琥珀色の戯言

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【映画感想】グラディエーターII 英雄を呼ぶ声 ☆☆☆☆

あらすじ
ローマ帝国が繁栄した時代。静かな暮らしを送っていたルシアス(ポール・メスカル)は、将軍・アカシウス(ペドロ・パスカル)が率いるローマ帝国軍の侵攻によって妻を失い、捕虜となる。アカシウスへの復讐(ふくしゅう)を誓う彼は、奴隷商人・マクリヌス(デンゼル・ワシントン)との出会いをきっかけにローマへ向かう。そこで剣闘士「グラディエーター」となったルシアスは、円形闘技場「コロセウム」で行われる闘いに身を投じる。


gladiator2.jp


2024年映画館での鑑賞17作目。
平日の夕方からの回を鑑賞。観客は僕も含めて3人でした。

僕はラッセル・クロウさんが主演していた、前作『グラディエーター』(2000年公開)が大好きで(歴史もの、とくにギリシャ・ローマの史劇が好きなのです)、この『2』の公開も楽しみにしていました。

公開前から、アカデミー賞に輝いた名作の四半世紀ぶりの続編、ということで、けっこう話題にもなっていたんですよね。
今年、2024年に公開されるハリウッド映画は、撮影期間がコロナ禍の時期にあたり、大作が少ない、と言われています。

久しぶりに「映画館で観たくなる大作映画」だな、と思ってもいたのですが、蓋を開けてみたら、日本での興行収入は初週3位。

mantan-web.jp


室井慎次』の日本での根強い人気には驚かされたのですが、「劇場版『進撃の巨人』完結編THE LAST ATTACK」にも負けてしまうとは思いませんでした。
前作の『グラディエイター』も、日本での興行収入は15億円くらいだったそうで、日本ではギリシャ・ローマを題材にした作品は、ちょっと親しみが湧きにくいのかもしれませんね。
ザマの戦いを再現した闘技場での場面で、ハンニバル側を担当させられた剣闘士側が勝ってしまったのをみてニヤニヤしてしまったのを僕はよく覚えています。
塩野七生さんの『ローマ人の物語』、あるいはヤマザキマリさんの漫画『テルマエ・ロマエ』などでローマ帝国は、比較的日本でも知られているとは思うのだけれど。


この『グラディエーターII 英雄を呼ぶ声』への率直な感想は「面白いのは間違いないし、久しぶりに、これだけのスケール感がある映画を観たような気がする。ただ、すべてにおいて、前作の焼き直しというか、縮小再生産、という印象は否めない」です。

『グラディエイター』の主人公・マキシマスには、観客として、感情移入し、彼の復讐を応援したくなるような「背景」が、きちんと見えていました。
こんな目にあったら、それはもう、復讐したくなるよね、と。
その一方で、彼の復讐への道はあまりにも険しく、ホアキン・フェニックスが演じていた皇帝は、あまりにも狡猾で、その一方で「色気」みたいなものもあったのです。
コロセウム(コロシアム)での戦いも、絶望的な状況から、マキシマスの卓越した知略で犠牲を払いながらギリギリのところで敵を討ち果たして生き残る、という切実さを感じました。

それと比べると、今回の主人公・ハンノ(ルシアス)は、自分で道を切り開くというよりは、周りが勝手にお膳立てをしてくれて、いろんなことがうまくいってしまう(もちろん「悲劇」もあるんですが)。
闘技場での戦いも、とくにわざわざ水を溜めて『サラミスの海戦』を再現した場面では「相手はもっと戦術を考えろよ!」と言いたくなってしまいます。『パイレーツ・オブ・カリビアン』でも観て勉強していただきたい。

だいたい、いきなり貴種流離譚になってしまうとか、一昔前のRPGかよ!とツッコミたくなりますし、周囲の人がそれを信じる根拠があまりにも乏しい。
五賢帝後のローマは、実力主義で軍人出身の皇帝が乱立する時代になっていくとはいえ、あの皇帝たちは前作の皇帝と比べたら、「単に異常なだけの双子」にしか見えない(夢に出てきそう、ではありますけど)。

ハンノのローマに対する姿勢の変化も「変わり身早いな!」と。『嫌われる勇気』にでも感化されたのだろうか。

この作品の狂言回し的な役割を果たすマクリヌスを演じたデンゼル・ワシントンは、さすがの「何を考えているのかよくわからないトリックスター」っぷりでしたが、ストーリー的には、うーむ、結局何も考えていなかったのかも……

前作の「重厚感」というか「復讐への強い意志と、その後に残る虚無感」みたいなものはあまりなくて、物語が全体的に薄っぺらくなってしまった気がします。
けっこう興奮もするし、うまくまとまっている気もするし、CGの技術も進んだなあ、と感心もするのです。
一つの映画、史劇としては、映画館で観る価値は十分ある、大スペクタクル、です。
前作がアカデミー賞で作品賞を獲ったこともあり、記憶の中で過大評価されているのかもしれません。
興行的にも、こういう物語のほうが、プラスだと判断された可能性もあります。
まあ、お金を払って、2時間半もシアターに閉じ込められて、重苦しい気分で帰りたくない、という気持ちもわかります。
けっこう残酷な描写や戦闘も多くて、『300(スリーハンドレッド)』が好きな人は楽しめそう。

個人的には、今年観た映画の中では、かなり良かったと思うし、こういうしっかり作られた歴史ものがこれからも映画館で観られるように、ヒットしてもらいたいのです(日本では伸び悩んでいるようですが、海外ではかなりの好成績みたい)。

良い映画ですし、僕も十分に楽しめたのは間違いありません。
でもなあ、前作に思い入れがあるほど、「なんか違う」というか「24年経っているのに、かえって退化しているのでは……」と感じるのではなかろうか。
コロナ禍の影響なのか、今の観客には、このくらいのほうがいい、という判断だったのか、リドリー・スコット監督の「老い」なのか……


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