不同意わいせつ罪と姿態をとらせて製造罪と性的姿態撮影罪は観念的競合なのか~札幌地裁r6.8.1題材に
判示第4は、 不同意わいせつ罪と姿態をとらせて製造罪と性的姿態撮影罪は観念的競合になっていますが、高裁判例上不同意わいせつと製造罪は併合罪です。
性的姿態撮影罪と児童ポルノ製造罪がほとんど重なり合うのですが、最決h21.10.21の考慮要素を使えば、別の罪だから趣旨が違う・一部しか重なり合わない。一事不再理効が広がりすぎるとして、何罪との関係も併合罪と言えそうです。
弁護人からの併合罪主張は、不利益主張と言われそうですが、訴因変更があったときや、公訴時効が問題になる事案では、有利に使えます。
3 最決h21.10.21の罪数判断の手法(児童淫行罪と姿態をとらせて製造罪とは併合罪)は、性的姿態撮影罪と他罪との関係にも及ぶ
最決h21.10.21は、児童淫行罪と姿態をとらせて製造罪の関係とを併合罪とした判例である。
最決h21.10.21*1
所論は,上記両罪は併合罪の関係にあるから,児童ポルノ法違反の事実については,平成20年法律第71号による改正前の少年法37条によれば,上記家庭裁判所支部は管轄を有しない旨主張する。
そこで,検討するに,児童福祉法34条1項6号違反の罪は,児童に淫行をさせる行為をしたことを構成要件とするものであり,他方,児童ポルノ法7条3項の罪は,児童に同法2条3項各号のいずれかに掲げる姿態をとらせ,これを写真,電磁的記録に係る記録媒体その他の物に描写することにより,当該児童に係る児童ポルノを製造したことを構成要件とするものである。本件のように被害児童に性交又は性交類似行為をさせて撮影することをもって児童ポルノを製造した場合においては,被告人の児童福祉法34条1項6号に触れる行為と児童ポルノ法7条3項に触れる行為とは,
一部重なる点はあるものの,
両行為が通常伴う関係にあるとはいえないことや,
両行為の性質等にかんがみると,
それぞれにおける行為者の動態は社会的見解上別個のものといえるから(最高裁昭和47年(あ)第1896号同49年5月29日大法廷判決・刑集28巻4号114頁参照),両罪は,刑法54条1項前段の観念的競合の関係にはなく,同法45条前段の併合罪の関係にあるというべきである。
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判例タイムズ1326号134頁 最高裁判所第1小法廷 平成19年(あ)第619号 児童福祉法違反,児童買春,児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律違反被告事件 平成21年10月21日
匿名解説
4 刑法54条1項前段の観念的競合の要件である「一個の行為」に関しては,最大判昭49.5.29刑集28巻4号114頁,判タ309号234頁が,「一個の行為とは,法的評価をはなれ構成要件的観点を捨象した自然的観察のもとで,行為者の動態が社会的見解上一個のものとの評価をうける場合をいう」としているが,具体的な当てはめについては,必ずしも容易でなかった面もあったように思われる。数個の罪名に触れる行為が完全に重なっていれば,これを「一個の行為」と解すベきことについては異論はないであろうし,行為の重なり合いが「一個の行為」性の判断において重要な要素であることも間違いないと思われる。しかし,上記大法廷判決に関しても,行為の重なり合いは「一個の行為」であるための必須の要件とは解されていなかったと指摘されていたのであり(本吉邦夫・昭49最判解説(刑)113頁,金築誠志・昭58最判解説(刑)322頁等参照),同判例における酒酔い運転と業務上過失致死のように,継続犯とその一時点で成立する他の罪については,行為に重なり合いがあるともいえるものの,「一個の行為」ではないとされるのが通常である。また,最一小判昭58.9.29刑集37巻7号1110頁,判タ509号88頁においては,覚せい剤取締法上の輸入罪と関税法上の無許可輸入罪について,それぞれの実行行為は重ならないと考えられるのに,「一個の行為」であることを認めている(同様の関係は,戸別訪問の罪とその機会に行われた各種違法選挙運動の罪が観念的競合とされていることについても存在するとの指摘もある。)。
