったが。スペインでは、我輩は神であると言わんばかりに問答不要でエラソーな医者に、ここは19世紀かと怪しんだ。

    俺たちの日本の医療は、どの面でも極端に悪くはない(トンデモな薬をむちゃくちゃ処方しすぎる点以外)。制度自体はけっこう社会主義的でありながら、現場では資本主義的サービス精神があるということだ。

    しかし負の側面もある。民主主義が根づいていない(報道・言論の自由がない、投票率が極端に低い、お金さえもらえれば悪政権にも尻尾を振る、労働者が護られていない、女性観が低すぎてお話にならない、エトセトラエトセトラ)。全体主義である(村八分、同調圧力、共同責任)。人権意識がない(移民に門戸を開く代わりに就学生と称して外国人奴隷を入れている、未だに死刑を執行している‥‥)。まるで北朝鮮が成金になったかのような。

    日本の人々はあたりが柔らかく、行儀がよく、生真面目。心の奥底では小心者で計算高く狡猾であっても、外を歩くときはそういう顔はしていない。子供がひとりで電車に乗って遠距離通学でき、夜も女性が一人で歩ける。欧州では悪人は悪人面をしているので、外に一歩出ると緊張せざるを得ない。

    日本では、道路も建物の中も交通機関もゴミひとつ落ちていない。電車は2分遅れただけで謝罪のアナウンスがあり、乗客は座席に泥靴を乗せたり、大声で携帯で話したり動画を観たりもしない。鉄道自殺する人も他人にかける迷惑を最小化すべく土日休日を選ぶ。業者を頼めば指定日時きっかりにやってくる。郵便や宅急便が途中で配達スタッフに盗まれることもない。個人がない代わりに、公徳心がある。だから清潔で治安がよい。

    ただし大荷物を抱えたお年寄りや女性に手を貸す人は少なく、若者さえ優先席以外では寝たふりをする。接客業のスタッフは丁寧だが、彼らに対等な人間として礼を言う客は少ない。無償ボランティア活動に参加する人も少ない。能動的に与えることをしない。全ての行為に対価を期待し、見返りのない善行はしないからだ。

    俺たちの日本は、何主義国家でもない、日本村主義国家なのだろう。

    ほぼ20年前の天皇ランチについて

    私は頭がおかしいか非常識かなんかなのだろうか? と、今日の園遊会の動画を観て思った。

    ノルウェー訪問中の天皇(現上皇)は昼餐中、目の前にいた私に話しかけ続けたので、私は無視するわけにもいかず相槌や返答をしていた。日本語のら抜き言葉ついてどう思うかと尋ねられ、「まあ言葉は時代とともに変わったいくものですよね、私たちが心地悪く感じる用法も新しい世代にとっては普通なのでしょうね」などと、とくに畏まった言い方でもなんでもなく普通に答えていた。

    事前に、外務省の人たちからこちらから質問してはいけないとは躾けられてはいた。

    しかし今思うと、園遊会で人間国宝とかオリンピックメダリストとか、そういう人たちが物凄く緊張して天皇夫妻に接しているのを見て、ただの在外邦人でなんの有形な功績のない私などが、ほぼタメ口をきいていたのを、明仁天皇は不快に思わなかったのだろうか?

    骨折り損のくたびれ儲け

    7月末、夫の息子と孫が滞在している最中から血尿が続き、彼らが去ってすぐ医者に行った。膀胱がん疑いということで8月半ばに内視鏡検査を試みるも、痛すぎて中断。それではと、全身麻酔での検査の予約が8月末に入る。

    検査当日、出かけたその時、いささか緊張していたせいか注意散漫で、車止めの杭に足を引っ掛け宙に舞ってしまった。顎で着地、その衝撃が左顎上部と頬骨の連結部を砕き、頭を守ろうとした右腕の肘も骨折。

    不注意にもほどがある。

    救急外来で激痛にボロボロ泣きながら6時間たらい回しの末、診断と痛み止めもらって帰宅。それから肘専門、顎専門の各病院への通院が始まった。どちらも温存療法(骨が勝手に繋がるのを待つ)だが、顎のほうは、歯の噛み合わせを恒久的に狂わせないよう口の中に金具をつける手術を受けた。

