壇弁護士の事務室

Winny 天才プログラマー金子勇との7年半

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「Winny」も「天才プログラマー」も「金子勇」も盛り込んで検索ワードを意識しすぎな小説が、2020年4月24日にインプレスR&Dから出版されることになった。

 

インターネットウォッチの紹介記事

インプレスR&Dのリリース

PRタイムのプレスリリース

 

これは、壇弁護士の事務室のスピンオフブログ「アターニアットロー」を時系列に整理して、小説として書き直したものである。

執筆中は、当時のあれこれを思いだしては、怒ったり、悲しんだり、笑ったり、泣いたり大変であった。

ブログからの移植という割には、出版まで数年かかっている。

途中で担当者も出版社も複数回変更された。ヒロインを登場させろとか、さび前の歌みたいに結末を最初に書いてインパクト勝負だとか、金子の内心を描いてないから小説として成立してないとか、業界人が読みもせずに業界風を吹かす発言にはヽ(#`Д´)ノな感じであった。
しかし、Winny事件や金子勇という人物について事実をそのまま伝えるという、根本のところはぶれずに書けたと思う。

ところで、この小説、元が無償で公開されてるんだからブログ見たらいいじゃんと言われかねない。しかし、既にアターニアットローを見た人でも楽しめるようにいろいろ工夫しているので、そう言わずに、小説版も見て欲しい。

Winny事件は、現在、映画化の企画もあるようである。私の役を誰がやるのかをいつも聞かれるが、私は知らない。。。。というより、その質問が多すぎて辟易している。

最後に、出版の際には紙面の都合で乗せれなかった方々にスペシャルサンクスをば(追加予定)。

坂和宏展(弁護士)さん 彼の「小説を読みたい」という一言がなければ、途中で止めてたと思う。ありがとう。

山本祐規子(元ロースクール生)さん ゲラの確認、示唆に富む指摘ありがとう。

 

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2024/10/09

袴田事件再審無罪判決

1966年6月30日、静岡県静岡市で一家4人が殺害された事件で死刑が確定した後に再審開始された袴田巌さんについて再審無罪判決が下された。

判決は拝見していないが、報道をみると、

1 唯一残っていた検察官調書

「袴田さんが自白するまで警察署で警察官と交代しながら証拠の客観的状況に反する虚偽の事実を交えて犯人と決めつける取り調べを行っていた」として、証拠排除。

2 血の付いた「5点の衣類」

「1年以上みそに漬けられた場合、血痕の赤みが残るとは認められない。捜査機関が有罪を決定づけるためにねつ造に及んだことが現実的に想定できるとして、証拠排除

3 ズボンの切れ端

捜査機関によって持ち込まれるなどした事実が推認され、捜査機関によってねつ造されたものとして証拠排除。

 

と、重要争点で完勝といえる内容のようである。

この認定は、おそらく、その後続く国家賠償請求訴訟において大きな要素となるであろう。

 

今回の無罪判決までに、弁護団をはじめ、多くの方の長きにわたる支援があったと思われる。

負けても、負けても、諦めないで闘い続けることは、なかなか難しいことである。

上から目線で申し訳ないが、惜しみない称賛の言葉を送らせていただきたい。

 

ただ、今回の無罪判決を見ても、私はなにも喜ぶ気にはなれない。

もし、石見勝四裁判長や横川敏雄裁判長や宮崎吾一ら暗愚な裁判官が、当たり前のことを少しでも判断する能力があれば、人の貴重な人生の大半を誤って奪うことはなかっただろう(もちろん、熊木典道元裁判官の話はあるが) 。

この国では、一度逮捕された瞬間、人生は大きく歪められる、平穏な日々は失われ、仮に無罪になっても失ったものは帰って来ない。。。

そのことを再認識させられただけである。

 

この事件、検察は控訴を断念したようである。

その際の検事総長談話がニュースになっていた。

本判決は、その理由中に多くの問題を含む到底承服できないものであり、控訴して上級審の判断を仰ぐべき内容であると思われます。

しかしながら、再審請求審における司法判断が区々になったことなどにより、袴田さんが、結果として相当な長期間にわたり法的地位が不安定な状況に置かれてきたことにも思いを致し、熟慮を重ねた結果、本判決につき検察が控訴し、その状況が継続することは相当ではないとの判断に至りました。

