琥珀色の戯言

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【読書感想】と【映画感想】のブログです。

【読書感想】グーグル社員はなぜ日曜日に山で過ごすのか ☆☆☆☆


Kindle版もあります。

「日曜日に家でのんびり過ごしていたはずなのに、なぜか疲れが取れない……」
休日に「休めた感」を得られないすべてのビジネスパーソンへ。
アメリカ在住35年、カリフォルニア州立大学院で心理学を学び、ロス・パドレス国立森林公園内のコミュニティで暮らす著者が明かす「最先端の休養法」。
本書では、グーグルをはじめ名だたる世界企業のテックワーカーやビジネスエリートたちが実践する休息法・休養法を取材・レポート。体験談や最新の文献を引用しながら、自然に身を置くだけで成果を出せるようになる休み方を詳細に紹介する。「会議の前に森林を眺める」「裸足で土の上を歩く」「2分間でできる瞑想」など、どんな立場の人もすぐに取り入れられるメソッドが満載。


 そんなこと言われても、僕はグーグルに採用されるような超優秀な人間じゃないしな……
 こういうタイトルの本を書店で見かけるたびに「ただしグーグル社員に限る」と心の中で嫌味を呟いてしまうのです。

 とはいえ、「気分転換のために遊びに出かけても、かえって疲れてしまう」「それでは、と家で休んでみても、やっぱり疲れが取れない」「仕事はつらいけれど、休みになってみると、案外やることがない」というのは僕の現実でもあるので、とりあえず先入観や劣等感にとらわれないように意識しながら読んでみました。

 
 冒頭に「アメリカ心理学の父」とされるウィリアム・ジェームスさんの

 心が変われば行動が変わる
 行動が変われば習慣が変わる
 習慣が変われば人格が変わる
 人格が変われば運命が変わる

 という有名な言葉が出てきて、「野村克也監督かよ!」と思いつつ。
 野村さんが常々この言葉を著書などで紹介していた、というだけの話ではあるのですが。

 「自然に触れる」とか「瞑想」なんていうのは、「スピリチュアル」に属する領域で、怪しいというか、セミナーなんかに通わされていつの間にか身ぐるみ剥がされ、無人島みたいなところに移住させられるのではないか、とか、つい身構えてしまうのですが、アメリカの最先端IT企業で働いている人たちが、あえて休みを取って、自然に接する機会をつくっていることを著者は紹介しています。

 「どうして休んでいるのに、疲れが取れないのか?」


 そもそも、日本人は休みが少ないんじゃないか?と僕などは考えてしまうのです。ヨーロッパでは、夏に長期のバカンス休暇を取っているのに。

 著者は、こんなデータを紹介しています。

 日本でも2019年から順次「働き方改革」が進められているが、はたしてそれは「しっかり休む」ことにつながっているのだろうか。
 皆さんも自分の胸に手を当てて、仕事を離れ「ちゃんと」休めていたかどうか思い出してほしい。
 米国の大手旅行サイト「エクスペディア」が毎年行っている「世界11地域有給休暇・国際比較調査 2024年度版」によると、日本で働く人の有給休暇の支給日数は年間平均が19日間(2023年)。そのうち年間平均12日間の有給休暇を取得していて、取得率は約63パーセントだった。
 この取得率は11地域の最下位で、これだけを見ると、日本人はやっぱり休暇を取れていない、と思える。
 しかし、これは「有給休暇」の取得率に関してだ。ジェトロ日本貿易振興機構)の2023年のデータによると、祝祭日数(17日)に限ればなんと世界トップ10に入っている。
 日本は有給休暇以外に、祝祭日が多くあるのだ。そして「毎月、有給休暇を取得する人の割合」は、32パーセントと日本が世界一になる。
 つまり日本人は、ヨーロッパ人のようにまとめて長期休暇を取るのではなく、毎月確実に休暇を取っている。そのためか、日本で働く人の56パーセントが、直近の休暇で「リフレッシュできた」と回答していて、これは11地域で最も高い割合だ。

 また、「2023年 世界の労働時間国別ランキング・推移」(OECD)によれば、日本の平均労働時間は1611時間で45カ国中31位。世界的に見て、突出して労働時間が長いわけではない。むしろ健全なほうだ。
「データブック国際労働比較2024年」(JILPT)を見ると、1988年では2092時間だったのが、同年の改正労働基準法の施行を契機に、労働時間は着実に減少を続けている。
 実際、エクスペディアのアンケートに答えた日本で働く47パーセントの人が、「休み不足を感じていない」と回答をしている。


