ワーキング・プアは日本だけじゃない
・ワーキング・プアは労働現場だけじゃない
http://d.hatena.ne.jp/Dr-Seton/20071218/1197967226
のさらなる続きです。
拙稿にはネオリベシンパらしいかたからのコメントも若干頂きました。少し、彼らの疑問に応えられるような話を載せていきます。
さて、グローバル化は労働環境(だけじゃないが)を悪化させる、と述べたのですが、その影響は日本から労働需要を奪いつつある中国にも出ています。
・労働者保護 進める中国 日系企業、新法へ準備
中国で来年1月1日、労働者の権利保護を大幅に強化する「労働契約法」が施行されます。中国政府は、この新法をてこに労働者の待遇改善を進める考えですが、企業にとっては人件費増につながります。安い労働コストを求めて中国に生産拠点を移してきた日系企業も、戦略の見直しを迫られそうです。
■就業規則を細かく改定
「同僚が席を離れるときは代わりに電話応対をする」
「会議終了後は室内を整理整頓し、退室前に必ず消灯する」
自動車のハンドルやシートなどに使う皮革を加工する上海の日系企業「愛知皮革有限公司」(従業員約250人)は、労働契約法の施行をにらみ、弁護士事務所とともに就業規則の改定作業を進めている。常識ともいえる内容まで書き込むため、新規則は現行の約2倍の31ページに増える見通しだ。
永田明司社長(64)は「できるだけ細かくルールを定め、労働者の責任を明確化してトラブルに備えたい」と言う。新法では、労働者を解雇する場合、雇用主側が合理的な理由を立証しなければならないからだ。従来は取締役会の決定だけで就業規則を変更できたが、新法では労働者の利害にかかわる規則の変更は、労働組合などと協議しなければならない。
さらに、新法で役割が強化される労組も、会社主導での新設を検討している。永田社長は「敵対的な労組ができる前に、友好的な労組を作らないと対応が難しくなる」と話す。
新法施行を前に、経営戦略の大幅な変更を迫られる企業もある。上海のある日系企業は、同市内の工場を年内に閉鎖し、別の地方都市に移すことを決めた。同社幹部は「新法で人件費の増加は避けられない。今のうちに上海より人件費が安い場所に移らないと利益が出ない」と話す。
■「新法逃れ」?の動きも
一方、「新法逃れ」ともとれる企業の動きも相次ぐ。中国メディアの報道によると、深セン市の大手通信設備メーカー「華為技術」でこの秋、勤続8年を超えるベテラン従業員5000人以上が「自主退職」を会社側から求められた。退職後に再度、従業員募集に応募させ、4年程度の雇用契約を結び直したという。
会社側は「ベテラン優遇に偏った雇用条件を改めるため」などと説明したが、世間からは批判の声があがった。新法が施行されれば、勤続10年以上の労働者は、無期限の長期雇用契約を結ぶ権利を得る。駆け込みの「自主退職」はこの規定から逃れるために違いない、との指摘だ。
地元の労働社会保障局が調査に乗り出し、中国共産党の機関紙、人民日報もこの問題を取り上げて「従業員は(退職を)本当に望んでいるのか」「企業は機に乗じて責任回避するのではなく、進んで責任を負うことを期待されている」などとする記事を掲載。会社側は結局、今回の「自主退職」の中断を表明した。
今、中国に展開する日系企業の多くが年末を目標に、就業規則や雇用契約の改定、労組の設立などの作業に追われている。日系企業約6000社が集中する上海では、経済団体や弁護士事務所などが主催する新法関連のセミナーが数十回も開かれ、毎回盛況だ。
■過酷な待遇を改善
これまで中国の労働者、特に農村からの出稼ぎ労働者(農民工)は過酷な労働環境に置かれてきた。北京、上海、広東など11地区を対象にした中国国務院(政府)の昨年の調査では、農民工の3割は月給500元(約8000円)以下。約束の期限までに受け取れている労働者は全体の5割に満たなかった。雇用主と正式な契約を結んでいない労働者も3割以上いた。