要するに、無罪判決は間違いだ、本来なら上級審でひっくり返してやるけど、これまで時間がかかったのでこのあたりにしてやる。ということである。自白を強要し、重要な証拠を隠し続けた組織の長の発言である。

検事総長の発言からは、人の人生の大半を奪ったことに対する責任感が微塵とも感じられない。チンピラの捨て台詞である。

残念ながら、これが日本の刑事司法なのである。

 

 

 

 

 

 

 

 

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2024/07/25

とある弁護士という割には、オビに顔写真掲載してますがな。【勝手にPRシリーズ】

いつもは監修側の清水陽平弁護士執筆の、

「しょせん他人事ですから」公式副読本である。

「とある弁護士の本音の仕事」が発売された。

そして、またまた1冊いただいたので、勝手にPRである。

(amazonが画像リンクを無くしたのがとてもめんどくさい)

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この本は、「しょせん他人事ですから」で問題になっているネットの誹謗中傷をテーマに、事件処理の流れにしたがって手続きを説明していく内容のようである。

この内容を素人の人が読んで理解するには少しハードルが高いような気がするが、それはそれである。

 

ちなみに、清水弁護士は、もっと業界の裏話のような話やコラムでの小ネタを入れたかったようであるが、ページ数の関係でカットになったようである。

コラムは、「しょせん他人事ですから特設ウェブサイト」で公開しているらしいので、そちらもどうぞ。

 

この本の巻末には、マンガ原作者の・左藤真通先生の書き下ろしがある。

清水弁護士が「しょせん他人事とどこまで思えるかが重要だと思っています。」と今やドラマにもなった「しょせん他人事」の始まりが、清水弁護士の発言にあったという奇跡的なエピソードが描かれている。

 

ただ、多くの弁護士は、清水弁護士のようなサイコパス発言はしない。

もっと親身になって話しを聞く弁護士が多いということは、業界を代表して弁解したい。

 

 

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しょせん他人事ですからって~清水先生が女優さんと仲良くなることを他人事ですましたくない。

最近、ドラマ化された関係で、最近、

「明日、朝早くから、ドラマの撮影に立ち会いで大変でさぁ。でもギャラ安いんだよねぇ」

と芸能人みたいなことをつぶやいている清水陽平弁護士監修の

「しょせん他人事ですから」の7巻が発売された。

そして、またまた1冊いただいたので、勝手にPRである。

(amazonが画像リンクを無くしたのがとてもめんどくさい)

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これまで、

しょせん他人事ですからって取材で言った奴って凄くね?

しょせん他人事ですから ~って掛け軸をいいっていう依頼者はおらんくね?

しょせん他人事ですからって、セリフ減ったねぇ。

しょせん他人事ですから~っていう割には販売部数を気にしてますがな。。

しょせん他人事ですから~という痕跡すらのこってないがな

しょせん他人事ですからって「たにんごと」って読むんじゃ無かったのね。

と記事にしてきたが、今回も勝手にPRである。

 

今回は、プロ野球選手に対する誹謗中傷がテーマである。

実は、プロ野球選手に対する誹謗中傷は結構多い。

最近はSNSをしている選手も多いが、野球一筋で前向きに生きてきた選手は、あたまのおかしな人から悪意を露骨にぶつけられる経験をしたことが無いという人が多い。

そして、ネットには、著名人に粘着してマウントをとりたがる奴が結構いる。

さらに、ひろゆきみたいな、メンタルモンスターばかりではない。

というわけで、とても傷つくことが多いのである。

 

で、今回は、「弁護士に会うと時というのは大体みんなドン底ですので」セリフがあった。

これは、弁護士あるあるである。

正しくは「弁護士というのは、その人の人生の悪いときに会う職業」である。

実際に、相談に来られた人の顔は暗い。ただ、事件が解決した後は挨拶にも来ないことが多いので、TVを見て「あんたそんな笑顔できたんか?」とつぶやくことが、こういう仕事をしてるとたまにある。

