アンソニー・ホロヴィッツ『死はすぐそばに』(創元推理文庫) - 探偵小説三昧
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アンソニー・ホロヴィッツ『死はすぐそばに』(創元推理文庫)

 アンソニー・ホロヴィッツの『死はすぐそばに』を読む。ホーソーン&ホロヴィッツ・シリーズはこれで五冊めとなるが、どうやら毎年この時期に出るのが通例になってきたようだ。

 まずはストーリー。ロンドンのテムズ川沿いにあるリヴァービュー・クロース。外部とは門と塀で仕切られ、外部の人間が入れないゲーテッド・コミュニティーの形をとる高級住宅地である。そこに六軒の家があ離、皆、安心して穏やかに暮らせるはずだった。
 ところがジャイルズ・ケンワージー一家が移り住んでくると、その状況が一変した。彼らは他の住人とトラブルが絶えず、次第に軋轢が増してゆき、そして遂にジャイルズが殺害されるという事件が起こる。ホーソーンは知人の警視から協力を仰がれて捜査に参加するが……。

 死はすぐそばに
▲アンソニー・ホロヴィッツ『死はすぐそばに』(創元推理文庫)【amazon

 本シリーズは作者をモデルとした作家アンソニー・ホロヴィッツと元刑事のダニエル・ホーソーンのコンビが活躍するシリーズである。語り手はホロヴィッツであり、ホーソーンの活躍した事件を本にするワトソン役というわけだ。
 ただし、作者コナン・ドイルと完全な別人格のワトソンとは違い、ホロヴィッツは名前だけでなく。現実の作者の経歴をかなり反映させている。虚構と現実の垣根をぼやかすことでメタミステリ的な面白さを強調する。ここが本シリーズ最大の特徴なのだ。
 ところが本作では、その形を少しアレンジさせている。本作ではリアルタイムではなくホーソーンが過去に扱った事件を取り上げる。古い記録を元にホロヴィッツが原稿を進めており、それを読者が読んでいるという結構である。事件は一つの決着を見せるが、それに納得しないホロヴィッツは、やがて事件の真相を自ら調査しようとする。この辺りのストーリーや構成の工夫がさすがホロヴィッツである。

 また、そういった外側の構成だけではなく、核となる事件もよくできている。限られた状況なのでサプライズはそこまで大きくないが、真相への道筋はなかなか気が利いていてお見事。住民たちの秘密が暴かれてゆく展開もよくあるパターンとはいえ非常に面白い。このレベルなら、むしろメタ部分がない方がミステリとして光ったのではないかと思ったりもするのだが、まあ、それを言ったらお終いか。

 本シリーズはどうしてもキャラクターのサイドストーリーが強すぎるのが長所でもあり短所でもある。ミステリの部分だけ見ると近作の方がますますよくなっているのだが、キャラクターに頼りすぎというかシリーズ性が強すぎるというか、そのために発表順で読まないと内容が味わいきれないのがもったいない。歯痒いところである。
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Comments

Edit

fontankaさん


>ホロヴィッツは、達者すぎて好きになれない感があり〜

ああ、その気持ち、すごくわかります(笑)。しかも自分が上手いことがわかっているくせに自虐的なネタを連発するところが逆に鼻につくんですよね(笑)。これが単なるワトソン役ならまだよかったのでしょうが。
記事でも書いておりますが、普通に本格ミステリとして面白く読めるだけに、キャラクターありきのスタイルが本当にもったいないです。

Posted at 22:04 on 11 01, 2024  by sugata

Edit

ホロヴィッツは、達者すぎて好きになれない感があり、図書館で借りることにしていますので、今順番待ちです。
サイドストーリーが気になる→まさにそうですよね。
ドラマ版の「カササギ殺人事件」はすごくおもしろかったですので、ドラマ化希望です。

Posted at 17:14 on 11 01, 2024  by fontanka

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Author:sugata
ミステリならなんでも好物。特に翻訳ミステリと国内外問わずクラシック全般。
四半世紀勤めていた書籍・WEB等の制作会社を辞め、2021年よりフリーランスの編集者&ライターとしてぼちぼち活動中。

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