山西、河南両省では今年、れんが工場での未成年者の強制労働も明らかになり、社会問題になった。来年1月1日は、農村出身者らへの就職差別などを禁じた「就業促進法」も施行される。労働者に有給休暇を保証する規則も今月7日、温家宝(ウェン・チア・パオ)首相主催の国務院常務会議で導入が決まった。
■競争力との両立、課題
中国に「鉄飯碗」という言葉がある。割れない鉄のおわん、つまり、食いはぐれのない職業、日本流に言えば「親方日の丸」のことだ。以前の国有企業は「鉄飯碗」で、従業員の意欲低下も招いた。一方、改革開放政策では経済成長を優先、働く者の立場は軽視されてきた。労働者の保護強化はその反省に立ったものだ。ただ、安くて使いやすい労働力が海外の企業には魅力だった。投資が今後、東南アジアなどに流れかねない。労働者保護と競争力維持、その両立が課題だ。
■中国の労働契約法
雇用期間の長期化を促し、労働者の権利保護を強化する法律で、来年1月1日に施行。同じ企業で勤続10年を超えた場合などに、労働者が希望すれば無期限の雇用契約を結ぶことを義務付けたほか、20人以上または全従業員の10%以上の解雇には、労働組合や全従業員への説明と当局への報告を求めている。賃金未払いなどを防ぐため、書面による雇用契約締結の徹底も求め、働き始めてから1カ月を過ぎても書面契約を結ばない雇用主は、月給の2倍の割増賃金を支払うよう定めた。
(asahi.com より引用)
http://www.asahi.com/business/topics/TKY200712130014.html
中国への海外企業進出が進む中で、中国でも格差問題が大きくなっています。で、労働法制の整備が進んでいるわけですが、中国においても
・馘首しやすい就業規則を結ぶ
・御用組合を創設する
・正規雇用契約逃れの算段をする
のどこかで見たようなエピソードのオンパレードです。なんのことはない。日本では“中国に仕事を奪われる”と危機感を募らせているのですが、その中国でも“労働条件の改善”は“グローバル化”の中では困難な状況なのです。より労働条件に緩い他国への再移転をちらつかされれば、労働条件を上げる事は難しくなる。他人事の気がしませんよね。焼き畑が順調に広がってるようです。
では、日本以上に“焼き畑”の広がった韓国はどうでしょう。
先日の大統領選で、与党候補は惨敗。野党ハンナラ党の李明博(イ・ミョンバク)氏が当選したわけですが、最大の争点が経済問題でした。
貧富格差が広がっている。とりわけ、若年労働者層の正規雇用が低い比率に留まっている。事が大きな問題となり、李氏への圧倒的な支持を生んだわけですね。
ところがです。
韓国の経済統計を見ると、ちょっとイメージと違ってきます。
・韓国−基礎的経済指標− (jetro)
http://www.jetro.go.jp/biz/world/asia/kr/stat_01/
経済的問題?
GDPの伸びは毎年(04〜06年)4%以上。
物価上昇率は3.8→2.2% デフレに悩んだ某国から見たら、丁度良いくらいの上昇率です。
失業率にいたっては、3.5%(06年)。
統計指数から見る限りは、国民の中に不満が溜まっているとは考えられないですよね。
少なくとも、ネオリベを標榜する皆さんなら、この経済運営を失策とは捉えないでしょう。
でも、実際にはこの経済指数では捉える事のできない問題が存在し、その問題は大統領選で票の行方を左右するほどのものだったのですよ。
この行き違いを生んだのはFTAによると思われます。
・韓国;WTO・他協定加盟状況
http://www3.jetro.go.jp/jetro-file/search-text.do?url=010011210201
韓国経済は確かに各国とのFTAによって好調を保ち続けました。
でも、それは経済格差を生み、若年不正規労働者層を増やしたとも思われるのです。
そう考えると、李明博氏の公約は皮肉なものです。
彼は一層の規制緩和による経済の伸びを唱っています。たぶん、公約の7%はともかく、高い経済成長は維持されるでしょう。でも、選挙で票を投じた若年層の願いが叶えられるかは疑問です。
それとも、「いや、もっと規制緩和を進めれば、自由化を進めれば、豊かになれるのだ」と考えますか?