 

というわけで、事件が終わった後の関さんが、どんな素敵な笑顔で描かれるのか、左藤先生の画力に注目である。

 

というわけで、宣伝しておいたので第8巻もお待ちしております。

 

 

 

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2024/07/06

7月6日と11年

2013年7月6日に金子さんが亡くなってから7月6日は私にとって特別な日である。

今年でちょうど命日から11年となった、毎年、この日は一人でいろいろ思いながら過ごすのが通例であるが、今年は、広島の八丁座で映画Winnyの上映会がある。

日本映画批評家大賞特別上映WEEK

Hattyouza

偶然なのかは分からない。この日を意図していたのであればこんな嬉しいことはない。

みんなと金子さんのことを思いながら、今日の1日をすごしたい。

 

 

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2024/06/17

てんプラ対策法

特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律の一部を改正する法律案が5月24日に可決成立した。

今回の改正は、「特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律」から「特定電気通信による情報の流通によって発生する権利侵害等への対処に関する法律」に名前が変わるらしい。

改正前は「プロバイダ責任制限法」というのは法律名からなんとなくわからないではないが、今回は通称が「情報流通プラットフォーム対処法」「情プラ法」になるらしいが、どこからプラットフォームという用語が導かれるのかよく分からない。

改正内容であるが、今回も悪名高い「特定電気通信」「明白性」の要件は維持で、削除請求権も見送られている。これで、対処に関する法律というのは、看板に偽りがあるような気がするが、今回は、「大規模特定電気通信役務提供者の義務」が定められたのがウリのようである。

大規模特定電気通信役務提供者というのを定めて、削除申告窓口を公表させたり、削除申し出へ一定期間内に判断・通知をさせたりするらしい。

某社のように、いくら削除申請しても対応しないSNS等に対するカンフル剤にはなるかもしれないが、どれだけ実効性があるかは分からない。

 

ところで、最近SNSで著名人へのなりすました広告による投資詐欺の問題がある。

METAとフェイスブックJAPANを相手取って、前澤友作氏が訴訟提起したというのも話題になっている。

この投資詐欺に関して、総務大臣が情プラ法が施行されたら一定の効果が期待できると答弁している記事を見た。

しかし、プロ責法も情プラ法も「特定電気通信」によって「直接」被害が生じた事案に対象が限定されており、詐欺被害には使えない。

これは、平成23年の総務省の「プロバイダ責任制限法検証WG」が「プロバイダ責任制限法検証WG提言」で明確にしているところである(14頁以下参照)。そもそも、プロバイダ責任制限法WGで詐欺事案にも対応出来るようにするべきだと述べて、総務省から塩対応を受けたのは他ならぬ私なのである。


今回の総務省の説明は、よくある投資詐欺の事案は著名人の肖像権やパブリシティの侵害になるので、これらの著名人が頻繁に削除請求すれば、SNSも広告をテイクダウンしなければならなくなるという理屈の様である。

ただ、著名人が常時広告を監視して削除請求するというのは非現実的であり効果は期待できないし、そもそも、著名人の肖像等をつかわなければ情プラ法は打つ手なしである。。

投資詐欺の対策に対して、総務省が詐欺のような対策の説明をしているのは、悪い冗談でしかない。

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2024/05/10

5月10日

あの日から20年が経った。

2004年5月10日は、金子さんが著作権法違反幇助の容疑で逮捕された日である。

いわゆるWinny事件の始まりの日である。

今日は穏やかな日である。ただ、彼の死を惜しむ投稿を目にしながら、彼の為に闘った日々を懐かしく思いながら過ごしたい。

金子勇という人に出会えたことを感謝しながら。

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2024/03/29

しょせん他人事ですからって「たにんごと」って読むんじゃ無かったのね。【勝手にPRシリーズ】

タレント弁護士である清水陽平先生監修の

「しょせん他人事ですから」の6巻が発売された。

そして、またまた1冊いただいたので、勝手にPRである。

(amazonが画像リンクを無くしたのがとてもめんどくさい)

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これまで、

しょせん他人事ですからって取材で言った奴って凄くね?

