キャサリン・ライアン・ハワード『ナッシング・マン』(新潮文庫) - 探偵小説三昧
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キャサリン・ライアン・ハワード『ナッシング・マン』(新潮文庫)

 キャサリン・ライアン・ハワードの『ナッシング・マン』を読む。昨年読んだ作品の一つにジョセフ・ノックスの『トゥルー・クライム・ストーリー』があり、これが作中作としての『トゥルー・クライム・ストーリー』を盛り込んだメタミステリーの傑作であった。
 そして、本作もまた作中作『ナッシング・マン』を扱うメタミステリーなのである。

 こんな話。イヴ・ブラックが十二歳のとき、家を連続殺人鬼が襲った。両親と妹が惨殺され、唯一、イヴだけが生き残る。やがて成人とった彼女は、幸福だった人生をぶち壊し殺人鬼の正体をつきとめようと、これまでの経緯をノンフィクション小説『ナッシング・マン』として出版する。
 一方、ショッピング・モールで警備員として勤めるジム・ドイルは、偶然にこの本の存在を知り、自分の犯行が暴かれそうになっていることに気づくのだが……。

 ナッシング・マン
▲キャサリン・ライアン・ハワード『ナッシング・マン』(新潮文庫)【amazon

 なるほど、そう来たか。メタミステリーにもいろいろなアプローチがあるけれども、本作は比較的シンプルな方か。
 本作は大きく二つのパートで語られる。ひとつは過去の経緯が作中作という形で描かれ、もうひとつはそれを読んでいる犯人の現在進行形のパートである。ぶっちゃけ言うと、アイデアは悪くないのだが、作中作にする必然性がそこまであるのかな、という疑問が残る。
 というのも作中作が結局は過去の経緯を語るだけだからである。そこには犯人像を客観的に掘り下げようとか、サスペンスを高めようという意味合いがあると思うのだが、これだけなら時間軸で普通に語ってもいいのではないか、むしろサスペンスとしてはマイナスではないか、と思えてしまうのである。
 一方で、現在進行形で語られる犯人視点でのパートでは、作中作を読み進める犯人の心理が細かく描かれて興味深い。淡々と語られる作中作のパートに比べ、こちらの方が非常に生き生きと描かれ、倒叙ものにも通ずるような面白さがあって引き込まれる。

 ということで基本的には面白い作品だとは思うのだが、作中作という形を用いることで逆にハードルを自分で上げてしまったところもあり、そこが惜しい作品である。
 ちなみにキャサリン・ライアン・ハワードは初めて読む作家だが、未訳作品やすでに二作ほどある邦訳も含めてトリッキーな作風が特徴なようで、今後も気になる作家ではある。既刊の『56日間』、『遭難信号』も少し探してみるとしよう。

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sugata

Author:sugata
ミステリならなんでも好物。特に翻訳ミステリと国内外問わずクラシック全般。
四半世紀勤めていた書籍・WEB等の制作会社を辞め、2021年よりフリーランスの編集者&ライターとしてぼちぼち活動中。

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