 数字を見ると、僕が子供の頃、1980年代、90年代に抱いていたイメージ「働きすぎの日本人」というのは、もう世界各国との比較では、過去のものになっているのです。

 まだ有給休暇を取りづらい雰囲気はあるけれど、僕が仕事をはじめた30年前と比較すれば、だいぶ休みやすくはなったと思います。
 医療というのは、特殊な面がある仕事ではありますが、僕が新人時代、30年前は「夏休みなんて取らないのが当たり前」「俺は1年間、病院に(患者さんの診察に)来なかった日はない」なんて先輩が少なからずいたのです。僕自身も、それほどまでではないけれど、それに近い生活をしてきました。
 まあ、自分がそんな若手時代を過ごしていたら、「いまの研修医は17時に帰るなんて、けしからん」とか言いたくなる気持ちはわかります。
 仕事が少なくなるわけではないので、その研修医の分の仕事も、自分たちがやることになるわけですし。

 1970年代、80年代生まれの世代って、「上司からは社畜魂を求められ、後輩からは働き方改革の皺寄せを引き受けさせられ……」という「貧乏くじ世代」の気がします。とはいえ、若い頃に頑張っていた人のほうが、その後、中堅になってから仕事に困らなくなっている、というのも見ていて実感はするのです。人生全部フルスロットルで行くと事故を起こしてしまう可能性が高いですが、アクセルを踏んでおくべき時期はあるのでしょう。

 ちょっと脱線してしまいましたが、日本は休日がけっこう多いはずだし、日本で働いている外国人には、「休み不足を感じない」と答える人が多いのに、多くの日本人が「休んでも疲れが取れない」と感じているのはなぜなのか。
 著者は、「休暇中に連絡を遮断しない」という人の割合が日本は38パーセントと世界1位で、他の地域を2倍以上引き離していること、そして、「休みかたに問題があるのではないか」と指摘しています。

 UCLAビジネススクールのキャシー・ホームズ教授もまた、ワーク・ライフ・バランスに悩む一人だった。
 キャリアアップと子育てに忙殺される日々を送る「時間貧乏」だった彼女は、仕事を辞めて、どこかの海辺でのんびりと過ごす「時間富豪」に憧れを抱いた。
 そこで、キャシー教授は「もっと時間があれば、より幸せになれるのか」というテーマでリサーチを始めた。その結果は、アメリカでベストセラーになった『Happier Hour』(『「人生が充実する」時間のつかい方』松丸さとみ訳、翔泳社)にこう書かれている。

「自由な時間はなさすぎても、ありすぎても幸せを感じない」

 休みが長ければ幸せになれる、とは限らない。これが彼女の結論だった。
 リサーチの結果から、キャシー教授は「幸せを感じるのは、休日の長さではなく、いかに『インテンション(意図)』と『アテンション(注意)』を持って、時間を過ごすか、が鍵となっている」と、世界的講演会TEDで話している。
 自由な時間の「量」ではなく「質」が幸せを決める。そのために、目の前にある時間をいかに「意識的」に過ごせるかがポイントになりそうだ。
 子どもの頃、夏休みも終わりが近づくと、「早く学校に戻りたい」と新学期を待ち遠しく思わなかっただろうか。人によるかもしれないが、そういう感覚を抱いた人は、充実した夏休みを過ごせた証拠。幸福を享受できているとも言える。


 ちなみに僕は、夏休みの終わりに「早く学校に戻りたい」と思ったことは一度もありません。
 普段も毎日「明日も学校に行きたくないなあ」と思い続けていたので、今から考えると、給料が出るわけでもないのに、よく我慢して通っていたものだと自分を褒めてあげたいくらいです。
 もっとうまく休めていたら、学校に行きたい気持ちになれていたのだろうか。

 アメリカのエリートたちは、いま「休息力の向上」に意識を向けているそうです。
 意識高い系(「系」じゃないですね、本物のエリートだから)もここに極まれり、という感じなのですが、「ただしGoogle社員に限る」で思考停止してしまったら現状維持で何も変わらないので、僕もブツブツ言いながらこの本に書かれている「休みかた」「気分転換のしかた」を読んだのです。
 Googleは給料が高く、福利厚生も充実しており、勤めているだけで「すごいね」と言われる企業なのですが、その一方で、上層部の方針転換や仕事への厳しい評価で、メール一通で「クビ」を宣告されることもあるのです。
 エリートには、エリートの世界で闘っていくことのストレスや危機感も存在しています。