しょせん他人事ですから ~って掛け軸をいいっていう依頼者はおらんくね?

しょせん他人事ですからって、セリフ減ったねぇ。

しょせん他人事ですから~っていう割には販売部数を気にしてますがな。。

しょせん他人事ですから~という痕跡すらのこってないがな

とお礼がわりに記事にしてきたが、今回も勝手にPRである。

今回は、前科情報の検索エンジンからの削除がテーマであった。

実は、前科情報は、削除請求が難しいものの1つである。

名誉毀損の枠組みで考えると、真実性ある話になるし、プライバシーとしても私的な情報とは言い難い。

弁護士がしらないとモグリと言われる「逆転事件」最高裁判決(1994年2月8日)では、平穏に更生する権利(この省略の仕方は専門的には微妙なのであるが)を理由にみだりに不法行為を認めたのであるが、前科情報は、社会一般の関心・批判の対象となるべき事項に関わるとして、なかなか不法行為や削除を認めてもらえないのが現状である。

検索結果表示からの削除は、最高裁平成29年1月31日の「公表されない利益が優越することが明らかな場合に限って削除できる」といういわゆる「明らか」要件があり、裁判所は「明らかとまではいえない」と言いだすので、「明らか」であることを明らかにしなければならない。

というわけで、前科情報は、弁護士としても対応が困難な事案なのである。

そういう背景を踏まえて読めば、より楽しめるかもしれない。

というわけで、宣伝しておいたので第7巻もお待ちしております。

 

 

 

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2024/03/11

警察庁について

最近、同業者の中で話題の詐欺メールがようやく私のところに送られて来た。

警察庁について
私たちは警視庁です。
あなたのお子様は窃盗容疑で逮捕され、被害者に220万円の賠償金を支払う必要があります。
至急下記口座にお振込下さい。
1:
金融機関:
金融機関コード:
支店名:
支店番号:
口座番号:
口座名義:

(中略)

東京都千代田区霞ヶ関2-1-2 100-8974
「#9110」
03-3581-0141(代表) 

ちなみに、このメールは、あんた警察庁なのか警視庁なのか?という時点でツッコミ放題なのである。

 

警視庁というのは、東京都の都道府県警察のことである。東京都が設置している。

警察庁というのは、国家公安員会の特別の機関であり、内閣総理大臣の所轄の下にある。

と言うわけで、警察庁と警視庁は名前は良く似ているが全くの別組織である。

これを混同している時点で、詐欺としてもレベルが低いのである。

警察が、被疑者の親に対して、被害者にいくら支払えと言うことは無いし、警察がこういう話のときに賠償金ということも無いし(示談金というならまだわからなくはない。)、警察が民間の支払先口座を指定してくることは絶対にあり得ない。

また、窃盗で220万円というのは、1回で盗もうとしても盗めない金額である。何を盗んだという設定なのか興味がある。

 

なお、私に子供はいない・・・はずである。本当に私が父親なら認知するので、遠慮なく名乗り出てもらいたい。

 

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2023/10/26

生殖腺の人権

生物学的な性別は男性であるが心理的な性別は女性である人が、性同一性障害者の性別の取扱いの特例に関する法律に基づいて、性別の取扱いの変更を却下された事案で、最高裁大法廷(裁判長・戸倉三郎長官)は25日、生殖不能手術要件は個人の尊重を定めた憲法13条に反し、無効とする決定を出した。

性同一性障害というのは、ときどき話題になるが、奥が深い話すぎるので今回は説明を割愛する。

で、性同一性障害に対応するため、日本では「性同一性障害者の性別の取扱いの特例に関する法律」というのを作っている。

そこでは、性同一性障害とは、以下のように定められている。


(定義)

第二条 この法律において「性同一性障害者」とは、生物学的には性別が明らかであるにもかかわらず、心理的にはそれとは別の性別(以下「他の性別」という。)であるとの持続的な確信を持ち、かつ、自己を身体的及び社会的に他の性別に適合させようとする意思を有する者であって、そのことについてその診断を的確に行うために必要な知識及び経験を有する二人以上の医師の一般に認められている医学的知見に基づき行う診断が一致しているものをいう。