本件で問題となった3項製造罪については,「姿態をとらせ」の要件の意義をどう理解するかによって,同罪と児童淫行罪等との行為の重なり合いの判断も異なってくる可能性もあるが,本決定は,「被告人の児童福祉法34条1項6号に触れる行為と児童ポルノ法7条3項に触れる行為とは,一部重なる点はあるものの」としており,行為の重なり合いがあること自体は認めている(本決定が「姿態をとらせ」を構成要件として規定された行為ととらえていることは明らかである。)。その上で,
「両行為が通常伴う関係にあるといえないこと」や,
「両行為の性質等」
を挙げて,結論として両罪は併合罪であるとの判断をしており,「一個の行為」であるかの判断における考慮要素として,興味深い判示であるように思われる。実際に生じ得る事例を考えてみても,前記最三小決平成18年によれば複製行為についても3項製造罪を構成し得ることになるから,児童淫行罪等と児童ポルノ製造罪のそれぞれを構成する行為の同時性が甚だしく欠けることがあり,一事不再理効の及ぶ範囲等を考えても,併合罪説の方が妥当な結論を導くことができるように思われる。
最高裁判例解説刑事篇平成21年度496頁 平成19年(あ)第619号
菅原暁 最新・判例解説(第3回)児童福祉法第34条第1項第6号違反の児童に淫行をさせる罪と,児童買春,児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律第7条第3項の児童ポルノ製造罪とが併合罪の関係にあるとされた事例[最高裁判所第一小法廷平成21.10.21決定] 捜査研究720号78頁
同最決の解説も考慮すると、同最決は観念的競合となる要素として
行為の重なり合いの程度
「両行為が通常伴う関係にあるといえないこと」や,
「両行為の性質等」
一事不再理効の及ぶ範囲
を挙げており、これは観念的競合の判例(最判s49)の解釈であるから、その判旨は、類推なんかではなく、当然に性的姿態撮影罪と他罪との関係にも及ぶ。
行為の重なり合いの程度
「両行為が通常伴う関係にあるといえないこと」や,
「両行為の性質等」
一事不再理効の及ぶ範囲
の各点は、強制わいせつ罪(176条後段)と製造罪とを併合罪とする高裁判決の理由付けに頻出しており、実際にも最決h21.10.21が、行為の1個性の判断要素・判断方法を示している。
4 不同意わいせつ罪と製造罪は併合罪
不同意わいせつ罪と製造罪は、姿態をとらせて・撮影の点が重なる。これは高裁判例により併合罪である。
行為の重なり合いの程度
「両行為が通常伴う関係にあるといえないこと」や,
「両行為の性質等」
一事不再理効の及ぶ範囲
を挙げて併合罪とする。
5 不同意わいせつ罪と性的姿態撮影罪も併合罪
不同意わいせつ罪と性的姿態撮影罪とは、撮影の点が重なる。
不同意わいせつ罪との関係では、陰部・胸部露出させる姿態をとらせる点は不同意わいせつ罪の実行行為ではあるが、性的姿態撮影罪の実行行為ではないので、重ならない。
性的姿態撮影罪は、スカート内盗撮や性的行為の盗撮を含むが、これらは、わいせつ行為とは言えないから、その点で、不同意わいせつ罪とは両行為が通常伴う関係にあるといえない
わざわざ刑法とは別個に特別法を制定したのは、強制わいせつ罪とは保護法益や性質が相当異なるからである。
性的な姿態を撮影する行為等の処罰及び押収物に記録された性的な姿態の影像に係る電磁的記録の消去等に関する法律案【逐条説明】
○第1条
【説明】