    この金具が痛いのなんのって。歯並び矯正の装具に似ているが、口を開かないようにするためのゴムを引っ掛けるスパイクがずらっと外側に並んでいて、これが口内の粘膜を傷つけまくる。ゴムも、舌や歯茎に食い込んで24時間自己主張する。

    当然、噛むことができない(してはいけない)ので流動食となる。それからおよそ2ヶ月。食べることが生きる喜びのかなりの部分を占める私にとって、拷問以外のなんでもない。ようやく、今週末に金具を外す手術を受けることになった。

    膀胱がんの方は、口の手術との兼ね合いで日程調整し検査遂行の上、ひとまずクリアという話。ではなんで血尿?という疑問は残るが今はそれどころではない。

    顎の骨折は2度目、いくらなんでも3度目はイヤです。これからは注意深い異邦人になりたいです。

    フランス

    I'm sick of French people trying to appear clever at the cost of everyone else.

    長逗留の客人(家族?)

    私は概ね頭のよい人が好きだ。話が早くて面白いから。でも、高知能でも面白くない人もいる。

    文系・理系という分け方に根拠があるとも思えないけど、私の乏しい経験でざーっと見渡した限りでは、いくらか当たっているのかなとも思う。数学者・物理学者・化学者などの括りで超有能で、哲学性を欠く人に時々出会ってきた。オウム真理教に取り込まれてしまった秀才たちのような。独善に繋がりかねない狭さ‥‥笑いの欠如、ブレや陰への忌避。

    嫌な人でもないし、なにか私に迷惑をかけるわけでもない。けど、どうしても、どうしても、接点が見つからない。

    夫の息子がその一人。孫を連れて2週間滞在しているのだが、正直しんどい。彼にとっては父の家なので我が家のように過ごしているのだが、赤の他人の私の家でもあることは念頭にないらしく、念頭に置けと言うわけにもいかず。もともと他人を家に泊める習慣がない日本から来ている私としては、ヨーロッパに何十年住もうと、2週間は限度を3倍超えている。

    毎晩何時間も夫とスクラブルやらスポーツ中継やらに興じてリビングでくつろぎ、夜中過ぎでもパソコンと共に不動の息子、暴君の7歳児の大声や足音。私は自分の家なのになんか居場所がない。一緒に楽しめばいいのにと思っても、スポーツ中継にもスクラブルにも私は興味がないし、その音がしている部屋にいたくもない。

    話あるいは波長が合えば、ぜんぜん違った状況になるだろうに。なにせお互いまったく言うことがないので。

    Today's been a good day

    何年か前、Macmillan (イギリスの癌チャリティー)の広告で、こんなのがあった。初老のカリブ系黒人男性が微笑みを浮かべて街路を歩いてくる。彼が言う。「Today's been a good day. Today hasn't been about cancer.(今日はいい日だ。今日は癌から離れていられた)」。

    それな。誰しも、なにかしらトンデモナイものを背負っている。過去のトラウマ、今の職場の人間関係、家庭内不和、病気、遠くない死。それでも、今一瞬を享受してはいけない理由はない。今、この瞬間、愉しいなら、嬉しいなら、幸せなら、「でも私は癌なんだから/うつ病なんだから/ブスなんだから/もう長くないんだから」と今を打ち消す必要はない。

    ひどい思いをしてきた。ひどいこともしてきた。でも、今日は、ひどくない。今日はいい日。
    プロフィール

    シカ

    Author:シカ
    夫のカエルとともにヨーロッパに住むシカです。シカは日本生まれですが、ここ30数年イギリス、フィンランド、ノルウェー、スペイン、ドイツ、振り出しに戻る(イギリス)と流れてきました。カエルはフランス生まれです。詳しくは自己紹介ページへ。

    引用・転載は原則として歓迎ですが、事前にご一報ください。どのような論旨・目的での引用・転載か、把握しておきたく存じます。

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