そして、性同一性障害に対応して、心理学的な性に適合するように、家庭裁判所が、性別の取扱いの変更の審判をすることができることが定められている。


(性別の取扱いの変更の審判)

第三条 家庭裁判所は、性同一性障害者であって次の各号のいずれにも該当するものについて、その者の請求により、性別の取扱いの変更の審判をすることができる。

 十八歳以上であること。

 現に婚姻をしていないこと。

 現に未成年の子がいないこと。

 生殖せんがないこと又は生殖腺の機能を永続的に欠く状態にあること。

 その身体について他の性別に係る身体の性器に係る部分に近似する外観を備えていること。

 前項の請求をするには、同項の性同一性障害者に係る前条の診断の結果並びに治療の経過及び結果その他の厚生労働省令で定める事項が記載された医師の診断書を提出しなければならない。


しかし、この要件、単に主観的な要件だけでは無く、婚姻要件や、客観的な大工事など求めており、結構ハードルが高い。

このうち、婚姻要件については、最高裁判所第二小法廷は令和2年3月11日に

異性間においてのみ婚姻が認められている現在の婚姻秩序に混乱を生じさせかねない等の配慮に基づくものとして、合理性を欠くものとはいえないから、国会の裁量権の範囲を逸脱するものということはできず、憲法13条14条1項24条に違反するものとはいえない。

と塩対応であった。

今回は、大工事未了の方に対して却下決定がなされた事案であるが、最高裁は、憲法13条違反を認めた。

最高裁は、13条について具体的人権性を認めた。

憲法13条は、「すべて国民は、個人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする。」と規定しているところ、自己の意思に反して身体への侵襲を受けない自由(以下、単に「身体への侵襲を受けない自由」という。)が、人格的生存に関わる重要な権利として、同条によって保障されていることは明らかである。

最高裁は、憲法13条によって、自己の意思に反して身体への侵襲を受けない自由が保障されているとした。最高裁は、肖像権やプライバシー権などでかなり微妙な言い方をしてきたが、最高裁が正面から憲法13条の具体的人権性を認めたのは初めてかもしれない。

本件規定が必要かつ合理的な制約を課すものとして憲法13条に適合するか否かについては、本件規定の目的のために制約が必要とされる程度と、制約される自由の内容及び性質、具体的な制約の態様及び程度等を較量して判断されるべきものと解するのが相当である。

最高裁は、憲法13条の合憲性判断基準については、アドホックバランシングを採用した。

アドホックバランシングを採用すると、親方日の丸のメンツと一個人の権利が比較されるので、負けというのが常道なのであるが、今回はそうならなかった。

そして、本件規定による身体への侵襲を受けない自由に対する制約は、上記のような医学的知見の進展に伴い、治療としては生殖腺除去手術を要しない性同一性障害者に対し、身体への侵襲を受けない自由を放棄して強度な身体的侵襲である生殖腺除去手術を受けることを甘受するか、又は性自認に従った法令上の性別の取扱いを受けるという重要な法的利益を放棄して性別変更審判を受けることを断念するかという過酷な二者択一を迫るものになったということができる。また、前記の本件規定の目的を達成するために、このような医学的にみて合理的関連性を欠く制約を課すことは、生殖能力の喪失を法令上の性別の取扱いを変更するための要件としない国が増加していることをも考慮すると、制約として過剰になっているというべきである。

と言う理由で生殖腺要件については憲法13条違反を認めた。

他方で、外観要件については、高裁で審理を尽くしていないという理由で破棄差し戻しとした。

とすると、大工事をしていない場合は、外観要件で却下という可能性も残っている。

今回の判決には、補足意見、反対意見が多数あり、

岡裁判官 補足意見 法改正においては立法裁量を合理的に行使してもらいたい。

三浦裁判官 反対意見 外観要件も憲法13条違反

草野裁判官 外観要件も憲法13条違反

宇賀裁判官 性同一性障害者がその性自認に従った法令上の性別の取扱いを受けることは、幸福追求にとって不可欠であり、憲法13条で保障される基本的人権といえる。外観要件も憲法13条違反