本条は、本法律案の目的が、性的な姿態を撮影する行為、これにより生成された記録を提供する行為等を処罰するとともに、性的な姿態を撮影する行為により生じた物を複写した物等の没収を可能とし、あわせて、押収物に記録された性的な姿態の影像に係る電磁的記録の消去等の措置をすることによって、性的な姿態を撮影する行為等による被害の発生及び拡大を防止することにあることを明らかにするものである。
(注4)罪数関係については、個別の事案ごとに、具体的な事実関係も踏まえて判断されるべき事柄であるが、一般論としては、性的姿態等撮影罪に当たる撮影行為が行われ、当該撮影行為が強制わいせつ罪又は監護者わいせつ罪にも該当する場合、性的姿態等撮影罪は、性的な姿態を他の機会に他人に見られるかどうかという意味での被害者の性的自由・性的自己決定権を保護法益として設けるものであり、また、侵害の態様も性的な姿態の影像を記録して固定化するというものであることからすると性的な行為を行うかどうかの自由が問題となる強制わいせつ罪・監護者わいせつ罪との法益侵害の同一性があるとはいえないことから、強制わいせつ罪又は監護者わいせつ罪と性的姿態等撮影罪の両罪が成立するものと考えられる。
6 姿態をとらせて製造罪と性的姿態撮影罪も併合罪
製造罪と性的姿態撮影罪とは、撮影の点が重なるが、性的姿態撮影罪は媒体記録行為や複製行為に及ばないので重なり合いは一部である。
陰部・胸部露出させる姿態をとらせる点は製造罪の実行行為ではあるが、性的姿態撮影罪の実行行為ではないので、重ならない。
性的姿態撮影罪は、スカート内盗撮や性的行為の盗撮を含むが、これらは、必ずしも児童ポルノとは言えないから、その点で、製造罪とは両行為が通常伴う関係にあるといえない
児童ポルノ罪は、福祉犯として漠然とした児童の利益を保護する趣旨だが、性的姿態撮影罪は、1回1回の撮影されない権利を保護して、そのために撮影や流通を禁止して、さらには行政処分により画像を消去しようとするもので、保護法益や性質が相当異なる。
法曹時報の検事の解説も、観念的競合又は併合罪と説明していて、要はわからないようある。
性的な姿態を搬影する行為等の処罰及び押収物に記録された性的な姿態の影像に係る電磁的記録の消去等に関する法律について(1) 法曹時報76巻2号
7 性的姿態撮影罪の立法趣旨を考慮すれば他罪とは併合罪である
法務省の解説を見ても、性的姿態撮影罪は、不同意わいせつ罪とは別個の趣旨で設けられたものとされており、「強制わいせつ罪又は監護者わいせつ罪と性的姿態等撮影罪の両罪が成立するものと考えられる。その上で、社会的見解上の行為が一個であれば、観念的競合(一個でなければ併合罪)となる」とされおり、観念的競合になるとはされていない。
性的な姿態を撮影する行為等の処罰及び押収物に記録された性的な姿態の影像に係る電磁的記録の消去等に関する法律案【逐条説明】
○第1条
【説明】
本条は、本法律案の目的が、性的な姿態を撮影する行為、これにより生成された記録を提供する行為等を処罰するとともに、性的な姿態を撮影する行為により生じた物を複写した物等の没収を可能とし、あわせて、押収物に記録された性的な姿態の影像に係る電磁的記録の消去等の措置をすることによって、性的な姿態を撮影する行為等による被害の発生及び拡大を防止することにあることを明らかにするものである。
(注4)罪数関係については、個別の事案ごとに、具体的な事実関係も踏まえて判断されるべき事柄であるが、一般論としては、性的姿態等撮影罪に当たる撮影行為が行われ、当該撮影行為が強制わいせつ罪又は監護者わいせつ罪にも該当する場合、性的姿態等撮影罪は、性的な姿態を他の機会に他人に見られるかどうかという意味での被害者の性的自由・性的自己決定権を保護法益として設けるものであり、また、侵害の態様も性的な姿態の影像を記録して固定化するというものであることからすると性的な行為を行うかどうかの自由が問題となる強制わいせつ罪・監護者わいせつ罪との法益侵害の同一性があるとはいえないことから、強制わいせつ罪又は監護者わいせつ罪と性的姿態等撮影罪の両罪が成立するものと考えられる。
