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ジョン・スラデック『チク・タク・チク・タク・チク・タク・チク・タク・チク・タク・チク・タク・チク・タク・チク・タク・チク・タク・チク・タク』(竹書房文庫)
ジョン・スラデックの『チク・タク・チク・タク・チク・タク・チク・タク・チク・タク・チク・タク・チク・タク・チク・タク・チク・タク・チク・タク』を読む。
ミステリでも『見えないグリーン』という代表作を残しているスラデックだが、もちろんその前にSF界の奇才である。その彼が1983年に書いたロボットものが本書。
あらゆる分野でロボットが使われるようになり、一般家庭でも普通に人型ロボットが家事をやってくれる時代。安全のためロボットにはアシモフ回路が組み込まれ、人間に危害を加えないよう制御されていた。
ところが家事ロボットの「チク・タク」には、なぜかアシモフ回路が作動していなかった。そのためチク・タクは独自の判断でペンキ塗りの最中に少女を殺害し、その血で壁にアートを描いてしまう。しかし、犯行は露呈せず、それどころかアートが世間に評価され、チク・タクは金を手に入れることになった。
使役から解放されたチク・タクは、自らの意志で行動することが可能になり、かねてから考えていた人間探求を本格的に始動させるのだが……。
▲ジョン・スラデック『チク・タク・チク・タク・チク・タク・チク・タク・チク・タク・チク・タク・チク・タク・チク・タク・チク・タク・チク・タク』(竹書房文庫)【amazon】
表面的なストーリーだけでまとめると、本作はロボットによるピカレスク・ロマンと言えるだろう。人間に忠実なはずのロボットが邪魔者を次々と殺して成り上がる姿は、まさにピカレスク・ロマン。
しかし、一般的なそれと異なり、本作の場合は、そこに主人公の大きな欲や野心というものがない。取って代わるのは使命感であったり、探究心であったり、義務感であったりする。その点がより薄ら寒いものを感じさせる。
ロボットだから当然では、という説明はもちろん可能なのだが、では人間だったらそういうことがないのか、とは絶対に言えないし、我々は実際に報道などでそういう例を見てきている。そういう意味で本作はピカレスク・ロマンと言いつつ、本質は壮大なブラック・ユーモアと言えるだろう。とても笑える気にはなれないけれど。
ただ、上記の感じ方は個人的なものであって、本作はその内容が内容なので、人によってさまざまな読み方も可能だろう。
たとえば人間とロボットの関係を奴隷制度として読むこともできるし、チク・タクを成り上がる政治家や権力者を象徴する存在と見ることもできる。あるいは社会に潜むサイコパスの恐怖を具現化した存在と見ることもできよう。科学を法、正義や倫理との関係で考えるのもあり。もちろん素直にSFとして、アシモフの三原則を踏まえ、ロボットものの意義を探るという見方もあるだろう。
チク・タクの行動にどの程度、理解・共感を示すことふができるのか、その辺がリトマス試験紙になりそうだ。
ストーリーが強烈なので勢いだけで書いたような印象も受けるが、実はかなり練られた構成なのはさすがだ。ラストも初めから決まっていたような終わりかただし、現代と過去のエピソードの組み方もそう。ミステリ的な要素も少しあって、個人的にはチェスのエピソードが面白かった。
とはいえ正直、諸手を挙げてオススメするタイプの作品ではない。これは著者ならではの実験小説であり、そういうところに興味がある人向きなのは確か。まあ、筒井作品などで免疫があれば大丈夫だとは思うが。
ミステリでも『見えないグリーン』という代表作を残しているスラデックだが、もちろんその前にSF界の奇才である。その彼が1983年に書いたロボットものが本書。
あらゆる分野でロボットが使われるようになり、一般家庭でも普通に人型ロボットが家事をやってくれる時代。安全のためロボットにはアシモフ回路が組み込まれ、人間に危害を加えないよう制御されていた。
ところが家事ロボットの「チク・タク」には、なぜかアシモフ回路が作動していなかった。そのためチク・タクは独自の判断でペンキ塗りの最中に少女を殺害し、その血で壁にアートを描いてしまう。しかし、犯行は露呈せず、それどころかアートが世間に評価され、チク・タクは金を手に入れることになった。
使役から解放されたチク・タクは、自らの意志で行動することが可能になり、かねてから考えていた人間探求を本格的に始動させるのだが……。
▲ジョン・スラデック『チク・タク・チク・タク・チク・タク・チク・タク・チク・タク・チク・タク・チク・タク・チク・タク・チク・タク・チク・タク』(竹書房文庫)【amazon】
表面的なストーリーだけでまとめると、本作はロボットによるピカレスク・ロマンと言えるだろう。人間に忠実なはずのロボットが邪魔者を次々と殺して成り上がる姿は、まさにピカレスク・ロマン。
しかし、一般的なそれと異なり、本作の場合は、そこに主人公の大きな欲や野心というものがない。取って代わるのは使命感であったり、探究心であったり、義務感であったりする。その点がより薄ら寒いものを感じさせる。
ロボットだから当然では、という説明はもちろん可能なのだが、では人間だったらそういうことがないのか、とは絶対に言えないし、我々は実際に報道などでそういう例を見てきている。そういう意味で本作はピカレスク・ロマンと言いつつ、本質は壮大なブラック・ユーモアと言えるだろう。とても笑える気にはなれないけれど。
ただ、上記の感じ方は個人的なものであって、本作はその内容が内容なので、人によってさまざまな読み方も可能だろう。
たとえば人間とロボットの関係を奴隷制度として読むこともできるし、チク・タクを成り上がる政治家や権力者を象徴する存在と見ることもできる。あるいは社会に潜むサイコパスの恐怖を具現化した存在と見ることもできよう。科学を法、正義や倫理との関係で考えるのもあり。もちろん素直にSFとして、アシモフの三原則を踏まえ、ロボットものの意義を探るという見方もあるだろう。
チク・タクの行動にどの程度、理解・共感を示すことふができるのか、その辺がリトマス試験紙になりそうだ。
ストーリーが強烈なので勢いだけで書いたような印象も受けるが、実はかなり練られた構成なのはさすがだ。ラストも初めから決まっていたような終わりかただし、現代と過去のエピソードの組み方もそう。ミステリ的な要素も少しあって、個人的にはチェスのエピソードが面白かった。
とはいえ正直、諸手を挙げてオススメするタイプの作品ではない。これは著者ならではの実験小説であり、そういうところに興味がある人向きなのは確か。まあ、筒井作品などで免疫があれば大丈夫だとは思うが。