このように、多くの裁判官が完全に一致しなかったことから、本件の背後の問題が難しいことがうかがわれる。それは、人の数だけ人格があるのに、法的な性は2つしかないことからくるのかもしれない。

今回の判決については立法の対応が不可欠である。ただ、福田村の村民みたいなマインドセットの人からの批判も多数ありそうであるので、立法は難航しそうである。今後の国会の対応に注目である。



ちなみに、最高裁が法令違憲を認めたのは、日本国憲法下で12件目であり、憲法13条違反を理由とする法令違憲はおそらく初である。

重い最高裁の扉をこじ開けたのは、𠮷田昌史、南和行という二人の弁護士である。

こういう事件の裏には、信念に従って闘いに身を投じる弁護士が必要なのである。

バイクで転けて杖をついていた姿からは想像できない格好いい姿であった。

 

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2023/10/04

記者会見のセオリー2

※この記事は、あくまでも緊急記者会見を実施する側の視点のみで書いたものです。被害者の気持ちとか、ファンの気持ちとか、タレントの立場とかを重視する方は読まないでください。

 

 

先日、ジャニーズ事務所が、性被害に関連して再度の記者会見を開いた。

 

記者会見の様子はYoutubeで配信されていて、これも今でも見れるようである。

 

 

 

前回の記者会見を総括した記事が一部の方に受けたので、今回も記者会見を総括してみたい。

1 会場の設営

 相変わらず、関係者とプレスの入口を分けるとか、カメラ席を後ろに記者席を前に設置すなど、記者会見のセオリーをキッチリ守っていた。

 今回は、弁護士は2人になってCCO(どっちの会社の?)の山田弁護士と木目田弁護士がタレント(社長)2人を挟む形で座っていた。

 通常は、弁護士を並べることが多い(こそこそやりとりしたい)ので、何か意図があるのかなと思ったが、カメラの画角以外に特に意図は無かったようである。

 

2 服装ついて

 今回は、前回より服の色調が揃っていた。山田弁護士だけネクタイが柄のストライプなので、特に示し合わせたのではないようである。

 ただ、記者会見で服装はそれほど気にしなくて良いというのは前回述べたとおりである。


3 司会

  前回は、PR会社の女性社員が司会をしていたようであるが、今回は、元NHKアナウンサーの松本和也氏が司会をしたようである。

  PR会社の社員とは違って、プロの司会者だからうまく仕切れると思って採用したのかもしれない。

  しかし、結婚式の司会と荒れる記者会見の司会は別物である。

  松本氏の仕切りは、望月記者らの会場の不規則発言に対して、マイクなしの発言に回答を許したり、司会が自分で反論を始めたりで、記者会見が終わってからも質問が続いたり、かなりしょっぱかった。

  私は、こういう荒れる会見の司会は会見に慣れた弁護士を使うのをオススメしているのであるが、それはこういうのが気になるからである。

  (追記) もしかして、指名NGリストがあってやましいとこがあるから彼はムキになって反論してたのかもしれない。

  ただ、それはそれでプロの仕事ではない。

 

4 話し方

 前回、東山氏のしゃべり方が芝居がかっていたのが気になったが、今回はだいぶん普通になっていた。前回の記者会見と違って気楽に話せたのがあったのかもしれない。

 ただ、意識的に声を低めにしていたようである。聞かれたくないことを答えるときには、声がより低くなる傾向が見受けられたので、自分を落ち着けるために意図的に声を低くして話していたのかもしれない。

 前回、素人が話すと「えー」とかが多いことを指摘したが、今回、木目田弁護士の話を聞いて、言葉の頭に「えー」とか「あのー」が多いのが気になった人もいるかもしれない。実際はあれが普通なのである。

 ちなみに、人はマイクを握るとき、緊張するとカラオケで握るときの握り方になる。それは、なぜか解らない。

 みんなカラオケでこんな握り方するのか~と微笑むのが良いかもしれない。

 彼らが用いていた用語であるが、最初から、喜多川・藤島とジャニー・ジュリーが人によってごちゃ混ぜになっていたので、今回はあまり練習してこなかったのかもしれない。そもそも、PR会社が仕切ると会見の形はこだわるものの発言内容にはあんまり考えないことが多いのでそういうものかもしれない。

