西村京太郎『七人の証人』(講談社文庫) - 探偵小説三昧
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西村京太郎『七人の証人』(講談社文庫)

 今年の五月頃から西村京太郎の作品をぼちぼちと読んでいる。初期の傑作・代表作と呼ばれているものばかり読んでいるので、当たり前と言えば当たり前なのだが、アベレージの高さが尋常ではない。正直、ここまでのレベルとは思っておらず、しかもそれが一作や二作ではないから素晴らしい。
 さて、本日読んだ作品は『七人の証人』だが、これがまた圧倒的な傑作。作者の最高傑作といえば『殺しの双曲線』がよく挙げられるが、確かにより凝っているのは『殺しの双曲線』なのだが、個人的には『七人の証人』の方が好みである。

 こんな話。ある日のこと、十津川警部が帰宅途中に襲われ、拉致されてしまう。気がつくとそこは小さな無人島で、しかもそこにはある街角の一部分が、まるで映画のセットのように再現されていた。やがて、その建物や停まっていた車から、十津川同様に拉致されてきた人が次々と現れる。
 一年前のことだった。そのセットの街の元になった本物の町角で、殺人事件が起こった。場末の酒場でのトラブルが原因と思われたが、拉致された人々は皆その事件の関係者だったのだ……。

 七人の証人
▲西村京太郎『七人の証人』(講談社文庫)【amazon

 まず設定が奇抜である。無人島に集められた七人は、一年前に起こった殺人事件の目撃者で、その証言によって容疑者は有罪とされ、収監中に獄死してしまう。犯人の父親は無罪を訴え続けた息子の罪を晴らすべく、資産を投げ打って無人島に当時の現場を再現し、そこで証言の真偽を確かめようとしていたのだ。
 ただ、導入や設定こそ奇抜なのだが、いざ物語が始まれば余計なものは一切ない、ロジックのみが興味の中心となる。見どころはなんと言っても、父親が各証言者のわずかな綻びから真実を導いていく手際である。言ってみればクローズド・サークルでの法廷推理劇であり、あの傑作映画『十二人の怒れる男』を彷彿とさせる。好きな人にはたまらない趣向であろう。管理人もその一人。

 だが、それだけでは作者はよしとしない。ここにクローズド・サークルものになくてはならない重要な演出を盛り込んだ。そう、連続殺人である。
 これによってサスペンスが一気に高まるのはもちろんだし、ストーリーにも大きなアクセントをもたらす。さらには、これによって過去の事件を解決する手がかりにもなっており、この辺りも実に心憎い。
 『殺しの双曲線』で少し感じた弱点、つまりクローズドサークルという状況における登場人物の行動のリアリティ不足が、本作ではかなり払拭されているのもよい。そもそも登場人物の性格づけがしっかりしているし、それぞれの言動に無理がない。恐怖や不安が暴動に変化する流れなどもスムーズで、違和感なく読めた。

 乱暴にいうと『そして誰もいなくなった』を映画『十二人の怒れる男』で割ったような作品。ケレン味もあるのだが、それ以上にミステリの本質的な愉しみであるロジックとか謎解きを満喫できる作品でもある。何を今更という話だが、これはおすすめ。
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Comments

Edit

Y・Sさん

あ、そうですね。『法廷外裁判』もそんな話でした。私は、首謀者が各人の証言を各個論破していくところが好きで、これはまさしく『十二人の怒れる男』のヘンリー・フォンダだなあと思いながら読んでました。

Posted at 09:11 on 09 05, 2024  by sugata

Edit

こんばんは。お久しぶりです。
『七人の証人』は大分前に読んで、面白かったこと以外、細部は憶えていないのですが、強制的な状況の再現という大設定は、ヘンリイ・セシルの『法廷外裁判』とかの影響があったんじゃないかな? と、以前からちょっと考えたりしています。

Posted at 01:04 on 09 05, 2024  by Y・S

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sugata

Author:sugata
ミステリならなんでも好物。特に翻訳ミステリと国内外問わずクラシック全般。
四半世紀勤めていた書籍・WEB等の制作会社を辞め、2021年よりフリーランスの編集者&ライターとしてぼちぼち活動中。

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