その上で、社会的見解上の行為が一個であれば、観念的競合(一個でなければ併合罪)となる
9 性的姿態撮影法2条3項の趣旨
こういう規定が設けられた。
性的な姿態を撮影する行為等の処罰及び押収物に記録された性的な姿態の影像に係る電磁的記録の消去等に関する法律
第二条(性的姿態等撮影)
3前二項の規定は、刑法第百七十六条及び第百七十九条第一項の規定の適用を妨げない。
ここで挙げた罪名は、不同意わいせつ罪と監護者わいせつ罪だけであって、不同意性交罪、監護者性交罪は挙げられていないところをみると、撮影行為がわいせつ行為と評価されることに鑑みて、わいせつ罪の訴追を躊躇しないようにという趣旨であろう。
ここで、不同意わいせつと性的姿態撮影罪とが科刑上一罪になるのであれば、この規定があっても、性的姿態撮影罪が確定すれば、一事不再理効で、不同意わいせつ罪は訴追できなくなる。2条3項は無用の規定である。
併合罪になるのであれば、性的姿態撮影罪が確定しても、不同意わいせつ罪には一事不再理効が及ばない。性的姿態撮影罪で有罪になった場合にも、不同意わいせつ罪での訴追が可能であるから。2条3項は注意的な規定として意味がある規定となる。
札幌地方裁判所令和6年8月1日刑事第3部判決強制わいせつ、不同意性交等、北海道青少年健全育成条例違反、不同意わいせつ、性的姿態等撮影、児童買春、児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律違反被告事件
《全 文》
【文献番号】25620828
札幌地方裁判所
令和6年8月1日刑事第3部判決
第4 正当な理由がないのに、別の知人の息子であるD(当時6歳)が13歳未満の者であることを知りながら、令和6年1月4日午前8時34分頃から同日午前8時42分頃までの間、別紙記載1の居室において、Dに対し、被告人がDの露出された陰茎を直接指で触る姿態をとらせ、これを被告人が使用する撮影機能付きスマートフォンで動画撮影した上、その動画データ1点を同スマートフォンの内蔵記録装置に記録させて保存し、もってわいせつな行為をし、Dの性的姿態等を撮影するとともに、他人が児童の性器等を触る行為に係る児童の姿態であって性欲を興奮させ又は刺激するものを視覚により認識することができる方法により描写した電磁的記録に係る記録媒体である児童ポルノを製造し、
(法令の適用)
罰条
判示第4の所為
不同意わいせつの点 刑法176条3項、1項(令和5年法律第66号附則3条前段により拘禁刑とあるのは懲役刑として適用)
性的姿態等撮影の点 性的な姿態を撮影する行為等の処罰及び押収物に記録された性的な姿態の影像に係る電磁的記録の消去等に関する法律2条1項4号、1号イ(同法附則2条により拘禁刑とあるのは懲役刑として適用)
児童ポルノ製造の点 児童買春、児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律7条4項、2項、2条3項2号
判示第5の所為 児童買春、児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律7条1項前段、2条3項1号、3号(なお、各動画データ及び画像データが同項1号又は3号のいずれに該当するかについては、甲第25号証のとおり)
科刑上一罪の処理
判示第4の各罪 刑法54条1項前段、10条(1個の行為が3個の罪名に触れる場合であるから、1罪として最も重い不同意わいせつ罪の刑で処断)
刑種の選択
判示第3、第5の各罪 いずれも懲役刑を選択
併合罪の処理 刑法45条前段、47条本文、10条(最も重い判示第2の罪の刑に法定の加重)
未決勾留日数 刑法21条(110日を算入)
訴訟費用 刑事訴訟法181条1項ただし書(不負担)
令和6年8月 日
札幌地方裁判所刑事第3部
裁判長裁判官 ■■■■ 裁判官 ■■■■ 裁判官 ■■■■