 

5 話す内容

 またまた、細かいところを言っても仕方ないので、特に感じたことだけに絞りたい。

 

 藤島氏は、今回は出席せずにお手紙朗読になったようであるが、お手紙作戦は功罪両方なので、どっちが良いとは言い難いところである。

 ただ、お手紙をセレクトした割りには、記載内容に、自分のお話が多いなぁという印象である。

 こういう記者会見で、己の話を語っても同情は得られにくい。

 

 次に、記者会見に同席した木目田弁護士が、東山氏の児童福祉法違反の成否について、「それは違うと思います」からしゃべり出したのが気になった。

 木目田弁護士は、ヤメ検だし、テレビで言いたい放題に犯罪の成立をいう弁護士がいたので、反論したかったのかもしれない。突然、左手がバンバン動き出したのでよほど喋りたかったと思われる。

 ただ、知らなかったから共犯にならない。知っていたとしても幇助ではないという旨の説明はリスキーである。

 刑事罰にならなければ問題無いという印象を与えがちである。しかも、喋ってる内容にあまり説得力がない。

 「私の専門家としての見解ですが刑事罰はならないと思います。ただ、彼らは道義的な問題から逃げようとはしていません。彼の発言はそういう趣旨です」とさりげなくフォローして東山氏の発言にしてあげるくらいが良かったと思う。

 

 他には、元ジャニーズ事務所の従業員を新会社に移行させる旨の東山氏の発言が気になった。申し合わせてなかったのだろうが、結果的に全員移籍であっても「性加害行為を行っていないか、また、黙認していないか等を十分確認の上、適切な人材については」と言うべきところである。元ジャニーズの人達が今も問題の所在を十分理解していないなと感じた。

 

6 その他

 記者会見は2時間であった。1社1問に記者からは不満の声もあがっていたようであるが、記者の満足が記者会見の獲得目標ではないし、記者会見は責任追及の法廷ではないし、記者会見は真相究明の場所でもないので別に気にすることはない。

記者の質問も、自分の書きたい記事があってそれに沿う発言を求める質問が多かったので、聞いても聞かなくても記事の内容は変わらないと思われる。

記者会見というのは、発表事項を記事にしてもらって、一般の人に伝えることが主目的である。そもそも、ネットで公開している記者会見である。記者の意図がどうであれ、発信された情報は一般の視聴者に伝わるのである。

こういう場合に、記者にいつまでもつきあっても得られるものが無いので、時間はあの程度でいいと感じた。

 

 で、弁護士ならではの防御ラインと獲得目標の話である。

 まず、防御ラインであるが、

 東山氏自身の性加害について、東山氏は今回「セクハラをしたことはないです」と言い切っていた。

 前回は、途中で発言を変遷させてふにゃふにゃだったが、ここは練習して無いと断言して切り抜けれると判断して防御ラインに設定したのであろう。

 しかし、東山氏からの性被害が連日報道されている状況で、この防御ラインはなかなかリスキーな判断である。

 他方「セクハラはありません」で終わらせてしまったのは、質問している記者の準備不足であり、コタツ記事に慣れすぎである。

 もし、望月記者が質問したらどうなっただろうと思わせる内容だった。

 

 性被害を、知らなかったということ点について、

 一番知らなかったではすまない性加害認定の高裁判決について、みんなが口を揃えて、ジャニーさんが「弁護士が悪かった」と言ってたのでそう思ったという旨の説明をしていた。従前の発言との繋がりもあって、おそらくそこに防御ラインを設定するしかなかったのであろう。

 それでも、判決が出た以上は、疑われるようなことは止めさせるのが役員の責任と考えるのが通常である。この防御ラインはじり貧の疑いがある。

 また、弁護士が悪かったは、あの事件の代理人の某弁護士も了解したうえでの発言だと思うが、これまでいろんな件でお世話になっている弁護士先生を犠牲にするのは見ていてヒヤヒヤものであった。