自由貿易によって各国経済が“ダイレクトに”グローバルな経済に接続されれば、労働環境は一方的に悪化します。第二、三次産業について云えば、さんざん見てきたとおり。
それと対価のように扱われる途上国の一次産業も同様です。
ブックマークで次のような意見を頂きました。
同意できない。グローバル化や貿易自由化した方が生産効率はあがる。途上国の農業をなんとかしたいのなら、先進国は農業に対する関税障壁等をなくして途上国からも農産物が入りやすくした方が良い。
マジックワードのように扱われる「生産効率」って何なんでしょうね。
・正規雇用から不正規雇用に代えて人件費を浮かす
・正規雇用者の就業時間を延ばしつつ、対価を払わない事で人件費をさらに浮かす
・労働安全やメンテナンスを省略し、費用を浮かす
残念ながら、真の「効率向上」に値するような手法ってあったんでしょうか。少なくとも、日本の代表的企業の取った手法は上の三つがメインでした。それもご丁寧に偽装工作までする念の入れよう。
それはつまり、アンフェアであることを経営陣も了承している事の証でもあります。アンフェアな手段で競争に打ち勝っても、その経営手法が誉められたものではないでしょう。
このようなアンフェアな「生産効率向上」はアメリカ農業でも利用されているのです。
・不法移民なしでは立ち行かない米国農業・アグリビジネス 不法移民取締り論争で露呈
http://www.juno.dti.ne.jp/~tkitaba/agrifood/namerica/news/06042701.htm
不法移民の労働条件を保護する動きは、彼ら自身の立場の弱さ故に進んでいません。アメリカの農業は建国以来一貫して、この手の“安く買い叩ける”労働力によって支えられてきました。小規模農場や自作農は潰され、小作農を余儀なくされる。さらに失業して都市へ失業者として流れ込む。
途上国では、もっと深刻な規模でこの流れが起きるでしょう。なぜなら、途上国の農民には先進国の選挙権は無いのですから。グローバル化によって“なんとかなる”農業って、こういう事ですよ。
一方、先進国側の農業でも同様になるでしょう。大規模化を図って、外国人労働者を雇うなら「生産効率向上」が図れるかもしれません。それでも、同条件であれば、単純に為替レートと運送・保管コストの問題だけになります。勝ち目はありでしょうか。それとも、先進国には農業は不要ですかね。
自分にとってはどうみても“グローバル化”“自由貿易”がバラ色の未来を約束するものには見えないのですよ。しかも、この手の経済には
・豊富なエネルギー・原材料資源(化石燃料の事ね)
・幾ら弄り倒しても使い減らない環境
が必需でしょう。そんなものどこにもないのですよ。化石燃料を使い切る、または高騰すれば、“効率的な”農業とやらも工業生産も立ちゆきません。
アメリカの穀倉地帯では化石水の汲み上げすぎが問題になっています。使い切れば、アメリカ農業は立ちゆかなくなります。
なぜ小規模自作農家を守らねばならないのか? ?(代替案)
http://blog.goo.ne.jp/reforestation/e/9fbec824049cce3a093b9777a55da2d5
いい加減にネオリベ信仰はやめません?
金持っているヤツがネオリベに傾倒するのはグロテスクですが、貧乏人がネオリベを信じるのは滑稽でしかありません。現場を見ていけば、問題点は浮き彫りになります。打つべき手段は他にあると思いますよ。
参考
・アプトン・シンクレア/ジャングル
http://www.mcg-j.org/mcgtext/bungaku/US/1jangle.htm
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