 私が知るビジネスパーソンのなかには、「ビジョン・クエスト」や鹿狩り、ソロキャンプに出かける人もいる。 
 ビジョン・クエストはもともと、アメリカ原住民が行なっていた伝統的な通過儀礼である。
 ある年齢に達した子が人里から離れた深山の中で断食をしながら、未来に向けた「夢」を見るというもの。その儀式的行事を現代風にアレンジして、自分の内面を探求していく密度の高いプログラムが用意されている。
 失業や転職、大切な人との別離、といった人生の転機に立ったとき、ビジョン・クエストを通して自己を見つめ直し、新たな一歩を踏み出す。
「誰かの声が聞こえて、いきなり私は変わってしまった」などといったスピリチュアルな儀式ではなく、外界の雑音から離れ、ひとり静かに、自然の支えを得ながら自分を見つける作業なのだ。
 携帯電話や他のいろんな娯楽がなく、対話する人もいない。自然のなかにただひとりだけ存在する。自分を見つめるのは、最高の環境ではないだろうか。
 普段、当たり前のようにある住まいや食べ物がそこにはない。
 日が暮れると、動物の鳴き声に怯える。寒さ、暑さを凌ぎ、空腹に耐える。身体も心もその強さを試され、自分の内にある強さを発見する。小鳥のさえずりに癒され、岩の割れ目に咲く小さな花に勇気をもらう。星空の美しさに見惚れることもあるだろう。
 こうしたビジョン・クエストを経て、これからはじまる新たな人生の旅路に向けて心の準備をする。
 長い休みが取れないという人には、ソロキャンプがおすすめだ。ビジョン・クエストと同じ効果が得られ、自然の中で自己を見つめることができる。
 普段慣れている便利さを捨てて「不便さ」を感じることで、人間が本来持つ直感力や生存本能を鍛え、バーチャルになりがちな生活を改善できる。


 物好きだな……と思うのと同時に、「これが、いまのアメリカのビジネスエリートたちのトレンドなのか」とも感じるのです。
 スマートフォンやインターネット、溢れる情報の渦から離れて、自分自身を見つめ直す、というのは、たしかに、今の時代では最高の「贅沢」なのかもしれません。
 
 僕は昔から蛇が大の苦手で、自然の中にいると「どこかに蛇がいるんじゃないか」と気になって仕方ないので、あまり落ち着かないのですが。


 この本には、「セレブやエリートの自然回帰ムーブ」だけではなくて、もっと身近な、日常の中でできる「気分転換のしかた」についても書かれており、個人的には、そちらの方が役に立ちそうでした。
 寝る前にスマートフォンを見ない、寝室にスマホを持ち込まない、なんていうのは、その気になればすぐにできそうです(僕の場合は、仕事の性質もあって、難しいのですが)。

 ストレスを感じているときは、「ダブルインヘール・ロングエクスヘール呼吸法」がおすすめだ。
 スタンフォード大学神経科学博士、アンドリュー・ヒューバーマンの提唱する呼吸法で、ストレスや緊張に即効性があると話題になっている。やり方はとても簡単。

1.大きく息を鼻から吸う。少し止めて、2回目は1回目より多めに吸うように意識する(2回目は、もう少し労力が必要なので)
2.ゆっくり口から息を吐く

 たったこれだけの呼吸法で、即、リラックス効果がある。あなたがイライラ、モヤモヤしていたら、いますぐ試してほしい。


 「落ち着いて、深呼吸してごらん」というのは、先人の知恵だったんだな、と思いますし、これで落ち着くと自分で信じていれば、効果はありそうです(僕も何度か自分で試してみました)。スタンフォードお墨付き!だと思えばなおさら。
 急激な怒りや苛立ちって、ひと呼吸おくだけで、「これで怒っても何もいいことないな」って、気づくことも多いですし。

 ビジョン・クエストを日本でやることはなかなか難しいと思いますが、この呼吸法のような「ダメもとで試してみても損はしない」ようなリラックスの方法も紹介されているので、鵜呑みにする、というより、興味を持ったものを試してみる、というスタンスで良いのではないかと思います。
 実際は、山で過ごすより、グーグル社員になるほうが、よっぽど難しいですし。


fujipon.hatenablog.com

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