 

 獲得目標については、

 今回は、タレントの活動継続とかなり割り切ったようである。 

 前回のまさかのゼロ回答から、資本は藤島氏とは別の別会社に移行、藤島氏は新会社の役員にならない、元ジャニーズ事務所は事業廃止、社名変更、藤島氏は相続税を支払う等てんこ盛りである。お土産たくさんなので今回はメディアやスポンサーサイドの理解も得られると判断したのであろう。

 たしかに、タレントの活動維持を考えるなら、ジャニーズのない綺麗な新会社にタレントの契約を移行させて、タレントには罪がないと報じてもらうのが一番であり、スキームの方向性には問題無いと思う。

 ただ、自らの性加害が報道されるジャニー氏の後継者の東山氏が新会社の代表取締役になるというのは、いつまでも東山氏による性加害の報道がされて、離れたスポンサーが戻る切っ掛けを失う危険がある。記者会見も東山氏の資質についての質問が多かった気がする。これは全体のスキームを台無しにするくらいかなりリスキーである。

 もしかして、藤島氏が、事業が全くの他人の手に渡るのが嫌で、東山社長に最後までこだわったのかもしれない。しかし、東山氏は、スマイルカンパニーに専念して、補償が終わってから、自己の処遇を検討するでもよかったのかもしれない。

 結局のところ、この点がひっかかって、記者には、元ジャニーズ事務所が、性被害を生む体質から完全に決別したとは見えなかったのかもしれない。前回の記者会見の後に見られた、あらかじめ仕込んでいたような報道は今回は見られなかった。

 

 最後に、重い十字架を背負い続けて補償のみを目的とする会社の社名を「スマイルアップ」にしたのは、誰のアドバイスか解らないが悪い冗談にしか思えない。

 

 以上が今回の記者会見の総括である。

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【追記】

あの記者会見で、PR会社の人が「指名NGリスト」を作って会場に持参したようである。

   記事

ジャニー喜多川氏の性加害の問題をめぐりジャニーズ事務所が2日に記者会見を開いた際、事務所から会見の運営を任されていた会社側が、複数の記者やフリージャーナリストの名前や写真を載せて質問の指名をしないようにする「NGリスト」を会場に持参していたことが関係者への取材でわかりました。

望月記者が会場で必要以上に暴れていたもの、指名NGリストに気づいていたからかもしれない。

 

私の経験でいうと、PR会社は、こっち側のメディアリストとか敵側のメディアリストとかを作りたがるし、そういうのを作ったり、記事を仕込んだりするのが仕事ができる会社と受け取られがちである。

ただ、私が聞く範囲では指名NGリストまで作ることは少ない。指名NGリストがバレると炎上必至なので、間違っても会場に持ち込ませない。

私がNGリスト自体をNGと考えるのは、指名NGリストを作ると全員NGにしたくなるくらいのアウェイゲームを想定してるからである。

実際にNGリストは不要である。本当にNGな記者はなんとか理屈をつけて記者会見に入れないのがセオリーだし、それでも記者会見に来てしまったら公平に扱えばいいのである。

仮に、NG記者から変な質問が来たら、あまりに記者会見の趣旨に反した質問は、司会者で引き取ってしまえばいいし、1社1問なんだから1回答えれば済むことだし、そもそも、嫌な質問に答えるために記者会見の練習をして防御ラインの設定をしているのである。

もし、東山氏が望月記者の質問に耐えられないと判断したので、あえて一部の記者を指名NGにしたのであれば、そもそも、東山氏を新会社の社長にするというスキーム自体に無理があったことになる。

そこで獲得目標とスキームの整合性を再検討するべきだったのではないか?

 

私の経験上、クライアントはすぐに「バレなかったら大丈夫ですよね?」ということを聞いてくるが、自分達が思うより、こういうのはすぐにめくれるという良い教材である。

そして、バレたときのリスクも考えて対応するのが弁護士の考えるコンプライアンスである。

この記者会見は、CCOとして山田弁護士が出席していたのが、なかなかな皮肉である。

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